第2報

広葉樹小径木の腐朽度判定法としての絶乾密度数に関する試験(第 2 報)
大 山 幸 夫
藤 岡
節
第 1 報において、シラカンバ、シナノキ冬山伐採無処理丸太について 8 月上旬切断し、
変色率、含水率及び絶乾密度数の分布等について調査した結果について報告した。即ちシ
ラカンバでは、周辺部の変色が中央部約 90cm まで達しているが、シナノキでは、木口より
数 cm の変色腐朽のみで、その他の部分は殆ど健全であった。又木口近辺の含水率は、両樹
種共繊維飽和点以上であり、且つシラカンバの中央部における腐朽も少ないので、絶乾密
度数より重量の損失を算定することが可能であった。
本報告においても前回と同様の試験を 9 月下旬に行い、変色腐朽率、腐朽率、含水率及
び絶乾密度数等の分布を検討することにより、重量未知の丸太の腐朽度判定の可能性及び
含水率円板の採取箇所等について更に結果を得たので、今後の丸太予備防腐試験の参考と
して報告する。尚本試験に対し理解ある御援助を賜った当所特産防腐研究室長小田島技師
はじめ、材料研究室小野寺技師に厚く謝意を表わします。
1. 試験方法
シラカンバ、シナノキ冬山伐採材(材長 1.8m、径 10cm 前後)を日射せる野外に並列に放
置し、9 月下旬全剥皮して両木口約 3cm 切断後 10cm ずつ輪切り、直ちに各供試片の重量
を測定し次の如く試験を行った。平均本数は各々3 本である。
1) 変色腐朽率及び腐朽率
各断面の変色腐朽部分及び腐朽部分を半透紙に写し取り、プラニメーターで各面積を測
定し、断面積に対する変色腐朽率及び腐朽率を算定した。
2) 絶乾密度
各供試片を数秒水浸して取上げ、表面附着水分が吸収された後直ちに重量既知の秤台上
に水槽中に完全に没したときの重量を迅速にはかり、その差より容積を測定して次式より
絶乾密度数を算出した。
絶乾密度数=供試片の絶乾重量/供生試片の容積
3) 含水率
各供試片をスクレッパーで 4 つ割りにし(小片の生じ
たときはこれも含める)、約 60℃で 2 昼夜乾燥後更に 105℃で 3 昼夜乾燥し、恒量を確認後
重量を測定し生重量及び絶乾重量に対する含水率を算出した。
4) 中央部に対する丸太の重量減少率
健全若しくは変色しているが殆ど腐朽していない中央部 3 ヶ所に対する各部の重量減少
率を次式により算出した。
中央部に対する重量減少率(%)=中央部の絶乾密度数−各部の絶乾密度数 ×100
中央部の絶乾密度数
2. 試験結果
1) 変色腐朽率、腐朽率
単木別にみると第 1 図(シラカンバ)及び第 3 図(シナノキ)の如くで、シラカンバ中央部(木
口より 90cm 面)で周辺が 60%前後の変色腐朽率を示し、腐朽率は 0∼15%で 3 本共同様の
傾向を示している。一方シナノキの元口側は、非常にむらが多く、中央部において 30∼60%
の変色腐朽率を示している。末口側では、元口側に比し、変色腐朽率、腐朽率及びむらも
少ない。又調査時期による比較は 5∼6 図の如く、8 月上旬におけるシラカンバ中央部は 20
∼30%の変色腐朽率であるが、9 月下旬では約 2 倍の 60%である。シナノキでは 8 月上旬
殆ど健全であったのが、9 月下旬に至り、極端にむらの多い変色腐朽を示し、木口より 10cm
の部分は、かなり腐朽していた。尚トビ傷数は、丸太 1 本に対し、シラカンバで 5∼24 コ、
シナノキで 9∼13 コである。
2) 含水率の分布
単木別にみると、シラカンバでは、むらが少なく、木口近辺の約 50%から上昇し、約 60cm
