§7.エネルギーバンド

物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
§7.エネルギーバンド
7.1 はじめに
実際の結晶の中では,電子はイオンからの周期的ポテンシャルの中を運動するので,その電子
状態を知るためには次の Schrödinger 方程式を解かなければならない。
2
2m
2
V r
r
E
r
(7.1)
ここで,V (r ) は周期的ポテンシャルで
V (r
Rn )
V (r )
(7.2)
を満足する。これまでに取り扱って来た金属に対する自由電子モデルは,この V (r ) を 0 と近似
したモデルである。この周期的ポテンシャルV (r ) をきちんと扱うとエネルギーバンド(energy
band)というものが得られ,これによって固体の電気的性質として金属,半導体,絶縁体などが
発現する,ということが明確になる。
式(7.1)を解くための出発点となるものが Bloch の定理である。この定理は固体物理学において
非常に重要な定理であり,知らない研究者がいないくらい基本中の基本である。しかし,この定
理の神髄は深くて広い。それを何かに応用するごとに新しい側面を経験し理解も深まる。以下で
はこの定理について述べることから始める。
7.2 Bloch の定理
7.2.1 Bloch の定理(その 1)
V (r ) が格子に関する周期性V (r
(r
Rn )
e ik Rn (r )
Rn )
V (r ) を有するとき,
Schrödinger 方程式(7.1)の解
r は
(7.3)
を満足するものでなければならない。ただし,
r は周期的境界条件を満足することが仮定され
ているものとする。
【証 明】
一般には,3 次元の場合について証明しなければならないが,1 次元に対する証明を拡張すれば
良いと考えられるので,ここでは 1 次元の場合について証明する。
与えられているのは次の方程式と条件である。
d 2 (x )
2m dx 2
2
Schrödinger 方程式:
V (x ) の周期性
: V (x
(x
周期的境界条件 :
na )
L)
V (x ) (x )
V (x ) ( a :格子定数)
(x ) ( L :結晶の長さ)
ここで,イオンの個数を N とすると L
式(7.4)において, x
x
E (x )
(7.4)
(7.5)
(7.6)
Na の関係がある。
a とすると,その式は次のようになる。
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2
2m d (x
d2
(x
a )2
a ) V (x
a ) (x
a)
E (x
a) .
(7.7)
ここで,左辺第1項目の微分は,容易にわかるように次のように書くことができる。
d (x
d2
(x
a)
2
d2
(x
dx 2
a)
a)
(7.8)
これとV (x ) の周期性(7.5)を用いると,式(7.7)は次のようになる。
d2
(x
2m dx 2
2
a ) V (x ) (x
a)
これを方程式(7.4)と比較すると, (x
って, (x
E (x
a)
(7.9)
a ) も Schrödinger 方程式(7.4)の解であることがわかる。従
a ) は (x ) の定数倍でなければならず,その定数をC とすると次の等式が成立つ。
(x
a)
C (x )
(7.10a)
式(7.10a)が成立することに関するもっと詳細な説明については,阿部龍蔵著:「電気伝導」
(培風
館)を参照されたい。等式(7.10a)より
(x
2a )
(x
a
a)
C (x
(x
3a )
(x
a
2a )
C
2
a)
(x
C 2 (x )
a)
C
3
(7.10b)
(x )
(7.10c)
を得る。これらから, m を整数とするとき,次の一般式を得る。
(x
ma )
式(7.11a)で m
C m (x )
(7.11a)
N とおいて, L
Na と式(7.6)の周期的境界条件 (x
L)
(x ) を用いると次式
を得る。
(x )
C N (x )
CN
(7.11b)
1
(7.12)
方程式(7.12)を満足するC は C
C は波数 k
C
e
i
2 n
N
である。ここで, n は整数である。これを少し変形すると,
2 n / L を用いて次のように書くことができる。
e
k
i
2 n
N
e
i
2 n
a
Na
2 n
n
L
e
0,
i
2 n
a
L
1,
e ika
2,
(7.14)
(7.15)
式(7.11a)で m の代わり n を用いて,式(7.14)を用いる。これより,式(7.11a)は
(x
na )
C n (x )
となる。ここで, Rn
(e ika )n (x )
e ikRn (x )
(7.16)
na である。これは Bloch の定理(その 1)の1次元の場合のものである。
よって,1次元の場合はこれで証明された。
(証明終り)
式(7.3)で与えられる Bloch の定理において, (r ) は波数ベクトル k で特徴づけられることがわ
かる。つまり, k は周期的ポテンシャルの中を運動する電子の状態を指定する量子数である。こ
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れより, (r ) を
k
(r ) で表すことにする。
k
(r ) は Bloch 関数(Bloch function)と呼ばれる。
7.2.2 Bloch の定理(その 2)
Bloch の定理(その1)と同じ仮定のもとで,
k
(r )
e
ik r
uk (r )
k
(r ) は
(7.17)
の形にかくことができる。ここで, uk (r ) は周期的ポテンシャルV r と同じ周期を持つ周期関数
である。その周期はもちろん格子の周期である。従って, uk (r
Rn )
uk (r ) が成り立つ。
【証 明】
Bloch の定理(その1)の式(7.3)において,
uk (r
e ik (r
Rn )
を得る。ここで, e
uk (r
Rn )
Rn )
ik (r Rn )
e ik Rn e ik r uk (r )
k
(r )
e ik r uk (r ) とおくと
(7.18)
を約分すると次式を得る。
uk (r )
(7.19)
これでこの定理は証明された。
(終)
7.3 Kronig-Penny モデル
7.3.1 モデルの説明
U
周期的ポテンシャルとして右図
V(x)
b
に示した 1 次元のものを採用する。
この周期的ポテンシャルの中を電子
が運動するとしたとき,このモデ
イオン
ルを Kronig-Penny モデルと呼んで
-a/2
-a
いる。格子点の位置は na ,イオン
0
a/2
a
x
は格子点上に位置しているとする。ここで, a は格子定数, n は整数である。従って,
V (x
a)
V (x )
(7.20a)
が成立つ。また,この周期的ポテンシャルは井戸型ポテンシャルの繰り返しとなっているが,こ
れがこのモデルの特徴である。 0
U
V (x )
0
(a 2b
x
x
a b
2 )
