1日目 が 取 り ま と め を 行 い、「 総 合 的 せ る( 視 野 の 拡 大 ) ② 自 己 の 強い危機感を背景に な学習の時間」に行われる。今 あ る べ き 将 来 像(「 な り た い 自 「将来を見据え、大学で何をな 回、進路指導部で総合学習を担 分 」) に つ い て 深 く 考 え さ せ る ぜ学ぶのか」。こうしたキャリア 当 す る 山 口 敦 先 生( 地 学 ) と、 ③意欲・意識を高め、自ら進ん 意 識 を 育 む べ く、「 志 望 理 由 書 」 同じく進路指導部の副島明則先 で学習するように仕向ける と を書かせる高校が増えている。 生(数学)に話をうかがった。 の重点目標が掲げられた。 指導の核に「小論文」を置い その先駆けの一つが、佐賀県 「 プ ロ ジ ェ ク ト 」 の 背 景 を 山 立佐賀西高等学校(古賀信孝校 口 先 生 は こ う 説 明 す る。「 当 時 たのはなぜか。山口先生は「書 長)である。同校では平成 年 県内に併設型中高一貫公立校が く こ と で、 自 分 の 考 え を『 形 』 度 ~ 年 度 ま で「『 理 想 の 星 』 新設されることになり、本校の にし、なりたい自分を意識でき プロジェクト」(以下、プロジェ 先生方は強い危機感を抱いたそ ます。また、知らないことは書 ク ト ) と 銘 打 ち「 小 論 文 研 究 」 うです」。家庭学習時間の減少、 けませんので、教科で身につけ を実施。高校1年次から職業や 学 習 意 欲 や ス キ ル の 低 下 な ど、 た 知 識 も 生 か せ ま す 」 と 語 る。 学部・学科、学問研究を体系化、 「生徒の変化」も目立ってきた。 文章を書くことで、進路を「意 その成果を小論文にまとめる実 折しも長期不況で大学生は就職 識化」しようとしたのである。 践を、 年間積み上げてきた。 難。将来が不透明な中、学生に ●職業研究で視野を拡大 小論文指導は進路指導部(進 は生涯「学び続けること」が強 以後、小論文学習は「プロジェ 路 指 導 主 事: 笹 谷 留 里 子 先 生 ) く求められるようになってきた。 クト」をベースにしつつも、毎 年内容は見直されてきた。 こ の よ う な 状 況 下、「 い か に 生徒を主体的に『学び』に向か 資料①は 年間の構成をまと わせ、高きを目指させるか」を めたものである。 年次は「職 テ ー マ に、「 社 会 に 目 を 向 け る 業 研 究 と 学 問 研 究 」、 年 次 が こ と に よ り、 自 分 の 将 来 像 を 「学部・学科研究」、 年次は志 しっかり描かせ、学習意欲を喚 望校への「小論文指導」という 起する」ために試みられたのが、 流れである。また、各学年とも この「プロジェクト」だった。 「小論文テスト」を受験させる。 計 画 で は「 小 論 文 」 を 軸 に、 各学年の取り組みを見よう。 ①世界における自己と自己をと 年次の小論文は「職業研究」 りまく世界のありようを把握さ から始まる。総合学習は前期・ 学部学科を理解し、進路意識 の高揚と学習意欲の喚起を図 り、適切な文理選択を促す 1年生 学問研究 2年生 3年生 小論文講座・ 小論文模試・ 添削指導 人生の主体として、自己の進 路目標実現を目指させる 資料① 佐賀西高校の「小論文指導」の構成 資料③ 平成25年度 1年生後期総合学習「テーマ別研究」講座名 3 6 8 15 1 2 3 講 義 は 質 疑 応 答 含 め て 分。 各グループで予め質問を集約し て講師にFAXし、準備しても らう。例えば学芸員の講義を聞 いた生徒の感想には「落書きな ど、昔の人々のちょっとした息 抜きが、今になって大切なもの になっていること、絵の歴史を 探していくことが印象に残って い ま す 」「 ふ る さ と の 美 術 に つ いて一番の知識人になりたいと いう言葉に、情熱を感じました」 など、講師から強い刺激を受け たことがよく表れていた。 この後、生徒は先の視点1~ 3に「視点4(2つの取り組み で見えてきた『職業』について)」 を加え、夏休み後半に「最終報 告 書 」 を 提 出 す る。「 働 く こ と をリアルに知ることで、考えが 変わる子も少なくありません」 と山口先生。9月には職業研究 の総仕上げに小論文テストを受 験。