No.2 化学工学物性定数 補助資料 対応状態原理・組成計算

No.2
化学工学物性定数
補助資料
対応状態原理・組成計算
(担当
三島健司)
学籍番号
氏名
1
7.
対応状態原理
化学装置・プラントを設計・操作する場合に、既に工業物理化学 I で学習した対応状態原理や状態
方程式や溶液モデルを利用して、混合物の組成(化学反応の正否を決定的にする)、エンタルピー(熱
量計算に必要)、密度(容器の大きさや強さの計算)などを求めることができます。ここでは、対応
状態原理の実際の利用方法について演習を交えて解説します。
7.1 2変数対応状態原理
既に、工業物理化学Iにて学習したように、2変数対応状態原理(テキストP.78)を利用して物質
の性質を計算するには、次式で示す対臨界値Tr、pr、Vrを使用します。ただし、物質の臨界体積は精
度が悪い場合もあるので、実際には、Tr、prを使って、圧縮因子Zや密度ρを求めます。
pr =
p
pc
Vr =
V
Vc
(7.2)
Tr =
T
Tc
(7.3)
(7.1)
上式で示したように対臨界値は、物質の、臨界温度Tc、臨界圧力pc、臨界体積Vc(テキストP.69 の表
6.1)に対するその系の温度、圧力、体積の比である。
この対臨界値を用いると、式(6.4)で示される van der Waals 式は、次のように書き換えられる。
nRT
an 2
P=
−
V − nb V 2
(P +
an 2
)(V − nb) = nRT
V2
Vm =
V
n
(P +
a
Vm
( pr +
2
)(Vm − b) = RT
3
1 8
)(Vr − ) = Tr
3 3
Vr
(7.4)
2
また、圧縮因子 Z は次式で定義される。
Z=
pVm
RT
(7.4)
したがって、臨界圧縮因子Zcは次式となる。
Zc =
p cVc
RTc
(7.5)
2
pVm RTc p cVc
×
×
RT pcVc RTc
Z=
=
pcVc ( p / pc )(Vm / Vc )
×
RTc
T / Tc
Z = Zc
p r Vr
Tr
(7.6)
一般化Z線図を利用して、対臨界値Tr、prを使い、圧縮因子Zの値、体積および密度を求める2変数
対応状態原理の使い方の例を次に示します。
補足1
対臨界値(臨界定数に対する値)pr,vr,Trは臨界定数pc,Vc,Tcを用いて次式で与えら
れる.ファンデアワールス式を一般化して対臨界値で表せ.
pr =
p
pC
Vr =
V
vC
(2)
Tr =
T
TC
(3)
(1)
[解] ファンデアワールス式は次式で与えられる.
p=
RT
a
− 2
Vm − b Vm
(4)
ただし,臨界定数を用いて a,b は次式で与えられる.
27 R 2TC2
9
a=
= 3 p C vC2 = RTC vC
64 p C
8
b=
(5)
RTC vC
=
8 pC
3
(6)
式(4)を変形する.
p+
a
a
RT
=
⇔ ( p + 2 )(Vm − b) = RT
2
Vm
Vm Vm − b
(7)
式(7)に式(2)∼(6)の条件を代入すると,次式となる.
( pr pC +
3 p C vC2
v
)(v C v r − C ) = RTr TC
2 2
3
vC v r
(8)
両辺をpc,vcで割り,整理する.
3
( pr +
RTC
3
1
)(v r − ) =
Tr
2
pC vC
3
vr
(9)
ここで式(3)より,次のように変形できる.
RTC vC
RTC
8
=
⇔
=
p C vC 3
8 pC
3
(10)
式(9)を式(8)に代入すると,次式となる.
( pr +
3
1
8
)(Vr − ) = Tr
2
3
3
Vr
(11)
対臨界値を用いてファンデアワールス式を一般化することができる.
例題1 対応状態の原理を用いて,250℃,3.04MPaにおけるアセトンの圧縮係数Z(=Z0.27)をZc=0.27
の場合について、テキストP.80 の一般化Z線図を利用して求めよ。アセトンの臨界温度Tc、臨界圧力
pcは, Tc=508.7K, pc=4.72MPa である。
[解] アセトンの臨界温度Tc、臨界圧力pcが, Tc=508.7K, pc=4.72MPa であるので、250℃,3.04MPa
におけるアセトンの対臨界値Tr、prをテキストP.78 の式(7.1)∼(7.3)より計算します。
Tr =
pr =
T
250 + 273.15
=
= 1.028
Tc
508.7
p 3.04
=
= 0.644
p c 4.72
テキストP.80 の一般化Z線図を利用して、対臨界値Tr、prを使い、圧縮因子Z0.27の値を読みとります。
ここでは、次の図 1-2 および図 1-4 に示すより詳細な一般化Z線図より読み取ります。図の読み方は、
図 1-3 の「一般化Z線図の使い方」に示しています。図より、
Z 0.27 = 0.766
4
図 1-2 一般化Z線図
1)
一般化 Z 線図の使い方
① Tr=1.028 であるから、Tr=1.0 と 1.1
の2本の線の間にTr=1.028 の線を考える。
② Pr=0.644 であれば、
横軸からこの値を読み取
り、Tr=1.028 の線との交
点から縦軸 Zの値 Z=0.766
を読み取ります
図 1-3 一般化Z線図の使い方
図 1-4 一般化Z線図
1)
例題2 対臨界値を用いて表された一般化したvan der Waals 式(式(7.4)を用いて、対臨界温度Tr、
対臨界圧力prを与えて対臨界体積Vrを計算することで、250℃, 3.04MPaにおけるアセトンの圧縮係
数Zを計算せよ。アセトンの臨界温度Tc、臨界圧力pc、臨界体積Vc,臨界圧縮係数Zc、分子量Mは, Tc =
5
508.7 K,
pc =4.72MPa Vc =213 cm3/mol, Zc= 0.238, M = 58.08 である。
[解]
アセトンの臨界温度 Tc 、臨界圧力 pc が, Tc=508.7K, pc=4.72MPa,
であるので、250℃,
3.04MPaにおけるアセトンの対臨界値Tr、prをテキストP.78 の式(7.1)∼(7.3)より計算します。
Tr =
pr =
T
250 + 273.15
=
= 1.028
Tc
5087
p 3.04
=
= 0.644
p c 4.72
一般化した van der Waals 式(式(7.4)を用いると、
( pr +
3
1 8
)(Vr − ) = Tr
3 3
Vr
(7.4)
2
対臨界体積Vrを求めるために、対臨界体積Vrについて式を生理する。両辺にVr2をかけて、
1
8
2
2
( p rVr + 3)(Vr − ) = TrVr
3
3
左辺を展開して整理すると、
1
8
3
2
p rVr − ( p r + Tr ) × Vr + 3Vr − 1 = 0
3
3
この式は対臨界体積Vrについての3次方程式であるので、ニュートン法を用いて数値計算で対臨界体
積Vrを求める。上式を対臨界体積Vrで微分して、
2
2
3 p r Vr − ( p r + 8Tr ) × Vr + 3
3
これらの式を用いて、ニュートン法にて数値計算で対臨界体積Vrを計算する。
Vr = 3.331787
として上式を計算してみると、ほぼゼロとなり、式を満足することがわかる。
1
8
3
2
p rVr − ( p r + Tr ) × Vr + 3Vr − 1
3
3
1
= 0.644 × 3.331787 3 − (0.644 + 8 × 1.028) × 3.331787 2 + 3 × 3.331787 − 1
3
= 0.55 × 10 −4 ≅ 0
このVrを用いて、Zを計算すると、
Z = Zc
p r Vr
Tr
Z = 0.238 ×
0.644 × 3.331787
= 0.497
1.028
7.2 3変数対応状態原理
3変数対応状態原理には、a. 臨界圧縮因子、 b.偏心因子、 c.極性因子、 d. 分子形状因子を
用いる方法などがある。いずれの方法も、2変数対応状態原理を補正することで、より精度よく性質
を計算することができます。詳細については、テキスト P.80∼83 に示してあります。
6
a.
臨界圧縮因子
臨界圧縮因子を用いて、2変数対応状態原理を補正するには、テキスト P.81 の式(7.7)を使用する。
Z = Z 0.27 + D( Z c − 0.27)
(7.7)
ここで、補正因子DはテキストP.81 の図 7.3(次の図 1-5 と同じ)から読み取る。図の読み方として
は、まず、Zcの大きさによりどちらの図を使うか判定します。すなわち、その物質のZcについて、Zc
>0.27 なら上の(a)を用い、Zc <0.27 なら下の(b)を用います。線図の使い方は、図 1-3 の「一般化Z線
図の使い方」と同様に、Trの値から考え、prの値を用いてDを読み取ります。
図 1-5 一般化Z線図の補正因子
[ Z = Z 0.27 + D ( Z c − 0.27)
]
1)
なお、pr<0.1 の範囲では、 Z c = 0.27 の物質について次式が成り立つ。
⎛p
(1 − Z ) = ⎜⎜ r
⎝ Tr
⎞ ⎛
0.10 0.34 ⎞⎟
⎟⎟ × ⎜ − 0.108 +
+ 2 ⎟
⎜
Tr
Tr ⎠
⎠ ⎝
(7.7)
例題 3 一般化Z線図および臨界圧縮因子を利用して、3変数対応状態原理により、-40℃、5.1MPa
(=50.4atm)におけるメタンのモル体積Vm[m3/mol]と密度ρ[g/dm3]を求め、実測値(Vmex=2.98
×10-4 m3/mol)と比較せよ。ただし、CO2の分子量Mは 18 とする。
7
[解]メタンについて、テキストP.69 の表 6.1 より、臨界温度Tc、臨界圧力pc、臨界体積Vcを読みと
りその値を用いて、対臨界値Tr、prをテキストP.78 の式(7.1)∼(7.3)より計算します。
Tr =
T
273.15 − 40
=
= 1.22
Tc
190.6
pr =
p
5 .1
=
= 1.11
p c 4.60
次に、この対臨界値Tr、pr に対するZc=0.27 での圧縮因子Z0.27の値を求めます。本資料の図 1-2 ま
たはテキストP.80 の一般化Z線図を利用して、対臨界値Tr、prを使い、圧縮因子Z0.27の値を読みとり
ます。図より、
Z 0.27 = 0.79
一方、メタンの臨界圧縮係数ZcはテキストP.69 の表 6.1 より'
Zc=0.288
Zc >0.27 だから、本資料の図 1-5(a)またはテキストP81 の図 7.3(a)より、補正因子Dを求めると 0.14
となる。以上より、この条件でのメタンの圧縮係数Zを求める。
Z = Z 0.27 + D( Z c − 0.27)
= 0.79 + 0.14 × (0.288 − 0.27 ) = 0.793
この圧縮係数からモル体積Vmと密度ρを求める。
pVm
RT
Z=
Vm =
RTZ
p
Vm =
8.314 × (273.15 − 40) × 0.793
= 3.01 × 10 − 4
6
5.1 × 10
ρ=
16
M
=
= 53.2
Vm 3.01 × 10 − 4 × 10 3
m3/mol
g/dm3
実測値(Vmex=63.6g/dm3)との誤差は、
3.01 − 2.98
Vmcal − Vmex
∆V m
× 100 =
× 100 =
× 100 = 1.01%
2.98
Vmex
Vmex
実測値と3変数対応状態原理による計算結果とは、誤差1%程度で一致していることがわかる。
例題 4 一般化Z線図および臨界圧縮因子を利用して、3変数対応状態原理により、0℃、2.58MPa
(=25.5atm)におけるCO2の密度ρ[g/dm3]を求め、実測値(ρex=63.6g/dm3)と比較せよ。ただ
し、CO2の分子量Mは 44.01 とする。
8
[解]CO2について、テキストP.69 の表 6.1 より、臨界温度Tc、臨界圧力pc、臨界体積Vcを読みとり
その値を用いて、対臨界値Tr、prをテキストP.78 の式(7.1)∼(7.3)より計算します。
Tr =
273.15
T
=
= 0.898
304.2
Tc
pr =
p 2.58
=
= 0.350
p c 7.37
次に、この対臨界値Tr、pr に対するZc=0.27 での圧縮因子Z0.27の値を求めます。本資料の図 1-2 ま
たはテキストP.80 の一般化Z線図を利用して、対臨界値Tr、prを使い、圧縮因子Z0.27の値を読みとり
ます。図より、
Z 0.27 = 0.80
一方、CO2の臨界圧縮係数ZcはテキストP.69 の表 6.1 より'
Zc=0.274
Zc >0.27 だから本資料の図 1-5(a)またはテキストP81 の図 7.3(a)より補正因子Dを求めると 0.57 とな
る。以上より、この条件でのCO2の圧縮係数Zを求める。
Z = Z 0.27 + D( Z c − 0.27)
= 0.80 + 0.57 × (0.274 − 0.27 ) = 0.802
この圧縮係数からモル体積Vmと密度ρを求める。
pVm
RT
Z=
Vm =
RTZ
p
Vm =
8.314 × 273.15 × 0.802
= 7.06 × 10 − 4
6
2.58 × 10
ρ=
44.01
M
=
= 62.3
Vm 7.06 × 10 − 4 × 10 3
m3/mol
g/dm3
実測値(ρex=63.6g/dm3)との誤差は、
∆ρ
ρ ex
× 100 =
63.6 − 62.3
ρ cal − ρ ex
× 100 =
× 100 = 2.04%
63.6
ρ ex
実測値と3変数対応状態原理による計算結果とは、誤差 2%程度で一致していることがわかる。
図 1-2 および 1-4 に示した 2 線図は気体および蒸気のものである。液体の場合は、対臨界密度の線図
を用いると便利である。
(3) 液化ガスの容器内の注入量または残存量を知るには、上記の計算からもわかるように、容器の
9
重さを測定することで容器内部の物質量を知ることができる。逆に、圧力容器の圧力計を測定しても、
容器内部の物質量を知ることはできない。容器内が空の状態から液化ガスを注入する場合であれば、
はじめの内は、注入した液化ガスが気化するため、注入量の増加とともに圧力容器の圧力も増大する。
しかし、その温度における液化ガスの蒸気圧に容器の圧力が到達すると、圧力一定のまま液化ガスの
注入量が増加し、最大理論充てん量まで、ガスに対する液体の割合が増加しつづける。
貯槽
図
飲料水自動販売機
図
図
飲料水自動販売機
環境に優しい高圧技術
[例題 7] 0℃、0.04m3の耐圧容器に液化ガスである二酸化炭素が充てんしてある。二酸化炭
素がファンデルワールス(van der Waals)式に従うとして次の問に答えよ。
ただし,二酸化炭素の 0℃における飽和蒸気圧は 3.45MPa(=34.0atm)であり,この時の気相のモル容積
は 510cm3/mo1 であるとし,二酸化炭素のファンデルワールス定数は次のとおりとする。
a=3.66×105 MPa(cm3/mo1)2 、
b=42.8cm3/mo1
(1)圧力 2.03MPa(=20.0atm)で気相のモル体積が 0.990 dm3/mo1(=990 cm3/mo1)であるときの充
てん質量?
