栄光ゼミナール PRESENTS テーマ 化石 はくぶつかん きょうりゅう かせき 博物館などで、恐 竜やアンモナイトなどの化石 み かせき おおむかし ちきゅう を見たことがあるだろう。化石は、大昔の地球に テキスト版 せいぶつ おし どんな生 物がいたのかを教えてくれる。はるか たいこ おも は かせき まな 太古に思いを馳せながら、 化石について学ぼう。 執筆/柳田理科雄 制作/空想科学研究所 提供/栄光ゼミナール か せ き なん 1 ◆化 石って何だろう? きょうりゅう か せ き はっけん き しゃしん 【写真①】 か せ き ニュースで 「恐竜の化石が発見された」 などと聞くことがある。化石と は、昔の生き物の体や、生きていた跡が残ったものだ。 では、 それはどう むかし い もの からだ い あと のこ のこ やって残ったのだろうか? か せ き かた つぎ 化石のでき方には、次の3つがある。 い もの からだ のこ 1)生き物の体が、そのまま残ったもの。 その代 表は、右 欄の 【写 真①】のティラノサウルスの化 石のよう に、骨 や歯 やなど体の固い部 分が、上に積み重なった岩の重さ だいひょう ほね みぎ らん は しゃしん からだ お かた か せ き ぶ ぶ ん かた うえ つ かさ いわ おも こんちゅう からだ いし で、ギュウッと押し固められて、石のようになったものだ。 しゃしん ほうせき また、 【写真②】 のようにコハクという宝石のなかに昆虫の体が 残ったものがある。コハクは、マツの樹液が固まったものなので、そ のなかにおぼれた昆虫の体が、残っているのだ。 氷のなかに、マンモスの体が、生きていたときと変わらない状態 のこ じゅえき こんちゅう からだ かた しゃしん はくりょくまんてん 【写真①】迫力満点、ティラノサウルスの かせき 化石 のこ こおり からだ のこ いし い か しゃしん 【写真②】 じょうたい で残っているものもある。石のようになってはいないが、これらも か せ き 化石だ。 2)生き物の体の形だけが残っているもの。 い もの からだ かたち のこ しゃしん か せ き かいがら な い ぶ いし 【写真③】のアンモナイトの化石は、貝殻の内部まで石になって いる。これは、泥や砂に埋もれた貝殻や体が、長い間に水に溶け 出してなくなってしまい、代わりに水に溶けた岩の成分が、隙間に どろ すな う かいがら か みず だ はい こ い もの からだ と なが いわ あいだ せいぶん みず と す き ま かた 入り込んで固まってできたものだ。 3)生き物が生きていた跡が残っているもの。 い やわ あと どろ すな あ し あ と じゅえき こんちゅう と こ す あな ほ 柔らかい泥や砂の上に、足 跡がついたり、巣穴が掘られたりし て、その上に別の泥や砂が積もって、固まったものだ。 うえ か せ き べつ おおむかし い どろ すな つ しゃしん 【写真③】 かた もの かた に、昆虫が閉じ込めている のこ うえ しゃしん 【写 真②】マツの樹 液が固まったコハク すがた 化石は、大昔の生き物たちが、どんな姿をしていたか、どんなふうに 暮らしていたか、どの時代に、どんな環境で生きていたかなど、たくさん く じ だ い わたし かんきょう い おし のことを私たちに教えてくれる。 今日の1日1科学 かせき むかし い もの からだ せいかつ あと 化石は、昔の生き物の体や生活の跡 しゃしん かせき かいがら 【写真③】アンモナイトの化石は、貝殻の ないぶ いし 内部も石になっている 1 か せ き み ごろ 2 ◆化 石が見つかったのはいつ頃? か せ き さいしょ はっけん 化石が最初に発見されたのは、 いつだろう。 じつ か せ き ねんいじょう まえ せかいじゅう み 実は、化石は2000年以上も前から、世界中で見つかっていた。その 頃は「大昔には、今とは違う生き物がいた」ということを誰も知らなかっ ころ おおむかし いま ちが い ふ もの し ぎ だれ ちから し いわ う い たので、ヨーロッパでは 「不思議な力によって、岩のなかで生まれた生 き物」と考えられていた。また中国では、恐竜の化石は竜の骨だと信じ もの かんが ちゅうごく られていた。 