安全な食料供給の義務を果たす(PDF)

JAトップインタビュー
安全な食料供給の
義務を果たす
香月 保
福岡県JA北九 代表理事組合長
工業地帯を抱え、都市化が進むJAですが、学校給食
への食材供給などの“地産地消”を通じて、地域にお
けるJAの存在感を高めています。
◆ブランド野菜生かして
業の3%を占めるにすぎません。
――どのような地域農業のビジョンを描いて
しかし管内には大消費地の北九州市があり
いますか。
ます。もっと販売に力を入れてほしいという声
北九州市は工業地帯のイメージがあります
が、合併で加わった野菜生産の盛んな遠賀郡
が、もともと農業の盛んな地域で、今もキャベ
の組合員から出ました。農産物の有利販売に
ツやハクサイ、タケノコなど、品質のよいブラ
は一定の量を確保し、市場の評価を得る必要
ンド野菜が生産されています。
があります。
農業以外への就業機会に恵まれているた
それまで信用・共済事業中心のJAだった
め、後継者の多くは他産業に就職し、農業従
ため、農業に対しては十分な力を入れていた
事者の大半を高齢者が占める小規模兼業農家
とはいえない状況でした。都市化が進んで農
中心の農業が行われています。6 年前のJA
地が減り、経営規模を拡大することは困難で
合併によって、農産物の取り扱いは上向いて
すが、条件に合った農業のやり方があるので
いますが、生産額そのものは北九州市の全産
はないかと考えました。
おん が
そのために、第一に取り組んだのは大消費
地を対象にした地産地消の農業です。特に
食育を含めた学校給食への食材供給です。
現在、毎週 3 回、市内の全小中学校の給食に
お米を供給しています。学校給食のお米は
100%地元産です。
ただ学校給食には五十数品目の食材を必要
とするため、JAから供給しているのはその3
JA北九本店
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分の1、量では2 割しかありません。まだまだ
かつき・たもつ
昭和40年北九州市八幡農協に入
組、平成15年JA北九州常務、
18年 同 J A 専 務、21年 J A 北
九専務を経て、25年JA北九代
表理事組合長に就任し現在に至
る。26年JA共済連福岡運営委
員会委員長、JA福岡中央会副
会長に就任。
撮影・JA北九地域生活部地域振興課課長 嶋津重喜
可能性のある市場だと考えています。市も食
のブランドで売り出し、立ち直りました。広島
育の大切さをよく理解し、地産地消課を設け
県のお好み焼き用としての契約栽培も行って
るなど協力的で、いま冷凍庫を備えた集出荷
います。
場を作る計画を進めています。地産地消は子
また、北九州市は、約1,400ha という、全
どもたちの将来のためです。
国の自治体で最大規模の竹林を有しています。
おう ま
中でも小倉南区の合馬地区では、土壌改良等
◆小規模経営守り、農地を守る
の手間暇をかけ、
「合馬タケノコ」のブラン
――JA全国大会でも決議されましたが、
ド名で、「えぐみが少なく、肉質がやわらか
「農業者の所得増大」
「農業生産の拡大」には
い」と、京都をはじめ関西の料亭などからも、
どのように取り組みますか。
指名をいただいています。
管内の若松区にキャベツで、昭和47年指定
ほかにも水切りで糖度を高めたミニトマト、
の国の指定産地があります。7~8 年前、後継
ブロッコリーなど、生産者の所得が増大する
者が減って存続が危ぶまれたことがありますが、
よう、さまざまな取り組みを強めています。
市の支援もあって、カキ殻や塩水かん水でミ
後継者を確保するには、収入を高めていく
ネラル成分を増やし、
「若松潮風Ⓡキャベツ」
必要があります。耕作放棄地が増える中で、
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歴史のある若松区のキャベツ
小倉競馬でタケノコを PR
「企業の農業参入を」との発言も聞かれますが、
今後 5 年間、准組合員利用の実態を調査する
こうした地区では小規模ながら、農業を維持
といいますが、それでは遅い。次期 3 か年計
しているという実態があります。JAは、その
画で対策を打ち出す方針で、県段階において
最後のとりでともいえる存在であり、小規模
も、准組合員対策を提案いたします。
な農家を支援する使命があると考えています。
この考えで 4 年前、農業生産や農地の管
あっ せん
◆経済事業重点に人員配置
理・斡旋などを行う子会社「(株)JA北九絆
――職員に対してはどのようなことを求めま