(2)圧力が飽和蒸気圧である時の最小と最大理論充てん量?
[解]例題6と同じ条件の問題を対応状態原理ではなく、状態方程式も用いて解く。
(1) 圧力 2.03MPa(=20.0atm)は、0℃における二酸化炭素の飽和蒸気圧 3.45 MPa (=34.0atm)
に達していない。従って,この容器内は気相のみである。また、圧力 2.03MPa(=20.0atm)で気相のモ
ル体積が 0.990 dm3/mo1(=990 cm3/mo1)で、二酸化炭素の分子量が 44.01 であり、耐圧容器の内
容積が 40.0 dm3であるので、充てんされている二酸化炭素の質量W[g]は、次のように計算できる。
W = M × n = 44.01 ×
40.0
≅ 1800
0.99
g
また、例題6の3変数対応状態原理を用いた場合と比較して、ほぼ同じ値となっていることがわかる。
(2)
圧力が飽和蒸気圧である時、最小充てん量は、容器内に気相のみが存在する場合である。こ
のとき(圧力p=3.45MPa)の気相のモル体積を、前問と同様に計算する。圧力 2.03MPa(=20.0atm)
10
で気相のモル体積が 0.51 dm3/mo1(=510 cm3/mo1)で、二酸化炭素の分子量が 44.01 であり、耐
圧容器の内容積が 40.0 dm3であるので、充てんされている二酸化炭素の質量W[g]は、次のように計
算できる。
W = M × n = 44.01 ×
40.0
≅ 3500
0.51
g
温度 0℃、圧力 3.45 MPa の場合、ガスだけで充てんしても、圧力 2.03MPa の時に比べて大きいこ
とがわかる。また、例題6の3変数対応状態原理(W=3,700g)を用いた場合と比較して、近い値と
なっていることがわかる。
さらに、最大理論充てん量について、圧力が飽和蒸気圧である時、最大充てん量は、容器内に液相の
みが存在する場合である。このとき(圧力p=3.45MPa)の液相のモル体積を、状態方程式を用いて計
算する。CO2について、物質定数(本来は臨界条件の式を用いて、物質の臨界定数から計算する)が
与えられているので、二酸化炭素がファンデルワールス(van der Waals)式に従うとして、温度 0℃、
圧力 3.45 MPaにおける液相のモル体積を計算する。圧力p=3.45MPa 、温度T=273.15 K, ガス定数
R = 8.31451J ・ mol-1 ・ K-1 、 二 酸 化 炭 素 の 物 質 定 数 a = 3.66×105 MPa(cm3/mo1)2 ( = 3.66×10-1
MPa(dm3/mo1)2、 b=42.8cm3/mo1(=0.0428dm3/mo1)を用いるが、単位が統一されていないので、
まず、単位換算を行い、SI単位で統一する。
圧力p=3.45MPa(3.45×106Pa)、温度T=273.15K、R=8.31451 J・mol-1・K-1(=8.31451 Pa・m3・
mol-1・K-1=、二酸化炭素の物質定数をa = 0.366 Pa(m3/mol)2、b = 42.8×10-6m3/molとする。これら
の値を、次に示すファンデルワールス式に代入して、その方程式を解く。ファンデルワールス式は,
式(3.10)より次式で与えられる.
p=
RT
a
− 2
Vm − b Vm
変形すると、
⎛
⎜ p + a2
⎜
Vm
⎝
⎞
⎟(Vm − b ) = RT
⎟
⎠
pVm − pb +
a
ab
− 2 − RT = 0
Vm Vm
両辺にVm2をかけて整理すると、
pVm − ( Pb + RT )Vm + aVm − ab = 0
3
2
2
すなわち、
(3.45 × 10 6 )
× Vm − (3.45 × 10 6 × 42.8 × 10 -6 + 8.314 × 273.15)Vm + 0.366Vm
3
2
− 0.366 × 42.8 × 10 -6 = 0
よって、
(3.45 × 10 6 )
× Vm − 2418.6Vm + 0.366Vm − 1.5664 × 10 -5 = 0
3
2
この三次方程式の一つの解が気相のモル体積であり、5.11×10-4と問題に与えられているから、この
式の両辺を(Vm−5.11×10-4)で除して、整理すると次の二次式を得る。
Vm − 1.903 × 10 -4 Vm − 8.890 × 10 -9
2
11
Vm−5.11×10-4)
Vm −
3
2418.6
0.366
1.5664
2
Vm +
Vm −
× 10 -5
6
6
3.45 × 10
3.45 × 10
3.45 × 10 6
Vm3−5.11×10-4 Vm2
-(7.010−5.11)×10-4 Vm2−1.061×10-7 Vm
-1.903×10-4 Vm2+5.11×10-4×1.903×10-4 Vm
-8.890×10-4 Vm
Vm − 1.903 × 10 -4 Vm − 8.890 × 10 -9 = 0
2
2次方程式の根の公式より
ax 2 + bx + c = 0
x=
− b ± b 2 − 4ac
2a
(1.903 × 10 −4) ± (1.903 × 10 -4 ) 2 −4 × 8.890 × 10 −9
Vm =
2
=1.08×10-4または、0.823×10-4 m3/mol
したがって、液相のモル体積は 0.823×10-4 m3/mol となる。
以上の計算より、温度 0℃、圧力 3.45 MPaのとき、耐圧容器内の液相のモル体積Vmが、Vm=0.047
dm3/molであることがわかる。耐圧容器の内容積が 40.0 dm3であるので、充てんされている二酸化
炭素の質量W[g]は、次のように計算できる。
W = M × n = 44.01 ×
40.0
≅ 37000
0.047
g
[例題 8]メタンについて、van der Waals 式中の物質定数a,bを臨界定数から決定せよ。さらに、
その値を用いてT=160 K, p=21.9 MPa(=21.9/0.101325=216atm)におけるメタンの気相ならびに
液相のフガシティfV, fLを計算せよ。それぞれのモル体積VmV,VmLを次のように与えて計算すると、
VmV = 4.30×10-4 m3・mol-1=0.430 L・mol-1
VmL = 7.04×10-5 m3・mol-1=0.0704 L・mol-1
[解]まず付表 6 を用いてメタンの臨界定数を求める.
Tc = 190.6 K
pc= 45.4
atm
気体のガス定数をR = 0.08206 atm・L・mol-1・K-1として,式(3.14)と(3.15)より
27 R 2TC2
a =
64 pC
=
27 × 0.08206 2 × 190.6 2
64 × 45.4
=2.273 atm・L2・mol-2
12
b=
RTC
8 pC
0.08206 × 190.6
8 × 45.4
=
= 0.04306 L
ファンデルワールス式は,式(3.10)より次式で与えられる.
p=
RT
a
− 2
Vm − b Vm
=
nRT
n2a
− 2
V − nb V
圧縮因子 Z を
Z=
pVm
RT
とすると、ファンデルワールス式に関して熱力学的基礎式よりフガシティ f は次のようになる.
RT ln
V
f
a
= RT ln m −
+ RT ( Z − 1) − RT ln Z
p
Vm − b V m
ln f = ln
Vm
a
−
+ ( Z − 1) − ln Z + ln p
Vm − b RTVm
ln f = ln
pV
V
Vm
a
−
+ ( m − 1) − ln m
Vm − b RTVm
RT
RT
メタンについて、T=160 K, p=21.9 MPa(=21.9/0.101325=216atm)として、気相ならびに液相
のフガシティfV, fLをそれぞれのモル体積VmV,VmLを次のように与えて計算すると、
VmV = 4.30×10-4 m3・mol-1=0.430 L・mol-1
VmL = 7.04×10-5 m3・mol-1=0.0704 L・mol-1
ln f
V
VVm
a
pV V m
VVm
= ln V
−
+(
− 1) − ln
RT
RT
V m − b RTV V m
= ln
0.430
2.273
216 × 0.430
0.430
−
+(
− 1) − ln
0.430 − 0.04306 0.08206 × 160 × 0.430 0.08206 × 160
0.08206 × 160
= 16.9 atm
ln f
L
= ln
= ln
V Lm
a
pV L m
V Lm
−
+
(
−
1
)
−
ln
RT
RT
V L m − b RTV L m
0.0704
2.273
216 × 0.0704
0.0704
− 1) − ln
−
+(
0.0704 − 0.04306 0.08206 × 160 × 0.0704 0.08206 × 160
0.08206 × 160
= 17.0 atm
気相と液相のフガシティがほぼ等しいことがわかる.
13
(b)一般化されたエンタルピー線図
温度一定の条件で、物質 lmoI について、熱力学的基礎式より、次式が得られる。
⎤
p ⎡ ⎛ ∂V ⎞
(h * − h) T = ∫ ⎢T ⎜ m ⎟ − Vm ⎥dp
0
⎣⎢ ⎝ ∂T ⎠ p
⎦⎥
(7.17)
ここで、h*は温度T, p=0 でのエンタルピーである。p=0 においては理想気体として扱うことができ
るので、h*は温度Tにおける理想気体のエンタルピーである。 通常(h*-h)をエンタルピー偏倚と
呼んでいる。いま状態式pVm=ZRT を代入して、対臨界値で表現すると
p r ⎛ ∂Z
⎛ h* − h ⎞
⎟⎟ = RTr 2 ∫ ⎜⎜
⎜⎜
0
⎝ ∂Tr
⎝ Tc ⎠ Tr
⎞ dp r
⎟⎟
⎠ pr p r
(7.18)
この式に先の Z を代入し数値積分することによって、一般化されたエンタルピーの線図を作ること
ができる。次の図 1-8 に一般化エンタルピー線図を示す。Z=0.27 以外の物質については次式により
補正する。必要な補正因子 D は図 1-9 に示す。
h* − h ⎛ h* − h ⎞
⎟⎟
+ D( Z c − 0.27)
= ⎜⎜
Tc
⎝ Tc ⎠ Zc =0.27
(7.19)
なお、pr<0.1 では、Zc=0.27 の物質について次式が適用される。
⎛
h* − h
0.20 1.02 ⎞⎟
= Rp r ⎜⎜ − 0.108 +
+ 2 ⎟
Tc
Tr
Tr ⎠
⎝
(7.20)
ここで、ガス定数の値として、R=1.987cal・mol-1・K-1を使用することに注意する。
設計などに際しては,状態が(T1,p1)から(T2,p2)へ変化した時のエンタルピー変化(h2-h1)を必要とす
ることが多い。その場合は次のように式を変形すればよい。
h2 - h1=(h2*一h1*)一〔(h*一h)2一(h*一h)1〕
(7.21)
ここで(h*一h)2, (h*一h)1は線図を用いて式(7.19)より求められ,(h2*一h1*)は理想気体の比熱を用いて
次式で計算される・
T2
h2 − h1 = ∫ C p dT
*
*
*
(7.22)
T1
Cp*は通常Tの3次式で表されるが、いくつかの物質についての係数aiを次の表 1-1 に示す。.
