特集 May Vol.26 No.2 特集 老健施設生き残りへ ~ 「在宅強化型」 へのチャレンジ~ 老健施設生き残りへ∼「在宅強化型」へのチャレンジ∼ う。もちろん、入所者を在宅復帰させることは単 類型種別 純に収益だけでは測れないメリットもあるが、や 全体 はりモチベーションが下がることは否めない。 そのような矛盾を考慮してか、平成 27 年度介 護報酬改定では、老健施設の在宅復帰支援機能・ 在宅療養支援機能をさらに強化するため、在宅復 帰に資する努力をする施設には、より手厚く評価 がつくような見直しがされた。このことは、まさ に厚生労働省が今回の報酬改定で強調した「メリ 施設から在宅へ― 今後この流れはより明確に 早く 2 階建てへと方向転換した老健施設は、実は ハリをつけた」という部分なのだろう。 まだ、それほど多くない。 つまり、老健施設本来の役割である在宅復帰に 在宅強化型 在宅療養 支援加算型 従来型 施設数 1031 94 236 664 入所定員 (人) 93.5 90.5 91.9 94.6 通所定員 (人) 39.1 49.5 46.6 34.8 収支差(%) 5.6 5.2 5.2 5.9 種別不明の 37 施設を除外しているため、種別合計が 1,031 になって いない * 表 1 類型種別老健施設の収支差比較 (平成 25年介護老人保健施設の現状と地域特性等に関する調査) この 3 年間で確実に増加はしているものの、平 力を入れるところに対しては、これまで以上にイ ための借入をしなければならないところも少なく 「在宅へ」―この動きは、いまや医療・介護 成 26 年 6 月時点の報酬算定状況(平成 24 年度介 ンセンティブを与えるから「がんばれ」といって ない。なんとも厳しい状況といわざるを得ないの 共通の流れとなりつつある。前回(平成 24 年度) 護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査) いるともとれる。ともかく、これでこれからの高 だ。 の介護報酬改定で「在宅強化型」なる老健施設の では、在宅強化型の要件を満たす施設は、調査対 齢者介護においては「施設から在宅へ」の方向性 そんななか、いくら在宅強化型によりインセン 新しい基本施設サービス費が創設されたわけであ 象施設 2,265 施設中 187 施設と、全体のわずか が、明確に示されたといえるだろう。 ティブが付けられたからといって、すぐに施設内 るが、これも国からの「老健施設は中間施設とい 8.3%に留まっている。 う本来の役割に立ち返り、在宅復帰支援機能をい もちろん、在宅強化型を取得することは、施設 ま一度、強化せよ」とのメッセージだったといえ だけの努力でできるものではない。運営する法人 るだろう。 の規模や地域性など、さまざまな事情があるだろ ご承知の通り、平成 27 年度の介護報酬改定の いうことができるわけもない。在宅強化型になる 以後、老健施設には報酬体系上、在宅強化型、 う。在宅強化型ではない施設が怠けているという 改定率は▲ 2.27%であり、これは史上 3 番目の ためには、段階を踏まねばならず、ある程度の時 在宅復帰・在宅療養支援機能加算型(以下、加算 わけでは決してない。 下げ幅といわれている。当初、財務省が唐突に発 間が必要だ。 型) 、従来型という 3 つの類型が生まれることと また、在宅強化型へと移行する施設の数が伸び 表した▲ 6 %ほどではないものの、介護職員の処 とはいえ、老健施設を取り巻く状況は年々複雑 なった。従来型を 1 階建ての建物に例えるなら、 悩んでいる背景には、それとは別の要因もある。 遇改善分(+1.65%)や良好な介護サービスに対 化し、業界内のサービス競争は、すでに始まって 加算型は中 2 階付き、在宅強化型は 2 階建てなど まず、在宅復帰率を上げるためには、入所者の生 する充実分(+0.56%)は老健施設の収益とは直 いる。