か せ き おおむかし い もの からだ きょうりゅう せいかつ か せ き あと りゅう ほね しん たいこ そうぞうず ぎょりゅう そ う ぞ う ず ぎょりゅう 太古のゾウ・マンモスの想像図 あき 化石が、大昔の生き物の体や生活の跡だと明らかにしたのは、フラ ンスの科学者キュビエだ。 1796年、化石のゾウの骨と、死んだばかり か が く し ゃ ほね ねん くら むかし いま か せ き ちが ほね し からだ せつ のゾウの骨を比べ、 「 昔は今とは違う体をもったゾウがいた」という説 だ か せ き な を出した。そして、化石になったゾウに 「マンモス」 と名づけた。 キュビエの研究をきっかけに化石探しがブームになり、 1811年、メア けんきゅう か せ き さが さい おんな ねん こ ぎょりゅう ほね リー・アニングという12歳の女の子が、魚竜のイクチオサウルスの骨 の化石を見つけた。魚竜とは、魚のような姿をした 「は虫類(ワニやヘビ か せ き み ぎょりゅう な か ま さかな おおむかし すがた いま ぜんぜんちが ちゅうるい どうぶつ あき の仲間)」 だ。ここから、大昔は今と全然違う動物がいたことが明らかに なり、化石探しは、ますます盛んになった。 1822年、イギリスの医師マンテルが、大きな動物の歯のような化石 か せ き さが 魚 竜イクチオサウルスの想 像図。魚 竜は きょうりゅう に ちが しゅるい 恐 竜に似ているけど、違う種類だよ さか ねん い し おお はっけん どうぶつ どうぶつ は か せ き な は を発見した。マンテルは、その動物をイグアノドンと名づけ、 「歯ではな く角の化 石かも」 とも考えたが、あとで親 指の骨だということがわかっ つの か せ き かんが おやゆび きょうりゅう はじ ほね きょうりゅう か せ き はっけん た。イグアノドンは恐竜だったから、初めて恐竜の化石を発見したのは、 マンテルということになっている。 今日の1日1科学 ぎょりゅう かせき はっけん さい おんな そうぞうず こ 恐竜イグアノドンの想像図 魚竜の化石を発見したのは、12歳の女の子 まえ い もの か せ き 3 ◆どれくらい前 の生き物が化石になる? か せ き ごろ い もの 化石になっているのは、 いつ頃の生き物だろう? ちきゅう れ き し じ だ い わ おく ねんまえ ちきゅう じ だ い おく たんじょう 地 球の歴 史は4つの時 代に分けられる。46億 年 前に地 球が誕 生 してから、5億4200万年前までの 「先カンブリア時代」 、2億5100万 おく ねんまえ まんねんまえ せん こ せ い だ い まんねんまえ ちゅうせいだい まん あと 年前までの 「古生代」、6600万年前までの 「中生代」 、それから後の 「新生代」だ。 いちばん古い先カンブリア時代を代表するのは、 「エディアカラ動物 しんせいだい ふる ぐん せん よ じ だ い どうぶつ だいひょう さいきん どうぶつ か せ き 群」 と呼ばれる動物たちと、細菌の化石だ。 エディアカラ動 物群は、体が大きく、単 純な姿をしているのが特 徴 だ。楕円形のマットのような姿をしたディッキンソニアや、コンブのような どうぶつ ぐん からだ だ え ん け い おお たんじゅん すがた とくちょう すがた どうぶつ おも すがた ふる こせいだい せいぶつ そうぞうず 古生代の生物・アノマロカリスの想像図 か せ き チャルニアなど、動物とは思えない姿をしていた。いちばん古い化石は、 細菌のもので、35億年前の岩のなかから見つかっている。 さいきん おくねんまえ こ せ い だ い い もの いわ み だいひょう げんざい こんちゅう そ せ ん 古 生代の生き物 の代 表は、現 在の昆 虫やエビやカニの祖 先の 三葉虫と、バージェス動物群だ。バージェス動物群には、アノマロカリ スのように不思議な姿をした動物が、たくさんいる。 さんようちゅう どうぶつぐん ふ ちゅうせいだい し ぎ だいひょう すがた きょうりゅう どうぶつぐん どうぶつ し そ ち ょ う し そ ち ょ う 中 生代の代 表は、恐 竜と、始 祖鳥と、アンモナイトだ。始 祖鳥は、 恐竜から初めて鳥に進化した生き物で、アンモナイトは今のイカやタコ きょうりゅう はじ とり し ん か い もの いま ちゅうせいだい せいぶつ しそちょう かせき 中生代の生物・始祖鳥の化石 2 そ せ ん い もの の祖先にあたる生き物だ。 