Cp,m*= a1 + a2T + a3T2 + a4T3
( Cp,m [JK‐1 mol‐1] , T [K] )
(7.23)
ここで、下付のmは、1molあたりの量を表す。また、熱の単位をJからcalに戻すには、単位換算係数
4.184J/ cal を用いる。
14
[例題 9] 1molのNH3を理想気体と考えて、30℃から 150℃にする際に必要とされるエンタルピー
(h2*一h1*)は、何calであるかを求めよ。
[解]
(h2*一h1*)は理想気体の比熱を用いて式(7.22)で計算する。
T2
h2 − h1 = ∫ C p dT
*
*
*
(7.22)
T1
Cp*は表 1-1 の値を用いて、式(7.23)より計算する。
Cp,m = a1 + a2T + a3T2 + a4T3 ( Cp,m [JK‐1 mol‐1] , T [K] )
NH3について、係数 ai は
a1 = 27.31
,
a2 = 23.83×10-3
a3 = 1.707×10-5 ,
a4 = -1.185×10-8
(7.23)
NH3について、これらの値を用いて、アンモニアの理想気体状態のエンタルピー変化(h2*一h1*)を式
(7.22)で計算すると、
T2
h2 − h1 = ∫ C p dT
*
*
*
T1
T2
= ∫ a1 + a 2T + a3T 2 + a 4T 3 dT
T1
1
1
1
⎤ T2
⎡
= ⎢a1T + a 2T 2 + a3T 3 + a 4T 4 ⎥
2
3
4
⎦ T1
⎣
⎡
23.83 × 10 −3 2 1.707 × 10 −5 3 − 1.185 × 10 −8 4 ⎤ 423
= ⎢27.31 × T +
T +
T +
T ⎥
2
3
4
⎣
⎦ 303
= 4518 J/mol
=4518/4.184=1080 cal/mol
15
図 1-8 気体および液体の一般化(h*―h)/Tc 線図(Zc=0.27)[(h*―h)/Tcはcal/mol・K]
図 1-9 気体および液体の一般化(h*―h)/Tc 線図(Zc=0.27)[(h*―h)/Tcはcal/mol・K]
1)
1)
混合物への対応状態原理の適用
混合物の臨界値を用いた場合、純物質を基準にして作成された一般化線図をそのまま適用できない。
そこで、混合物と p-ρー T 関係が同一である純物質を考え、その物質の臨界値を仮臨界値とする。仮
臨界値が決まれば,仮想純物質の p-ρ-T 関係は混合物のそれと同一なので、一般化線図を適用するこ
とができる。したがって、仮臨界値の値を知ることが重要となるが、Kay は経験的に次式の関係を
提案している。
p c ' = ∑ xi pci
(7.24)
Tc ' = ∑ xi Tci
(7.25)
Vc ' = ∑ xiVci
(7.26)
i
i
i
5.5 1molのNH3(g)を 25℃で 10.00dm3から 1.00dm3まで可逆的に圧縮する仕事を、
(1)理想気体とみなしたとき、(2)van der Waals気体であるとしたとき、のそれぞれについて計算せよ。
ただし、a=4.20×101.325 Pam3mol-1 (=4.20dm3atmmol-1), b=0.037dm3mol-1.
[解]圧縮するにともない圧力 P は変化するので、仕事の微小変化 dW について積分して計算する。
(1) 理想気体であるとすると、
PV = nRT
16
P=
nRT
V
仕事は定義より、
dW = − PdV
nRT
=−
dV
V
両辺を積分すると、
nRT
dV
V
1
∆W = − nRT ∫ dV
V
∫ dW = − ∫
= −nRT [ln V ]V1"
V
= −nRT (ln V1 − ln V2 )
= nRT ln(
V2
)
V1
10.00
= 1 × 8.314 × (273 + 25) ln(
) =5.70×103 J
1.00
(2) van der Waals 気体であるとすると、
(P +
an 2
)(V − nb) = nRT
V2
P=
nRT
an 2
− 2
V − nb V
仕事は定義より、
dW = − PdV
=(
nRT
an 2
− 2 )dV
V − nb V
両辺を積分すると、
∫ dW = − ∫ (
nRT
an 2
− 2 )dV
V − nb V
∆W = −nRT ∫ (
1
an 2
)dV + ∫ ( 2 )dV
V − nb
V
⎡ 1 ⎤ V2
V
= − nRT [ln(V − nb]V1" + an 2 ⎢ ⎥
⎣V ⎦ V1
= −nRT {ln(V2 − nb) − ln(V1 − nb)} + an 2 (
17
1
1
− )
V2 V1
= nRT ln(
V1 − nb
1
1
) + an 2 ( − )
V2 − nb
V2 V1
1
1
10.0 − 0.037
= 1 × 8.314 × (273 + 25) ln(
−
)
) + 4.20 × 101.325(
10.0 1.0
1.0 − 0.037
= 5.41×103 J
3.3.2 実在気体の状態方程式
a)ファンデアワールス式
実在気体の挙動を定性的ではあるが,初めて正しく与えた式がファンデアワールス*3.6(van der
Waals)式である.この式は,理想気体の状態方程式と異なり次に示すように,分子の体積を考慮し
た(排除体積)サイズパラメータbと分子同士が引き合う効果を表した引力パラメータaを含む.
p=
RT
a
− 2
Vm − b Vm
(3.10)
式(3.10)の右辺第1項は,分子大きさの寄与を示す斥力(せきりょく)項で,右辺第 2 項は分子間
の引力の寄与を表現する引力項と考えることもできる.式(3.10)をある温度Tについてプロットする
と図 3-11 にみられるようなp‐Vm‐T関係が得られる.
臨界温度以下の等温線は,一定のpの値に対して,Vmの 3 つの解(イ,エ,カ)を有しS字型とな
る.点イが気体,点カが液体の飽和状態に相当するが,これらの点は図中斜線を施したように,それ
ぞれの面積が等しくなるように決定される.
ファンデアワールス式を使用するには,物質定数a,bの値を各物質について求める必要がある.
状態図の形状から明らかなように,臨界点は式(3.10),すなわちVmの 3 次式が重解となる点であるこ
とから,次の条件が成り立つ.
(
∂p
)T = 0
∂Vm C
(3.11)
(
∂2 p
)T = 0
∂Vm2 C
(3.12)
また,臨界点を通る条件から,次のようになる.
pc = p ( Tc,Vc )
(3.13)
式(3.10)を臨界点の条件式(3.11)∼式(3.13)に代入して,それらを連立して解くことで a,b を求め
ると次のようになる.
a = ( 27R2Tc2 ) / ( 64pc ) = 3pcVc2 = ( 9 / 8 ) RTcVc
b = RTc / ( 8pc ) = Vc / 3 (3.15)
(3.14)
各物質の臨界定数より物質定数a,bが計算できる.主な物質の臨界定数(pc, Tc, Vc)を付表 3−2 に
示す.ただし,物質によってはVcの値が報告されていないこと,またVcの測定精度はやや劣ることな
どから,pcおよびTcのデータからa,bを計算することが望ましい.
b)ファンデアワールス型状態方程式10)
式(3.10)で示したファンデアワールス式は,実際のデータとの一致は良好とはいえず,高圧の高密
18
度領域においては誤差が著しい.そのため,引力項や排除体積の表現を改良する試みが続けられてい
る.これらの V の3次式を基本とする状態方程式を一般にファンデアワールス型と呼んでいる.フ
ァンデアワールス型状態方程式の利点は,温度,圧力が指定された場合,V の3次式でありモル体積
を解析的に求めることができる点である.欠点としては,広範囲にわたる(特に高密度すなわち液体
領域などの)p‐V‐T 関係を正しく表現できないことが挙げられる.しかし,取り扱いの容易さか
ら,化学装置の組成計算などには,ファンデアワールス型状態方程式が利用される場合が多い.以下
にその代表的なものを示す.なお,これらの式の名は提案者の名にちなんでいる.
i)レーリッヒ−ワン(Redlich-Kwong)式(RK式)22)
p=
RT
−
Vm − b
a
(3.16)
1
2
T Vm (Vm + b)
a = 0.42747R2TC2.5 / pc
b = 0.08664RTC / pc
(3.17)
(3.18)
ii)ソアベ−レーリッヒ−ワン(Soave-Redlich-Kwong)式(SRK式)25)
p=
RT
aα
−
Vm − b Vm (Vm + b)
(3.19)
α = { 1 + m ( 1 − Tr0.5 ) }2
m = 0.480 + 1.574ω − 0.176 ω2
a = 0.42747R2Tc2 / Pc
(3.20)
(3.21)
(3.22)
iii)ペン−ロビンソン(Peng–Robinson)式12)(PR式)20)
p=
RT
aα
−
Vm − b Vm (Vm + b) + b(Vm − b)
(3.23)
m = 0.37464 + 1.54226ω − 0.26992ω2
a = 0.45727R2Tc2 / Pc
b = 0.07780RTc / Pc
(3.24)
(3.25)
(3.26)
工業的には,ファンデアワールス型状態方程式以外にも,次に示すビリアル型状態方程式なども利用
されている.
[例題 3.7] ビリアル型状態方程式は次式で与えられる.
Z=
PVm
B
C
= 1+
+ 2 +・・・・・
RT
Vm Vm
(1)
また,圧縮因子 Z は次式のように定義される.
Z=
PVm
RT
(2)
ビリアル型状態方程式とファンデアワールス式を比較してファンデアワールス式中の定数 a,b で第
2 ビリアル係数(B)および第 3 ビリアル係数(C)を表せ.
[解] ファンデアワールス式は次式で与えられる.
19
P=
RT
a
− 2
Vm − b Vm
(3)
また,式(3)を式(2)に代入し,整理すると次のようになる.
Z=
=
Vm RT
a
[
− 2]
RT Vm − b Vm
Vm − b + b
a 1
−
・
Vm − b
RT Vm2
= 1−
a 1
b
・ +
RT Vm Vm − b
= 1−
b / Vm
a 1
・ +
RT Vm (1 − b / Vm )
= 1−
a 1
b
b
b
b
・ +
[1 +
+ ( ) 2 + ( ) 3 + ・・・・]
RT Vm Vm
Vm
Vm
Vm
a
b2
b3
1
)・ +
= 1 + (b −
+
+ ・・・・
RT Vm Vm 2 Vm 3
(4)
これを式(2)と比較すると次式となる.