テーマは毎年、「『職業研究』 を 踏 ま え た 上 で、『 私 の 目 指 す 仕事』というテーマで、800 字以内で述べなさい」である。 ●大学での学問を展望 年次の後半は、職業研究か 3 15 学部学科へのより深い理解を 学部・学科研究 促し、自己を客観的に見つめ させる 17 各自が将来の職業について具 体的に考える 13 職業研究 ・字幕翻訳家になるための文法 ・新聞をじっくり読んでみよう ・VBAによるプログラミング入門 ・歴史を彩った人物を調べる ・食品について(前半)/知っておきたいマナーの豆知識(後半) ・シュルレアリスムとアニメーション ・ 「佐賀弁」 の教授法の研究 ・言語と文化の関連の研究 ・社会・健康心理学を応用した対人(コミュニケーション)スキル研究 ・数学との戯れ 数学オリンピックにチャレンジ ・Great Speeches ・百人一首を楽しむ ・日本人論入門 ・幾何学入門 ・古代文字書作品制作 白川文字学を基に漢字の起源を探る 3 2015 / 8 学研・進学情報 -16- -17- 2015 / 8 学研・進学情報 キャリア教育が単なるイベント中心にならないためには、調べ学習や講義の内容を 振り返り、確認していく試みが不可欠になる。佐賀県屈指の進学校である佐賀西高校 では、13 年にわたり、小論文を軸とした本質的な進路教育がなされてきた。その模 様をレポートした。 2日目 90 佐賀西高校の小論文指導 後 期 に 分 け て 行 わ れ、 「職業研 その職業からそのテーマに、ど マ、計 人に及ぶ。生徒は文系 究 」 は 前 期 の 中 心 的 な テ ー マ。 う取り組んでいるのか(解決す (事務・営業・企画)、理系(技 実施は進路指導部が主体である。 る の か )、 現 状 と 展 望 」 を 調 べ 術 職、 医 療 ) か ら 一 コ マ ず つ、 て レ ポ ー ト を 作 る。 資 料 や レ 希望する講師の話を聞く。「一年 まず、個々の生徒は図書館の 本やパソコンを用いて、自分の ポートは 年間にわたって全て 生はまだ自分の興味も適性もわ 興味のある仕事を調べる。調査 「個人ファイル」にストック。生 かりません。そこで文系・理系 ではまず「〇〇〇として、△△ 徒は後で学習の軌跡を振り返る の両方を聴きます」(山口先生)。 △にどう取り組むか」の形で研 ことができる。 資料②には各講義のテーマと 究テーマを設定する。〇〇〇に 次いで現実の社会や職業に触 所 属 先、 職 種 を ま と め て あ る。 は職業名、△△△には社会的テ れる機会として 月末に行われ 「学芸員」から「会社経営者」 「大 ーマ、 問題点が入る。 そして、「視 ているのが、「職業人の話を聞こ 学 教 員 」「 医 師 」 な ど、 多 彩 な 点1 どんな職業か、どうやっ う 」 集 会 で あ る。「 以 前 は 事 業 顔ぶれである。希望者が多いの てその職業に就くか、 魅力」 「視 所見学を行っていましたが、事 は 文 系 が「 小 学 校 教 諭 」、 理 系 テーマについて(用語や 点 業所側への負担などもあり、今 が「 医 師 」。 い ず れ も ま だ 職 業 問題点の説明など) 」 「視点 では同窓生に来校してもらいま への知識が少ないためだ。「講師 す。皆さん、とても快く引き受 から直接話を聞き、想像と現実 けてくださいます」(山口先生)。 のギャップを感じて視野を広げ 講義は一コマ7~ 人で二コ るのが大切だと考えています」 と山口先生はその意図を語る。 興味深いのは、会の運営を生 徒が行うこと。グループで責任 者・司会・記録・質問係など7 つ の 係 を 分 担 す る。「 他 の 講 演 会などの運営も生徒に任せます。 中学までリーダーだった生徒が 高校で脇役になってしまうこと もあるので、こういう機会に役 割を通じて力を発揮してほしい と考えています」(山口先生)。 