a におけるV (x ) の形は次式で与えられる。
(0
( otherwise )
b
a)
(7.20b)
Schrödinger 方程式は次式である。
2
2m
ここで, Ek
k
(x ) V (x ) k (x )
2
Ek
k
(x )
K k2 /(2m ) ,つまり K k
(7.21a)
2mEk /
2
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とおくとこの方程式は次のようになる。
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k
2m
(x )
2
V (x ) k (x )
K k2
k
(x )
(7.21b)
7.3.2 フーリエ級数の導入
Bloch の定理(その 2)を利用する。この定理より
k
(x )
e ikx uk (x ) である。ここで, k は波数で
あるが量子数でもある。定理(その 2)で述べたように,
uk (x
a)
uk (x )
(7.22a)
である。これより, uk (x ) は周期 a の周期関数なので Fourier 級数に展開できる。それを
uk (x )
un (k )e iGnx (G
n
2 /a)
(7.22b)
のように複素 Fourier 級数の形に書く。ここで, un (k ) は複素 Fourier 係数であり,G
2 / a であ
る。上で言及したように,uk (x ) は k に依存するので un (k ) も k に依存することに注意しなければな
らない。V (x ) も周期 a の周期関数なので複素 Fourier 級数に展開する。
V (x )
n
Vne iGnx
1
a
Vn
(7.23a),
a
0
e
V (x )dx
iGnx
(7.23b)
Vn はV (x ) の複素 Fourier 係数である。式(7.20b)で与えられるV (x ) からVn を計算すると次のように
なる。
V0
b
U,
a
Vn
( 1)n
U
b
sin
n (n
n
a
0)
(7.23c)
【Q7-1】式(7.23b)を導出せよ。
【Q7-2】式(7.23c)を導出せよ。
k
(x )
e ikx uk (x ) と式(7.22b)より,
k
(x )
e ikx uk (x )
un (k )e i(k
n
k
(x ) は次のように書くことができる。
Gn )x
(7.24)
式(7.24)と(7.23a)を Schrödinger 方程式(7.21a)に代入することにより,係数 un (k ) に関する方程式を
導出できる。導出は少し後で行うが,ここでは結果だけを示すと
En (k )
Ek un (k )
n
Vn
n
un (k )
0
(7.25a)
となる。 En (k ) は
En (k )
2
2m
(k
Gn )2
(7.25b)
である。式(7.25a)は un (k ) に対する連立一次方程式(未知数の個数は無限個)である。つまり,こ
れを解くことにより un (k ) を求めることができる。しかし,段々にわかるように,実際は,これを
解析的に解くことはできず,近似的解法,または数値的解法に依らざるを得ない。また,式(7.25a)
は un (k ) に関する連立一次方程式であるが,もっと正確に言えば,行列の固有値方程式(eigenvalue
equation)である。
即ち un (k ) を求める前にエネルギー Ek を求める必要があり,この意味でそれは Ek
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と un (k ) に関する方程式であるということになる。式(7.25a)が行列の固有値問題となっていること
は後でもっと詳しく述べる。直ぐ下で式(7.25a)の導出を簡単に述べる。
【式(7.25a)の導出】
Schrödinger 方程式(7.21a)に,式(7.23a)と(7.24)を代入すると,次式を得る。
2
2m
n
両辺に e
(k
Gn )2 un (k )e i(k
i (k Gn )x
2
2m
をかけて 0
k
2
Gn
Gn )x
n
x
Vn e iGn x
un (k )e i(k
n
Ek
Gn )x
n
un (k )e i(k
Gn )x
(7.26a)
a で積分すると次式を得る。
Ek un (k )
Vn
n
n
un (k )
0
(7.26b)
この式を得るとき,式(7.26a)の左辺第 2 項の処理が少し難しいかもしれない。それはこの項が二
重和になっているためであるが,慣れればたいしたことはない。この式で(7.25b)を用いると,
(7.25a)を得る。
【Q7-3】式(7.26b)を導出せよ。
【Q7-4】式(7.24)の
k
(x ) に対する規格化条件から等式
n
un (k )
2
1
L
の成立を証明せよ。
7.4 ブリルアンゾーン
Bloch の定理(その1)から1つの重要な結論を導いておく。ただし,簡単化のため一次元の場
合を考えることにする。この定理より
k
(x
a)
e
ika
k
(x )
k G
(x
a)
e
を得る。ここで,G
(x
a) は
(7.27a)
である。この等式において, k
i (k G )a
k
k G
k
G の置き換えをすると
(x )
e
2 / a より e i(k
(7.27b)を(7.27a)と比較すると,
k G
ika
G )a
(x ) と
k G
(x )
e ika
k
(7.27b)
iGa
e ikae iGa
e ikae i 2
(x ) は,Bloch の定理(その1)において同じ因子 e ika に
従属しているので,等しいと考えなければならない。故に,
Bloch 関数
k
G
k G
(x )
k
(x ) を得る。この等式は,
(x ) に関して k が G だけ平行移動しても変化しないことを意味する。即ち, k で指
定される状態と k
Ek
e ika となることを用いた。式
G で指定される状態は同じである。従って,エネルギー固有値に関しても
Ek が成り立つ。まとめると
k G
(x )
k
(x ) ,
Ek
Ek
G
(7.27c)
である。
k で指定される状態と k
G で指定される状態は同じであることから,k の独立な値の範囲を k
軸上の長さG の区間に限ることが出来る。この区間は任意にとることができるが,通常,原点を
真中に置いて正負の領域が半分ずつになるように次の範囲に選ぶ。
G
2
k
G
2
a
k
a
(G
2 /a)
(7.28)
k の値のこの範囲を第 1 ブリルアンゾーン(Brillouin zone:B.Z.)と呼んでいる。その隣を,次々と
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物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
3rd B.Z.
2nd B.Z.
1st B.Z.
2nd B.Z.
3rd B.Z.
k
3
a
2
a
0
a
2
a
a
3
a
Division of k -axis into B.Z.
