自己研修課題 現実社会で実際に生じる課題を設定し,自ら学び続ける生徒を育成するための学習活動の工夫 学校名 福島市立清水中学校 職名 教諭 氏名 武田 秀司 (中学校3年) 授業改善のポイント-1 現実社会で実際に生じている課題を設定する 1 現実社会の課題について,自分の意見をもつ (1) 現在行われている参議院選挙から 7月11日(日)の参議院議員選挙を取り上げ,福島選挙区の候補者3名の公約の内容を資料としてを提示し, 「選挙権があれば投票に行くか行かないかとその理由」と「誰に投票するのかとその理由」について考えさせ,現 実の選挙に対する興味・関心を高めさせることを狙った。また,国会議員の選挙に限らず,投票率は年々低下して おり,今回の選挙も約56%と低い投票率に終わったこと,政治への無関心,無力感をいだく人が多くなっている ことを踏まえながら選挙のしくみと課題について考えさせた。 (2) 現実社会について自分の意見をもつ このまま低い投票率が続けば,基本的人権を守るために重要な参政権を放棄する人々が増え続けていくこと,ま た,一人一人を尊重するために,みんなで話し合って決めるという民主主義の定義もくずれ,一部の人たちによっ て政治の大切なことが決められてしまうことに気づかせた。 段階 学 習 活 動 ・ 内 容 授 業 2,投票率を上げる方法を考えよ う。 課 題 追 究 7月11日に投開票される, 参院選の新聞記事を参考資料 として提示しておく。 選挙に行かない原因には, 政治に対する国民の意識と理 解の低さにあることに気か せる。 (1) 投票に行かない理由について 確認する。 (2) 投票率を上げる方法を考え, 発表する。 ① すでに実施されている取 り組みを調べる。 ・投票時間の延長 ・不在者投票の簡素化 など ② 投票率を上げる方法を考 え,発表する。 ・棄権者に罰則を設ける ・ネット選挙 など (3) 選挙の役割について,自分の 考えをまとめ,発表する。 の 様 子 選挙に行かない理由をふ まえ,投票率を上げ方法を 具体的に班で話し合う。 班長を中心に自由な発想で, アイディアをださせ,班の意 見をまとめさせる。 選挙を棄権しないことが, 国民主権を守り,人権を守る ことにつながることに気づか せる。 < 話し合いの様子から> (3) 次の授業へ向けての課題 ① 生徒の変化を見る 選挙に対する無関心は生徒も大人も同じであったことから,投票率を上げる方法を考えることを通して,選挙 に対する考えがどう変わったのか,生徒の変容を見る場を設けなかった。また,選挙を棄権しない大人になるこ との意義など,結論的なものを出さずに終わってしまった。 ② 民主主義の視点からとらえる 「投票率を上げようとしていかないとどうなるのか」について,民主政治という視点から考えさせる時間がと れれば,選挙の重要性についての認識が深められたのではないかと考える。 - 37 - 2 ディベートを通して現実社会の認識を深める (1) 平成21年から導入される裁判員制から 生徒は,新聞やテレビのニュースで大きく取り上げられた犯罪や事件のなどは知っているが,裁判のしくみには 興味・関心が低いようであった。教師が福島地方裁判所で,実際に刑事裁判を傍聴し,裁判官の講話と質疑応答に 参加した。裁判員制について直接質問し,答えてもらった内容やいただいてきた資料を授業に活用し,どのような 趣旨で裁判員制を導入するのかを生徒に理解してもらうことに努めた。 (2) 将来の自分たちに関わる問題について考える 「裁判員制は裁判に導入すべきである」という論題のディベートを行い,裁判員制の是非について,民主政治の 視点から判断させたいと考えた。また,裁判員制についてのディベートを通して,日本の裁判における問題点につ いて考えさせる。自分たちが将来関わるかもしれない「裁判員制」を取り上げ,単に裁判のしくみや課題を理解す るだけでなく,裁判の課題について多面的,多角的な視点でとらえさせることを通して,この単元での自分の学び の必要性と意義に気づかせたいと考えた。 段階 学 習 内 容・活 動 授 業 裁判員制の是非を問 うディベ ートを通して, 日本の裁判をめぐる問題 についてついて考える。 2,ディベートを行う。 ① 立論(2分)×2 課 ② 作戦タイム(2分) 裁判判員制について, 肯定否定それぞれの理由 を多面的・多角的 に説 明する。 ③ 質疑応答 (7分)×2 題 ④ 審査員質疑(5分) ⑤ 最終弁論 (1分)×2 追 3,ディベートの審査を行う。 究 の 様 子 4,裁判員制について,自分の 考えをまとめ,発表する。 