お家参り

お家参り
201214021 富樫 賢也
指導教員 黒木 宏一
1.背景
私の祖母は 20 年前祖父に先立たれ、現在は新潟県村
6.家屋をお家として残す必要性
お墓参りの本質的役割を果たすには、親戚が集まる場
上市中継にて、田舎での一人暮らしを強いられている。
所ありきであるということがわかる。お墓参りにしろ、
祖母を田舎に止める最も大きな要因は、家族と過ごした
宴会・花火・盆踊りにしろ、それらの思い入れのある活
家屋に対する愛着である。建築はこのような感情的な問
動は、中継にて親戚が集まる場所があったからこそ成り
題と向き合って考えられていくべきである。
立っていたのである。そこは別荘でも、空き家でも、空
祖母の家屋は築 101 年を迎え、祖母自身は 72 歳を迎
き家の前にお墓を建てたとしても成り立たない。お家で
えた。祖母の子孫である私たちは、核家族として村上市
なければいけない。なぜなら、私たちの思い出の詰まっ
から新潟市へ移住した。祖母宅は、日常的に行き来でき
た家屋に祖母が眠っていると私たちが思えるからこそ、
るような距離にはない。祖母の人生を支えてきた家屋は、
中継を後にするとき、また来年来ようと思える気がする
祖母の死と共に空き家となる(図1ー①)。
のだ。
①祖母の家系の現状 <家系図と各世帯の所在地>
祖母の死後、お墓は中継の外れに建てられ、家屋は空
き家として残るだろう。私たちは、祖母が最期まで守り
続けた家屋が朽ち果ててゆくのを、繋ぎ止めることしか
祖母宅
村上市中継
できないのである。(図1ー②)。
富樫宅
新潟市北区
2.目的
私の感情的な視点から、空き家となる家屋の新しい残
伯父宅
新潟市西蒲区
され方を考案する。私たちに嫌悪感を残す後ろめたい建
祖母の住む新潟県村上市中継は、新潟県の最北端に位置し
祖母の子である私の母・伯父は核家族として新潟市に住ま
いを構えている。新潟市と中継は自動車で2時間程の距離
関係にあり、日常的に行き来できる距離ではない。祖母の
死後、祖母宅を訪れる機会は年に一度あるかないかだろう。
築を、前向きに建ち続ける建築に生まれ変わらせる。
3.住処から終の墓処へ
祖母が長年住み続けた家屋を、祖母が永久に眠り続け
②将来起きる問題<祖母宅とお墓の行方>
村上市中継
るためのお墓としてコンバージョンする。残された家屋が
空き家としてではなくお墓として残ることで、抜け殻と
祖母宅
なった家屋に新たな用途が吹き込まれる。そのような、
村の墓地
新たな建築形態を『お家』と名付ける。お家の設計プロ
セスを以下に示す(図2)。
0
200(m)
結果として、
お墓と空き家は年月とともに朽ち果ててい
き、私たちはそれを繋ぎ止めることしかでき
ない。そのために中継まで脚を運ぶ。この後
ろめたさを、前向きに考えられる提案はでき
ないだろうか。
図1 問題提起
4.新たな行事〜お家参り〜
お墓が残るということは、お墓参りが行われ続けてい
くことを意味する。したがって、祖母の家屋がお家にな
<住宅からお墓へのコンバージョン>
祖母のいなくなった家屋に、お墓の役割を与える
+
祖母の家屋
ることで、お家を参る行事が行われる。この新しい行事
=
お墓
お家
<祖母の家屋からお家まで>
を『お家参り』と名付ける。
5.お墓の本質的役割
お墓があることでお墓参りが行われる。祖母の家系で
祖母の死後、お墓は村の外れの墓地に建てら
れる。お盆やお彼岸になると、富樫家・伯父
家はそれぞれ中継を訪れ、お墓参りを行う。
対して、祖母宅は空き家として残り続ける。
お墓参りのついでに、家の掃除をして帰ると
いう流れになるだろう。
以下の機能を与える
祖母の家屋
お家
はお盆に親戚が集まり、お墓参りが行われる。皆でお墓
に出向き、手を合わせる行為自体はもちろん大事である。
①遺骨を納める空間 ②お参りというプログラム ③昔を思い出す空間構成
しかしここで最も大事なことは、お盆にお墓参りのため
祖母宅
親戚が祖母宅に集まり、宴会や花火、盆踊り等の活動を
お墓
・祖母の生活を成立させる
機能 ・親戚が集まり、様々な活動 ・遺骨を納める空間
に対応する空間構成
通して、家系のつながりを大事にし、ふるさとを思いや
り、大切な家族が亡くなられた事実を受け入れ、前向き
に生きてゆける美しい思い出を持ち帰ることである。
お家参りのイメージスケッチ
物質としての機能と、感情に則した本質的役割
・お墓参り(供養、お祈り)という
・子孫達のふるさとであり、 プログラムを生み出す
・お墓参りを通して、家系のつなが
本質的 心の支えになっている
役割 ・子孫にとってかけがえのな りを維持すること
い存在
・お墓参りを通して、ふるさとを思
いやる気持ちを生むこと
お家
・祖母宅とお墓の機能と同じ
・お家参りというプログラム
・祖母宅とお墓の役割と同じ
・お家での活動を通して、昔の生活や
記憶を思い出す
・祖母と、家屋が亡くなった事実を受
け入れ、前向きに暮らしていく気持
ちを生むこと
図2 お家の設計プロセス