第 2 B.Z.,第 3 B.Z.,…と呼ぶ(図参照)
。通常,B.Z. と言えば第1B.Z. のことである。
k の独立な値の範囲は第1B.Z.であることをいま一度強調しておく。これまでの議論から容易にわ
かるように,一般に,
k nG
(x )
k
(x ) , Ek
Ek が成り立つ。
nG
もし等式(7.27c)の導出が納得できないときは方程式(7.25a)を用いて次のように考えるべきであ
る。これを付録として述べておく。
【付録:等式(7.27c)の別の導出法】
(7.25a)を再度書く
En (k )
Ek un (k )
この方程式において, k
En (k
G)
Ek
G
k
Ek
G
と書ける。ここで, n
En (k )
Ek
G
un (k
n
un 1 (k
n
G)
G)
Ek
G
un 1 (k
0
(7.25a)
G)
Vn
n
n
un (k
G)
0
(7.27d)
En 1 (k ) なのでこの方程式は
Vn
n
n
un (k
G)
0
(7.27e)
1 の置き換えをすると
G)
G)
Vn
n
となる。左辺第2項の n 和は n
En (k )
un (k )
G の置き換えをすると
un (k
となる。式(7.25b)より En (k
En 1 (k )
Vn
n
n
n
n
1
un (k
G)
0
(7.27f)
G)
0
(7.27g)
1 とすると
Vn
n
un 1 (k
となる。これを方程式(7.25a)と比べると次式を得る。
Ek
G
un 1 (k
Ek
G)
(7.27h),
un (k )
(7.27i)
等式(7.27i)を用いると前頁(7.27c)の等式
いので各自で試みて欲しい。また, un (k
k G
(x )
mG )
k
(x ) を得ることができる。その証明は難しくな
un
m
(k ) も証明できる。
(付録終り)
ブリルアンゾーンは二次元,三次元についても同様に導くことができるが,詳細については章
を変えて述べる。
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7.5 自由電子への極限(U
0)
7.5.1 自由電子モデルとの一致
Kronig-Penny モデルは,U
0 の極限では自由電子モデルに一致するべきである。ここでは,
このことを確かめる。式(7.23c)からわかるように,U
0 の極限ではVn
0 となる。このとき,
固有値方程式(7.25a)は,全ての整数 n に関して次のようになる。
En (k )
Ek un (k )
0 (n
0,
1,
2, )
(7.29)
E
この方程式を解くと,エネルギー Ek と un (k ) は次式で与え
られる。
Ek
2
En (k )
un (k )
C
2m
(k
第2バンド
Gn )2
(7.30a)
(7.30b)
n ,n
1 (n
0 (n
n ,n
E 1(k)
E1(k)
n)
n)
2
a
G
(7.30c)
第1バンド
E0(k)
ここで, C は規格化条件から決められる定数で,
n ,n
は
-G
Kronecker の 記号である。
方程式(7.29)の解が(7.30)で与え
-G/2
0
G/2
k
G
られることについては,十分に考えて納得して欲しい;そ
うでなければ以下のことが理解出来なくなる。 C を決めるために,式(7.24)に(7.30b)を代入する。
そして,簡単な計算をすると Bloch 関数
k
(x )
この
k
n
un (k )e i(k
Gn )x
n
(x ) を規格化すると C
C
n ,n
k
(x ) は次のようになる。
e i(k
Gn )x
Ce i (k
Gn )x
(7.31)
1/ L となる。または,
【7-4】を用いても同じ結果が得られる。
エネルギーと固有関数が,式(7.30a)と(7.31)で与えられる結果は,一見,自由電子モデルのもの
とは異なるように思われるが,自由電子モデルに一致することがまもなくわかる。先ずは,ここ
で得られた結果をもう少し詳しく整理して見よう。
式(7.30a)で与えられる En (k ) は,n
きは,E 1 (k )
(B.Z.)
G /2
2
k
0 のときは, E 0 (k )
k /2m である。また,n
2 2
1 のと
G ) / 2m である。これらのグラフは,k の値の範囲が第 1 ブリルアンゾーン
(k
2
G / 2 内にあることから右上の図のようになる。ここで,バンドというものを
導入する。それは,B.Z.内の任意の k に対して,エネルギー En (k ) の小さい順に番号を付けたも
のである。これより,E 0 (k ) を第1バンド,B.Z.の負領域における E1 (k ) と正領域における E 1 (k ) を
併せて第2バンドという。第3バンドは B.Z.の負領域における E 1 (k ) と正領域における E1 (k ) から
構成される。同様にして,E 2 (k ) は第4バンドと第5バンドを構成する。一般に,E
が第 (2m
2) と第 (2m
(m 1)
(k )(m
2)
1) バンドを構成する。この様に,分散関係 En (k ) は第 1 B.Z.で見るときバ
ンドを構成し, k に関して無限の多価関数となっている。従って,電子の状態を指定するパラメ
ーターにバンドの番号も加えるべきである。即ち,量子数は B.Z.内の k とバンドの番号 である。
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物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
これより,点 k における第
E (2, k )
E1 (k ) ( G / 2
k
バ ン ド の エ ネ ル ギ ー を E ( , k ) で 表 す と , E (1, k )
0) , E (2, k )
E 1 (k )(0
k
E 0 (k ) ,
G /2) である。もっと上のバンドについ
ても同じ様に書くことができる。
また,点 k における第
(1 / L )e
ikx
,
2k
(x )
バンドの Bloch 関数を
(1 / L )e
( G /2
i (k G )x
k
k
0) ,
(x ) で表すと式(7.31)より,
2k
(x )
(1 / L )e
i (k G )x
(0
k
1k
(x )
G / 2) な
どである。
それでは,式(7.30a)と(7.31)で与えられる結果が自由電子モデルのものに一致することを説明し
よう。式(7.30a)と(7.31)では,k の値は B.Z.内にあるが,k
Gn
k とおいて n に正負の全ての整
数をとらせると, k の値は第 2,第 3,第 4 B.Z.,…, に存在するようになり,
る。このとき,(7.31)の
k
(x ) は
k
(x )
(1/ L )e ik x
k
k
とな
(x ) となり,これは確かに自由電子モデル
の固有関数に一致している。また, Ek は式(7.30a)より Ek
k 2 / 2m ( Ek ) であり,自由電子モ
2
