平成 26 年度 「海外の道路管理に関する最新状況」(英国)の概要

平成 26 年度
「海外の道路管理に関する最新状況」(英国)の概要
英国における道路管理をめぐる最近の状況について
英国における近年の道路行政の流れとして、1979 年に発足したサッチャー政権(保
守党)のもとでは経済復興を目的とした道路部門への投資が活発であったが、それに続
くメージャー政権(保守党)では、当時盛んであった世界的な地球温暖化の議論などを
背景として、道路整備から鉄道などの公共交通整備に方向転換が図られた。また、1997
年に誕生したブレア政権(労働党)においても環境重視の姿勢は継続され、引き続き鉄
道重視の姿勢は貫かれた。しかし、1990 年代以降に道路整備予算が削減された結果、
英国の道路網の整備状況は、フランスやドイツと比較して大きく遅れる状況となった。
その後 2010 年に現連立政権が発足し、緊急的な課題として「経済回復の持続」と「財
政赤字の削減」を掲げられ、下院選挙後に発表された「歳出見直し 2010」においては、
財政赤字を今後 5 年間で解消し、各省庁予算については今議会中の年平均で 19%削減
するなどの目標が設定され、道路関連予算についても大幅な見直しが行われた。また、
道路行政についても見直しの動きがあり、2011 年の交通省の専門委員会による提言(ク
ック報告書)において、説明責任を充実し、独立した裁量権限を発揮できるようにする
ために、道路庁の組織形態を再構築すべき、との提言がなされたことをきっかけとして、
2015 年 4 月に「道路庁の民営化(独立法人化)
」が実現することになった。
交通省は、道路庁の組織再編に合わせて、2014 年 12 月に今後 5 カ年の「道路投資戦
略」を策定している。それによると、新組織が単年度予算の制約から脱却し、今後 5 カ
年間に必要となる道路事業を計画的に執行できることを担保するとしており、全国各地
の重点的なプロジェクトを取りまとめるとともに、所要事業費を明記した内容となって
いる。また、道路整備や運営に対する具体的な評価項目や基準が定められており、道路
庁の道路整備に対する責任の明確化、および従来よりも道路利用者の視点を重視した施
策が盛り込まれている。
英国における民間資金活用について
英国では、有料道路事業の事例はあまりないことから、PFI 事業の実例も多くないが、
会計検査院などが既存のプロジェクトの抱える課題を分析して改善を求める報告を発
表している。2009 年 10 月、道路庁の維持管理業務に関する会計検査院の指摘が行われ、
そ の 当 時 の 道 路 庁 に よ る 維 持 管 理 業 務 方 式 で あ る 、「 MAC ( Managing Agent
Contractor)方式」の非効率性について指摘された。その指摘を受ける形で、従来の
MAC 方式からさらに性能規定化を進め、リスクを最大限民間に移転することにより、
民間の自由度を高めて大幅なコスト縮減の実現を目的とした長期管理契約方式である、
「アセットサポートコントラクト(ASC)方式」が 2012 年 7 月から順次導入されるこ
ととなった。
また、道路庁の維持管理業務に限定しない、PFI プロジェクト全体に関する評価とし
て、2011 年 4 月に会計検査院から、また同年 7 月に下院公会計委員会から既存 PFI プ
ロジェクトに係る報告書が公表されている。両報告書によると、PFI 導入時におけるプ
ロジェクトの評価や調達方法の検討が不十分であることや、実施決定時において VFM
が明確にされていないと指摘されている。さらに、個別プロジェクトに関する報告では、
道路庁管理である M25 の DBFO プロジェクトにおける工法選択の妥当性に関する疑問
や、高額なアドバイザリー費用や、道路庁の歳出負担が結果的に民間 PFI 会社よりも
相当高コストとなっているという指摘が行われたことにより、議会や国民の PFI に対
する不信感を増大させる原因となった。政府はそれ以前にも 2010 年の「PFI クレジッ
ト制度」の廃止や、2011 年には運営段階に入った PFI 事業のコスト削減、政府勘定に
占める PFI 事業債務の評価と公表などの一部見直しを行ってきた。しかし、
「金融危機
に伴う資金調達の困難性」、「リファイナンスなどによる投資家の過剰な利益収受」、
「PFI 事業における契約の固定化」などの課題を解決するためには、さらなる抜本的な
改革を行う必要があった。
このような流れを受け、2011 年 11 月にオズボーン財務大臣は英国における PFI の
抜本的見直しに着手することを発表し、その後財務省が中心となって 2012 年に PFI の
改善方策である PF2 を公表した。PF2 においては様々な方策が盛り込まれているが、
最大の特徴の1つとして政府が PF2 プロジェクトの小規模出資者として行動すること
が挙げられる。これによる最大の効果として、プロジェクトの財務情報の透明性が高ま
り、また政府によるプロジェクトの監視機能強化が期待されている。その他の特徴とし
て、公共部門と民間部門のリスク負担の見直しによって事業コストの削減を図り、納税
者である国民にとっての VFM の向上を目指している。
PF2 におけるリスク分担については、従来の PFI では民間部門が負っていたリスク
のうち、新たに公共部門の負担とされたリスクとして、主なものは「予期していなかっ
た法令変更による費用増加リスク」
、
「第三者に起因する事業用地の汚染への対応」、
「事
業用地や建物に対する法的権利の保障」などが挙げられている。2012 年 12 月に PF2
の導入が明らかにされたが、それ以降に道路分野での大規模な PFI は実施されておら
ず、リスク分担ならびに PF2 プロジェクト全体についての実例の検証や評価について
は、もう少し時間を要すると考えられる。