特集 府大発 植物工場 - 大阪府立大学工学部・大学院工学研究科

『府大発植物工場』
-機械工学分野 教授-
吉田 篤正
植物工場とは?
<大阪府立大学植物工場研究センター>
施設内で植物の生育環境(光,温度,湿度,
2011 年 4 月にオープンした,国内で唯一完全
二酸化炭素濃度,気流,養分,水分等)を制御 人工光型に特化した植物工場研究拠点です.建
して栽培を行う施設園芸のうち,環境及び生育 屋としては,C20 棟,C21 棟,C22 棟があり,要
のモニタリングを基礎として,高度な環境制御と 素技術の研究開発から,大規模実証研究までを
生育予測を行うことにより,野菜等の植物の年間 幅広く行っています.大阪府立大学の植物工場
を通しての計画生産が可能な栽培施設です.
研究センターは,蛍光灯や LED を用いた「完全
人工光型」植物工場に特化した研究施設として
<植物工場の種類>
は国内最大規模を誇り,海外への情報発信も担
温室等の半閉鎖環境で太陽光の利用を基本と う次世代植物工場研究開発の拠点をめざしてい
して,雨天・曇天時の補光や夏季の高温抑制技 ます.C22 棟はグリーンクロックス新世代植物工
術等により環境を制御する「太陽光利用型」と 場と呼ばれ,2014 年 9 月にオープンした,全光
閉鎖環境で,太陽光を使わずに環境を制御する 源 LED 使用のレタス日産 5,000 株の最新鋭の大
「完全人工型」に大別されます.
型植物工場です.
大阪・関西を中心に植物工場の実用化を目指
<植物工場の利点と課題>
す多様な異業種が集結した企業コンソーシアム
利点としては,
(1)気象の影響を受けず,安定し と,本学の産学官連携の実績を活かした多様な
た品質と価格で供給が可能である.
(2)無農薬, 共同研究の実施や,従来の農学分野だけでなく,
低菌状態での栽培で,養液栽培のため土などの付 工学,理学,経済,総合リハビリテーション学な
着がない.
(3)連作が可能で,植物に最適な環境 ど本学の保有する豊富な教育研究陣による植物
で生育促進する.を挙げることができます.一方課 工場の要素技術の統合を追求するなど特色を生
題としては,
(1)照明や空調など栽培環境にコスト かし,植物工場普及のための基盤技術開発・植
がかかる.
(2)栽培品目は葉菜類が中心で限られて 物工場の開発・運営を担う人材の育成・植物工
いる.を挙げることができます.
場を利用した新しい研究開発領域の創生,これ
らを通した地域経済の活性化や社会的課題の解
決をめざしています.
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<農工連携>
植物工場は作物栽培場として生物学的な知見,
栽培技術など農学が重要な役割を担っています.
しかし,設計,運用段階では多くの技術要素が関
係し,他方面の工学技術,科学的な知見が必要
とされます.たとえば,
建屋の熱設計,
エネルギー
管理,栽培室の温湿度と気流の制御,栽培棚の
設計と配置,菌発生の予防と低菌状態の維持,
照明設備の開発,養液制御,栽培状況のセンシ
ングを含めた品質管理,設備の自動化,作業環
境のバリアフリー化,各種の情報収集とビッグ
データ解析などを挙げることができると思いま
す.個々の技術要素の進展だけでなく,全体を
統括したシステム開発が求められています.栽
培作物の歩留まりを上げ,出荷作物の均一な品
揃えを低コストで実現するには,農工連携は必須
であると考えられます.さらに,味覚,食感,栄
養価,健康や薬効成分などの品質管理を組み込
むことにより,高付加価値を目指すには,最先端
の科学と工学技術の融合が今後必要になってく
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ると思われます.植物の体内時計を活用した苗
選抜,植物に与えるストレスの有効活用など興味
の持てる話題も出てきていますので,多くの分野
の皆様の参画を期待しています.
<学園菜>
植物工場で生産された野菜は,堺市内やその
周辺のスーパーで「学園菜」というブランド名で
販売されています.大学発の食品にちなんで名
付けたブランド名です.学内でも C20 棟で購入
することは可能です.
「学園菜」は無農薬栽培・
衛生管理された工程のため,安全性が担保・低
菌状態で洗わないで食べられます.日持ちもする
と高い評価を受けています.最適な栽培環境,
適期収穫ができるため,色つやがいい,鮮度が
高くおいしい,カロチンやビタミン C などの栄養
価が高い,抗酸化活性成分が多く含まれる健康 <副専攻>
食品という結果が得られています.
大阪府立大学では通常の主専攻のカリキュラム以
外に,副専攻が複数設けられています.学域・学
類における専門分野の学修のほかに,標準履修課
程の修了に直接関係のない主題を学修することに
よって,ものごとを複数の見地から見つめ,考察す
ることができる人材,即ち専門性と俯瞰力の両方を
身につけた「T 字型」の人材を養成します.
本年度から副専攻「植物工場科学」が設けられ
ます.植物工場科学副専攻では,工学域の機械系
学類機械工学課程と生命環境科学域の応用生命科
学類植物バイオサイエンス課程および緑地環境科
学類が共同して「植物工場」に関する様々な講義や
実習を行います.学域間交流を実践し,工学域と
生命環境科学域の両者の知識と技術を身につけた
植物工場に関する専門技術者の養成を目的として
います.春季休暇を利用し,学内に設置されている
植物工場研究センター(C22 棟)を活用した実習と,
愛媛大学など全国いずれかの植物工場研究拠点で
の演習を行います.
植物工場研究センターを,最先端の研究,実
証事業だけでなく,教育・学習の場,社会人向
けの人材養成の場としての活用も目指していま
す.皆様に多方面でご利用いただければと思い
ます.見学は随時可能ですので,是非お越し下
さい.植物工場研究センターの活動の詳細は
ホームページ(http://www.plant-factory.21c.
osakafu-u.ac.jp/)をご覧下さい.
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