デルのものに合っている。簡単に表現すれば,次の通りである。式(7.30a)と(7.31)で与えられる結
果では,k の値は第1B.Z.内に制限されているが,その k を G ( 2 / a ) の整数倍だけ平行移動し
て,次々と第 2,第 3 B.Z.,…, に拡げて行けば,これまでに論じて来た自由電子モデルのものに一
致させることができるということである。
7.5.2 U → 0 のときの注意
この講義の前半(§3)で自由電子モデルについて論じた。それと直ぐ上で述べたことを比較す
るとわかるように,始めからV (x )
てV (x )
0 として解くのと,V (x )
0 として解いてから,U
0 とし
0 の極限をとるのとでは,形の上では異なるエネルギーと固有関数が得られる。前者で
は,事前に格子の周期性が考慮されていないが,後者では,それが考慮され自動的に B.Z.という
概念が含まれているので,エネルギーはバンドを構成する。周期的ポテンシャルを考慮して電子
状態を扱ったときは,エネルギーはいつもバンドとなる。V (x )
0 の極限において得られるバン
ドを,空格子のエネルギーバンドという。見かけが異なっていても,両者の物理的内容は同じであ
ることに注意しなければならない。異なるように見えるのは, k の範囲の取り方にある。前者で
k
は,
である。後者では,前者における k の無限の範囲を,第1B.Z.という有限区間
に折り畳んで制限した形式になっている。このため,後者ではエネルギーは k に関して無限の多
価関数となり,バンドが出現する。これは後で述べるように,前者については拡張ゾーン形式
(extended zone scheme)
,後者については還元ゾーン形式(reduced zone scheme)を採用している
ということである。正しいのは,還元ゾーン形式と言える。拡張ゾーン形式はバンドをはじめか
らV (x )
0 として得られる自由電子のものと比較するときに便利である。さらに,式(7.27c)の等
式 Ek
Ek に基づいて k の範囲を第1B.Z の外に拡げて,バンドエネルギーを周期的に描く形式
G
もある。これを周期的ゾーン形式(periodic zone scheme)と呼んでいて,ゾーン境界付近のバンド
構造の様子を見るのに便利である。
- 38 -
物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
7.6 δ関数型 Kronig-Penny モデル
V(x)
Kronig-Penny モデルにおいて,計算を解析的に
もう少し先へ進めることができる場合を考える。
そ れ は , 単 位 胞 内 に お け る V (x ) の 面 積
bU ( aV0 ) を一定にして b
0 の極限をとった
場合である。ここで,V0 は式(7.23c)で与えられ
イオン
U
-a/2
-a
る Fourier 係数である。このとき,明らかに
0
a/2
a
x
である。従って,周期的ポテンシャル
V (x ) は図のようになっている。これは,隣接するイオンの中間におけるポテンシャルがδ関数型
になっていることを表す。即ち, 0
x
a においてV (x )
aV0 (x
a / 2) である。この δ 関数型
周期的ポテンシャルV (x ) に対して,式(7.23c)で与えられる Fourier 係数は次のようになる。即ち,
V0 は一定でVn
un (k )
( 1)nV0 (n
( 1) V0
E n (k ) E k
0) となる。このとき,式(7.25a)は次のようになる。
n
( 1)n un (k )
n
(7.32)
この式の両辺に ( 1)n を掛けて n に関して和をとり, S (k )
n
V0
En (k ) Ek
1
を得る。これは, En (k )
1
2P
2
ak 2 n
n
となる。ここで, P
2
を t
P
(t 2n )
ak, x
sin aKk
aKk
(k
x
Gn )2 / 2m を用い, Ek
(aK k )2
1
n
( 1)n un (k ) で約分すると
(7.33a)
V0ma 2 /
2
n
2
2
1
2
K k2 / 2m で K k を導入すると
(7.33b)
である。岩波数学公式Ⅱ,p.68 に掲載されている公式
sinh x
2 x(cosh x cos t )
(7.33c)
iaKk とおいて用いると,式(7.33b)は
cos aK k
cos ak
(7.34)
となる。式(7.34)は, K k を k の関数として求めるための方程式である。その際, P はパラメータ
ーである。方程式(7.34)の左辺のグラフを aK k の関数として次頁に示した。このグラフより,方
程式(7.34)は,1つの k に対して無限個の解を持つことがわかる。その 番目の解を K k とすると,
第 バンドのエネルギー E ( , k ) は E ( , k )
2
K
k
2
/2m で与えられる。
【Q7-5】式(7.32),(7.33a),(7.33b)を導出せよ。
【Q7-6】式(7.34)を導出せよ。
- 39 -
物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
V0
P
6
0 に対しては(このとき
0)
,グラフからは,第 1 バンド
の底( k
0 なので cos ak
1 )付近
のエネルギーに対応する解は存在し
ないように見える。しかし,それは
5
P
4
y
3 2
y
P
P
って,純虚数解は存在する。従って,
1 0
そのときのエネルギーは負となる
0 -1
2
-1 -2
(
【Q7-9】参照)
。
B.Z. の 境 界 で は ak
なので
cos(aK )
4
P 2
P 0
P =-1
P =-2
3
4
aK
-2
1 である。このときは,解
はグラフからわかるように 2 つあるが 1 つは aK
ときは n より大きく, P
sin aK
aK
2
実数解が存在しないということであ
cos ak
4
n ( n は奇数)である。もう 1 つは,P
0の
0 のときは n より小さい。従って,ゾーン境界では隣接するバンド間
にギャップが生ずることがわかる。このギャップの発生は,固体の電気的性質において半導体や絶
縁体の存在を示唆するものであり,非常に重要な性質である。ギャップの大きさは,エネルギー
の高い方に存在するバンドの間では,小さくなる傾向があることもグラフからわかる。
また,B.Z.の中心 k
0 では cosak
偶数)である。ただし, n
1 なので,このときも解は 2 つあり 1 つは aK
n (n は
0 は第 1 バンドの底を表すがこれについては上で述べたので今の場
合除く。もう 1 つの解は P の正負に依存し,直ぐ上で述べたゾーン境界におけるものと似た性質
を有する。従って, k
0 においても隣接するバンドの間でギャップが発生している。
δ 関数型 Kronig-Penny モデルでは,Bloch 関数に関する情報 un (k ) を消去してバンドエネルギー