ファーム」を立ち上げました。経営的にはな
すか。
かなか黒字になりませんが、農地はJAが守
「寄らば大樹の陰」にならないようにしてほし
らなくて誰が守るのかという思いで取り組ん
い。そのためには、農家に出向く体制づくりが
でいます。
必要で、営農経済渉外専門の TAC を設けまし
たが、ほかにも月1回、3日かけて全職員が組
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◆中期計画で准組合員対策
合員訪問を行っています。
――都市型のJAとして、「地域の活性化」
TAC には、部署を問わず優秀な職員を配置
に、どのように対応し、JAとしての役割を
しました。特に購買事業では、商系の動きも
果たしていけばよいでしょう。
活発で、これに負けないためにも営農経済部
当JAの収益の大半は信用・共済事業から
署の全職員が農家を回るようにしています。 のものです。営農経済事業には 5 億円を充て
職員に対しては、今年度の事業方針にも明
ていますが、それができるのは信用・共済事
記しましたが、
「なにごとにも、よいと思った
業があるからです。
ことはやってみる」の姿勢で取り組むようにと
営農経済事業と信用・共済事業はJAにお
いっています。こうした取り組みの効果もあっ
ける車の両輪です。地域の人から、
「JAはい
て、組合員にも、JAの変化が目に見えるよう
い仕事をしている」といわれるようにするのが
になったのではないかと思っています。
役割だと考えています。
与えられた仕事だけではなく、組合員の要
JAには、組合員以外の利用者が約10万人
望に対し、自分で考え、行動に移す職員が、こ
います。その人たちに、地域になくてはならな
れから必要ではないかと思います。専門は専
いJAとして根づいていると自負しています。
門で徹底し、全事業に対して気配り、目配りが
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JAトップインタビュー
ほ じょう
地産地消の食育は、圃場から
農家の経営を支援する営農経済渉外の TAC(左)
できるような、マルチ人間になってほしいと期
を保障することです。量だけでなく、これから
待しています。
の日本を背負う子どもたちのことを考えると、
食品の安全性についても心配です。小麦や大
――いま、地域で生きるJAとして必要なこ
豆、トウモロコシ、ナタネなどの遺伝子組み換
とは何でしょうか。
え(GM)食品で国民の健康が守れるのでしょ
まずJAのファンづくりです。そのためには
うか。外食や中食では、どのような材料が使わ
地域に溶け込む活動が必要です。中心になる
れているのか分かりません。
のは支店の運営委員会で、区長や校長、公民
今でも、学生へのアンケートなどによると、
館長など、あらゆる分野の人がJAと一体と
お米を食べず、パンやパスタ、コーラなどを
なって活動しています。全ての支店で支店便
好み、外食や中食に頼る人が増えています。こ
りも発行しており、活発な支店ほど相乗効果
うした若い人たちが親になったとき、子どもに
で、いろいろな事業も伸びています。
何を食べさせるのでしょうか。将来の日本の
組合長の就任時に行った全職員アンケート
生活、食料の安全の面で、心配です。
によると、組合長のことばが伝わっていない、
その意味でも、地産地消・食育の取り組み
顔も見たことがない、という実態が分かりまし
が大切です。これからも力を入れていく方針
た。規模が大きくなったデメリットだと思いま
です。
すが、役員も現場で対話するよう努める必要
性を痛感しています。
◆「食料の安全」を守るために
(写真は全てJA北九提供)
◎JA北九の概況
平成21年、
JA北九州、
JA北九東部、
JAおんがの3JA
が合併して誕生。
福岡県
また、食料の安全に関しては、環太平洋連
携協定(TPP)が心配です。
食料がないと人は生きていけません。いっ
たん有事があれば、他国は日本に輸出してく
れなくなるでしょう。そのとき農業が衰退して
いたらどうするのでしょうか。
JA北九
▽組合員数
3万5,351人
(うち正組合員8,227人)
▽貯金残高
2,291億4,112万円
▽長期共済保有高
7,610億9,000万円
▽購買品供給高
20億3,800万円
▽販売品取扱高
41億8,800万円
▽職員数
548人(うち正職員326人)
(平成26年度末)
われわれJAの役割は、安全で安心な食料
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