B =b−
a
,C = b2
RT
8. 溶液モデルによる気液平衡組成の計算方法について
8.1 計算方法
例題 8.1
メタノール(1)−水(2)系の 2 成分系気液平衡組成(xi、yi)より、液相における各成分 1、2 の活量係
数γ1、γ2を計算せよ。ただし、全圧P=500 mmHg、温度T=71.5 ℃、気相組成x1=0.2019、液相
組成y1=0.6028 とする。また、計算するにあたってのアントワン(Antoine)式およびアントワン定
数、気液平衡の基礎式(2 成分系の場合)は下記のように与えられる。
アントワン式
log10 pi °[mmHg] = Ai −
Bi
C i + T [℃]
(8.1)
表 8.1 メタノール(1)−水(2)のアントワン定数
メタノール
水
A1 = 8.08097
B1 = 1582.271
C1 = 239.726
A2 = 8.07131
B2 = 1730.63
C2 = 233.426
20
気液平衡の基礎式(2 成分系の場合)より次式が成り立つ。
P = γ1・x1・p1° + γ2・x2・p2°
(8.2)
y1・P = γ1・x1・p1°
y2・P = γ2・x2・p2°
(8.3)
(8.4)
γ1 =
y1・P
x1・p1 °
(8.5)
γ2 =
y 2・P
x 2・p 2 °
(8.6)
さらに、2 成分系の場合、組成には次のような関係式が成り立つ。
x1 + x2 = 1
y1 + y2 = 1
(8.7)
(8.8)
[解答]
メタノール(成分 1)および水(成分 2)の各蒸気圧p1°、p2°は、温度のみの関数で、式(8.1)の
アントワン式を用いて求められる。
メタノール(成分 1)のT = 71.5 ℃における蒸気圧p1°を求める。アントワン定数は表 8.1 よりA1=
8.08097、B1=1582.271、C1=239.726 であるので、
p1 ° = 10
A1 −
B1
C1 +T
= 10
8.08097 −
1582.271
239.726 + 71.5
= 993.06mmHg
となり、同様に水(成分 2)の場合の蒸気圧p2°を求める。アントワン定数は表 8.1 よりA2=8.07131、
B2=1730.63、C2=233.426 であるので、
p 2 ° = 10
A2 −
B2
C 2 +T
= 10
8.07131−
1730.63
233.426 + 71.5
= 248.73mmHg
となる。
次に、式(8.6)および式(8.7)、(8.8)の関係式を用いて活量係数γ1、γ2を求める。メタノール(成分
1)の場合の活量係数γ1を求めると
γ1 =
y1・P
0.6028 × 500
=
= 1.503
x1・p1 ° 993.06 × 0.2019
となり、同様に水(成分 2)の場合の活量係数γ2も次のように求められる。
21
γ2 =
y 2・P
(1 − y1 )・P
0.3972 × 500
=
=
= 1 .0
x 2・p 2 ° (1 − x1 )・p 2 ° 248.73 × 0.7981
例題 8.2 メタノール(1)-水(2)系の 500 mmHgにおける 2 成分系定圧気液平衡を以下の方法 1)、2)
を用いて計算せよ。ただし、計算過程で使用するメタノールおよび水の蒸気圧p1°、p2°はアントワ
ン(Antoine)式((8.1)式参照)を用いて次式で求められ、各アントワン定数は表 8.1 に示す。
(ヒント)
[1]純物質について、500 mmHg における沸点はアントワン式を用いて次のように計算できる。
Bi
C i + T [℃]
(8.11)
Bi
= Ai − log10 p i °[mmHg]
C i + T [℃]
(8.12)
Bi
− Ci
Ai − log10 pi °[mmHg]
(8.13)
log10 pi °[mmHg] = Ai −
T [℃] =
[2]気液平衡の基礎式は次のように与えられる。
気液平衡基礎式(2 成分系)
P = γ1・x1・p1° + γ2・x2・p2°
(8.14)
y1・P = γ1・x1・p1°
y2・P = γ2・x2・p2°
(8.15)
(8.16)
γ1 =
y1・P
x1・p1°
(8.17)
γ2 =
y 2・P
x 2・p 2 °
(8.18)
[3]液相組成x1と気相組成y1の関係は次式で与えられる。
22
y1 =
x1γ1 p1 °
x1γ1 p1 ° + x 2γ2 p 2 °
(8.19)
[4]定圧気液平衡を計算する場合は、次の条件を満たす必要がある(全圧が P の場合)。
P = γ1・x1・p1° + γ2・x2・p2°
(8.20)
[5]メタノールおよび水の蒸気圧p1°、p2°はAntoine式を用いて次のように与えられる。
log10 pi °[mmHg] = Ai −
Bi
C i + T [℃]
(8.21)
[6]活量係数γは、活量係数式を用いて計算を行う。一般に活量係数式は、次のように温度T [ K ](絶
対温度)と液相組成 xi の関数である。活量係数式にはマーギュレス(Margules)式、ウィルソン
(Wilson)式、アソッグ(ASOG)、ユニファッック(UNIFAC)などがある。ただし、ラウール(Rault)
の法則の場合、γ1=1、γ2=1 となる。
γi = f ( T、xi )
(8.22)
[7]2 成分系の場合、組成には次のような関係式が成り立つ。
x1 + x2 = 1
(8.23)
[8]絶対温度 T [ K ]と摂氏温度 t [℃]の間には次のような関係がある。
T = 273.15 + t
(8.24)
1)メタノール−水系の 500mmHg における気液組成をラウール則を用いて計算するプログラムを作
成し、以下の表を完成せよ。
表 8.2 ラウール則により計算した 500mmHg における
メタノール(1)−水(2)系の気液組成の計算結果
x1[-]
y1[-]
T[℃]
0.0
0
88.71
0.2
0.492
77.29
0.4
69.24
0.6
63.13
0.8
58.27
1.0
54.26
23
x1=0.2 における解答例
2成分系気液平衡の基礎式は,
p = γ 1 x1 p1o + γ 2 x2 p 2o
溶液を理想溶液とみなし、ラウール則が成り立つとすると,
γ1 = γ 2 = 1
p = x1 p1o + x2 p 2o
例として,x1=0.2 の場合の計算を示す。T=77.29℃と仮定すると,
付表5の値を用いると,水のアントワン定数は A=16.56989,B=3984.923,C=−39.724,メタノ
ールのアントワン定数は A =16.59214, B =3643.314, C =−33.424。アントワンの式を用いて
77.29℃(=273.15+77.29=350.44 K )におけるそれぞれの蒸気圧を求める。
ln p° = A −
水の場合
B
(TH 2O + C )
3984.923
(350.44 − 39.724)
ln p Ho 2O = 16.56989 −
=3.7449
p Ho 2O =42.306 kPa
メタノールの場合
ln p° = A −
B
(TC2H5
OH
o
ln pCH
3OH = 16.59214 −
+ C)
3643.314
(350.44 − 33.424)
=5.0996
o
pCH
3OH =163.96 kPa
水とメタノールの蒸気圧はそれぞれ約 42.306 kPa, 163.96 kPa である。上述の気液平衡の基礎式に
代入すると、
p = x1 p1o + x 2 p 2o
= 0.2 × 163.96 + (1 − 0.2) × 42.306
=66.637 kPa
24
= 500 mmHg
2) Margules 式を用いてメタノール−水系の 500mmHg における気液組成を計算するプログラム
を作成し、下の表を完成せよ。ただし下つきの添字 1, 2 はそれぞれメタノール、水を表す。また、
Margules 定数は,A=0.8158, B=0.4388 とする。
表 8.3 Margules 式により計算した 500mmHg における
メタノール(1)−水(2)系の気液組成の計算結果
x1[-]
y1[-]
T[℃]
γ1[-]
γ2[-]
lnγ1[-]
lnγ2[-]
0
0
88.71
2.261
1.000
0.816
0.000
0.2
0.595
70.93
1.531
1.043
0.426
0.042
0.4
64.90
0.6
60.94
0.8
57.48
1.0
54.26
ただし、2 成分系の場合、マーギュレス式とその定数(メタノール−水系の場合)は次のように与え
られる。
lnγ1 =x22 {A+2(B-A)x1} ,
lnγ2 =x12 {B+2(A-B) x2 }
A=0.8158、B=0.4388
例として, x1 =0.2 の場合の計算を示す。 T=70.93℃と仮定すると,水のアントワン定数は A =
16.56989,B=3984.923,C=−39.724。メタノールのアントワン定数はA =16.59214,B=3643.314,
C=−33.424。アントワンの式を用いて 77.29℃(=273.15+70.93=344.08 K)におけるそれぞれの
蒸気圧を求める。
水の場合
ln p° = A −
B
(TH 2O + C )
ln p Ho 2O = 16.56989 −
3984.923
(344.08 − 39.724)
=3.4769
p Ho 2O =32.360 kPa
25
ln p° = A −
メタノールの場合
B
(TCH3 OH + C )
o
ln pCH
3OH = 16.59214 −
3643.314
(344.08 − 33.424)
=4.8643
o
pCH
3OH
=129.58 kPa
水とメタノールの蒸気圧はそれぞれ約 32.360 kPa, 129.58 kPa である。
Margules定数をA12=0.8158, A21=0.4388 とすると,x1=0.2 の場合,それぞれの活量係数 γ 1 , γ 2 は,
ln γ 1 = x 22 [ A + 2( B − A) x1 ]
= 0.8 2 × [0.8158 + 2 × (0.4388 − 0.8158) × 0.2]=0.426
ln γ 2 = x12 [B + 2( A − B) x 2 ]
= 0.2 2 × [0.4388 + 2 × (0.8158 − 0.4388) × 0.8] =0.042
よって、γ1=1.531、γ2=1.043
気液平衡の基礎式に代入すると,
p = γ 1 x1 p1o + γ 2 x 2 p 2o
=1.531×0.2×129.58+1.043×(1-0.2)×32.36
=66.637 kPa
= 500 mmHg
全圧p=500mmHgとなり、x1=0.2 では,70.92℃でp=500mmHg となることがわかる.この
時の気相組成y1は、
y1 =
=
γ 1 x1 p1o
p
1 × 0.2 × 129.58
66.637
=0.595
26
8.2 溶液モデル
活量係数を液相組成の関数として表した式を活量係数モデルといい、古くから知られているマーギ
ュレス(Margules)式、ファン・ラー(van Laar)式や 1960 年代以降に提案された局所モル分率
にもとづくウィルソン(Wilson)式、NRTL 式、UNIQUAC 式などがある。特に局所モル分率にも
とづく式は 2 成分系気液平衡から決定したパラメータを用いて 3 成分系以上の多成分系気液平衡を
精度よく計算できるので有効である。代表的な 2 成分系の活量係数モデルについて以下に示す。
〇
マーギュレス式
ln γ 1 = x 22 [ A12 + 2( A21 − A12 ) x1 ]
(8.25)
ln γ 2 = x12 [ A21 + 2( A12 − A21 ) x 2 ]
(8.26)
A12およびA21は気液平衡データから決定されるパラメータである.
○
ウィルソン式
⎛
Λ 21
Λ 12
ln γ 1 = − ln ( x1 + Λ 12 x 2 ) + x 2 ⎜⎜
−
⎝ x1 + Λ 12 x 2 Λ 21 x1 + x 2
⎞
⎟⎟
⎠
(8.27a)
⎛
Λ 21
Λ 12
−
ln γ 2 = − ln ( x 2 + Λ 21 x1 ) − x1 ⎜⎜
⎝ x1 + Λ 12 x 2 Λ 21 x1 + x 2
⎞
⎟⎟
⎠
(8.27b)
Λ 12 =
V2L
⎡ (λ − λ 11 ) ⎤
exp ⎢− 12
L
⎥
RT
V1
⎣
⎦
Λ 21 =
V1L
⎡ (λ − λ 22 )⎤
exp ⎢− 12
L
⎥
RT
V2
⎣
⎦
(8.28)
V1L、V2Lは成分 1 および 2 の液モル容積、(λ12 − λ11 ) および (λ12 − λ 22 ) は気液平衡データから決定さ
れるパラメータである。
例題 8.3 研究者Aは、2 成分系の過剰Gibbs自由エネルギーGEを液相組成の算術平均であると考え、
次式を提案した。
G E = ax1 + bx2
(8.29)
ここでaおよびbは定数である。活量係数γ1およびγ2を求めよ。また、このモデルの問題点を指摘せ
よ。ただし、過剰Gibbs自由エネルギーと活量係数γiの関係は、熱力学的に次式で与えられる。
RT lnγi=G E +
∂G E
∂G E
−∑xj
∂xi
∂x j
(8.30)
27
[解] 式(1)をx1およびx2で偏微分すると次のようになる。
∂G E ∂ (ax1 + bx2 )
=
=a
∂x1
∂x1
(8.31)
∂G E ∂ (ax1 + bx2 )
=
=b
∂x2
∂x2
(8.32)
よって、式(3)および(4)を式(2)に代入すると次のようになる。
∂G E
∂G E
∂G E
RT lnγ1 = G +
+ x2
− ( x1
) = (ax1 + bx2 ) + a − (ax1 + bx2 )
∂x2
∂x1
∂x1
E
(8.33)
=a
同様にγ2についても次のようになる。
RT lnγ2 = b
(8.34)
以上の結果より、γ1およびγ2は一定値となったが、実在溶液では図 8.1 に示すように液相組成に応
じて活量係数は大きく変化する。
0.8
0.7
lnγ1,lnγ2[-]
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
-0.1
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
x 1[-]
図 8.1 500mmHg におけるメタノール−水系の活量係数
○グループ寄与法(ASOG 式、UNIFAC 式など)
グループ寄与法は、実験データから推算するのではなく、分子構造などの基本的な情報のみから、
純物質、混合物の性質を予測することができる。また、複雑な分子や他成分系の混合物を取り扱いや
すいという特徴がある。しかし、混合物中の分子間の相互作用が複雑な系への適用が困難であり、位
28
置の異なる異性体の区別がつかないという短所もある。ここに ASOG 式基礎式を示す。
ASOG 式
lnγi = lnγiFH + lnγiG
lnγiFH = ln
(8.35)
viFH
viFH
+
1
−
∑ viFH x j
∑ viFH x j
j
(8.36)
j
viFH は、純成分のi中の水素原子を除いた原子の数xjは溶液中の成分jのモル分率である。
lnγGi = ∑ v ki (ln Γk − ln Γk( i ) )
(8.37)
k
ln Γk = − ln ∑ X p a kp + 1 − ∑
p
p
X p a pk
∑X
m
(8.38)
a pm
m
∑x v
=
∑ x ∑v
i ki
Xk
(8.39)
i
i
i
li
i
例題 8.4 ヘキサン(CH3(CH2)4CH3)(1)−n-プロパノール(CH3(CH2)2OH)(2)の混合溶液がある。ヘキ
サンの濃度x1=0.25 におけるCH3、CH2およびOHの各グループ分率、XCH3、XCH2およびXOHを求め
よ。
[解] ヘキサン−プロパノールの混合溶液を図 8.2 のように考える。よって、グループ分率は次のよ
うになる。
X CH3 =
2 x1 + x 2
5
=
6 x1 + 4 x 2 18
X CH2 =
4 x1 + 2 x2 5
=
6 x1 + 4 x2 9
29
X OH =
0 x1 + x2
1
=
6 x1 + 4 x2 6
9. マッケーブシール法による蒸留塔の設計
二成分系の精留塔の計算に使用されるマッケーブシール法もエクセルを用いて以下のように計算可
能である。計算結果の一例を以下に示す。
1
計算値.