ディベート評定表 に肯定派,否定派の 発言を記入させる。 審査員にも自由に 質問させる時間を設け, 討論に深みをもたせた。 裁判員制について, 個人を尊重し,自由 と権利を保障する民 主政治の在り方に着 目させた。 < ディベートの実際 > ( 賛 成 派 ) 立 論 ① 裁判の時間が短縮される。 ② 現在の裁判の状況が改善される。 ③ 国民にもわかりやすい裁判になる。 ※ 勝敗にこだわらず,両者のよかっ た発表についてコメントした。 ( 反 対 派 ) 立 論 ① 感情的に物事を見てしまう。 ② 裁判員にとって負担が大きい。 ③ 素人の裁判に不安がある。 応 答 A1 ① 警察が優秀だからではないか。 ② 裁判の7割は月一回も開かれていないので, 効率をあげるべきだ。 ③ 人権を尊重するなら多くの人で裁くべきだ。 質 疑 Q1① 有罪率が99.8%は高すぎるのではないか? ② 時間短縮は,裁判がおろそかにならないか? ③ 個人情報がもれるおそれがあるのではないか? - 37 - ( 賛 成 派 ) 質 疑 Q1 ① 刑事裁判が増加しているなか,もっといい方 法がありますか? ② 一般の人の意見を生かした民主的な裁判にな るのではないか? ( 反 対 派 ) 応 答 A1 ① 裁判員制度でもえん罪を防ぐことはできない。 最終弁論 ○ 裁判官の負担を減らし,えん罪を予防し,裁判の 時間短縮にもつながる。国民が直接参加することに より,民主的な裁判となる。 最終弁論 ○ 被告人の人権が配慮され,有利になるケースが多く なり,社会の秩序が乱れる。裁判員制度について,国 民が十分に話し合いをしていない。 賛成意見 ○ 国民の意見を反映できる。 ○ 世間一般の評価も反映できる。 ○ 時間の短縮になる。 ○ 今の裁判の問題を克服できる。 ○ 裁判官だけだと偏ってしまう。 ○ 有罪率が減り,公平で人権を守る裁判ができる。 ○ 国民の裁判への見方が変わり,真剣に考えるよう になる。 ○ えん罪の防止になる。 反対意見 ○ 法の知識のない一般市民が裁判へ参加するのは不安 がある。 ○ 専門家が時間をかけて裁くべき。 ○ 裁判官の方が冷静な判断ができるから。 ○ 利点もあるが,欠点を直してから導入すべき。 ○ 裁判員制度を導入すると,対象となる裁判がいっぱ いになる。 ○ 裁判員が危険にさらされる。 ○ 裁判員の負担が大きすぎる。 ② 裁判中は,裁判員の身の危険やさまざまな制約 がある。 (3) ディベートの実際 ディベートは,賛成派の「国民の意見が裁判に反映される」反対派の「一般市民が裁判に関わることへの不安が 大きい」が争点となった。結果は,賛成13,反対17で反対派の勝ちとなった。生徒は,初めは少し難しい課題 であるという印象をもって取り組んでいたが,実際のディベートを聞いていくうちに,裁判員制についての理解を 深めていた。 < 生徒のワークシートより > 指導助言者のコメント 現代社会の中で,実際に生じている課題である「投票率の低下」や「裁判員制度」について, 「なぜ」そのような 社会的事象が起きているのか」という疑問をもたせながら,既習した学習内容や資料をもとに生徒一人一人が考え, 意見を発表することができるよう工夫が凝らされていた。「投票率の低下」という課題では,投票に行かない有権者 の理由をまとめたり,投票率を上げる取り組みに触れることで,選挙の重要性が生徒に理解されていた。また,「裁 判員制度」では難しい内容であるが,ディベートの手法を使って生徒自身の考えを発表する場を提供した。どちらの 授業も生徒が自ら考え発表することで,学ぶことの必要性が理解できたと考える。 - 37 - 3 シミュレーションを通して,社会的認識を深める (1) 2007年に民営化される郵政の問題から 郵便局(日本郵政公社)の4つの仕事についてプリントにより解説し,郵政(郵便局)は国営であることを確認 させた。2007年に郵政4事業(郵便,郵便貯金,郵便保険,窓口) を民営化することが決定したが,民営化の 時期,方法をめぐってさまざまな議論があり, 「われわれ国民の生活にプラスになるのか,さらなる負担となるの か」といったことについて,何も語られていないことなども説明した。郵政民営化の問題を通して,公企業と私企 業の違いを理解させるとともに,資本主義経済の特徴と日本の経済上の課題についても気づかせた。 (2) シミュレーションについて 班ごとに会社名,事業内容,会社のセールスポイントを考え,発表させた。消費者の立場で, 「こんなサービス や商品だったらうけるのではないか」という観点で事業内容,セールスポイントを考えさせた。