急性心不全増悪患者 に対する看護ケアの実際

特集
心不全を徹底理解!応用編
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特集
1 病院での取り組み① 急性心不全増悪患者に対する看護ケアの実際
−心不全看護ケアの実際−
心不全を徹底理解!応用編
−心不全看護ケアの実際−
病院での
取り組み①
急性心不全増悪患者
に対する看護ケアの実際
するとショック状態に陥る危険性があります。し
本章では,急性心不全に迅速かつ的確に対応し,
たがって,迅速かつ的確に病態と重症度を把握し,
複雑な病態を読み解くための知識について概説し
明確に設定した治療目標に基づき,速やかに治療
ます。そして,事例を通じて根拠(と少々の臨床
を開始することがきわめて重要となります。
知)に基づいた看護ケアの実際について示します。
第一印象でショック(急変)の危険性を見抜く
急性心不全における看護ケアの第一歩は,すで
は,“ 末梢循環不全がある ” と判断します。ただし,
にここから始まっているといっても過言ではあり
高齢者では正常でも 4 〜 5 秒かかることも珍しく
ません。急性心不全の判断では一刻の猶予を争う
ないため,年齢に応じた解釈が大切です。
ことが多いため,“ フィジカルアセスメントには
小泉雅子(東京女子医科大学病院 看護部 心臓病 ICU,急性・重症患者看護専門看護師)
時間をかけないこと ” がポイントです。そのため
には,日頃からの動機づけと地道な訓練を繰り返
point
すことが重要です。
急性心不全の 6 割は慢性心不全の急性増悪で,9 割は血圧が低くない!
●
Nohria 分類やクリニカルシナリオは,特徴を理解して適切に活用する!
●
超急性期の治療は,血管拡張薬と非侵襲的陽圧換気が主流を占める!
看護は迅速性と快適性を追求し,包括的・全人的アプローチを展開する!
ABC の異変を瞬時に判断する
便で迅速な指標ですので,明らかなショック徴候
「A:気道の開通性・発声(airway)」「B:呼
しましょう。また,脈圧比(proportional pulse
吸数,呼吸パターン,胸郭の動き(breathing)」
pressure;PPP)は,脈圧(収縮期血圧−拡張期
血圧)÷収縮期血圧で算出し,0.25 未満の場合は
ほどで確認し,重症度を評価します。また,脈拍
心係数も 2.2L/ 分 /m2 未満である可能性が高いと
の触知では収縮期血圧の推定も可能です。橈骨動
いわれています 3)。
脈の触知が可能であれば収縮期血圧は 80mmHg,
測し,次の一手に備えます。同時に,心電図や酸
はじめに
急性心不全のフィジカルアセスメントでは,交
インの確認や末梢静脈ルートの確保を行います。
感神経の緊張を伴う「ショックの 5 つの徴候」の
毛細血管再充満時間も一緒に!
の 92.1%は「収縮期血圧が 100mmHg 以上に保た
現あるいは悪化し,すぐに治療が必要な状態」と
れた急性心不全」です 2)。
毛細血管再充満時間(capillary refilling time;
定義されています 1)。“ 急性心不全≒急性発症・
一方,
「収縮期血圧が 100mmHg 未満の急性心
CRT)は簡便かつ迅速に末梢循環不全を反映す
血圧低下 ” という先入観があるかもしれません
不全」は 7.9%ですが,収縮期血圧は心不全の強
る有用な指標です。ABC の判断と一緒に確認す
が,新規の急性発症ではない「慢性心不全の急性
力な予後規定因子であり,院内死亡率は 20%に
るとよいでしょう。爪床を 2 〜 5 秒間圧迫して解
増悪」が 65%を占めます 。また,急性心不全
・
2015/10 Vol.5 No.10
2)
も及びます 。発生頻度は低くても,治療に難渋
ショックの 5P も見逃さない
素飽和度のモニタリングを開始して,バイタルサ
急性心不全は「心不全の症状や所見が急激に出
1)
が認められる場合は,必ず確認するように習慣化
「C:橈骨動脈触知(circulation)」を 15 〜 20 秒
大腿動脈では 70mmHg,頸動脈で 60mmHg と予
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脈拍は血圧を維持するために,異常の早期から
鋭敏に変動します。ショック指数( メモ 1)は簡
●
●
バイタルサインは緊急度のサイン
除した後,爪床の赤みが 3 秒以上戻らない場合
メモ
1
ショック指数(SI)とは?
重篤なショックの指標です。
ショック指数(shock index;SI)
=脈拍数(回 / 分)/ 収縮期血圧(mmHg)
低酸素症や循環不全で特異的に 0.9 以上(正常値 0.5 〜
0.7)に上昇し,“バイタルの逆転”が起こります(正常
では,脈拍に比べて収縮期血圧の絶対値は大きい)
。ショ
ックの見極めにはバイタルサインが欠かせません。
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