対角線
濃縮線
回収線
階段作図
原料組成
留出液組成
缶出液組成
y1[-]
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
x1[-]
図 9.1 マッケーブシール法による精留塔の理論段数の計算結果
30
気液平衡組成
○グループ寄与法(ASOG 式、UNIFAC 式など)
グループ寄与法は、実験データから推算するのではなく、分子構造などの基本的な情報のみから、
純物質、混合物の性質を予測することができる。また、複雑な分子や他成分系の混合物を取り扱いや
すいという特徴がある。しかし、混合物中の分子間の相互作用が複雑な系への適用が困難であり、位
置の異なる異性体の区別がつかないという短所もある。ここに ASOG 式基礎式を示す。
ASOG 式
lnγi = lnγiFH + lnγiG
lnγiFH = ln
(8.29)
viFH
viFH
+
1
−
∑ viFH x j
∑ viFH x j
j
(8.30)
j
viFH は、純成分のi中の水素原子を除いた原子の数xjは溶液中の成分jのモル分率である。
lnγGi = ∑ v ki (ln Γk − ln Γk( i ) )
(8.31)
k
ln Γk = − ln ∑ X p a kp + 1 − ∑
p
p
X p a pk
∑X
m
(8.32)
a pm
m
∑x v
=
∑ x ∑v
i ki
Xk
(8.33)
i
i
i
li
i
例題 8.3 ヘキサン(CH3(CH2)4CH3)(1)−n-プロパノール(CH3(CH2)2OH)(2)の混合溶液がある。ヘキ
サンの濃度x1=0.25 におけるCH3、CH2およびOHの各グループ分率、XCH3、XCH2およびXOHを求め
よ。
[解] ヘキサン−プロパノールの混合溶液を図 8.2 のように考える。よって、グループ分率は次のよ
うになる。
X CH3 =
2 x1 + x 2
5
=
6 x1 + 4 x 2 18
X CH2 =
4 x1 + 2 x2 5
=
6 x1 + 4 x2 9
31
X OH =
0 x1 + x2
1
=
6 x1 + 4 x2 6
[例題] 2 成分系エタノール(1)−n-ヘプタン(2)(760mmHg)について、液組成x1=0.241 のと
き、エタノールの平衡蒸気組成 y1と沸点を ASOG式を用いて推算せよ。ただし、エタノール − nヘプタン系は CH2と OHの 2 グループ系とし、各グループ対パラメータ mk/l, nk/l および純成
分の νk,i, νiFH とAntoine(アントワン)定数は次のようである。
Ethanol(1)
:CH3CH2OH
ν CH2,1 = 2
ν OH,1 = 1
ν 1 FH = 3
B 1 =1623.22
A 1 =8.16290
n-Heptane(2) : CH3(CH2)5CH3
ν CH2,1 = 7
ν OH,1 = 0
A 2 =6.91740
B 2 =1276.623
C 1 =228.98
ν 1 FH = 7
C 2 =217.838
ASOG 式 の パ ラ メ ー タ
m CH2/OH =-41.250
m OH/CH2 =4.7125
n
n
CH2/OH =7686.4
CH2/OH =-3059.9
こ の と き 、 Antoine 式 は 次 式 の よ う に 与 え ら れ る 。
log10 p i ° = Ai −
Bi
C i + t[℃]
[プログラムの作成手順]
1.最終的に求めるもの
与える値(初期値)
仮定する値
2.理論
気液の平衡条件
y1,T
P,x1
T(二分法ならT0,TM)
fiv = fiL
(1)
fiv = yi P
fiL = γi xi Pio
(2)
(3)
Eq.(3) より、2成分系であるので i=1,2 から
y1 P = γ1 x1 P1o
y2 P = γ2 x2 P2o
(4)
(5)
Eqs.(4),(5)より、
P = γ1 x1 P1o + γ2 x2 P2o
(6)
P1o と P2o を計算するには Antoine式を用いるが、温度が既知でないと計算できない。したがって、
ある温度を仮定し、Eq.(6) から全圧 Pcalc を求めて、与えられた初期値の P と比較する。もし違
っていれば、温度 T を仮定しなおし、これを繰り返す。圧力が一致したときの温度が、求める平衡
時の温度である。なお、この温度を求めるために用いられる繰り返し計算法として、逐次代入法、2
分法などがある。
32
○具体的な計算例
まず、初期値や計算式を整理する(結果的に温度を72.29℃(345.44K)とする)。
ここでは、エタノールの液組成 x1=0.241 としたときの 蒸気組成 y1,沸点 T を求めるわけだが、
そのためには活量係数γiを計算しなければならない。ここでは、活量係数式として ASOG式を用い
て計算することにする。
P =760 mmHg
x1=0.241 より
∴ x2 = 1 − x1 = 0.759
求める活量係数γiは、次式で表現される。
ln γi =lnγiFH +lnγiG
(7)
ここで右辺の第1項は、溶液中の成分分子の大きさと形状の差異による寄与を表し、第2項はグループ
間の相互作用による寄与を表している。
1) 活量係数式の第1項(lnγiFH:Flory Huggins 項)の計算
lnγi
FH
= ln
νi
∑ν
FH
FH
j
xj
j
+1−
νi
∑ν
FH
j
FH
xj
j
よって、
lnγ1
= ln
FH
ν1
FH
ν1
FH
= ln FH
+ 1 − FH
FH
FH
ν1 x1 +ν2 x 2
ν1 x1 +ν2 x 2
3
3
+1−
= −1.1961
3 × 0.241+7 × 0.759
3 × 0.241+7 × 0.759
lnγ2
FH
ν2
FH
ν2
FH
= ln FH
+ 1 − FH
= −1.154 × 10 -2
FH
FH
ν1 x1 +ν2 x 2
ν1 x1 +ν2 x 2
2)活量係数式の第2項(lnγiG)の計算
lnγi = ∑νki (lnΓk − lnΓk )
(i )
G
(9)
k
これを計算するためには、グループ活量係数 lnΓiを求めなければならない。
2-1) グループ活量係数(lnΓi)の計算
33
lnΓk = − ln ∑Χ p a pk + 1 − ∑
p
p
Χ p a pk
∑Χ
m
(10)
a pm
m
(1) Wilson パラメータ ai(グループ間相互作用パラメータ)
ln aCH2/OH = mCH2/OH + nCH2/OH/T
∴ aCH2/OH = exp(−41.250+7686.4/345.44)
= 5.609×10−9
ln aOH/CH2 = mOH/CH2 + nOH/CH2/T
∴ aOH/CH2 = exp(4.7125−3059.9/345.44)
= 1.584×10−2
(2) 液組成(x1=0.241,x2=0.759)におけるグループ分率 ΧCH2, ΧOHの計算
よって、
ΧCH2=
=
ΧOH=
=
x1νCH2,1+x 2νCH2,2
x1 (νCH2,1 +νOH,1 )+x 2 (νCH2,2+νOH,2 )
=
2 x1 + 7 x 2
3x1 + 7 x 2
=
1x1 + 0 x 2
3x1 + 7 x 2
2 × 0.241 + 7 × 0.759
=0.9601
3 × 0.241+7 × 0.759
x1νOH,1+x 2νOH,2
x1 (νCH2,1 +νOH,1 )+x 2 (νCH2,2+νOH,2 )
0.241
=3.993 × 10 -2
3 × 0.241+7 × 0.759
(3) 標準状態(i=1; x1=1, x2=0,i=2; x1=0, x2=1)におけるグループ分率 ΧCH2,・ΧOHの計算
(1)
ΧCH2 =
(1)
ΧOH =
2 x1 + 7 x 2 2 × 1 + 7 × 0
=
=0.6667
3 x1 + 7 x 2 3 × 1 + 7 × 0
1x1 + 0 x 2 1 × 1 + 0 × 0
=
=0.3333
3 x1 + 7 x 2 3 × 1 + 7 × 0
34
(2)
ΧCH2 =
(2)
ΧOH =
2 x1 + 7 x 2 2 × 0 + 7 × 1
=
=1.000
3 x1 + 7 x 2 3 × 0 + 7 × 1
1x1 + 0 x 2 1 × 0 + 0 × 1
=
=0.000
3 x1 + 7 x 2 3 × 0 + 7 × 1
したがって、グループ活量係数 lnΓiは、
lnΓCH2=1 = 1−
ΧCH2
ΧCH2
ΧOH aOH / CH 2
−
− ln(ΧCH2+ΧOH aCH 2 / OH )
+ ΧOH aCH 2 / OH ΧCH2 a OH/CH2ΧOH
0.9601
(3.933 × 10 -2 ) ×
(1.584 × 10 -2 )
−
×
0.9601 + (3.933 × 10 -2 )
(5.609 × 10 -9 ) 0.9601 ×
(1.584 × 10 -2 )+(3.933 × 10 -2 )
- ln(0.9601 + (3.993 × 10 -2 ) ×
)
(5.609 × 10 -9 )
=2.929 × 10 -2
lnΓOH=1 -
ΧCH2 a CH 2 / OH
ΧOH
−
− ln(ΧCH2 aOH / CH 2+ΧOH )
ΧCH2 + ΧOH aCH 2 / OH ΧCH2 a OH/CH2 + ΧOH
= 3.188
また、標準状態(i=1:x1=1, x2=0 より, ΧCH2=2/3, ΧOH=1/3,および i=2:x1=0 x2=1 よ
り, ΧCH2=1, ΧOH=0)でのグループ活量係数 lnΓk(i)は、
lnΓCH2
(1)
= 1−
(2 / 3)
(1/3)
× 1.584 × 10 -2
(2 / 3) + (1 / 3) ×
(5.609 × 10 -9 ) (2/3) × 1.584 × 10 -2 +(1/3)
- ln((2/3) + (1/3) ×
(5.609 × 10 -9 )
)
= 0.3901
0 × 1.584 × 10 -2
1
lnΓCH2 = 1 −
(5.609 × 10 -9 ) 1 × 1.584 × 10 -2 +(1/3)
1+ 0×
- ln(1 + 0 ×
)
(5.609 × 10 -9 )
= 0.000
(2)
同様に、
lnΓOH(1) = 1.098,
lnΓOH(2) = 5.145
よって、活量係数式の第2項(lnγiG)は、
35
lnγ1G = νCH2,1(lnΓCH2−lnΓCH2(1))+νOH,1(lnΓOH−lnΓOH(1))
= 2×(2.929×10−2−3.901×10−1)+ 1×(3.188−1.098)
= 1.368
lnγ2G = νCH2,2(lnΓCH2−lnΓCH2(2))+νOH,2(lnΓOH−lnΓOH(2))
= 0.2050
したがって、求める活量係数γiは、Eq.(7)より
lnγ1 = lnγ1FH + lnγ1G = 1.172
∴ γ1 = 3.228
lnγ2 = lnγ2FH + lnγ2G = 0.193
∴ γ2 = 1.213
また、試行計算(二分法など)によって求めた温度 72.29℃ における各成分の蒸気圧はAntoine
式より、
