1/2 ページ 抗菌薬の強い・弱いってどういうことなんだろう?:Aナーシング 忽那賢志の「感染症相談室」 抗菌薬の強い・弱いってどういうことなんだろ う? 忽那賢志 2015/8/4 国立国際医療研究センター国際感染 症センターの忽那(くつな)です。こ の連載は複雑に入り組んだ感染症診療 に鋭いメスを入れ、様々な謎や疑問を 徹底的に究明するものです。最近、本 連載の更新が遅い気がしている方もい らっしゃるかもしれませんが、そんな ことは気にせず、今回も感染症のあれ やこれやについて考えてみましょう。 図1 ペニシリンGとメロペネムのスペクトラム の違い 最初から「強い抗菌薬」を使うべき? さて、今回は抗菌薬の強い・弱いに ついて考えてみたいと思います。病棟で働いていて、医師が「よし…、ここはもっ と強い抗菌薬に変更しよう!」と言うのを聞いたことがあるでしょう。「えっ…、 じゃあ今まで使っていた抗菌薬は弱い抗菌薬だったってこと…?じゃあ最初から強 い抗菌薬を使えばいいのでは…?」そんなふうに思ったことはありませんか?結論 から言いますと、抗菌薬もわれわれ人間と同じです。抗菌薬に優劣なんてないんで すッ!「みんなちがって みんないい by 金子みすゞ」であります。 では、なぜ医師たちの間で「強い抗菌薬」「弱い抗菌薬」という言い方が生まれ てしまうのでしょうか。それは主に、その抗菌薬が有効である菌の種類の幅広さ (スペクトラム)が異なるためです。例えば、ペニシリンGというペニシリン系抗菌 薬は肺炎球菌などのレンサ球菌属には有効ですが、多くの場合で緑膿菌という細菌 には無効です。一方で、メロペネムというカルバペネム系抗菌薬はレンサ球菌属に も緑膿菌にも(多くの場合)有効です。この違いがスペクトラムというものです (図1)。 この図を見ると「やっぱりスペクトラムが広い方が強い抗菌薬じゃないか」と思 われるかもしれません。それはある意味正しいのですが、ある意味間違っていま す。 サイヤ人(※1)が地球に襲来したときのことを思い出してみてください。ベジー タ(※2)がヤムチャ(※3)を倒すのにギャリック砲(※4)を使ったでしょう か?いえ、ベジータはそんなことはしませんでした。「ヤムチャくらいサイバイマ ン(※5)で十分だろう」ということで、サイバイマンを使ってヤムチャを倒したの です。つまり、これが抗菌薬の適正使用ですッ!! 言っている意味が全く分からないかもしれませんが、自分的には今かなりしっく り来ました。ヤムチャがレンサ球菌、サイバイマンがペニシリンG、ギャリック砲が メロペネムだと思ってください。ヤムチャを倒すのにはサイバイマンで十分である にもかかわらずギャリック砲を使用すれば、ヤムチャだけでなく周囲の環境も破壊 されてしまいます。ヘタしたら仲間であるナッパ(※6)まで巻き沿いを食らうかも しれません。 ここで言うナッパは、人間の体内では腸内の常在菌細菌叢である善玉菌だと思っ てください(だいぶ無理があるかもしれませんが)。ナッパ(腸内細菌叢)がいな くなってしまうと、相対的に敵対勢力が増えて自分がピンチになります。これがク ロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(偽膜性腸炎)で す。また、ギャリック砲を放つのは大変労力が伴います。その点、サイバイマンは http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/anursing/kutsuna/201508/543221.html 2015/08/21 2/2 ページ 抗菌薬の強い・弱いってどういうことなんだろう?:Aナーシング 安価であり確実に仕事をしてくれます。つまり、ヤムチャを倒すためにはサイバイ マンの方がコストパフォーマンスが高いと言えるのです。 そしてさらに!ギャリック砲を放ち過ぎて地球が荒れ果ててしまったことで何が 起こるのか!地球にはいろいろな生物がいますから、中には特異体質的にギャリッ ク砲が効かない生物が存在するかもしれません。天津飯(※7)だって威力のいかん にかかわらずかめはめ波(※8)が効かなかったわけですから、ギャリック砲が効か ない生物がいてもおかしくないはずですッ! 忽那賢志の「感染症相談室」 バックナンバー 連載の紹介 著者プロフィール 感染症にまつわる臨床現場でのさまざ くつな さとし氏●2004年山口大学医学 まな謎や疑問を徹底的に究明。複雑に 部医学科卒。関門医療センター、市立 入り組んだ感染症診療に鋭いメスを入 奈良病院などを経て、2012年から国立 れていきます。 国際医療研究センター国際感染症セン ターに勤務。趣味はお寺巡りとダニ収 集。 © 2006‐2015 Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved. http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/anursing/kutsuna/201508/543221.html 2015/08/21
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