企画展「はやぶさ帰還とイトカワの石」

大阪市立科学館研究報告 25, 131 - 132 (2015)
企画展「はやぶさ帰還とイトカワの石」実施報告
飯 山
青 海
*
概 要
2015 年 2 月 5 日 (木 )から 2 月 22 日 (日 )に、企画展「はやぶさ帰還とイトカワの石」を開催した。小惑 星
探 査 機 「はやぶさ」が地 球 に持 ち帰 った小 惑 星 イトカワの石 (微 粒 子 )の実 物 を展 示 し、あわせて、小 惑
星探査機「はやぶさ」の地 球 帰 還 や地 球 外試料 の研究 について解説 した。期 間中 の開館日数は 16 日
間で、期 間中 の展 示 場 入 場 者 数 は 21,243 人 であった。本 稿では、この企画展 のコンセプトおよび展示
内容について報 告 する。
1.企画の背景とねらい 
した。
小惑星探査機「はやぶさ」は 2010 年 6 月に地球に
帰 還 し、その帰 還 カプセルの中 からは微 量 ながら、小
2.展示品と展示場の構 成
惑 星 イトカワの 石 ( 微 粒 子 ) が回 収 された。JAXA( 独 立
企 画展の会 場は、展 示 場4階の「宇宙 地 球を作るも
行 政 法 人 宇 宙 航 空 研 究 開 発 機 構 )では、この貴 重 な
の」付 近から「サイエンスギャラリー」付 近とした。「宇 宙
イトカワの石を展示 用 途 に貸 し出す事 業を 2013 年 末
地 球 を作 るもの」付 近 には、主 に小 惑 星 探 査 機 「はや
より行っていた。当 館では、2014 年 9 月~11 月の期間
ぶさ」に関 連 する 資 料 を 配 置 し、サイエンス ギャラリー
に、プラネタリウムと企 画 展 で小 惑 星 探 査 機 「はやぶさ
付 近では、イトカワの石とイトカワ微粒 子の分 析に関 連
2」をテーマに取 り上 げることに合 わせて、当 該 期 間 中
する資料等を配置した。
にイトカワの石 を借 り受 けるべく交 渉 を行 っていたが、
2-1.小惑星探査機「はやぶさ」関連資料
残 念 ながら日 程 の調 整 が合 わず、この期 間 にイトカワ
の石を借り受けることはできなかった。しかし、2015 年 2
はやぶさ関 連 資 料 と しては 、特 に 地 球 帰 還 に 関 連
する部分を強調して資料を集め展示した。
月の期間であれば貸 し出 しが可 能との連 絡 を受け、急
主な展示品は以下の通り
遽 、イトカワの石 を一 般 に 公 開 すべく、企 画 展 を開 催
・M-V ロケット 5 号 機 1/10 模 型
することにした。
・「はやぶさ」1/10 スケール模型
小 惑 星 イトカワの石 は、展 示 用 の顕 微 鏡 とともに
(JAXA より借受)
JAXA より借り受けるが、イトカワの石を単 独 で見ても、
・小惑星イトカワ 1/1000 模 型
多くの見 学者には、何 に注 目 すればよいか分 からない
・サーマルブランケット
可 能 性 が危 惧 された。そこで、このイトカワの石 が、小
・はやぶさ帰還カプセル原寸大模型
惑 星 探 査 機 「はやぶさ」が持 ち帰 ったものであることを
(群馬県立ぐんま天文台より借受 )
強 調 するため、ニュース等 で大 きく取 り上 げられた、は
・はやぶさ帰還カプセル方位探知アンテナ
やぶさ 帰 還 の 時 の 資 料 をと もに 展 示 すること で、 少 な
・はやぶさプロジェクト解説パネル
からぬ見 学 者 の記 憶 の 中 に 残 っているであろう「はや
(JAXA より借受)
ぶさ」についての記 憶 を想 起 させるとともに、宇 宙 から
・はやぶさ帰還観測関連論 文別刷り
のサンプルリターンの技 術 や、地 球 外 物 質 の分 析 から
・はやぶさ帰還映像 、HAYABUSA –BACK TO THE
展開される科学についても紹 介 する企 画 展 として企 画