資料② 1年次「職業人の話を聞こう」グループと参加人数(平成26年度) 1 1 「書くこと」で意識化を図り、 主体性と社会性を身につける 2 人数 15 14 15 5 8 3 38 17 23 20 4 7 79 15 16 講師の職業(所属先) 学芸員(美術館) 会社経営 税理士(会計事務所) 弁護士 新聞記者 弁護士 小学校教諭 県庁職員 NPO代表 保健・医療学部教授 設計事務所職員 情報処理サービス業社長 医師(大学附属病院) 農学部准教授 工学部教授 グループ 感性を生かす コミュニケーションする お金・経済の動きを探る 法のもとに権利を守る メディアを通して情報を伝える 福祉を通して人を支援する 人の成長を助ける 社会の秩序を保つ 世界を舞台に活躍する 保健・医療の現場をサポートする 街づくり・空間づくりをする デジタル技術を使って社会を支える 人を治療する 動物・自然とかかわる 新しい技術を生み出す A B C D E F G H あ い う え お か き 特 別 レ ポ ー ト 高校でのキャリア教育⑥ ●特別レポート 高校でのキャリア教育⑥ ●特別レポート 高校でのキャリア教育⑥ めてある。例えば副島先生は大 ら「学問研究」への橋渡しがな 学時代の専門に関連づけて、「V されるが、これ以降は各学年団 BAによるプログラミング入 が主体となってプログラムを決 門」を講義。夏休みに専門書を めている。例えば副島先生が担 多数買い、授業の構想を練った 任だった平成 年度は「テーマ と い う。「 新 し い 知 識 も あ っ て 別研究」講座と題して、先生方 人が各自の専門分野に基づき、 苦 労 し ま し た が、 面 白 か っ た。 8回に及ぶ講義・演習を行った。 生徒も楽しんでくれましたね」。 生徒には第4希望まで書いても また、「佐賀弁講座」などは、 同じ県内でも唐津や伊万里、鳥 ら い、 聴 講 者 数 を 決 め た。 「高 栖など地域ごとに方言が異なる 校の勉強を大学の学問へとつな ことを調べたという。これらの げていこうという意図がありま うち年度末には5つの講座によ した」と副島先生。 り、体育館で発表会が行われた。 資料③にはそのテーマをまと 一方、平成 年度の 年生は 「自分の関心のある職業」につ いて、各クラスで全員がプレゼ ンテーションを実施し、クラス 代表を選んで体育館で発表した。 この年は「表現力の向上」を目 的にしていたという。 さて、1年次後期の重要な進 路 行 事 が「 文 理 分 け 」 で あ る。 月に希望調査を行い、 月に 決 定 す る。 前 出 の「 職 業 研 究 」 に加え、夏休みには「東京訪問」 (希望者中心に大学や研究所や 企業を訪問)や「学習合宿」を 実施。さらに、二学期後半に実 16 25 10 26 1 12 このように低学年からの本格 的な取り組みは、生徒の進路意 識にどう作用しているか。まず 副島先生は「文系、理系、両方 の視点から、職業や学部学科を 初志貫徹組、増える 災害医療の中で貢献したい」と 開を樹形図に表し、考える思考 の抱負が明確に打ち出されてい 技法。テーマに応じて「問題解 疑問 た。この他にも、 年生にもか 決 型 」「 是 非 型 」「 Yes-No 文型」「本質追究型」がある。 かわらず、非常に高いレベルで の志望理由書が幾つも見られた。 先の「プロジェクト」時代に は、「社会的なテーマ」を扱って なお、佐賀西高校では細かい いた。資料⑤は「最先端技術の 文 章 指 導 は 特 に 行 わ な い。 「ま 使い道と課題」をテーマに、「ナ ずは何を勉強していきたいのか ノテクノロジーの使い道とは何 の内容面を深めることを目指し か」を調べたロジックツリーで ています」 (山口先生) 。 ある。ナノテクノロジーの定義 2年後期からは、いよいよ小 を説明し、ナノテクノロジーが 論文入試を見据えた取り組みが 医療や化粧品、環境関連の物に 始まっていく。ここで佐賀西高 利用されている現状を示し、自 校が行っているのは、様々な問 分がこの技術にどう関わりたい 題課題について、どうテーマを のかを展望する構成である。 論じていけばいいのか、「ロジッ クツリー」を用いて論理展開を 現在は、「新書」を選び、ロジッ クツリーを展開して問題構成を 学ぶという試みである。ロジッ 整理する試みを行っている。 クツリーとは、物事を論理的に 以上を踏まえ、3年次は実際 分析・検討するときに、論理展 の小論文入試を踏まえた受験対 策へとシフトしていく。 2 施 し て い た「 大 学 の 出 前 講 座 」 前期はこの他に、教育実習生 を集めて「先輩たちの話を聞く」 を半年前倒して夏休みに実施す 機会を設けている。また夏休み るなどして、より多角的な視点 か ら 文 理 選 択 を 行 え る よ う、 にはオープンキャンパスへの参 加や、志望校の入試の過去問の 様々な仕掛けが組まれている。 