スメタナ作曲「モルダウ」の雄大な調べ、ドヴォルザーク作曲「チェロ 協奏曲」の最高傑作をウルバンスキの指揮で堪能する!! ♪ 音楽評論家 青澤隆明氏が語る本演奏会の魅力 ~愛される名曲こそ、新時代の名演で!~ 戦火が身近に迫り、激しく歴史が揺れ動いた時代、音楽こそ は生きる力であり、民衆のアイデンティティの象徴だった。ど んなに辛い時代でも、内面の平和と他者ヘの愛を手離さないた めに、音楽はどうしても人々の魂の近くにある必要があった。 スメタナがチェコの国民音楽を主唱し、ドヴォルザークはさ らに汎スラヴ的な、さらには新大陸に渡っては、ネイティヴ・ アメリカンへの共感をもって、根源的な音楽をみつめたのは豊 かな彼ら自身の個性を超えて、時代の必然でもあった。ドイツ 音楽の構築性をさらに探索しつつ、自らの民族の血と心をみつ める精神が向かうのは、単純な愛国主義を超えて、個々の自立 を基盤とした普遍的な人間愛、自然や歴史への賛美を抱く広大 な大地であるはずだった。それは、私たちの生きる現在におい ても、決して忘れることのできない仕事だ。 昨年のベルリン・フィルのデビューも大絶賛をしたウルバンスキ 19世紀後半 <ボヘミア国民楽派の音楽> 後期ロマン派に当たる19世紀後半になると、音楽先進 国であるドイツのロマン派音楽が音楽後進国へ波及し、そ さ て、長 い 歴 史 を も つ東京交響楽団が近年 強 く 打 ち 出 す“攻 め の 姿 勢”を 象 徴 す る の が、音 楽 監 督 ジ ョ ナ サ ン・ノ ッ ト と 首 席 客 演 指 揮 者 ク シシ ュ トフ・ ウルバンスキの強烈な 個 性 と 存 在 感 だろ う。 まだ33歳のウルバンス キは、これまでの共演でも母国ポーランドの作品への並々なら ぬ敬愛を明かしてきたが、今回はルトスワフスキが死の前年に 作曲した交響曲 第4番を選んでいる。 そこからプログラムは、やはり30代のチェリスト、タチア ナ・ヴァシリエヴァがドヴォルザークの高峰をしなやかな技巧 と情熱で奏でて、スメタナの「わが祖国」へと大きく時代を 遡っていく。ウルバンスキの緻密な読みと綿密な構築は、作品 が細部に籠めた意味までも、鮮やかな表現として克明に描き出 すだろう。名曲こそ、新たな想像力と視野を受け入れて、何度 でも生まれ変わる豊かな生命をもつものだから。 (→ 指揮者ウルバンスキの魅力へつづく) ● 日時 会場 出演 曲目 ● ● 公演概要 ● ● ● 5月24日(日) 15:00開演 よこすか芸術劇場 クシシュトフ・ウルバンスキ(指揮) タチアナ・ヴァシリエヴァ(チェロ) 東京交響楽団(管弦楽) ルトスワフスキ/交響曲 第4番 ドヴォルザーク/チェロ協奏曲 ロ短調 op.104 スメタナ/交響詩「我が祖国」より ヴィシェフラド、モルダウ、シャールカ の国々の民族的要素と融合した新しい音楽様式が生まれま した。この自分たちの国の民族性、国民性を表現する音楽 様式を「国民楽派」と呼びます。スメタナやドヴォルザー クは、特に民族意識が強く現れているといわれるボヘミア 国民楽派の作曲家で、今回演奏する曲は、彼らの代表的な 作品で、多くの名演を生んできた人気の高い曲です。 ♪ 強靭な磁力と底知れぬ密度、格別な存在感 <指揮者ウルバンスキの魅力> 若い指揮者が続々と登場するなかでも、クシシュトフ・ ウルバンスキの存在感には格別のものがある。外面的な華 やかさよりもなによりも、作品の内面への切実な希求力が 凄まじい。ウルバンスキの才能は、強靭な磁力と底知れぬ 密度をまざまざと感じさせる。 彼が東京交響楽団を指揮すると、並外れた集中力と凝縮 性が演奏に絶えず高い沸点を保つ。2009年の初来日から強 烈なインパクトを与えた20代の青年は、11年初夏の再共演 を経て、翌夏には颯爽と首席客演指揮者に迎えられ、東響 の新時代への挑戦を象徴する存在となった。 初顔合わせはキラール、ショパン、ドヴォルザークの 第9番、続いてルトスワスキとシマノフスキで母国ポーラ ンドの作曲家への敬愛を表し、ショスタコーヴィチの第十 交響曲でも克明な打ち出しと執拗な集中力を聴かせた。 強い意志を漲らせたウルバンスキの指揮は、粘るように 強度の緊張を貫き、鮮明な細部の表現と、独特に濃密な筆 致で存在感を示した。リハーサルから全曲を暗譜で振ると いう完璧志向も、有機的で強靭な全体構築に繋がってい る。テンポを精密に保ち、旋律の流れを息長く保持して、 音楽を分断せず、演奏全体を超克的な意志をもつ精神の運 動や変容へと導くのも、彼の確固たる才能の証しだ。 <音楽評論家 青澤隆明>
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