に対する方程式を求めることが出来た。この意味では,δ 関数型でない Kronig-Penny モデルに比
べて,問題は数学的には簡単になっている,と言える。δ 関数型でないときは,行列の固有値問
題をそのまま扱わなければならないので,相当難しいと言える。その場合に対する最もわかりや
すい近似法は二波近似によるもので,これは物理的にもわかりやすい。二波近似については 7.9
節で論ずる。
【Q7-7】方程式(7.34)で P
0 としたとき(自由電子への極限)の解は, Ek
2
(k
Gn )2 / 2m で
与えられ,式(7.30a)に一致することを示せ。
【Q7-8】方程式(7.34)の K k が十分大きいとしたときの近似解は, K k
k
Gn で与えられること
を示せ。ここで,n は絶対値が十分大きい整数である。従って,そのとき Ek ≒
2
(k
Gn )2 / 2m で
ある。
【Q7-9】第 1 バンドの底付近( ak
[(ak )2
2P ]/ (1
0 )におけるエネルギーの近似値は P が P
P / 3) で与えられることを示せ。これより第 1 バンドの底( k
0 のとき (aK k )2
0 )では,P
0
0) とおくことができる。P
0
のとき, K k は純虚数となるのでエネルギーは負であることがわかる。
【Q7-10】方程式(7.34)において,B.Z.の境界付近では ak
のときここにおける解は aK k
n
(
t (t
0)( n は奇数)とおくことができる。これらを式(7.34)
- 40 -
物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
から得られる式 P sin x
x (cos x
cos ak )
aK k ) に代入して,三角関数を と t の 2 乗まで
0 (x
A
(P
2A
2
Taylor 展開することにより, に関する方程式が
t2
0 となることを示せ。ただし,
t / 2) / (n ) である。次に,この 2 次方程式を解くことにより を求めよ。さらに,ゾー
2
ン境界 (t
0) におけるバンドエネルギーのギャップの大きさを求めよ。
【Q7-11】 P
2 のとき,方程式(7.34)を数値的(Newton 法を利用)に解いて,第 1,第 2 および
第 3 バンドのエネルギー E ( , k ) のグラフを k の関数として描け。ただし,k の範囲は B.Z.に制限
せよ(答は後日配布)
。
【Q7-9】と【Q7-10】の近似値をここでの数値的結果と比較せよ。
【Q7-12】上の【Q7-9】~【Q7-11】で得られたバンドエネルギーを用いて Fourier 係数 un (k ) の近
似形を求め,さらに Bloch 関数を求めて,第 1,第 2 バンドに対する電子密度の空間依存性につい
て考察してみよ。
(この問題はかなり難しそうである)
7.7 行列の固有値問題として捉えること
上で式(7.25a)は行列の固有値方程式であることを述べた。その理由をここで詳しく説明する。
n
式(7.25a)を 2
(E
2 について書き下すと次のようになる。
n
2:
n
1:
V1u
2
n
0:
V2u
2
V1u
1
n
1:
V3u
2
V2u
1
V1u 0
n
2:
V4u
2
V3u
1
V2u 0
2
V0 )u
V 1u
2
(E
1
V0 )u
1
V 2u 0
V 3u1
V 4u 2
Eu
2
V 1u0
V 2u1
V 3u2
Eu
1
V 1u1
V 2u2
Eu 0
(7.35c)
Eu1
(7.35d)
1
(E 0
V0 )u 0
(E1
V0 )u1
V 1u2
V1u1 + (E 2
V0 )u2
Eu2
(7.35a)
(7.35b)
(7.35e)
ここで,En (k ) を En ,Ek を E と記して記号を簡略化している。n の範囲を全ての整数に拡張して,
これを行列を用いて書くと次のようになる。
E
2
V1
V2
V3
V4
V0
E
V
1
1
V1
V2
V3
V0
V
V
2
1
E 0 V0
V1
V2
V
V
V
E1
3
2
1
V1
V0
V
V
V
V
E2
3
2
1
V0
u 2
u 1
u0
u1
u2
u
A
この方程式(7.36)は線形代数における固有値方程式 Au
成分を En
4
u 2
u 1
E u0
u1
u2
=
=
(7.36)
u
u の形をしている。ここで, A は対角
V0 ,非対角成分をVn とする無限次元の行列である。今採用している Kronig-Penny モ
デルでは,V
n
Vn が成り立つので, A は対称行列である。 は E に等しく A の固有値である。
対称行列(一般には,Hermite 行列)の固有値は実数となることが線形代数で証明されているので,
- 41 -
物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
E は必ず実数となることが保証される。 u は固有値 に属する固有ベクトルで,式(7.36)から無限
個の Fourier 係数 un から構成されることがわかる。
一つの固有値 E に対し一つの u が決められる。
つまり,一つの E に対して一組の Fourier 係数 un (無限個)が決められる。このことと式(7.24)
からわかるように,一つの E に対して一つの Bloch 関数
【Q7-13】式(7.25a)を 2
n
【Q7-14】式(7.35)が
n
k
(x ) が決められる。
2 について書き下すと式(7.35)のようになることを確かめよ。
のとき式(7.36)のように書くことができることを確かめよ。
以上の議論から,Schrödinger 方程式を解く問題は,式(7.36)で与えられる行列の固有値問題に変
換されたことがわかる。この構造は量子力学においては,普遍的なことである。即ち,量子力学
の形式には,Schrödinger 方程式を基本とする形式と行列を基本とする形式があり,それらは等価
である。行列による形式は Heisenberg により建設された。等価であることの証明は Schrödinger 自
身によってなされた。
対称行列 A の固有値 E がバンドエネルギーを表すが,今の式(7.36)については E を厳密に求め
ることは出来ない。周期的ポテンシャルを考慮した問題について, E を解析的手法により厳密に
求めることは一般にはできない。従って,近似的解法が必要になる。近似的解法にも解析的方法
と数値的解法がある。数値的に固有値と固有ベクトルを求める方法は多く開発されていて,それ
らは E と u を求めるのに役にたつ。方法が多く開発されているという意味で,問題を行列の固有
値問題に変換して処理する方法の方が Schrödinger 方程式を解く方法に比べて優れていると言える。
7.8 数値的解法による結果
式(7.36)で与えられる対称行列 A の固有値 E を数値計算から求めた結果をここで示す。それは
Kronig-Penny モデルにおけるバンドエネルギーを表す。また,行列 A の要素Vn が式(7.23c)で与え
