超小型マイクロ波エンジンの研究 Study of Nano Microwave Engine

超小型マイクロ波エンジンの研究
Study of Nano Microwave Engine
上島
広史
Hirofumi UESHIMA
田中
吹雪
佐鳥
Fubuki TANAKA
北海道工業大学
新
Shin SATORI
Hokkaido Institute of Technology
1. はじめに
近年の衛星開発は、小型化へと情勢が変化しつつあり、
大学による衛星開発も可能となった。そのような中、大
放電・加速室
Xe ガス
+
学生による衛星開発のひとつの到達点として、米
Stanford 大学の Twiggs 教授により、一辺の大きさが
イオンビーム
+
+
+ e
e
e
マイクロ波
10[cm]、重量 1[kg]以下、総消費電力 3[W]の立方体状の
超小型衛星である CubeSat が提案された。衛星本体の小
加速電源
中和器
型化に伴い、姿勢制御・推進機器にも小型化が求められ
るため、推力源として従来のガスジェットよりも、小型・
高比推力な電気推進が適している。電気推進とは、推進
剤を電離・プラズマ化し、イオンに電位を与えその反作
図1
マイクロ波エンジン原理図
3. エンジンヘッドの設計
用によって、推進力を得るものである。現在用いられて
本研究のために、4 種類のエンジンヘッドと、2 種類
いるイオンエンジンでは、イオンの抽出・加速のために
のアンテナの設計を行った。マイクロ波エンジンの作
多孔電極を用いらなければならないが、本研究で用いた
動特性は、各エンジンヘッドの放電室形状(磁場形状)
、
マイクロ波エンジンは多孔電極を使用せず、本体からの
アンテナ形状・配置により変化するため、磁石の設置
加速電圧によってイオンを抽出・加速する。そのため簡
位置および、放電室の形状を変更した、A から D 型の
易な構造となり、小型・軽量化が期待できる。
4 タイプのエンジンヘッドを設計した(図 2)。
本研究では、CubeSat に搭載可能な小型・省電力なマ
:磁力線方向
イクロ波エンジンの開発を行うために、
① マイクロ波電力 1[W]で動作可能な、超小型マイクロ波
エンジンの設計
② 超小型マイクロ波エンジンの推力を評価
を目的とした。
2. 動作原理
A型
図2
B型
C型
D型
エンジンヘッド 1/2 断面図
マイクロ波エンジンの簡単な原理を図1に示す。マイ
また各エンジンヘッドは、磁場形状は異なるが、いず
クロ波エンジンは放電・加速室(エンジンヘッド)と中
れも ECR に必要である磁場強度の領域が交わるよう
和器より構成される。推進剤にはキセノンガスを使用し、
設計されている。ここで ECR に必要な磁場強度は、
放電室内の磁場と共鳴周波数 fc のマイクロ波による ECR
fc=1.5[GHz]のとき、53.5[mT]である。またプラズマ生
(電子サイクロトロン共鳴)によって電子を加速し、キ
成は、磁場の交わる付近でおこなわれると考えられる
セノンを電離・プラズマ化する[1]。さらにエンジン本体
ため、L 字型と角度つきの 2 種類のアンテナ(図 3)
に加速電圧を与えることで、プラズマ化した推進剤から
は、それぞれその先端が、磁場の交わる領域に接する
陽イオンを抽出し、その反作用によって推力を得る。ま
ように設計されている。図 4 におけるプラズマ生成領
た抽出された陽イオンは中和器から放出される電子によ
域では、ECR によって加速された電子による気体の電
り、中性粒子として排出することで、イオンの拡散によ
離が行われ、イオンと電子が発生している。その際に
る推力密度の低下、マイクロ波エンジン本体の帯電を防
イオンは慣性のためとどまり、電子は磁力線に絡みつ
いでいる。実験には 1.5[GHz]のマイクロ波を使用した。
く性質のために、磁場に閉じ込められる。この電子を
