ビールを味わう 要介護5 60歳代 寝たきり状態となり10年が過ぎました。食事は麻痺側の口から、ぼろぼろ 食こぼしながらも何とか食べています。病状の進行によりネギトロ、ヨーグル ト、卵、きざみ納豆など飲み込みやすい食品を食べていますが誤燕性肺炎を併 発し入院退院を繰り返をしています。入院する度に、胃ろう造設をするか?と 提案されるが家族は、「最後まで口から食べさせたい」「それで寿命が短くなっ たとしてもしょうがねぇ」と胃ろう造設はしませんでした。食べる幸せを味わ いさせたかったのだろうと思います。 その後は、ショート利用をされていました。食事介助時、嚥下困難となり施 設の言語療法士さんから誤燕の危険が高いと評価を受けました。施設職員が自 宅を訪問しヘルパーさん、訪問看護師さんと食事介助状況について一緒に検討 して食事形態を変える対応を試みました。医師の処方を受けて食事が摂れない 時に用いる1袋 200mlで 200calある総合栄養剤3袋に、ゼラチン 10gを 鍋に入れて温めゼリー状に固め、水分補給にはポカリスエットを同様に固め、 麻痺してない口側から、介助で飲んでもらっていました。家族もヨーグルト、 野菜ジュースとヤクルトなど窒息に注意を払いながら介助を行っていました。 しかし、施設側から、これ以上危険を回避できないとの理由でショート利用 は中止となりました。病院の言語療法士さんの指導の下、この状態では唾液が 気管に入りやすく、喀出困難(顔色が紫色になった)を機に、ヘルパーさんの 介助を中止しました。家族が介助しやすい方法がないか再度検討しました。 現在は、プッチンゼリータイプで1個あたり 23g大さじ 1 杯半に炭水化物 6.5 gや脂質 6gが入って 80calの物と蛋白ゼリー70gのカップの中に、たんぱ く質 7.5g入っている物で三大栄養素が摂れます。1日 690cal確保と水分は 飲むゼリーを1日2本飲んでもらって何とか尿量 500~700mlをキープしな がら在宅生活を送っている状態です。 最初は、 「こんなに少ない量で生きられるのだろうか」と心配しましたが食事 形態を変えて半年過ぎました。いろんな知恵や工夫で口から食べれる、栄養確 保できる、飲むことができるのだと改めて思いました。 そんな中、若い頃の話になり、「暑い時期はビールが一番だね」「暑気払いに ビール飲もう」と声をかけたら、両眼を開き輝かせ、 「おーおー」と反応があっ たことにびっくりしました。早速、家族に話をしたら「ビールを飲んでもいい」 と言ってもらえたので、早速ビールに、とろみをつけて「ビールだよ」と声掛 けながら1口1口を喉の奥にいれました。ゆっくりと喉仏が上下し飲むことが できました。 「ごっくん」するたびに、ほんのり頬が赤くなっていくのがわかり ました。みんなで「飲めたねぇ」と拍手喝采。 「誤燕させるのではないか、もし かして窒息させるのでないか?」と不安で一杯でしたが、 『飲めて幸せそうな笑 み』と『味わえた喜び』を家族と一緒に噛み締めました。 シルバー専科日和指定居宅介護支援事業所 遠藤 信子
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