サービス付き高齢者向け住宅やデイサービ と語られたりもする。 1 階建てよりも中 2 階付き、 活機能を短期間で向上させる必要があるが、その 接関係ないため、収支状況を反映した適正化分が スなどの分野で、バックグラウンドに医療や福祉 中 2 階付きよりも 2 階建てのほうが、老健施設の ためには、漫然としたリハビリをしていたのでは 引かれると、老健施設としては実質▲ 4.48%と の知見をもたない業界が黒船のごとく参入。当初 機能としても、また報酬上においてもアドバン 効果はなく、OT・PT などの専門職の配置強化 なる。 から介護を単なるサービス業として捉えている、 テージがあるという所以である。 が必至となる。当然のことながら、それには人件 運営主体が医療法人立の施設は、当然ながら課 それら新規参入者により、過当競争はさらに激化 今回の改定では、前記のメッセージがさらに強 費がかさむ。 税される。また、老健施設自体、まだまだ全体的 することが予測される。 調されたことは、すでに周知の通りだ。具体的に さらに、在宅復帰率を上げると必然的にベッド に新しく、最も古いところでも 30 年。建物の長 いったい、どうすればいいのか。厳しい現状に どこがどう見直されたかは後述するとして、まず 稼働率は下がるため、表 1 からもわかる通り、 期借入金が残っているというところも多いだろう。 手をこまねいている施設も多いことと思われる。 は、前回改定から 3 年が経ち、在宅強化型なる類 結果として、従来型よりも収支差が下がってしま さらに、設立年が古い施設では、エアコン等の施 型の老健施設が、現在、全国にどの程度あるのか うという矛盾も生じる。これでは、人件費をかけ、 設内設備が軒並み寿命を迎え、建物内のあちこち をみてみたい。 環境整備を行い、苦労して在宅強化型を取得した が改修時期を迎えている。 いくら国が報酬上の差別化を図り、政策誘導を 結果、何もしなかったほうが利益は出ていたとい 内部留保をとり崩すといっても、そもそも莫大 ここで改めて、今回の介護報酬改定による老健 狙ったとしても、そうした時流を汲み取り、いち うことになり、なんとも皮肉な状況になってしま な蓄えなどあるわけはなく、そうなると、補修の 施設の報酬体系イメージを 3 つの類型別に確認し 12 ●老健 2015.5 012-19特集_概論(七)0415.indd 12-13 実質マイナス 4.48% 老健施設の経営は厳しいものに 体制を在宅強化型へと舵をとるわけにはいかない。 現状、加算型でもない従来型の老健施設が、いき なり「明日から在宅強化型をめざします」などと 在宅強化型との差は 71 単位 生き残る方法を模索すべきとき 老健 2015.5 ● 13 2015/04/15 18:11:15 特集 May Vol.26 No.2 目のない支援が続くよう、生活機能の 介護保健施設サービス費(Ⅰ)のうち 多床室:要介護3のイメージ 在宅強化型 〈現行〉 1018 単位 サービス提供体制 強化加算(12 単位) 夜勤職員配置加算 (24 単位) 処遇改善加算 (19 単位) 支援加算型 〈改定後〉 1023 単位 +5 単位(+0.49%) 〈現行〉 979 単位 〈現行〉 958 単位 〈改定後〉 950 単位 ▲8 単位(▲0.84%) サービス提供体制 強化加算(12 単位) 夜勤職員配置加算 (24 単位) 処遇改善加算 (18 単位) 基本サービス費 (948 単位) ▲15 単位 での 460 単位から 20 単位アップの このことも在宅復帰支援機能強化のた 夜勤職員配置加算 (24 単位) 処遇改善加算 (33 単位) 多職種が参画して策定すれば、これま 480 単位が加算されることとなった。 