られることを注意しておく。
対称行列 A は無限次元なのでこのサイズについては,数値的解法は不可能である。サイズを有
限に近似して数値計算しなければならない。第 1~第 3 バンドのように下方に位置するバンドの
みを正確に計算することに話を限れば,自由電子への極限において議論したように,式(7.24)で与
えられる Bloch 関数
k
(x ) の Fourier 展開における係数 un (k ) のうち,小さい | n | を有するものが
重要である。つまり,第 1 バンドに対しては u 0 が主であるが第 2 および第 3 バンドとの混じりが
効くので u 1 も重要である。次に重要なものは u 2 であり,これは第 4 および第 5 バンドとの混じ
りから生ずる。 | n | が大きくなるにつれて un (k ) の値はゼロに近づきそれらの効果は小さくなる。
このように考えると,
第 1 から第 3 バンドのエネルギーを精度良く求めようとしたら, 3
n
3
を満足する un (k ) だけを残し,他は 0 と近似すれば十分であろう。このとき行列 A は 7 次となる。
固有値と固有ベクトルの数値解法にはいろいろあるが,数式処理ソフト"mathematica" を利用す
るのが容易である。7 次の行列 A に対して,それを利用して得られた計算結果を次頁の図に示し
た。図には第 3 バンドまで示しているが,第 4 バンドも少しだけ描かれている。
行列 A の固有値方程式は E に関して 7 次方程式であり,その 7 個の解は全て実数で,第 1 か
ら第 7 バンドのバンドエネルギーを表す。第 3 バンドまではエネルギーは精度良く求まっている
- 42 -
物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
と思われるが,それより上は良くないかも知れない。
第 7 バンドのものが最も悪い;それは u
4
を無視し
E (k )/ E1free ( / a )
10
たからである。
v0
図では Kronig-Penny モデルにおけるパラメーター
について, b a 0.2 ,u 2 の結果(赤線)を表す。
ここで, u
境界( k
U /E
( a ) であり, E ( a ) はゾーン
a )における自由電子の第 1 バンドのエ
free
1
Band Structure in
Kronig-Penny Model
b a 0.2
ba u
u 2
0.4
3rd-band
free
1
ネルギーである。従って,E
5
free-electron model
( a)
( a ) /(2m ) で
ある。図では全てのエネルギーが E1free ( a ) で規格化
free
1
2
2
2nd-band
v0
されていることを注意しておく。図には,自由電子
0
の結果(青線)も示し,Kronig-Penny モデルの結果
(赤線)と比較している。これより,周期的ポテン
シャルによりゾーン境界や 点 (k
0) において,隣接
1st-band
0
V0
するバンド間にギャップが生ずることがわかる。ギャッ
プの大きさは,エネルギーの高い方に存在するバン
-1
ba U
-0.5
ドの間では,小さくなる傾向があることも図からわ
u
0
U / E1free ( / a )
0.5
ak /
1
かる。Kronig-Penny 周期的ポテンシャルの平均値が式(7.23c)のV0 に等しいことはその定義式から
容易にわかるが,このV0 の位置をエネルギーの原点にとったときの結果(緑線)は,赤線を v 0 だ
けエネルギーの低い方に平行移動することにより得られる。ここで, v 0
V0 / E1free ( a ) である。
こちら(緑線)の方が自由電子の結果と比較するには適している。何故なら,自由電子モデルに
おいてもポテンシャルの平均値がゼロで,エネルギーの基準点を揃えることになるからである。
(緑線)と(青線)を比較することにより,第 1 バンドは周期的ポテンシャルにより全体的に
下がっていることがわかる。また,ゾーン境界では第 2 バンドは自由電子より上がっていること
がわかる。 点では,第 2 バンドと第 3 バンドは自由電子の上下に分裂しギャップが生じている。
第 2 バンドは全体としては,第 1 バンドのようにはエネルギーの下がりはないと言える(厳密に
は,下がってはいるが非常に小さい)
。第 3 バンド以上についても同様に考えることが出来る。
7.9 解析的近似解法
7.9.1 ゾーン境界における近似解
(1) バンドエネルギー
B.Z.の境界 k
1
2
G 近傍における近似解を求める。ここで,G
2 / a である。そのための最
も簡単な方法は二波近似 (two wave approximation)による方法である。ここでは,二波近似,即ち
2 つの波の重ね合わせを用いて,ゾーン境界近傍における第 1 バンドと第 2 バンドのエネルギー
に対する近似式を求める。次の(2)では Bloch 関数の近似解を求める。これらの近似計算からゾー
ン境界においてバンドギャップが生ずる理由がわかる。
最初に,式(7.30a)において, n
0 とn
1 とおいて得られる自由電子の第 1 バンドと第 2
- 43 -
物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
バンドのエネルギーを考える。これらは,E 0 (k )
こで,k はゾーン境界近傍にあるとすると,k
る。これより, E 0 (k ) と E 1 (k ) は E 0 (k )
k /2m と E 1 (k )
2 2
1
2
G
(k
G )2 / 2m である。こ
0 であ
とおくことができる。ただし,
) / 2m , E 1 (k )
( G
2 1
2
2
( G
2
2 1
2
) /2m となる。ゾ
2
0 )では,両者のエネルギーは等しい(縮退している)ことがわかる。また,ゾー
ーン境界(
0 )においては, E 0 (k )
ン境界近傍(
E 1 (k ) が成立し,それらはほぼ等しい値を持つ。
イオンからの周期的ポテンシャルのため,電子状態が自由電子からずれるときは,Bloch 関数は
式(7.24)で与えられ,無数の平面波の重ね合わせになっている。重ね合せの重み(weight)を表すフ
ーリエ係数 un について,ゾーン境界近傍においては次のことが言える。そこでは自由電子の第 1
バンドと第 2 バンドのエネルギーがほぼ等しい値を持つので,それらの Bloch 関数
1k
(x ) と
2k
(x )
におけるフーリエ係数 u 0 と u 1 は同じ位の大きさであり,他の un はこれらに比べて十分小さく無視でき
る。従って,
u0
u
un
0,
1
0 (n
0, 1)
(7.37a)
である。これより,Bloch 関数は式(7.24)から,
k
(x )
u 0 ( k )e ikx
u 1 ( k )e i (k
e i x u 0 ( k )e iGx / 2
G )x
u 1 ( k )e
iGx / 2
(k
