2015/9/7 自分も困る、家族も困る、 社会も困る視覚障害 第1回日本眼科医会記者懇談会 2015年7月22日(水) 平塚義宗 順天堂大学眼科学教室 自分も困る • 視覚障害者は「低いQOL」のまま生き続 ける 転倒、交通事故、 鬱、早死 日常生活機能低下 慢性的なQOLの低下 外出減、失業、欠勤 2 1 2015/9/7 視覚障害に起因するいろいろな問題 ・予期しない転倒 – オッズ比 1.43-2.3倍 ・視覚障害があると入院日数 が2.4日延びる (Morse, 1999) (Coleman, 2004; Koski, 1998) ・転倒による股関節骨折 – オッズ比 1.5-8.4倍 ・視覚障害があると10%医療 費が高い (Schmier、2009) (Felson, 1989; Ivers,1998; Klein, 1998; Grisso, 1991) ・うつ状態 – 高齢の視覚障害者では 25-45%がうつ – オッズ比 3.5倍 ・視覚障害者は死亡リスクが 2.3倍上昇する (McCarty, 2001) (Burmedi, 2002) 3 効用値 utility value (QOL) 健康状態を数値で表したもの 1.0 完全な健康 (Perfect Health) QOL 0.5 0.26 0 寿命 失明 死 生存期間短縮と引き替えにQOL が手に入る (という仮定) 4 2 2015/9/7 視力と効用値(QOL) 効用値 .4 効用値( QOL) TTO/Fitted values .6 .8 1 視力 0 1.0 1 0.5 0.3 0.1 指数弁 Log MAR TTO 視力 2 3 光覚なし Fitted values P<0.0001 UV = -0.18 VA + 0.85 r = -0.96 r2 = 0.90 QOLは“良い方の眼の視力”と有意に相関 5 Brown GC, Tr.Am.Ophth.Soc, 1999より著者作製 様々な健康状態の効用値 健康状態 • • • • • • • • • • • • 完璧な健康 不整脈 乳癌初期 狭心症 心筋梗塞 前立腺癌(軽度) 視力0.1 潰瘍性大腸炎 透析 心筋梗塞(重度) 脳梗塞 死 効用値 (TTO) 1.00 0.99 0.94 0.88 0.80 0.72 0.66 0.58 0.57 0.30 0.30 0.00 備考 心房細動 (ワーファリン使用) 軽度 中等度 症状なし 米国の法的失明 術前 重度 重度 6 Brown MM. Evidence-Based to Value-Based Medicine から抜粋 3 2015/9/7 視覚障害者は・・・ 低いQOLを ずっとかかえて生きていかなけ ればならない 7 疾病負担:Burden of Disease (BOD) T: YLD 障害共存年数 死亡 発 病 病気による早死によって失 われる期間 平均寿命 病気をかかえて生きる 期間 YLL 早死損失年数 人生時間 8 4 2015/9/7 QOLの低下する疾患の負担 1 失われる QOL 享受できるQOL QOL 早死する疾患 (例:心筋梗塞) 0 人生時間 死亡 平均寿命 1 失われるQOL 慢性疾患 享受できるQOL (例:感覚器疾患・ 運動器疾患) QOL 0 人生時間 9 平均寿命 疾病をかかえて生きる期間分 Years lost due to Disability :YLD 2012 30 世界全体のYLD (Years lost due to Disability)に占 める割合(%) 25.6 25 20 14.2 15 10 7.1 7.1 7.0 6.9 6.0 5.8 5 3.0 3.0 2.1 2.1 歯科疾患 皮膚疾患 糖尿病 泌尿器疾患 循環器疾患 神経疾患 不慮の外傷 呼吸器疾患 栄養障害 感染症 感覚器疾患 筋骨格疾患 精神・ 行 動疾患 0 3.1 5 2015/9/7 家族も困る • 視覚障害者には家族のケアが不可欠 病院への通院同伴 多大な時間と費用が 必要とされる 家族内におけるケア =介護者の負担大 結果としての欠勤・ 仕事を犠牲 11 家族も困る • 92万人がなんらかの介護を必要としている • 1週間あたり17時間の介護 • 介護者の45%が介護責任のため仕事を諦 めている 視覚障害は本人だけの問題ではない。 