収集などを積極的に勧めている。 ●「テスト」で研究を確認 「 年 生 に な っ て か ら、 大 学 の 年次の中心は「学部・学科 ことを調べるのでは遅いですか 研究」である。前期は自分の関 心 の あ る 学 部・ 学 科 に つ い て、 ら」と説明する、山口先生。 大学のHPや大学案内などにあ こうした学部・学科研究の成 果を検証するのが、 月の小論 たりながら、個々に調べ学習を 文テスト受験である。テーマは 行う。副島先生は「例えば教員 志望の生徒の場合、志望大学の 「 大 学 に 進 学 し て 学 び た い こ と について」(800字)。 教育学部に進学して本当に教員 実際に生徒さんの答案を拝読 になれるのかなどを調べておく ことが非常に大切です」と語る。 し た。 例 え ば A さ ん は、「 世 界 史の勉強の過程で未解読の世界 これらを元に、1グループ6 の古代文字に興味が湧いたこ ~7人での「小論文テーマ研究 中間報告会」(輪読会)を行う。 と 」 を 軸 に 東 大 文 学 部 を 志 望。 その理由として、東大文学部は 文系、理系ごとだが、例えば文 系は人文、社会科学、学際など 「 本 物 の 文 献 や 版 本 に 触 れ て 学 べ、古代文字研究に力を入れら 系 統 を バ ラ バ ラ に 組 む。「 輪 読 れる」と書かれてあり、大学の 会があることで、少ない時間に 特徴をよくつかんでいた。 多数の情報が得られます」と山 口先生。資料④は「食の安全性 また、佐賀大学医学部医学科 を目指すBさんも、志望大学の を追求するには、農学部と家政 学部のどちらに進学すべきか」 「カリキュラム」をよく調べて いた。そして災害の多い国土を を研究したもので、両学部の特 踏 ま え、「 将 来、 自 分 自 身 は、 徴が良く比較されている。 2 3 10 考えられています」と見る。必 一 方、 課 題 は 何 か。「 自 分 が ず立ち止まり熟慮して志望校を 担任の時代は、進路担当から『言 定めるため、進学後にミスマッ われるがままに』という傾向が チを訴える声は聞かれない。 強かったと思います。しかしい 「初診貫徹組」「チャレンジ組」 ざ 進 路 指 導 部 の 立 場 に な る と、 も 増 え て き た。「 第 二 希 望 の 大 『 当 初 の 先 生 方 の 思 い を き ち ん 学が後期で受かっても、もう一 と伝えていくのが非常に大切』 年浪人するという生徒が増えま だと痛感しています」と山口先 した」(山口先生)「早い段階で 生。また副島先生も「他校から 外へと目を向ける生徒も多いで 転任されたばかりの先生などに すね」(副島先生)。 は、口頭だけで理解してもらう のは難しい部分もあります。や ま た、「 大 学 情 報 に 早 く か ら 接しているため、入試情報の見 はりビジョンを共有することが 方も自然と身についています」 大 事 で す ね 」 と の 問 題 意 識 を と山口先生。ある大学の工学部 語った。クラス単位での実施と HPの入試科目に「物理」が無 なると、学年での横の連携と意 いことに気づき、大学に問い合 思疎通も大切。「今後は進路指導 わせ「陳謝された」生徒もいた。 部と、担任の先生方との議論が さらに大事だと考えています」 調べ学習や発表などの経験を 積み重ねていくことで、文章力 と山口先生は抱負を述べている。 やプレゼン力など、表現力も確 以上見てきたように、佐賀西 実 に 蓄 積 さ れ て い る。「 ス タ ー 高校の取り組みは、キャリア教 トラインが早いので、学ぶ項目 育としても小論文指導としても、 も少し高い次元へと到達できま 体系的で非常に優れたものであ す」と山口先生。また「ロジッ る。こうした取り組みで鍛えら クツリーの取り組みは、文章を れた生徒たちが、大学でどのよ 書くのが苦手な生徒ほど役に うに育っているのか、「その先」 立っているという話を耳にしま にも注目したいところである。 (取材・文/福永文子) す」と副島先生は語る。 2015 / 8 学研・進学情報 -18- -19- 2015 / 8 学研・進学情報 資料④ 小論文テーマ研究 中間報告書例 資料⑤ ロジックツリー例
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