しんせいだい だいひょう ほにゅうるい にっぽん 新生代の代表は、マンモスやサーベルタイガーなどの哺乳類。日本 か せ き み でもナウマンゾウやオオツノシカの化石が見つかっている。 今日の1日1科学 ふる おくねんまえ さいきん かせき いちばん古いのは、35億年前の細菌の化石 しんせいだい せいぶつ 新 生 代の生 物・サー ベルタイガ ーの か せ き ねんりょう そうぞうず 想像図 しょうたい 4 ◆化 石燃料の正体! せ き ゆ せきたん てんねん か せ き ねんりょう よ 石油、石炭、天然ガスは 「化石燃料」 と呼ばれる。 いったいなぜ、 そん よ なふうに呼ばれるのだろうか。 石炭は、大昔の植物が、洪水などで倒されて泥に埋まり、上から押し せきたん おおむかし ちから しょくぶつ ち こうずい か ねつ たお すみ かたまり い もの どろ う うえ お しょくぶつ つぶされる力と、地下の熱で、炭の塊になったものだ。だから、植物の か せ き 化石といえる。 せ き ゆ てんねん おおむかし し が い どろ う うえ お 石油と天然ガスは、大昔の生き物の死骸が、泥に埋まり、上から押 ちから ち か ねつ あぶら わ あぶら せ き ゆ しつぶされる力と、地下の熱で、油とガスに分かれたものだ。油が石油 てんねん か せ き に、ガスが天然ガスになった。だから、やはり化石といえる。 せ き ゆ てんねん はっけん 石油と天然ガスは、このようにしてできたので、いつもいっしょに発見 にっぽん おく せ き ゆ まん てんねん ゆにゅう される。日本は、およそ2億tの石油と、 9000万tの天然ガスを輸入し ている。昔は、天然ガスを利用する技術がなかったので、石油の取れる むかし ゆ で ん てんねん り よ う ぎじゅつ せ き ゆ と も 油田で、燃やされていた。 地球は広く、歴史は長いけれど、 これまでに生きてきた生き物の数に ちきゅう ひろ れ き し なが かぎ い か せ き ねんりょう たいせつ つか い もの かず せきたん おおむかし しょくぶつ どろ う お 石 炭は、大 昔の植 物が泥 に埋 まり、押 ちから ち か ねつ すみ かたまり しつぶされる力と地 下の熱で、炭の塊に しょくぶつ かせき なったもの。つまり 「植物の化石」 なのだ ひつよう は、 限りがある。 だから、化石燃料は大切に使う必要がある。 今日の1日1科学 か せ き ねんりょう むかし い もの からだ 化石燃料は、昔の生き物の体からできた い か せ き 5 ◆生 きている化石 い か せ き こ と ば き い 「生きた化石」 という言葉を聞いたことがあるだろうか。 生きているのに 「化石」 とは、 どういうことだろう。 か せ き い か せ き むかし すがた か どうぶつ しょくぶつ 生きた化石とは、昔から姿の変わっていない動物や植物のことだ。 最も有 名なのは、シーラカンスという魚だ。シーラカンスの化 石は、 3億5千 万年 前から6600万 年 前の岩から発 見され、 6600万 年 前 もっと おく ゆうめい さかな せんまん ねんまえ きょうりゅう ほか まん ねんまえ おお い いわ か せ き はっけん もの まん ねんまえ ぜつめつ かんが に、恐竜など他の多くの生き物たちといっしょに絶滅したと考えられて いた。ところが1938年、南アフリカで、その化石とそっくりな姿で生き ているのが見つかって、世界中の学者がビックリ!「生きた化石」とい ねん み みなみ か せ き せかいじゅう こ と ば すがた がくしゃ い い おく ねんいじょう すがた か 3億 年 以上、姿を変えていないシーラカ ンス か せ き う う言葉は、このとき生まれた。 日本にもカブトガニという生きた化 石がいる。 「カニ」という名 前が にっぽん い か せ き な ま え な か ま な か ま まる こ う ら ついているが、カニの仲間ではなく、クモやサソリの仲間だ。丸い甲羅 から鋭い尻 尾が長く伸びていて、甲羅の先から、尻 尾の先まで、オス は70㎝、メスは85㎝もある。カブトガニの仲 間は世 界中にいるが、 するど し っ ぽ なが の こ う ら さき し っ ぽ な か ま にっぽん おお すがた おく さき せかいじゅう せんまんねんまえ か 日本のカブトガニがいちばん大きい。