家族にとっても大きな問題。 12 6 2015/9/7 社会も困る • 視覚障害が存在することによって世の中には 多大なコストが生じている 医療費 治療 早死 労働力低下・ 欠勤・失業 家族や社会によるケア 日常生活機能低下 生産性低下 介護者の機会費用 個人のQOL低下分の価値 13 単位:億円 総経済コスト:3兆円 総経済コスト:2兆9,217億円 Roberts, et alrch. Ophthalmol . 2010. 7 2015/9/7 日本における視覚障害のコスト • 視覚障害が間接的に社会に与えているコストは 眼科医療費の 2倍 程度。 – 視覚障害は患者本人だけでなく、支える家族にとっ ても多大なコスト • 視覚障害による個人のQOL低下のコストは 6倍 程度。 眼科医療は、視覚障害から生じる目に見えない 多大な「負」のコストを減じることで、社会の生産性 向上にも大きく貢献している。 15 今後、視覚障害者は増加する 23%up 202万人 2.50 視覚障害者数(百万人) 2.00 1.50 女性 男性 1.00 0.50 0.00 2007 2012 2017 2022 2027 2032 2037 2042 2047 年 ピークは2030年 8 2015/9/7 財務省主計局 2014 悲観的シナリオだけでなく、介護にならない ようにする(予防)ことが重要 社会保障国民会議資料 リハ職員がカンファに参加して要介護者の能力を引き出す 住民主体の活動的な通いの場=体育教室 定年後シニアの社会参加 厚生労働省 これからの介護予防 2014 9 2015/9/7 介護予防教室/山梨県南都留郡道志村 介護予防教室/埼玉県東松山市 介護予防教室/千葉県市川市 介護が必要となった原因の構成割合 25 21.5 20 15.3 15 13.7 10.9 % 10.2 10 5 3.2 3 2.8 2.3 2.1 1.8 脊髄損傷 視覚・ 聴覚障害 悪性腫瘍 呼吸器疾患 糖尿病 パーキンソン病 心疾患 骨折・ 転倒 関節疾患 衰弱 認知症 脳卒中 0 3.9 骨折・転倒は介護の5大原因の一つ H22(2010) 国民生活基礎調査 10 2015/9/7 「転倒」の危険因子 5 4.4 4 3 3 2.9 2.9 2.6 2.5 2.4 2.3 2.2 1.8 2 倍* 1.7 1 歳より高齢 80 認知障害 うつ 日常生活動作障害 関節炎 視力障害 補助必要 バランス障害 歩行障害 転倒歴 筋力低下 0 視覚障害で転倒の危険は2.5倍 米国/英国老年医学会他, 2001 *オッズ比もしくは相対危険度 白内障手術で転倒を減らせる 英国70歳以上の女性のRCT 手術後1年間で34%減 Harwood RH, BJO, 2004 11 2015/9/7 白内障手術で股関節骨折を減らせる 米国65歳以上41万人の調査 手術後1年間で23%減 Tseng VL, JAMA, 2012 白内障手術を受けることで • 読書速度が有意に改善1) • 交通事故の発生頻度が13%減少2) • また、認知症や抑うつ状態も視覚QOLと並行 して改善する3) 1)Lee BS, et al. Ophthalmology. 2013 2)Meuleners LB, et Ophthalmic Epidemiol. 2012 3)Ishii K, et al. Am J Ophthalmol. 2008 12 2015/9/7 白内障の有所見率 :誰でも白内障になります 単位 % 白内障診療ガイドライン 日本白内障学会誌2004 まとめ • 視覚障害は個人だけでなく、家族や社会に とっても大きな負担になっている。 • 視覚障害者は今後増加、2030年には200万人 へ。 • 予防や治療により視覚障害者数を減らすこと は、患者個人のQOL改善だけでなく、 視覚障害から生じる総合的なコストを減じ、 社会の生産性向上にも大きく貢献している。 – 結果の出る介護予防対策として白内障手術 26 13
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