P1o = 595.6 [mmHg],P2o = 328.7 [mmHg]
これから、エタノール,n-ヘプタンの蒸気組成 y1, y2 とその和を計算する。
y1 + y2 = (x1 γ1 P1o + x2 γ2 P2o)/760
= 1.008
よって、求める蒸気組成は
y1 =(x1 γ1 P1o / 760)/1.008 = 0.6048 [−]
y2 = 1 − y1 = 0.3952 [−]
36
10. 溶液モデルによる液液・固液平衡組成の計算について
10.1 液液平衡計算
液液平衡は各液相が互いに飽和の状態まで他方を溶解した後に 2 相となる状態であり、2 成分系の
溶解度と温度の関係は主に図 10.1 に示す 3 通りが上げられる。(a)の系は温度が上昇すると完全に溶
解するタイプであり、この点を上部臨界温度、上部臨界組成という。最も多く存在する型である。(b)
は逆に温度を下げていくと完全に溶解するタイプであり、この点を下部臨界温度、下部臨界組成とい
う。(c)は最も数少ないタイプで 2 つの臨界溶解温度をもつ型である。
3 成分系では最も多く見られるタイプは図 10.2 であり、一組の 2 成分系にだけ不溶解組成範囲が
あるものである。図では溶解度曲線で 2 液相領域が示され、2 液相領域には平衡状態にある液相 I と
液相Ⅱの組成をタイラインで結んでいる。溶解度曲線上の P 点はタイラインが最も短くなり、液相 I
と液相Ⅱの組成が等しくなるところで、プレイトポイントと呼ばれる。(b)のタイプは 2 組の 2 成分
系に部分溶解性がある系で、プレイトポイントは存在しない。
37
成分3
成分3
1液相領域
x3
1液相領域
x3
プレイトポイント
P
A
タイライン
A
タイライン
1液相
領域
B
2液相領域
B
2液相領域
成分1
成分2
x2
成分1
x2
a)
成分2
b)
図 10.2 3 成分系液液平衡1)
以下に 2 成分系の液液平衡計算の基礎式を導出する。液相Ⅰと液相Ⅱが平衡状態にあるとき、それ
ぞれの相のI成分におけるフガシティーfiが等しいことにより次式が成り立つ。
fiⅠ=fiⅡ
(10.1)
ここで各相のフガシティーは活量係数を用いて次式のように表せる。
fiⅠ=γiⅠxiⅠpi°、 fiⅡ=γiⅡxiⅡpi°
(10.2)
式(10.1)、(10.2)より以下の式が導ける。
γiⅠxiⅠ=γiⅡxiⅡ
(10.3)
2 成分系の場合に適応すると以下の式になる。
γ1Ⅰx1Ⅰ=γ1Ⅱx1Ⅱ、
γ2Ⅰx2Ⅰ=γ2Ⅱx2Ⅱ
(10.4)
式(10.4)より、Kiを次のように定義する。
x1Ⅱ γⅠ1
K1 = Ⅰ = Ⅱ 、
x1 γ1
γⅠ2
xⅡ
2
K2 = Ⅰ = Ⅱ
x 2 γ2
(10.5)
式(10.5)を変形すると次式を得る。
x1Ⅱ=K1x1Ⅰ、x2Ⅱ=K2x2Ⅰ=K2 (1-x1Ⅰ)
(10.6)
38
また、以下の式を式(10.6)に代入する。
x1Ⅱ+x2Ⅱ=1、 K1x1Ⅰ+K2(1-x1Ⅰ)=1、 x1Ⅰ(K1-K2)=1-K2
(10.7)
よって、2 成分系の液液平衡計算の基礎式は以下のように表せる。
xⅠ
1 =
1− K2
K1 − K 2
(10.8)
x1Ⅱ=K1x1Ⅰ
(10.9)
式(10.8)および(10.9)を用いると 2 成分系の液液平衡組成が計算できる。
39
例題 10.1 3 成分系液液平衡計算基礎式を導出せよ
[解] 液液平衡の条件は、n 成分系の場合、以下のようになる。
γiⅠxiⅠ=γiⅡxiⅡ
(10.10)
3 成分系の場合、Kiを次のように定義する。
Ki =
γ Ⅰi
xⅡ
i
=
xⅠi γ Ⅱ
i
(10.11)
また、式(10.11)は次式のように変形できる。
xiⅡ=KixiⅠ
また、3 成分系の場合、x1Ⅰ+x2Ⅰ+x3Ⅰ=1、
(10.12)
x1Ⅱ+x2Ⅱ+x3Ⅱ=1 となるので以下のようになる。
K1x1Ⅰ+ K2x2Ⅰ+ K3x3Ⅰ=1
K1x1Ⅰ+ K2x2Ⅰ+ K3(1‐x1Ⅰ‐x2Ⅰ)=1
K1x1Ⅰ+ K2x2Ⅰ+ K3‐K3x1Ⅰ‐K3x2Ⅰ=1
x2Ⅰ(K2‐K3)=1+ K3x1Ⅰ‐K1x1Ⅰ‐K3= x1Ⅰ(K3‐K1)+1‐K3
(10.13)
したがって、3 成分系の液液平衡計算の基礎式は次式のようになる。
X Ⅰ2 =
X Ⅰ2 ( K 3 − K 1 ) + 1 − K 3
K2 − K3
(10.14)
x3Ⅰ=1‐x2Ⅰ‐x1Ⅰ
x1Ⅰ=K1x1Ⅰ
x2Ⅰ=K2x2Ⅰ
x3Ⅰ=K3x3Ⅰ
(10.15)
(10.16)
(10.17)
(10.18)
40
上式を用いて計算すると 3 成分系の液液平衡組成を計算できる。
10.2 固液平衡計算
2 成分の固液平衡では,二つの成分がある割合で溶け合い固容体を作る場合と二つの成分がまった
く溶け合わない場合に分類できる。また、部分的に溶解する場合や化合物を作る場合もあり、この二
つの場合の相図は複雑になる。
図 10.5 は o-キシレン(1)−p-キシレン(2)の固液平衡を示す図である。図に示すEは共融点といい、
このときの温度、組成を共融点温度、共融組成と呼ぶ。
この系を構成する溶液を冷却することにより析出する結晶は、理論的に純粋である。固液平衡の一
般式は次式で示される。
f i L = f iS
(10.19)
f i L , f i S はそれぞれ純液体 i 成分および純固体 i 成分のフガシティーのことである.
f i L = γiL xiL f i ,Lid
(10.20)
f i S = γSi xiS f i S,id
(10.21)
このとき, f i ,id , f i ,id は純粋固体の i 成分および純粋液体の i 成分のフガシティーのことである。
S
L
式(10.20),(10.21)より次式が与えられる.
γiL xiL f i ,Lid = γSi xiS f i S,id
S
(10.22)
L
また, f i ,id , f i ,id の比をとると熱力学的に次式が求められる.
f i S,id
f i ,Lid
⎛ T
= ⎜⎜ m
⎝ Ti
⎞
⎟
⎟
⎠
⊿C i
R
⎡⎛ T − Ti m
exp ⎢⎜⎜
⎣⎢⎝ RT
⎞⎛ ⊿hif
⎞⎤
⎟⎜ m − ⊿C i ⎟⎥
⎟⎜ T
⎟
⎠⎝ i
⎠⎦⎥
(10.23)
もし液相,固相ともに理想溶液とするとラウール則より式(10.22)は以下の式に変形できる。
xiL f i ,Lid = xiS f i S,id
(10.24)
析出する固相は純成分の固体であるからxiS=1 より
41
x =
L
i
xiS f i S,id
(10.25)
f i ,Lid
ゆえに理想溶液の場合,次式で与えられる。
⎛ T
xiL = ⎜⎜ m
⎝ Ti
⎞
⎟⎟
⎠
⊿C i
R
⎡⎛ T − Ti m
exp ⎢⎜⎜
⎣⎢⎝ RT
⎞⎛ ⊿hif
⎞⎤
⎟⎟⎜⎜ m − ⊿C i ⎟⎟⎥
⎠⎝ Ti
⎠⎦⎥
(10.26)
11. コンピュータを用いた高圧プロセスの設計方法について
高圧気液平衡は平衡圧力が大気圧の数倍から臨界圧力までの範囲で測定された気液平衡をいい、高
圧気液平衡の大部分は温度一定の条件で測定されたものである。一例として図 11.1 にエタノールと
水の蒸気圧を示す。図のように水は 22.12MPa、642K、メタノールは 8.10MPa、512.58K で曲線が
消滅してしまい、幅広く存在しないことがわかる。この圧力、温度をそれぞれ臨界圧力、臨界温度と
呼ぶ。臨界圧力、臨界温度以上であれば、液相側は完全になくなり気液平衡が存在しなくなる。その
ため、気液平衡で使用した溶液モデルより状態方程式を用いて計算するのが一般である。
25
p20
20
臨界温度を越えると
蒸気圧がなくなる
pi0 [ MPa ]
溶液モデル
エタノールの
蒸気圧
15
10
p1 0
5
水の蒸気圧
適用範囲の限界
Tc1
0
P = γ1・χ1・p1 + γ2・χ2・p2
0
0
450
500
Tc2
550
60 0
6 50
700
T [K]
図 11.1 エタノールと水の蒸気圧曲線
高圧気液平衡の成立する条件は、次式で与えられる。
fiV=fiL
(11.1)
ただし、fiVおよびfiLは、成分iの気相および液相のフガシティーである。各相のフガシティーは気相
および液相のフガシティー係数を使ってあらわすと次のようになる。
42
f i V = pyiϕ iV
(11.2)
f i L = pxiϕ iL
(11.3)
高圧気液平衡は気相と液相のいずれにも適用できる混合物の状態方程式を用いて、気液各相のフガシ
ティー係数を求めれば計算できる。工業的に利用されている状態方程式として、SRK 状態方程式が
ある。SRK 状態方程式を混合物系に適用すると次のようになる。
p=
am
RT
−
v − bm v(v + bm )
(11.4)
状態方程式を用いて混合物系を計算するためには、状態方程式中に含まれる定数amおよびbmを純物
質の定数などから求める必要がある。定数amおよびbmは、以下のような簡易型混合則を用いて純物
質の定数aおよびbから決定できる。
a m = ∑∑ y i y j aij
(11.5)
bm = ∑∑ y i y j bij
(11.6)
aij=(1-kij)(aiaj)1/2
(11.7)
bij=(1-lij)(bi+bj)/2
(11.8)
i
i
j
j
なお、kijおよびlijは、相互作用パラメータである。SRK状態方程式を用いた場合のフガシティーは、
次式で与えられる熱力学基礎式にSRK状態方程式を代入することで求めることができる。
RT ln
∞ p
f
RT
=∫ ( −
)dV + RT ( Z − 1) − RT ln Z
p V n V
(11.9)
純物質の場合、フガシティーは次のようになる。
ln f = ln
RT
a
v
+
ln
+ Z −1
v − b bRT v + b
(11.10)
ただし、Z は圧縮係数であり、次式で表される。
Z = pV/RT
(11.11)
混合物系の場合、式(11.5)から(11.8)に示す混合則を用いた場合、成分の i のフガシティーは、次のよ
43
うになる。
RT ln
RTbi
am bi
V −b
f
=
− RT ln m
−
+
xi Vm − b
RT
bm (Vm + b)
(11.12)
b 1
V
+{2∑ x j aij − am i } ln m
bm bm Vm + b
j
44
12. 状態方程式(van der Waals型状態方程式とその工業的利用法について)
12.1
SRK 状態方程式による密度計算
例題
SRK 状態方程式を用いて、5.1MPa、−40℃(233K)におけるメタンのモル体積を計算せよ。
SRK 状態方程式は、以下のように与えられる。
p=
RT
aα
−
v − b v (v + b )
(12.1)
ここで、(1)式を以下のようにする。
f (v ) =
RT
aα
−
−p
v − b v (v + b )
(12.2)
(2)式を v について微分すると、次式が得られる。
f ' (v ) =
aα
aα
− RT
− 2 −
2
(v − b)
bv
b(v + b) 2
(12.3)
パラメータ a、 b、 m、 αは以下の式で示される。
a=0.42747R2Tc2/pc
b=0.08664RTc/pc