加速し気体に衝突させることで、プラズマ生成(電子
生成とイオン生成)を連続的に行うことができる。
真空での動作を想定しているため、実験は真空チャン
バー内にて行った。
5. 特性測定結果
L字
角度付き
図3 マイクロ波用アンテナ
プラズマ生成の
A 型、B 型、C 型、D 型の各エンジンヘッドの作動
ECR に必要な磁場
行われる領域
特性を測定した結果、L 字型アンテナを使用した場合
に最も良い値が得られた。次に各エンジンヘッドと L
字型アンテナの組み合わせから得られた結果を式(1)、
(2)を用いて推力、電力に換算したものが以下の結果で
ある。結果から B 型エンジンヘッド使用時に電力
1.15[W]で、約 14[µN]の推力を得られたことが分かる。
b).等磁面中のプラ
ズマ生成領域
ズマ生成領域
図4
推力[µN]
a).磁力線中のプラ
磁場とプラズマ生成の様子
4. 実験方法・装置
本研究ではエンジンヘッド部分での消費電力
ンジンヘッド部分での消費電力 1.15[W]
(理想的条件は、加速電圧
(理想的条件は、加速電
圧 150[V]、ビーム電流 1[mA])
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
A型
B型
C型
D型
1
1.05
1.1
のときの推力を測定する。また中和器を用いず、エンジ
のときの推力を測定する。また中和器を用いず、エンジ
図5
ンヘッド部分のみでの実験を行った。陽イオンの中和に
1.15
電力[W]
1.2
1.25
推力換算による特性の比較
は、エンジンヘッド本体からの 2 次電子放出を利用した。
測定対象とするのは、加速電圧 Va、イオン生成に伴う加
まとめ
速電流 Ia、放電室から抽出されたイオンがコレクタ(イ
① マイクロ波電力 1[W]で動作可能な超小型マイクロ
オン捕集電極)に捕集されることによるビーム電流 Ib、
波エンジンの設計を行い、開発に成功した。
放電室へのマイクロ波入射電力Pµ である。実験で得られ
② 本研究で設計した B 型のエンジンヘッドとL字型
た電流値から、推力及び電力を求め、それをもとに各エ
アンテナを使用した場合に、電力 1.15[W]で 約
ンジンヘッドの性能評価を行う。推力及び電力はそれぞ
14[µN]の推力を得た。
れ式(1)、(2)のように定義される[2]。
謝辞
2 M iV a
I b [ N]
T =γ
e
(1)
Ptot . = I aVa + Pµ [ W ]
(2)
設計にご協力いただいた、北海道工業大学大学院修士
田中吹雪氏、本研究のための設備を提供してくださっ
ここで、Mi はキセノンイオンの質量、Va は加速電圧[V]、
た㈲先端技術研究所に深く感謝いたします。
参考文献
Ia は加速電流[A]、Ib はビーム電流[A]、e は電子の電荷で
[1] 研究代表者
ある。Pµ はマイクロ波電力であり、本研究では 1[W]であ
ための物理的諸現象の解明
る。発散係数 γ=cosθ(θ:ビームの発散角)は実験か
研究所補助金研究成果報告書」
、宇宙科学研究所、1983、
ら求められる。
178-182
理想的条件から、式(1)、(2)を用いてマイクロ波エンジ
ンの性能目標を求める。推力、電力の理想値は
・ 推力 T=17.035
・ 電力 P=1.15
[µN]
[W]
となる。4 種類のエンジンヘッドと、2 種類のアンテナを
組合せ、8種類のエンジンヘッドについての作動特性の
測定を行う。またエンジンヘッドには、放電室内に一定
のガス圧力を保つため、φ5.5[mm]の開口部を設ける。
推進剤流量は 0.2[sccm]とした。マイクロ波エンジンは
吉川孝雄「電気推進システム実現の
平成7∼平成8年度科学
[2] 伊藤康正「マイクロ波エンジンの大型化に関する
性能予測」、(有)先端技術研究所、2002、1-2