身近なコンビニや ファーストフード店, 携帯電話関係から連想するアイデアが多く出た。 郵政民営化に関わる会社設立のシミュレーションを通して,公企業と私企業の違いに気づき,その目的と役割に ついて説明することができた。 段階 学 習 活 動 ・ 内 容 2,会社設立シミュレーション を行う。 課 (1) 会社名 (2) 事業内容 (3) 会社のセールスポイント 題 3,新会社の発表を行う。 授 業 の 様 子 現在の郵政の仕事につい て簡単にまとめたものを資 料として提示し,郵政は国 営であること気づいた。 シミュレーションに意欲 的に参加していた。また, 会社が利潤をあげるにはど うするのか話し合う。 追 究 利潤を目的とする私企業だけ では,国民生活がこまることを, 他の公共事業の資料から読み取 り,公企業と私企業の違いにつ いてまとめ,発表させた。 (話 し合いの結果) 4,公企業と私企業の違いにつ いてまとめ,発表する。 (1) 公企業の目的・役割 (2) 私企業の目的・役割 < シミュレーションの実際 > 班 会 社 名 事 業 内 容 会 社 の セ ー ル ス ポ イ ン ト 1班 タロウ郵便 郵便,貯金,食品販売 H24営業,明るいスマイル 2班 JPO 郵便,貯金,窓口 コンビニ経営,手紙を早くする 3班 イムコーポレーション 郵便,貯金,引っ越し 送料一律 4班 めーるみうら 通販,デリバリー H24営業,安い早いどこまでも 5班 JPC 郵便,窓口 H24営業,セキュリティを厳しく 6班 郵便コーポレーション 郵便,貯金,貸し付け 全員スマイル,利子率を低くする 指導助言者のコメント 経済の授業の中で, 「郵政民営化」という現実社会でも議論が分かれている問題に対して,郵政民営化が実現した 場合のシミュレーションをグループ活動の形式で生徒の自由な発想のもと様々な会社が設立し,事業内容も生徒から 活発に発表されていた。本時におけるねらいや単元としての基礎・基本も押さえた授業が展開されてはいたが,参観 して感じたのは,生徒は自分の生活環境などの根底となって自分の考えが生まれており,その考えの視野を越えて, さらに深く考えさせることも必要ではないだろうか。様々な生活環境の中で,国営の郵政事業がどのような課題を残 しているか考えさせることで,この郵政民営化の課題を客観的に理解できると考える。 - 37 - 授業改善のポイント-2 学習動機を確かなものとする評価活動の工夫 1 単元の目標・毎時間の目標を明確にする (1) 単元の目標(評価規準)を明示する 単元のはじめに,単元の目標を明示するとともに,毎時間の達成目標(評価の観点)を確認する場を設定し,以 下のような「自己評価-自己PR表」に記入させ,毎時間の自己評価と次時の見通しをもたせた。 生徒の自己評価と自己PRを見ることにより,どんなところにつまずきがあるのか,どの活動に意欲がもてない のかなどを知ることができた。 (2) 理解度をはかる目安 単元の目標と毎時間の達成目標が明確になっているために,生徒は,授業中にどんなところがわからなかったの か,達成目標に照らし合わせて,確認できるとともに,予習や復習,定期テストの学習にも活用していた。 また,ディベートを通しての課題解決や発表活動を行い,その都度達成目標に照らして自己評価を繰り返しなが ら自分の考えをまとめ,発表する力の向上を図った。 段階 学 習 活 動 ・ 内 容 授 業 の 様 子 1,本時の課題を確認する。 課 題 把 握 ① 本時の課題と単元の達成標 を確認させ,各自ワークシー トに学習課題を記入させる。 ② 前時の達成課題や自己評 価のチェックをさせる。 裁判員制は裁判に導入すべ きである。 単元と本時の目標を確認する。 ま 3,本時のまとめをする。 と (1)本時のまとめを行う め (2)次時の学習内容の確認 ○ 本時の目標と単元目標に照らして,自己評価をさせる。 ○ 次時は,三権分立について考える時間であることを知らせる。 < 自己評価-自己PR表 > 時 数 達 関心・意欲・態度 ○ 国会の地位としくみ を理解する。 1 成 目 標 ( 評 価 の 観 点 ) 主 な 学 習 活 動 社会的な思考・判断 資料活用の技能・表現 ・二院制と衆議院の優 ・二院制と衆議院の優 越が取られている理由 越をふまえながら,国 ○ 衆議院と参議院の違 について,参議院の役 会のしくみと議決につ いを調べ,二院制をと 割に考えることができ いて理解することがで る理由を考察する。 たか。 きたか。 