この姿も3億5千万年前から変 にっぽん い カブトガニ は、日 本 にもいる 「 生 きた かせき 化石」 だ 3 わっていない。 植物では、イチョウが生きた化石と呼ばれる。葉が扇のような形をし しょくぶつ い あき か せ き き い ろ よ は おうぎ わたし かたち き ていて、秋になると黄色くなる、私たちにはおなじみの木だね。イチョウ おくねんまえ おな すがた じつ ひがし い が い ぜつめつ は2億年前から同じ姿で、実は東アジア以外では、とっくに絶滅してい た。だから、明治時代に外国から日本に来た学者たちが、イチョウがど め い じ じ だ い がいこく た にっぽん き がくしゃ み つた こにでも立っているのを見て、びっくりしたと伝えられている。 い 今日の1日1科学 かせき なんおくねん まえ すがた か 生きた化石は、何億年も前から姿が変わっていない にっぽん みぢか 日本では身近なイチョウも、ヨーロッパ かせき はっけん では化石でしか発見されなかった わたし か せ き 6 ◆私 たちも化石になる? い わたし し じ か ん た か せ き もっと あたら いま生きている私たちも、死んでから時間が経てば、化石になるのだ ろうか? か せ き なが じ か ん ひつよう か せ き まんねんまえ 化石になるには、長い時間が必要だ。最も新しい化石は、1万年前 の動 物や人 間の化 石。だから、私たちも化 石になるには1万 年ぐらい どうぶつ にんげん ひつよう か せ き じ か ん わたし た か せ き まんねん か せ き が必要だが、時間が経つだけでは、化石にはなれない。 化石は海や湖の底で、生き物の体の上に、泥や砂が積もってでき か せ き うみ りくじょう みずうみ い そこ もの い もの からだ か せ き うえ り く ち どろ すな しず つ うみ みずうみ そこ る。陸上の生き物が化石になるには、陸地が沈んで、海や湖の底にな ひつよう ちんこう る必要があるのだ。これを 「沈降」 という。 だが、そうして化石になっても、それだけでは海底や湖底に埋まって か せ き み ら い かいてい ひと はっけん うみ こ て い みずうみ う そこ も あ いるままだ。未来の人たちに発見してもらうには、海や湖の底が持ち上 がって、陸 地になる必 要がある。これを 「隆 起」 という。右 欄の写 真は 海底でできた貝の化石が、隆起で陸上に持ち上がったものだ。 り く ち かいてい ひつよう かい か せ き りくじょう りゅうき りゅうき い もの りくじょう も みぎ らん しゃしん あ か せ き なが じ か ん かい ちんこう ひつよう し い もの か せ き はっけん ちんこう りゅうき あ もの かせき だい へん 変なことなのだ い ち ぶ 今日の1日1科学 ちじょう てきたもの。生き物が化 石になるのは大 隆起が必要だ。だから、死んだ生き物のうち、化石になって発見される のは、ごく一部にすぎない。 かせき りゅうき い このように、陸 上の生き物が化 石になるには、長い時 間と、沈 降と りゅうき かせき 貝の化石が、隆起によって地上に上がっ ひつよう 化石になるには、沈降と隆起が必要 やなぎた り か お へんしゅう こ う き 柳田理科雄の編集後記 はくぶつかん かせき み ずかん かせき そうぞうず み ふ し ぎ き も 博物館で化石を見たり、図鑑で化石や想像図を見たりすると、不思議な気持ちになります。は むかし かいじゅう うちゅうせいぶつ い もの ほんとう ちきゅう もり るか昔、怪獣や宇宙生物のような生き物が、本当にこの地球にいたのですから。 それらが、森 そうげん ある まわ うみ およ ふうけい そうぞう み こわ や草原を歩き回ったり、海を泳ぎまわったりしていた風景を想像すると、見てみたいような、怖く ちか ふ し ぎ き も き も げんどうりょく たいこ せいぶつ すこ て近づきたくないような、不思議な気持ちです。 その気持ちを原動力に、太古の生物たちに少 ちか こせいぶつがく かがく ふつう こ おな き も はじ しでも近づこうとするのが「古生物学」 です。科学には、普通の子どもたちと同じ気持ちから始 はってん と ぶんや やなぎた まって、発展を遂げた分野がいくつもあります。 (柳田) 4
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