サービス提供体制 強化加算(18 単位) +6 単位 +14 単位 基本サービス費 (963 単位) 具体的な改善目標を含めた支援計画を 従来型 〈改定後〉 978 単位 ▲1 単位(▲0.10%) 老健施設生き残りへ∼「在宅強化型」へのチャレンジ∼ 在宅復帰・在宅療養支援 機能加算(21 単位) めにできる努力の 1 つであり、こうい サービス提供体制 強化加算(18 単位) +6 単位 夜勤職員配置加算 (24 単位) 処遇改善加算 (32 単位) サービス提供体制 強化加算(12 単位) 夜勤職員配置加算 (24 単位) 処遇改善加算 (18 単位) +14 単位 在宅復帰・在宅療養支援 機能加算(27 単位) +6 単位 基本サービス費 (904 単位) 基本サービス費 (877 単位) う努力の積み重ねが在宅復帰率向上に サービス提供体制 強化加算(18 単位) +6 単位 夜勤職員配置加算 (24 単位) 処遇改善加算 (31 単位) +13 単位 基本サービス費 (904 単位) ▲27 単位 基本サービス費 (877 単位) ▲27 単位 図 1 平成 27 年度介護報酬改定後の老健施設の報酬体系(例)(全老健作成) つながっていくといえるだろう。 ちなみに、施設類型別に入所前後訪 問指導加算の算定状況を示したデータ があるが(図 2) 、やはり、従来型に 図 2 類型別にみる入所前後訪問指導加算の算定状況(全老健作成) 比べ在宅強化型・加算型の施設はきち んと算定していることがわかる。 なのだろう。 その他、経口維持加算の見直しも注目すべきポ したがって、在宅強化型にすぐに移行はしなく イントだ。 ても、これらの加算を地道にとっていくことも、 これまでの造影撮影や内視鏡検査等の手法区分 これからの生き残り策となることを、忘れてはな らない。 てみよう(図 1) 。 ためには、否が応でも在宅強化型に転向せざるを を廃止し、改正後は、 「経口維持加算(Ⅰ) 」 (多 これは介護保健施設サービス費(Ⅰ)のうち、 得なくなるのではないか。もちろん、いきなり在 職種による食事の観察およびカンファレンス等を 多床室・要介護 3 の入所者を想定したものである 宅強化型は無理としても、少なくともまずは中 2 実施し、咀嚼能力等の口腔機能を踏まえた経口維 が、老健施設としては、在宅強化型を取得し、 階付きの加算型をめざすことになるのだろう 持のための支援を評価)が月に 400 単位、さら サービス提供体制を介護福祉士 6 割以上(18 単 ―というのが、本特集の趣旨である。 に「経口維持加算(Ⅱ) 」として、 (Ⅰ)の要件に また、もう 1 つ重要な視点は、これから 2025 位)に強化すれば、新たな処遇改善加算(33 単 繰り返し強調しておきたいのは、従来型を否定 配置医師以外の医師・歯科医師・歯科衛生士・言 年に向けて整備が急がれる地域包括ケアシステム 位)と従来からの夜間職員配置加算(24 単位) するものではないということである。全国に在宅 語聴覚士が加わった場合に、月にプラス 100 単 に、老健施設がどの立ち位置で、どう貢献できる を足して、プラス 5 単位(改定前と比較)となる 強化型の老健施設がいまだ 1 割も普及していない 位が算定できることとなっている。 かということである。 のがわかる。 現状を鑑みても、そう簡単に取得できるものでは 口から摂取する栄養が重要であることは明白な 考えてみれば、そもそも老健施設に課せられた 一方、図 1 でも明らかなように、従来型では、 ないことは十分に理解できる。 事実であり、食事のメニューに工夫を凝らす施設 ミッションとは、 「ケアプランに基づき多職種協 ほとんどの老健施設で算定している前記 3 つの加 しかしながら、厳しい現実に直面しているいま も増えてきている。食べることは生きること。こ 働による包括的なケアサービスを提供すること。 