自 己 評 価 5・4・3・2・1 5・4・3・2・1 自己PR(コメント) ○「裁判員制度を裁判 ・ 裁判員制の是非を問 ・裁判員制の導入の目 ・裁判員制度に関わる に採用すべきである。」 う デイべートに積極的 的とその課題について, さまざまな資料から, 7 知識・理解 という論題 でディベ に 参加することができ ディベートを通して考 日本の裁判の課題につ ートを行う。 たか。 えることができたか。 いて説明することがで きたか。 本 自 己 評 価 5・4・3・2・1 5・4・3・2・1 時 自己PR(コメント) - 37 - 5・4・3・2・1 (3) 次の授業へ向けての課題 各単元ごとの達成目標や毎時間の達成目標を明らかにしたことにより,課題に対し真剣に取り組み,効果的であ ったが,自己評価・自己PR表を活用しながら,学ぶことの必要性や課題解決力の収得につながる社会的な見方や 考え方,調べ方,学び方の向上が生徒に客観的で目に見える形にすることができなかった。 生徒が,定期テストや単元テスト等を通して,単元の目標と毎時間の目標の達成率(到達度)が自覚できるよう な工夫をすることが次の学習意欲につながるのではないかと考える。また,評価の工夫の視点として,自己評価を 生かしながら,どのように相互評価を取り入れ,次の学習意欲につなげるが課題として残る結果となった。 2 グループ活動を通して学習動機を (1) グループ活動をどう評価に生かすか 他のグループや友達の課題解決と比較,関連させ,評価しあう場面を設けることにより,社会的事象の特徴と課 題をさまざまな視野に立ち,多面的・多角的にとらえさせるができた。 (2) 学習動機を確かなものとする評価とは 単元の目標や毎時間の目標を評価規準に照らし合わせながら,生徒に明示し,客観的に自分を振り返り,見直す ことを繰り返すことを通して,課題解決学習だけでなく,普段の授業への意欲づけにつながった。 自己評価・自己PR表に記入させることにより,生徒のどんなところにつまずきがあるのか,どの活動に意欲が もてないのかなどを把握することができ,課題や進度を修正,調整したり,どんな資料や活動が必要なのかを見る 目安となった。 時 数 達 成 目 標 関心・意欲・態度 社会的な思考・判断 ○「郵便会社をつくろう」 ・ 郵政民営化に関わる ・郵政民営化に関わる 5 評 価 の 観 点 ) 資料活用の技能・表現 知識・理解 ・企業は,自由競争の ・会社名 会 社設立のシミュレー 会社設立のシミュレー もとで利潤を追求しな ・事業内容 シ ョンに意欲的に参加 ションを通して,公企 がら生産活動を行って ・資本金 について することができたか。 ○ 資本主義経済とは何 かに気づく。 業と私企業の違いに気 いることを理解するこ づき,その目的と役割 とができたか。 ついて説明することが 本 時 ( 主 な 学 習 活 動 できたか。 自 己 評 価 5・4・3・2・1 5・4・3・2・1 5・4・3・2・1 自己PR (コメント) ~ 今後の課題 ~ 生徒は,教科書で学習しいる内容が,現実社会で実際に生じている課題や毎日の生活に密着しているものである ことを実感でき,基礎的な内容を理解する上でも効果的であったと考えられるが,教師側からの意図的な課題設定 であった。 選挙制度や裁判員制,郵政民営化のなど,大人でも難しい内容であり,生徒にわかりやすい資料や基礎・基本を おさえた上で授業を進めたつもりだったが,学力の低い生徒には難しい課題が多くなってしまった。また,中間層 の生徒が意見や考えを発表する機会をもっと多く取り入れるべきであった。 新聞やテレビのニュース等で話題になっている社会的事象を取り上げてきたが,身近な地域教材や訪問体験,講 師派遣などを効果的に活用すれば,より生徒に身近で興味・関心を高めることができた考える。 指導助言者のコメント 「学習動機を確かなものにする評価活動」の工夫を図るために,武田教諭は単元の目標と自己評価を合わせた 「自己評価-自己PR表」を作成して生徒に配布していた。この「自己評価-自己PR表」はシラバスと同じよう な効果をもっているもので,生徒がこの授業で何を学び,学習のねらいは何かを理解しながら,授業を進めること ができたのではないかと考える。また,自己評価を記入することで学習内容を確認したり振り返ることができるこ とで,学びの定着を図ることに効果があるものと考えられる。さらに,向上するためにも教師自身が改善を図りな がら,単元ごとのバランスを計画し,繰り返し活動することが大切だと考える。 - 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