1
2
G
)
(7.37b)
1,2 である。式(7.37)では,最も大きい寄与
の形に近似できる。ここで, はバンドの番号で
をすると考えられる2つの平面波だけを採用しているので,この近似を二波近似という。
固有値方程式(7.25a)でこの二波近似(7.37a)を行うと次式を得る。
n
1:
(E
n
0:
V1u
V0
1
E )u
(E 0
1
1
V0
V1u 0
0
E )u 0
(7.38a)
0
(7.38b)
ここで,u 1 ( k ) ,u 0 ( k ) を u 1 , u 0 と省略している。また,V
V1 を用いた。この方程式は, u 1 , u 0
1
に関する同次の連立一次方程式(右辺がゼロ)である。これが同時にゼロでない解(自明でない解)
を持つためには,係数から成る行列式がゼロでなければならない。
E
1
V0
E
V1
V1
E0
V0
0
E
(7.39)
これを解いてバンドエネルギーを求めると次のようになる。
E
V0
ここで, E 0 (k )
E
V0
1
(E
2
G
2m 2
E 0 )2
1
)2 / 2m と E 1 (k )
( G
2 1
2
2
1
(E
2
E0 )
1
2
2
2
2m
2
G2
4V12
( G
2 1
2
2
V12
(7.40a)
)2 /2m を代入すると次式を得る。
(7.40b)
E は第1バンドのエネルギー, E は第2バンドのエネルギーを表す。いま,ゾーン境界近傍を
- 44 -
物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
考えているので, k
1
2
G
る第1バンドのエネルギー E 0 (G2 )
E
E 0 (G2 )
ここで, vn
ギャップ
g
v0
0 である。 E を,ゾーン境界における自由電子に対す
であって
t2)
(1
Vn / E 0 (G2 ) ,t
( ) / 2m で規格化すると次式を得る。
2 G 2
2
v12
4t 2
(7.40c)
/( 12 G ) である。ゾーン境界 (t
0) での
,およびそこでのバンド
は次のようになる。
1
v0
| v1 |
2 | v1 | :band gap
g
E (k )/ E1free ( / a )
4
(7.41a)
Comparison of Band Structures
in K-P Model
3.5
(7.41b)
ba
3
これらの式から,ゾーン境界においてギャップが生じているこ
とがわかる。その大きさ E g は E g
E 0 (G2 )
2 |V1 | に等しい。
g
このギャップの発生が,固体の電気的性質に,質的に大きな変
2.5
関係している。二波近似によるエネルギーと p.39 の図に示した
数値解(緑線)との比較を右図に示す。
0.2
周期ゾーン形式
2
0
2 2nd-band
1.5
化をもたらすことが以下でわかる。このバンドギャップ(禁制
帯)の大きさは主として周期的ポテンシャルの Fourier 成分V1 に
u
V0
二波近似
1
数値解
0.5
1st-band
0
-0.5
【Q7-15】式(7.40a),(7.40b),(7.40c)を導出せよ。
u
0
U / E1free ( a )
1st B.Z.
a
2nd B.Z.
k
2 a
【Q7-16】ゾーン境界における第 3 と第 4 バンドの間のギャップに,主として関係するのは Fourier
成分Vn の何番目のものか。理由を付して答えよ。
(答:V3 )
【Q7-17】 k
0 近傍における第 2 と第 3 バンドのエネルギーを,二波近似を用いて求めよ。そこ
でのバンドギャップも求めよ。
(答: E g
2 |V2 | )
(2) Bloch 関数
今度は,
Bloch 関数(7.37b)に言及しよう。E
に代入して u 1 を u 0 で表すと
v1
u 1
u0 ,
2t
v12
E 0 (G2 )
4t 2
の
に式(7.40c)を用い,
これを式(7.38b)
(7.42a)
となる。複号は同順で,下の符号(-)が第1バンド,上(+)が第2バンド,を表す。これと【Q7-4】
で述べた規格化条件から得られる式 u 02
u
2
1
L
1
を用いて u 0 と u
る。ただし,ここでは簡単化のため結晶の長さを 1 にとる,即ち L
v1 /
1
1
u0
1 2t / ,
u 1
(7.42b)
2
2 1 2t /
t
1
を決めると次のようにな
1 とする。
0 では,次のようになる。
u0
1
,
2
u
1
ここで,式(7.23c)よりVn
1 v1
2 | v1 |
(t
0)
( 1)n (U / n )sin
(7.42c)
bn / a なので,U と v1 は異符号の関係にあることに
- 45 -
物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
注意しなければならない。
① U
0 のとき
このときは, v1
0 なので u 0
1
2
,u
1
2
1
となる。 u 0 と u 1 は第1バンドに対しては同符号
であり,第2バンドに対しては異符号である。これより Bloch 関数 (7.37b)は
1,G / 2
(x )
1 iGx / 2
e
2
e
iGx / 2
2,G / 2
(x )
1 iGx / 2
e
2
e
iGx / 2
2 cos
Gx
2
2 cos
Gx
2
i 2 sin
i 2 sin
x
a
となる。これからわかるように,第1バンドの電子密度 |
大きく,ポテンシャルの障壁が存在する位置( x
対しては, x
く, x
2,G / 2
1,G / 2
x
a
(7.43b)
1,G / 2
(x ) |2 はイオンの位置( x
0 )で
a / 2 )では小さい(下図参照)
。第2バンドに
0 では小さ
U
a / 2 では大きい。
従って,
(7.43a)
0
(x ) の方が,
V(x)
U
b
|
(x ) に比べてポテンシ
1, a
2 cos2 ( x a )
(x ) |2
ャル障壁によるエネルギー
|
の上昇が小さく,エネルギ
ー的には下の状態を表し,
第1バンドの Bloch 状態に
なる。自由電子(V (x )
V0
イオン
-a/2
-a
0)
のときゾーン境界で縮退した2つの状態は,U
イオン
2, a
2 sin2 ( x a )
(x ) |2
イオン
a/2
0
a
x
0 のポテンシャル障壁が導入されることにより,
それらの重ね合せ(一次結合)によりポテンシャルエネルギーを得する
1,G / 2
(x ) と損する
2,G / 2
(x )
に変化する。そして,エネルギーに関する縮退も解けて,バンドギャップが生ずる。これが,ゾ
ーン境界でバンドギャップが発生する理由である。
② U
1,G / 2
(x )
0 のとき
i 2 sin ( x / a ) ,
2,G / 2
(x )
2 cos ( x / a ) となり,式(7.43)と入れ替わる。この結果は,
物理的には,当然うなずけるものである。
Bragg 反射