算を積み上げて、やっと在宅強化型の基本サービ だからこそ、言葉は乱暴であるが、生き残るため こにしっかりと重きを置き、ていねいな支援をす 利用者の在宅復帰、その後の在宅支援のみならず、 ス費と同程度という単位数である。 の方法を真剣に模索すべきではないだろうか。楽 ることが、入所者の健康維持・機能改善につなが 地域に開かれた施設をめざすこと」である。これ 結果的に、従来型で積み上げ後の単位は改定前 な運営をしている施設などないことだけは確かな り、すぐには数字として結果に反映されずとも、 はまさに地域包括ケアシステムの理念そのもので より▲ 8 単位となり、改定後の在宅強化型と比べ のだから。 やがて在宅復帰へとつながるだろう。 ある。 サービス提供体制強化加算の拡大についてもし 医師、看護師、リハビリ職、介護職、管理栄養 かりだ。つまりは、冒頭でも述べた通り、努力し 士、薬剤師、歯科衛生士等の多職種が皆同等の立 て在宅復帰機能強化につながる取り組みをしてい 場で意見を出し合いながらチームケアを実施する て▲ 73 単位、加算型との差は▲ 28 単位となって しまう。基本サービス費だけみると、在宅強化型 と従来型では、その差が 71 単位もある点は大き 加算を地道に積み重ねる 在宅復帰にもつながる 地域包括ケアシステムに 老健施設がどう貢献できるか く、これはかなりのダメージとなるのは必至だ。 今回の報酬改定では、 「入所前後訪問指導加算 る施設に対しては、できるかぎり報酬が下がらな という仕組みは、ほかにはない老健施設最大の強 したがって、今後、老健施設が生き残っていく (Ⅱ) 」として、施設から在宅へ戻ったあとも切れ いようさまざまな加算を付けますよ、ということ みといえる。老健施設の機能をそのまま地域に展 14 ●老健 2015.5 012-19特集_概論(七)0415.indd 15 老健 2015.5 ● 15 2015/04/15 18:11:16 特集 May Vol.26 No.2 老健施設生き残りへ∼「在宅強化型」へのチャレンジ∼ ましく、しなやかに生き残っていかなければなら 会が運営する「おとなの学校 岡山校」 、 2 か所 ない。 めは、北海道札幌市で社会福祉法人ノテ福祉会の 参考までに、全老健のこれまでの調査より、在 運営する「げんきのでる里」である。 宅復帰率の高い施設の特徴、在宅復帰率につなが 介護報酬改定直後ということもあり、勢い在宅 る施設の特性について表 2に記す。 強化型推進の流れを強調したが、全体の 7 割はま また、20 頁からは全国の老健施設の 1 割に満 だ従来型のままだということも忘れてはならない。 たないが、すでに在宅復帰強化型老健施設として 本誌を手に取る大多数の従来型老健施設の関係 いち早くスタートを切っている 2 か所の施設レ 者が、法人種別も規模も地域性もまったく異なる ポートをお届けする。 前記 2 施設の取り組みから、何らかのヒントを得 1 か所めは、岡山県津山市で社会医療法人清風 られれば幸いである。 〈在宅復帰率の高い施設の特徴〉 ⃝施設規模が大きい。 ⃝入所待ち人数・相談件数が多い(施設への信頼や期待値が高い) 。 図 3 2025 年に向けた老健施設を中心とした地域包括ケアシステムのイメージ(全老健作成) ⃝設置形態は「併設型」 。または単独でも母体医療機関を有する施設。 ⃝在宅ケア(訪問看護、訪問リハ、在宅療養支援の指定など)体制が整っている。 ⃝リハビリテーション機能が充実している(短期集中リハビリテーション実施加算、認知症短期集 開することが、地域包括ケアシステムの確立とな 可能となったわけで、施設から在宅への移行時に、 るわけだ。これからの地域包括ケアシステム構築 より円滑な、きめ細かいサービス提供ができるこ ⃝施設の医師と関連医療機関との連携による 24 時間 365 日の医療提供体制を有している。 