m=0.480+1.574ω−0.176ω2
α=[1+m{1-(T/Tc)0.5}]2
(12.4)
(12.5)
(12.6)
(12.7)
ここで、
R:ガス定数 8.314[Pa・m3・mol-1・K-1]
Tc:臨界温度[K](メタンの場合 190.6K)
pc:臨界圧力[Pa](メタンの場合 4.60MPa)
ω:偏心因子[−](メタンの場合 0.008)
(12.2)、(12.3)式をニュートン法に適用することで、温度 T および圧力 p における目的物質のモル体
積 v を決定することができる。
45
VBA プログラムリスト(SRK 状態方程式によるモル体積の計算)
プログラム入出力画面
計算回数およびメタンのモル体積
収束回数およびモル体積の収束状況
46
'======================================================
''SRK 状態方程式を用いたモル体積の計算
'======================================================
Sub SRK モル体積()
Dim P, R, T, Vm As Double
Dim a, b As Double
Dim NP, i As Integer
Dim targetin As Range
Dim targetout As Range
Set targetin = Range("A1:G7")
Set targetout = Range("A8: G100 ")
'入力場所の指定
'出力場所の指定
'=================入力=======================
T = targetin.Cells(6, 3) '温度の入力
P = targetin.Cells(6, 4) '圧力の入力
PC = targetin.Cells(6, 5) '臨界圧力の入力
TC = targetin.Cells(6, 6) '臨界温度の入力
W = targetin.Cells(6, 7) '偏心因子の入力
'===============ガス定数======================
R = 8.31451 '[Pa・m3/mol-1/K-1]
'============パラメーターの計算================
a = 0.42747 * (R ^ 2) * (TC ^ 2) / PC
b = 0.08664 * R * TC / PC
m = 0.48 + 1.574 * W - 0.176 * (W ^ 2)
alpha = (1 + m * (1 - (T / TC) ^ 0.5)) ^ 2
'==============初期値の入力===================
'(理想気体として計算 pV=RT)
Vm = R * T / P
NP = 0
i=0
47
'==============ニュートン法===================
Do
Vm0 = Vm
FX = R * T / (Vm - b) - a * alpha / (Vm * (Vm + b)) - P 'SRK 式
DF = -R * T / ((Vm - b) ^ 2) + a * alpha / (b * (Vm ^ 2)) - a * alpha / (b * ((Vm + b) ^ 2)) 'SRK
式の微分
DX = FX / DF
Vm1 = Vm0 - DX
Vm = Vm1
NP = NP + 1
'収束回数の計算
i=i+1
targetout.Cells(i + 8, 2) = NP
targetout.Cells(i + 8, 3) = Vm
'収束回数の出力
'各々の計算結果
Loop Until Abs((Vm1 - Vm0) / Vm0) < 0.0001
'==============計算結果の出力===================
targetout.Cells(5, 2) = a
targetout.Cells(5, 3) = b
targetout.Cells(5, 4) = m
targetout.Cells(5, 5) = alpha
targetout.Cells(9, 6) = Vm
targetout.Cells(9, 5) = NP
End Sub
48
12.2 SRK 状態方程式による pvT 計算
温度 173.15K、203.15K、233.15K、263.15K、293.15K におけるメタンの pvT 関係(p:圧力、v:モ
ル体積、T:温度)の関係を計算する。なお、本プログラムでは、温度 T およびモル体積 v を与えて、
圧力 p を計算した。
メタンの臨界定数
圧力の計算値
49
pvt計算プログラム
Sub SRK_pvt計算()
Dim PP(50、 50)、 R、 T、 Vm As Double
Dim a、 b、 m、 alpha As Double
Dim NP、 i、 j、 NV、 NT As Integer
Dim targetin As Range
Dim targetout As Range
Set targetin = Range("A1:G7")
'入力場所の指定
Set targetinT = Range("C10:G10")
Set targetinV = Range("B11:B46")
Set targetout = Range("C11:G100")
'出力場所の指定
'=================入力=======================
PC = targetin.Cells(6、 5) '臨界圧力の入力
TC = targetin.Cells(6、 6) '臨界温度の入力
W = targetin.Cells(6、 7) '偏心因子の入力
'===============ガス定数======================
R = 8.31451 '[Pa・m3/mol-1/K-1]
'============パラメーターの計算================
a = 0.42747 * (R ^ 2) * (TC ^ 2) / PC
b = 0.08664 * R * TC / PC
m = 0.48 + 1.574 * W - 0.176 * (W ^ 2)
'==============温度tとモル体積vを入力し、pを計算===========
NV = 35
NT = 5
For i = 1 To NT
For j = 1 To NV
Vm = targetinV.Cells(j、 1)
T = targetinT.Cells(1、 i)
alpha = (1 + m * (1 - (T / TC) ^ 0.5)) ^ 2
PP(j、 i) = R * T / (Vm - b) - a * alpha / (Vm * (Vm + b))
targetout.Cells(j、 i) = PP(j、 i)
Next j
Next i
End Sub
50
13. 超臨界流体利用技術(超臨界流体抽出プロセスの設計方法について)
13.1 超臨界流体
温度がT > Tcであれば、気体分子にいくら圧力を加えても液化されない非凝縮性気体である。臨
界点付近の高密度気体は、超臨界ガスまたは超臨界流体と呼ばれており、臨界圧力前後で、その溶解
能力が著しく変化することから、工業的にも種々の分野で利用されている。一例として、超臨界二酸
化炭素(SC-CO2)によるコーヒー豆からのカフェインの抽出プロセス(a)ならびに超臨界二酸化炭素
に対するカフェインの溶解度(b)を図 13-.1 に示す。図 13-1(c)に示すように、固体のカフェインが
ガスである超臨界二酸化炭素に溶解するが、その溶解度は、超臨界流体(1)−固体成分(2)の 2 成分系
と考えて、熱力学的基礎式から次式のように求められる。式の詳細な導出は、別紙に示す。ただし、
下付きの数字2は第 2 成分(カフェイン)である固体成分を示す。
p
v ( p − p2
1
y2 = 2
exp[ 2
G
p φ2
RT
SAT
S
SAT
)
]
(13.1)
高圧系
高圧系
低圧系
低圧系
分離器
(溶剤+目的物)
圧力弁
圧力弁
y(溶解度)
ここで、p2SAT、v2Sは、それぞれ固体成分の飽和蒸気圧と固体モル体積であり、φ2Gは固体成分の気相
フガシティ係数である。上付きの数字SATとGは、それぞれ飽和とガスを示す。また、式の導出にお
いて、
(i)固体中に超臨界流体は溶解しない、
(ii)純固体の気相フガシティ係数は1と近似できる、
(iii)固体のモル体積は圧力により変化しないとする三つの仮定を用いている。
温度一定
(T≧Tc)
原料
抽出器
Pc(圧力)
(b)溶解度 y の圧力変化
エントレーナー用
タンク
(目的物)
気体
圧縮機
圧縮機
CO2ボンベ
(a)半流通式超臨界流体抽出プロセス
固体
(c)溶解挙動
図 13.1 超臨界二酸化炭素抽出を用いたコーヒー豆からのカフェインの抽出の原理図
51
例題 13.1 温度 343.15 Kにおける超臨界二酸化炭素に対するフェナントレンの溶解度の計算値y2を
式(13.1)より計算し、表 13.1 の値となることを確認し、実験値と比較せよ。フガシティ係数φ2Gは、
状態方程式より計算された次に示す表 13.1 の値を用いよ。ただし、フガシティ係数φ2Gは、温度、
圧力、組成の関数であり、状態方程式とその物性定数の混合則より計算しなければならない。実際の
問題では、この問題のように与えられることはなく、状態方程式より計算する。この問題では表 13.2
の値を利用してSRK状態方程式に非対称形混合則を用いて計算したフガシティ係数φ2Gの値を与え
ている。
ただし、物性定数として、固体(フェナントレン)の固体モル体積vsならびに 343.15 Kにおける蒸気
圧p2SATをそれぞれ 0.1512×10‐3 m3・mol‐1、2.6872 Paとし、ガス定数Rを 8.31451 Pa・m3・mol‐1・K‐1と
する。
表 13.1 343.15 K(70℃)のときの各圧力におけるφ2Gおよびy2の値
P ×10‐5
計算値
実験値
計算値
[Pa]
φ2G
y 2×104 [-]
y 2×104 [-]
104.3
8.918×10‐3
0.227
0.502
118.1
3.961×10‐3
1.67
1.07
138.8
1.336×10‐3
5.08
3.02
207.7
2.419×10
‐4
16.3
16
276.7
1.480×10‐4
35
28.4
380.1
1.341×10‐4
39.4
39.5
414.5
1.409×10‐4
41.2
41.4
表 13.2 状態方程式の計算に用いた二酸化炭素およびフェナントレンの物性値
物質名
T c [K]
p c×10‐5 [Pa]
ω[-]
二酸化炭素
304.2
7.376
0.224
フェナントレン
878
2.899
0.431
[解] 表 13.1 の各パラメーターを用いて計算値y2を求める。
p2
v ( p − p2
1
exp[ 2
G
p φ2
RT
SAT
y2 =
=
S
SAT
)
]
(
)
⎡ 0.1512 × 10 −3 104.3 × 10 5 − 2.6872 ⎤
2.6872
1
−5
exp
⋅
⋅
⎢
⎥ = 5.02 × 10
8
.
31451
343
.