入射波 e iGx / 2 がポテンシャル障壁と衝突して反射波 e
2,G / 2
iGx / 2
が生ずる。上で述べた
1,G / 2
(x ) と
(x ) はこれらが同位相または逆位相で重なったものである,と表現することも出来る。この
ときの合成波(7.43)はともに定在波(standing wave)である。周期的ポテンシャルとの衝突により
定在波が生ずるこの反射は,ゾーン境界の波数を持つ波に対して生ずるもので,Bragg 反射とも言
われる。
【Q7-18】式(7.42a),(7.42b),(7.42c)を導出せよ。
【Q7-19】U
0 に対して,
1,G / 2
(x )
i 2 sin ( x / a ) ,
- 46 -
2,G / 2
(x )
2 cos ( x / a ) を導け。
物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
7.9.2 k =0 における近似解
ここでは,第 1~第 3 バンドの k
0 におけるエネルギーや Bloch 関数に対する解析的近似解
を求める。これらのバンドを解析的に取り扱うには 3 波近似を採用するのが理にかなっている。
この近似では, u 0 と u
を残し他は 0 とする。このためには,式(7.35)において,(7.35b), (7.35c),
1
(7.35d)だけを採用し u 0 と u
わかるように E 0
0, E
1
を残せばよい。いま, k
1
E1 である。また,V
0 の位置を考えているので式(7.30a)から
Vn である。これらから(7.35b, c, d)の 3 本の
n
方程式は次のようになる。
n
1:
n
0:
n
1:
(E1
V0
E )u
V1u
V2u
1
1
V1u 0
(V0
E )u 0
V1u 0
1
V2u1
(E1
V1u1
V0
0
(7.44a)
0
(7.44b)
0
(7.44c)
E )u1
これは u 0 と u 1 に関する同次の連立 1 次方程式である。式(7.38)に関しても述べたように,自明で
ない解が存在する条件は
E1
V0
V1
V2
E
V1
V0 E
V1 E1
V2
V1
V0
0
E
(7.45)
である。3 行目に-1 を掛けて 1 行目に加えることにより (E1
V0
V2
E ) が共通因数であること
がわかる。これを利用するとエネルギー固有値 E が次のようになることは容易に求められる。
E (1)
V0
1
E
2 1
V2
(E1
V2 )2
8V12
(7.46)
E(
)
V0
1
E
2 1
V2
(E1
V2 )2
8V12
(7.47a)
E(
)
V0
E1
V2
自由電子への極限(Vn
(7.47b)
0 )をとることにより, E (1) は第 1 バンドの底( k
0)
, E ( ) は第 2 バ
ンドと第 3 バンドのトップおよび底に対するエネルギーであることがわかる。 E ( ) に対しては,
V2
0 では E ( ) が第 2 バンドのトップ, E ( ) が第 3 バンドの底を表し,V2
0 のときはそれが入
れ替わる。Fourier 成分V1 が 0 でなければその正負によらず, E 即ち第 1 バンドの底のエネルギ
(1)
ーは必ず下がり, E ( ) は上がることがわかる。
次に,これらのバンドの Bloch 関数について考える。まずは,以下の議論では,
V1 (E1
V2 )
として,条件
| |
V1
E1
1
V2
(7.48)
を仮定する。この仮定のもとでは,E (1) と E ( ) は で展開して 2 次まで残すことにより次のように
書ける。
E (1)
V0
2V12
E1
V2
,
E(
)
V0
E1
V2
2V12
E1
- 47 -
V2
(7.49)
物質工学科4年 固体化学 平成 27 年度
それでは,各バンドの Bloch 関数
,k 0
(x ) (
1, ) について考えよう。
(1) 第 1 バンド
連立 1 次方程式(7.44a, c)からわかるように,エネルギー固有値 E (1) に対しては
u
u1
1
V1
E1
V0
E
V2
u0
u0
(7.50)
となる。ただし, E には式(7.49)を用いたが,分母に現れる V12 に比例する項は仮定(7.48)により
無視した。式(7.50)から | u 0 |
1,0
(x )
u0
u 1e
である。ここで,G
iGx
|u
1
| がわかる。いま, k
u1e iGx
u0
u0 e
0 なので式(7.24)と(7.50)より
e iGx
iGx
1
2 cosGx u 0
2 a である。u 0 は規格化条件から決められるが,これは各自試みて欲しい。
式(7.51)より電子の存在確率の空間依存性について次のことがわかる。V1
オン位置( x が a の整数倍の位置)における存在確率は,式(7.51)で
子のもの |
1,0
(7.51)
0 のとき (U
0) ,イ
0 として得られる自由電
(x ) | | u 0 | に比べて僅かに減少し,それらの中間の位置では僅かに増加する。これ
2
2
は p.33 に示した周期的ポテンシャルの形からわかるように,物理的に妥当な結果である。V1
のとき (U
0) は,V1
0
0 のときとは反対に,確率はイオン位置では増加し,中間位置では減少す
る。
(2) 第 2 および第 3 バンド
これらのバンドのエネルギー固有値は E ( ) と E (
)
である。E
E ( ) に対しては,u 0 , u 1 として
式(7.50)と同様にして似た関係式
u
u1
1
E1
V1
V0
E
V2
u0
1
u
2 0
(7.52)
を得る。これより,当然予想されるように | u 0 |
,0
(x )
2(
cosGx )u1
|u
1
| がわかる。Bloch 関数は
(7.53)
で与えられることも容易にわかる。従って,存在確率は,空間的には cosGx で変化しているが,
場所に依らない一様な だけの僅かな上乗せ分が生じている。その上乗せ分は第 1 バンドとの混
じりから生ずるもので, の符号に依存する。いまの 3 波近似では,ポテンシャルの Fourier 成分
はV0 , V1, V2 の 3 個しか効いていないので,Kronig - Penny ポテンシャルを,higher harmonics を無
視して
V (x )
V0
2V1 cosGx
2V2 cos 2Gx
(7.54)
で近似したことと同じである。この V (x ) のグラフをV1, V2 の符号を変えて描くことにより,E (
と確率 |
E
,0
(x ) |2 へのそれらの成分の効き方が理解できるが,それは各自で行って欲しい。
E ( ) では式(7.52)に相当するのは u 0
,0
(x )
i 2u1 sin Gx
0 ,u
1
u1 で与えられ,これより Bloch 関数は
(7.56)
となる。このバンドについても,式(7.54)のV (x ) による解釈は各自で行って欲しい。
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)