においては、老健施設が中核となり主導権をとっ ととなる。 ⃝医師のリーダーシップや医師とスタッフとのコミュニケーションが良好である。 て高齢者ケアを牽引していくことが、最も効率よ さらに、 「社会参加支援加算」 (通所リハビリ卒 ⃝通所リハビリテーションにおける医師との連携がしっかりしている。 く、また効果的であることに老健施設関係者は 業者への社会参加への促し)の新設、重度者対応 もっと自覚的になる必要がある。 機能の評価、 「生活行為向上リハビリテーション 〈在宅復帰率につながる施設の特性〉 本誌 3 月号の特集「老健施設の未来を考える~ 実施加算」の新設、通所リハビリにおいてはリハ 未来型老健のあり方とは~」でも触れたように、 ビリテーションマネジメントの強化など、とりわ これからは老健施設から地域へ積極的にケアの手 けリハビリにより評価が集中していることも注目 を広げていくアウトリーチの手法も重要となるだ すべき点である。 ろう(図 3) 。もちろん、こうなるためには、ま リハビリに関しては、今般、厚生労働省の「高 だまだ見直さなければならない要件や規制の緩和 齢者の地域におけるリハビリテーションの新たな があることも確かである。 在り方検討会」においても、改めてその意義の見 ただ、今回の報酬改定でも、そこを見込んで、 直し、課題の抽出等の報告書がまとめられたとこ 看護・介護職員に係る専従常勤要件の緩和が図ら ろである。 れている。これにより、老健施設に併設する介護 繰り返すようだが、このように、制度としても サービス事業所等が、施設退所者の在宅生活支援 在宅復帰に資する方向性をつけ、要件の緩和・加 をする際には、老健施設の看護・介護職員の一部 算の追加で光を当てていることは紛れもない事実 に非常勤職員を充てることができる旨が明確化さ だ。我々老健施設は、その光をしっかりと受け止 れた。つまり、施設と併設介護事業所との兼務が め、来たるべき超高齢社会の介護事業運営にたく 16 ●老健 2015.5 012-19特集_概論(七)0415.indd 16-17 中リハビリテーション実施加算、ターミナルケア加算、入所前後訪問指導加算の算定人数が多い) 。 1.利用者、家族側の要因(意向や方針等) ① 終末期を除き、原則的に「介護老人保健施設は漫然と入所できる施設ではない」ことを入所契 約に明記する ② 介護老人保健施設利用目的と以後の対応方針の明確化 ③「利用目的別給付・負担」の仕組みの導入 2.施設の理念や運営に関する要因 ① 施設の「サービス評価事業」の実施:施設マネジメントに関して ② 施設管理者等への研修、啓発事業の徹底と実施 ③「R4 システム」導入の推進 3.施設における治療や緊急時の対応に関する要因 ① 施設「サービス評価事業」の実施:施設における医療等に関して ② 施設医師への研修と認証事業の実施 ③ BPSD コントロールのためのノウハウの蓄積と研修事業等の実施 ④ 施設医師や看護師等の医療対応レベル向上のための技術研修等の実施 表 2 在宅復帰率の高い施設の特徴、在宅復帰率につながる施設の特性 (平成 24 年度「介護老人保健施設における在宅復帰・在宅療養支援を支える医療のあり方に関する調査研究事業報告書」より抜粋) 老健 2015.5 ● 17 2015/04/15 18:11:17 特集 May Vol.26 No.2 Column 老健施設の在宅支援と看取りについて ★在宅強化型老健施設ほど看取りもしている!? 老健施設の在宅復帰機能強化が推進される一方で、前回の介護報酬改定以降、看取り (ターミナルケア)にも焦点が当てられ、より評価されることとなった。これについて、「病 院と在宅をつなぐ中間施設といいつつ看取りも実施するというのは、本来の趣旨と矛盾する のではないか」と、戸惑う意見をもつ方も少なくない。 しかしながら、下図を見てもわかる通り、在宅強化型の施設ほどターミナルケア加算を積 極的に算定しているというデータもある。 