EARTH-予 告 編 映 像
2-2.イトカワの石関連資料
 *
大 阪 市 立 科 学 館 、中 之 島 科 学 研 究 所
[email protected]
イトカワの石 関 連 資 料 としては、地 上 での分 析 につ
いての 資 料 の 他 、イトカワの 石 と 比 較 するための 地 球
飯山 青海
の石も展示を行った。
石 は、オリーブ色 を呈 する結 晶 であるが、イトカワの石
・イトカワの石(微 粒 子 )
は、もしも十分な大きさがあれば、やや黄色みがかった
(JAXA より借受)
緑 色 を呈 するものと考 えられるが、残 念 ながら、大 きさ
が 50 マイクロメートルしかないため、顕微鏡下において、
その色調を視認することは困難である。
また、鉄の含有率が高いかんらん石は、地球では珍
しいものの、絶 無 ではないため、かんらん石 の 鉄 含 有
量が高いことのみを以て、単純に地球外に由来する鉱
物であることの論拠にはならない。従って、今 回 展示 し
たイトカワの石を、光 学 的 な観 察 の範 囲 のみの情 報 で、
地球外物質であると断定することはできない。
3.まとめ
企画展「はやぶさ帰還とイトカワの石」は、2015 年 2
月 5 日(木 )から 2 月 22 日(日)の期間に開催し、期間
・地球産かんらん石
中の開催日数は 16 日間、この期間中の展示場入場
者数は 21,243 人 であった。
イトカワの石の借 受 手 続きから、企 画 展開 催 決 定お
よび企 画 展 初 日 までの 期 間 が 短 かったた め、事 前 の
告 知 等をほとんど行うことができなかったが、開 催 直 前
から開 催 直 後 にかけ、在 阪 マスコミ各 社 の取 材 を受 け、
週末等の来館者の多い日には、イトカワの石の顕微鏡
前 に順 番 待 ちの行 列 ができたが、見 学 者 一 人 一 人 の
顕 微 鏡 の占 有 時 間 は余り長 くなく、会 場 での大 きな混
乱 は発 生 しなかった。また、見 学 者 の多 い日 、時 間 帯
には、学芸 員が会 場にて、場 内の整理と合わせて、解
説を行った。
・LL6 コンドライト隕 石 (ダルムサラ隕 石)
・イトカワ微粒子 拡 大 模 型
(京 都 大 学 大 学 院 理 学 研 究 科 土`山 教 授 より借受 )
・SCIENCE イトカワ微 粒 子 分 析 特 集 号
・イトカワ微粒子 分 析 解 説 パネル
(JAXA より借受)
・イトカワ微粒子 初 期 分 析 解 説パネル
(JAXA ホームページ掲 載 記 事)
2-3.イトカワの石の光 学 顕 微 鏡 観 察 について
今 回 JAXA より貸 与を受 けた微 粒 子は、大きさ約 50
μm のかんらん石 の粒 子 であるが、地 球 産 のかんらん
石を砕いて、比較 用として展 示 した。
なお、かんらん石 は、(Mg,Fe)SiO 3 の化 学 式 で表 さ
4.謝辞
れる鉱 物 であり、マグネシウムと鉄 の量 比 は 連 続 的 に
本 企 画 展 は 、 JAXA( 独 立 行 政 法 人 宇 宙 航 空 研 究
変 化する固 溶 体 であるが、地 球 産 のかんらん石は、鉄
開 発 機 構 )の多 大 なご協 力 を得 て開 催 できたものであ
の比率が非 常に低 く、マグネシウムの比 率 が非 常に高
り、この場を借りて感謝申し上げる。
い値 をとるものが一 般 的 である。小 惑 星 イトカワから回
また、この企 画 展 のために展 示 品 をお貸 し下 さった
収されたかんらん石は、鉄/(鉄+マグネシウム)の値 30
群 馬 県 立 ぐん ま 天 文 台 および京 都 大 学 大 学 院 理 学
~35 程度と、地球 産 の一 般 的なかんらん石と比較して
研 究 科 土`山 明教授にも深く感謝申し上げる。
か なり 鉄 の 比 率 が 高 い 。 地 球 産 の 一 般 的 なか ん らん