15
×
104.3 × 10 5 8.918 × 10 −3
⎣
⎦
上記の計算により、計算値y2=5.02×10-5が得られる。
同様の計算を他のパラメーターを用いて行うと、表 13.1 のようになる。
52
14. コンピュータを用いた超臨界流体抽出プロセスの設計
14.1 超臨界CO2に対するフェナントレンのような高沸点化合物の溶解度の基礎式導出
CO2を成分 1、フェナントレンのような高沸点化合物を成分 2 とする。固気平衡になるための熱力
学的な条件は、固相および気相における各成分iのフガシチーfiが等しくなることである。すなわち、
式(14.1)のような関係が成り立つ。
〔 fiS = fiG 〕T
(14.1)
、 P
固相における成分 2 のフガシチー係数φ2Sは、熱力学関係式により次式となる。
RT ln
f2
S
px 2
S
∫
=
p
0
ここで、φ2 S =
lnφ2 S =
1
RT
p
∫
0
(v 2 −
S
f 2S
px 2
RT
)dp
p
(14.2)
より、式(14.2)は以下のようになる。
S
(v 2 S −
RT
)dp
p
(14.3)
飽和条件下でのフガシチー係数をφ2SATとし、分子容v2Sは、固相であるため圧力により大きく変化
しない(仮定 1)とすると、以下のようになる。
lnφ2 S =
1
RT
p2SAT
∫
0
(v 2 S −
= lnφ2
SAT
+〔
= lnφ2
SAT
+
RT
1
)dp +
p
RT
∫
p
p2
SAT
(v 2 S −
RT
)dp
p
v2 S p
p
− ln p〕
p2SAT
RT
v2 ( p − p2
RT
S
SAT
)
p
− ln
p2
(14.4)
SAT
よって、式(14.4)を変形すると、式(14.5)のようになる。
ln(φ2
S
p
1
φ2
SAT
p2
)=
SAT
v2 ( p − p2
RT
S
SAT
)
(14.5)
式(14.5)を整理すると、式(14.6)のようになる。
φ2 S =
p 2 SATφ2 SAT
v S ( p − p 2 SAT )
exp[ 2
]
p
RT
(14.6)
53
ここで、固体が純固体であり気体が溶けない(仮定 2)とする。つまり、x2S = 1 といえるのでφ
2Sは以下のようになる。
φ2 S =
f 2S
f 2S
p
=
x2S p
(14.7)
よって、f2Sは以下のようになる。
f 2 = pφ2
S
(14.8)
S
式(14.6)より、f2Sは式(14.9)のように表される。
v2 ( p − p2
RT
S
f 2 = p2
S
SAT
φ2
SAT
exp[
SAT
)
(14.9)
]
固体成分の飽和条件下でのフガシチー係数φ2SATは、低圧であるため、ほとんど 1 とみなせる(仮定
3)ので、固相における成分 2 のフガシチーは、次式となる。
v2 ( p − p2
RT
S
f 2 = p2
S
SAT
exp[
SAT
)
(14.10)
]
一方、気相中の固体成分 2 のフガシチーは、次式となる。
f 2 = y 2 pφ2
G
(14.11)
G
平衡条件の式(14.1)と式(14.10)、(14.11)より、式(14.12)のように表される。
y 2 pφ2 = p 2
G
SAT
exp[
v 2 S ( p − p 2 SAT )
]
RT
(14.12)
よって、気相中の固体成分 2 の溶解度y2は、次式となる。
y2 =
p 2 SAT 1
v 2 G ( p − p 2 SAT )
exp[
]
p φ2 G
RT
(14.13)
ここで蒸気圧p2SAT、モル体積v2Sは定数として与えられているので、フガシチー係数φ2Gが求まれ
ばCO2に対する高沸点化合物の溶解度は算出できる。
54
14.2 SRK 状態方程式の混合物への適用
SRK 状態方程式は次式で示される。
p=
RT
a
−
v − b v (v + b)
(14.14)
ここで、定数 a、b は次式で与えられる。
a = a C {1 + m(1 − TC
b = 0.08664
0.5
(14.15)
)}2
RTC
pC
(14.16)
また、aC、mは次式で与えられる。
a C = 0.42747
R 2TC
pC
(14.17)
m = 0.480 + 1.574ω− 0.176ω2
(14.18)
状態方程式を混合物系に適用するためには、式(14.14)中の a、b を混合則を用いて計算しなければ
ならない。混合則を式(14.19)∼(14.22)に示す。
a m = ∑∑ y i y j aij
(14.19)
bm = ∑∑ y i y jbij
(14.20)
i
i
j
j
ここで、aij、bijは次式で与えられる。
aij = (1 − k ij )(ai a j )1 / 2
(14.21)
bij = (1 − l ij )(bi + b j )/2
(14.22)
式(14.19)、(14.20)を 2 成分系について展開すると、次式のようになる。
am=y1y1a11+y1y2a12+y2y1a21+y2y2a22
=y12(1−k11)(a1a1)1/2+y1y2(1−k12)(a1a2)1/2
55
+y2y1(1−k21)(a2a1)1/2 +y22(1−k22)(a2a2)1/2
ここで、k11、k22 = 0、k12 = k21より、式(14.23)のようになる。
=y12a1 + 2y1y2 ( 1 − k12 )( a1a2 )1/2 + y22a2
(14.23)
bm = y1y1b11 + y1y2b12 + y2y1b21 + y2y2b22
= y12 ( 1 − l11 )( b1b1 )1/2 + y1y2 ( 1 − l12 )( b1b2 )1/2
+ y2y1 ( 1− l21 )( b2b1 )1/2 + y22 ( 1 − l22 )( b2b2 )1/2
ここで、l11、l22 =0、l12 = l21より、式(14.24)のようになる。
= y12b1 + y1y2 ( 1 − l12 )( b1 + b2 )1/2 + y22b2
(14.24)
(ただし、下添え字 1、2 はそれぞれ第一成分、第二成分を表し、ここでは 1 がCO2を、2 がフェナ
ントレンを表す。よって、a1はCO2のデータより計算されたa値、a2はフェナントレンのデータより
計算されたa値となる。)
式(14.23)、(14.24)で算出されたam、bmの値を、式(14-14)中のa、bの部分に導入すると式(14.25)
になる。
y2 =
am
RT
−
v − bm v ( v + bm )
(14.25)
これが混合物系に適用する場合の SRK 状態方程式である。
14.3 フガシチー係数
混合物中の成分iのフガシチー係数φiは、熱力学基礎式と式(14.25)とにより求められる。
∞
RT lnφi = ∫ [(
U
∂p
RT
) T , U ,n j≠i −
]dV − RT ln z
∂ni
V
(14.26)
式(14.25)を用いて、式(14.26)を展開すると次式となる。
v
lnφi = ln
+
v − bm
2∑ y jbij − bm
j
v − bm
+
a m (2∑ y jbij − bm )
j
2
bm RT
56
(ln
v + bm
b
− m )
v
v + bm
−
2∑ y j aij
j
bm RT
ln
v + bm
− ln z
v
(14.27)
式(14.27)を成分 2 について解くと次式となる。
lnφ2 = ln
G
−
v + bm
b
2( y1b12 + y 2 b2 ) − bm a m (2 y1b12 + 2 y 2 b2 − bm )
v
+
+
− m )
(ln
2
v − bm
v − bm
v
v + bm
bm RT
2( y1 a12 + y 2 a 2 ) v + bm
ln
− ln z
bm RT
v
(14.28)
式(14.28)中のvが求まればφ2Gの値が算出できる。
14.4 気相側体積 v の算出
CO2とフェナントレンの混合気体の体積をニュートン法を用いて算出する。図 14-2 にp - v - T線図
を示す。図中の等温線と一定圧力の線と交点を求めると、そのときの体積が求まる。以下にニュート
ン法での体積(交点)の求め方の手順を示す。
1.任意の初期体積v0を仮定する。初期体積v0は、pv =RTの式より求めるが、今回はv0 =RT/p×0.5
として計算せよ。
2.等温線上の座標(v0、p0)を求める。
3.座標(v0、p0)で接線を引き、等圧線との交点を求める。
4. 3.で求めた交点のv値とv0とを比較する。
| v0 − v | / v0<0.001 ならばvの値を答えとせよ。
| v0 − v | / v0≧0.001 ならばvの値をv0として 2)から再び計算せよ。
5.溶解度の算出(フローチャートをよく参照すること)
超臨界CO2へのフェナントレンの溶解度を算出するプログラムを作ってみよう。プログラムフロー
チャートを図 14-3 に示す。プログラムの作成手順は以下に示す通りである。
57
500
pressure [ atm ]
400
300
200
100
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
volume [ l/mol ]
図 14-2
p-v-T 線図
図 14-3 超臨界流体に対する高沸点化合物の
溶解度の計算フローチャート
1) 各定数をコンピュータに入力する。
2) SRK状態方程式の定数a、bをCO2、フェナントレンについてそれぞれ算出する。
3) 超臨界CO2へのフェナントレンの溶解度の初期値y20を適当に仮定する。今回はy20の初期値には 1
×10-3を用いることを勧める。
4) 気相中のCO2のモル分率y1とフェナントレンとモル分率y20を用いて混合則を計算し、混合気体の
SRK式の定数am、bmを求める。
5) am、bmを導入したSRK式を用いて、ニュートン法により混合気体の体積vを算出する。
6) 気相中のフェナントレンのフガシチー係数φ2Gを算出する。
7) 超臨界CO2へのフェナントレンの溶解度y2を算出する。
8) 溶解度の初期値y20と溶解度の計算値y2を比較する。
y20 = y2のとき溶解度の計算値y2を出力し、計算を終了する。
y20 ≠ y2のときy2をy20として、再び 4)に戻り計算を続ける。
58
6.計算結果
343.15K、375.03atmにおける超臨界CO2に対するフェナントレンの溶解度は
以下のようになった。
y2=3.951×10-3
(参考)
以下にy20=0.001 の時の各計算値を示す。プログラムチェックに用いること
Temp.=343.15 K
Press.=375.03 atm
a1=3.2937
atm・ℓ2/mol2
a2=156.80
atm・ℓ2/mol2
b1=2.971×10-2 ℓ/mol
b1=0.2182
ℓ/mol
k12=0.197
l12=0.140
vG=5.654×10-2 ℓ/mol
φ2G=1.621×10-4
y2=3.269×10-3
59
15. 状態方程式の高度利用(状態方程式を用いた物性推算方法について)
状態方程式による蒸気圧計算
純物質のフガシティーは、(11.10)式を用いて計算できる。図 15.1 に状態方程式を利用した蒸気圧
計算のフローシートを示す。
なお、SRK 状態方程式により、蒸気圧を計算するにはフガシティーが必要となるが、純物質のフ
ガシティーは次のように導出できる。
SRK 状態方程式は次式で与えられる。
p=
RT
aα
−
Vm − b Vm (Vm + b)
(15.1)
また、圧縮因子 Z を
Z=
pVm
RT
(15.2)
とすると、熱力学的基礎式よりフガシティ f は次のようになる。
RT ln
∞ P
f
RT
=∫ ( −
)dV + RT ( Z − 1) − RT ln Z
V n
p
V
(15.3)
また、定義よりモル体積は次式となる。
Vm =
V
n
(15.4)
よって、SRK 式は次のように変形できる.
p=
RT
aα
−
Vm − b Vm (Vm + b)
(15.5)
p=
nRT
n 2 aα
−
V − nb V (V + b)
(15.6)
この式を上記の熱力学的式に代入すると、
RT ln
∞
f
RT
naα
RT
=∫ [
−
−
]dV + RT ( Z − 1) − RT ln Z
V
p
V − nb V (V + nb) V
∞
=∫ [
V
RT
aα 1
1
RT
−
( −
)−
]dV + RT ( Z − 1) − RT ln Z
V − nb b V V + nb
V
60
= [ RT ln
V − nb aα
V
−
ln
]∞V + RT ( Z − 1) − RT ln Z
V
b
V + nb
= − RT ln
= RT ln
V − nb aα
V
+
ln
+ RT ( Z − 1) − RT ln Z
V
b
V + nb
Vm
Vm
aα
+
ln
+ RT ( Z − 1) − RT ln Z
Vm − b b
Vm + b
RT ln
(15.7)
V
V
f
aα
= RT ln m −
ln m + RT ( Z − 1) − RT ln Z
p
Vm − b b
Vm + b
(15.8)
よって、
ln f = ln
V
Vm
aα
+
ln m + ( Z − 1) − ln Z + ln p
Vm − b bRT Vm + b
(15.9)
もしくは、
ln f = ln
RT
aα
v
+
ln
+ Z −1
v − b bRT v + b
(15.10)
例題 15.1 メタノールの 360Kにおける蒸気圧をSRK状態方程式にて計算せよ。また、相平衡状態に
あるとき、液相と気相のフガシティーが等しくなることを確認せよ。ただし、臨界温度Tc、臨界圧力
pc、Pitzerの偏心係数ω をそれぞれ表 15.1 に示す。また、平衡状態における気相の体積vV、液相の
体積vL 、気相のフガシティーf V をそれぞれ表 15.2 に示す。
表 15.1 メタノールの物性値
物質名
臨界圧力pc[atm]
臨界温度Tc[K]
偏心因子ω[‐]
メタノール
79.9
512.6
0.559
表 15.2 SRK 状態方程式によるメタノールの蒸気圧の計算
T[K]
300
320
340
360
380
400
a
16.161
15.362
14.606
13.890
13.212
12.567
B
0.046
0.046
0.046
0.046
0.046
0.046
Vl[dm3]
0.054
0.055
0.057
0.059
0.061
0.064
VV[dm3]
151.872
57.856
25.348
12.403
6.614
3.776
61
fl[-]
0.161
0.445
1.060
2.225
4.208
7.286
fv[-]
0.161
0.445
1.060
2.224
4.206
7.288
p[atm]
0.161
0.450
1.080
2.301
4.447
7.928
[解] 各相でのフガシティーは次式により求められる。
ln f = ln
RT
a
v
+
ln
+ Z −1
v − b bRT v + b
(1)
ここで、Z は圧縮係数であり、次式で表される。
Z = pV/RT
(2)
したがって温度 360 Kにおける液相のフガシティーf Lは、T=360 K、a=13.890、b=0.046、VL=0.059
l、p=2.301 atm、R=0.082 atm l/mol Kより、f l =2.225 となる。同様に気相側のフガシティーもf V
=2.225 となる。
START
仮定値 P
READ T, Tc, Pc , ω
EOSの定数の計算
a , b,m,α
気相
液相
初期値の決定
Vm=RT/P
初期値の決定
Vm=b/0.99
EOSよりVLの計算
(ニュートン法)
EOSよりVVの計算
(ニュートン法)
f Lの計算
f Vの計算
fL=fV
新しいP
P=P×fL/fV
No
Yes
RESULT P
END
図 15.1 状態方程式による蒸気圧の計算フローチャート
引用文献
1)斎藤正三郎、小島和夫、荒井康彦;
「例解演習化学工学熱力学」日刊工業新聞社(1980)
2)斎藤正三郎;「統計熱力学による平衡物性推算の基礎」培風館 (1976)
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