〈類型別ターミナルケア加算の算定割合〉 不明 3% 強化型 (n=145) 不明 2% 加算型 (n=367) 不明 3% 算定あり 19% 算定あり 23% 算定あり 34% 算定なし 63% 通常型 (n=1479) 算定なし 75% 算定なし 78% 〈類型別ターミナルケア加算の算定状況〉 強化型 加算型 通常型 50 86 286 算定件数(/月) 450 543 855 算定件数(/ 100 床/月) 3.64 1.63 0.64 算定施設数 老健施設生き残りへ∼「在宅強化型」へのチャレンジ∼ ★「在宅支援の結果として看取りがある」という考え方 これは、老健施設の看取りを、下図のように “在宅支援を繰り返しているなかで、結果と して最後に死(=看取り)がある” と定義すると納得がいく。 近年、日本でも死生観は変わりつつある。かつて、高度経済成長期の只中にあり、医療の 進歩も目覚ましかったころ、医療従事者にとって “死” とは敗北であり、人々の間でも死に はできるだけ触れたくない、語りたくないという風潮があった。しかし、高齢化が進み、介 護が社会問題化してくるなかで、いかに生きるかとともに、いかに死ぬかについても考えざ るを得ない時代となってきた。平穏死、自然死、尊厳死……家族や自分自身の死に方も、元 気なうちから話し合っておこうという流れに、少しずつではあるが、変わってきている。 老健施設とて、これからの超高齢化並びに多死時代を迎えるにあたり、看取りは避けては 通れない現実問題だ。在宅復帰を繰り返す過程での看取りだけでなく、病院や在宅から入所 の段階で看取りを前提とした入所を希望する方も増えてくることと思われる。人はいつか必 ず亡くなる。これだけはすべての人間が平等だ。この当然の事実を、いま一度、我々は老健 施設関係者としてのみならず、一個人として考えてみる必要があるかもしれない。 現時点での先行実施施設でのデータによると、老健施設で看取った方の家族の 9 割は、「老 健施設での温かい、家庭的な看取りに満足だった」と感じていることがわかっている(平成 25 年度「介護老人保健施設の管理医師の有効活用による医療と介護の連携の促進に関する調 査研究事業」)。過剰な医療処置を施さずに、静かに穏やかに迎える最期は、ほとんどの場合、 “枯れるように” 息をひきとるという。施設で、馴染みのスタッフからの QOL に配慮した温 かいケアを受け、家族に見守られるなかでの臨終。そうして、家族とともに自宅へ帰る。詭 弁ではなく、これも施設からの立派な在宅復帰になるのではないだろうか。 老健施設における看取り。いま一度、じっくりと考えたいテーマである。 〈在宅復帰を繰り返した結果としての看取りのイメージ(全老健作成)〉 (平成 24 年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(平成 25 年度調査)「介護老人保健施設の在宅復帰支援に関する調査研究事 業」のデータをもとに老人保健課集計) 確かに、在宅復帰と看取りは、一見、相反するベクトルであるようにも思える。とはいえ、 老健施設利用者の年齢を考えると、当然ながら看取りも視野に入れたケアを考えなければ、 真に “利用者の立場に寄り添った” 支援とはならないのも事実ではないだろうか。 今回の介護報酬改定では、多職種による入所前後訪問指導の際、本人・家族が希望した場 合には、終末期の過ごし方や看取りについての具体的な内容を支援計画に含むことも盛り込 まれた。 18 ●老健 2015.5 012-19特集_概論(七)0415.indd 18-19 老健 2015.5 ● 19 2015/04/15 18:11:18
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