部分からピークになっている。一方シナノキでは、極端にむらが多く、特に末口 10cm 部分
は急激に低下し、3 本中 2 本は明らかに繊維飽和点以下になっている。8 月上旬と 9 月下旬
とを比較すると、シラカンバでは多少匂配が下廻っているのみで大差ないが、シナノキで
は、8 月上旬むらの少ない含水率を示していたが、9 月下旬に至り極めてむらが大きく、且
つ木口近辺において急激に低下している。
3) 絶乾密度数の分布
図で明らかな如く、単木別のシラカンバでは殆どむらが少なく、中央部で 0.47 前後、木
口近辺で 0.45 前後であるが、シナノキでは変色腐朽率及び含水率同様、極めてむらが大き
く、しかも木口近辺においては、逆に中央部より遥かに高い値を示している。又 8 月上旬
と比較すると、シラカンバは何れもむらが少なく、8 月上旬よりも多少低下しているが、シ
ナノキでは、8 月上旬よりむらが多く特に末口 10cm 部分は、逆に高い値を示している。
4) 丸太中央部に対する各部の重量減少率
シラカンバの木口より 10cm 部分の中央部に対する重量減少率は、8 月上旬の約 1.5%に
対し、9 月下旬では 4∼6%の重量減少率を示している。又供試木 1 本当りでは、8 月上旬の
1%以下に対し 9 月下旬で 2%前後の重量減少率を示している。
第1図
シラカンバ各単木別の変色腐朽率、腐朽率
第2図
シラカンバ各単木別の含水率(―――)、絶乾密度数(― ― ― )
中央部に対する重量減少率
第3図
シナノキ各単木別の変色腐朽率、腐朽率
第4図
シナノキ各単木別含水率(―――)、絶乾密度数(― ― ―)
第5図
シラカバ無処理丸太の 8 月上旬と 9 月下旬変色、腐朽率、含水率、絶乾密度数、
重量減少率の比較
第6図
シナノキ無処理丸太の 8 月上旬と 9 月下旬の比較(3 本の平均)
3. 考察
本結果による重量減少率は、9 月下旬におけるシラカンバ丸太中央部の変色率約 50% 、
腐朽率 5%前後(3 本平均値)と肉眼観察した部分を、変色腐朽率と絶乾密度数の曲線からみ
て重量の損失ゼロとみなし単木の重量減少率 2%前後の価を示したが、実際には僅かである
が重量の損失していることは明白であり、この数字より多少上廻る(1%以下と推定)のは当
然である。
冬山伐採されたシナノキ小径木を 8 月上旬まで日光の直射せる野外に放置した場合、変
色腐朽は木口より数 cm で他の部分は殆ど健全であったものが、更に 50 日足らずの放置期
間で本調査項目の総てにおいて極めてむらが多かった。この主な原因としては、シナノキ
小径木樹皮の木質部保護力が弱く、特に日射部分に
おいて多く変色が現れている。即ち変色腐朽率、含水率、絶乾密度数の 1 因子が、その部
分にむらのあるときは他の因子も大抵むらのあることである。従ってシナノキ単木の推定
含水率を知るため、含水率測定用円板を採取するときは、出来るだけ多くの部分を測定す
る必要がある。又肉眼的にかなり腐朽しているとみられる木口より 10cm の部分の絶乾密度
数が、中央部に比し殆ど変化ないか又は逆に高い値を示している。この原因は明らかにそ
の部分の含水率が繊維飽和点以下であることで説明され、従ってシナノキ小径木は、本法
の絶乾密度数による腐朽度の判定は不可能である。腐朽材と健全材との膨潤率に差が少な
ければ今後水浸時間を延長し高含水率の状態で試験する方法を検討しなければならない。
一方シラカンバは、9 月下旬における最低含水率が木口近辺で 50%前後を示しており、
絶乾密度数による腐朽度判定法として充分採用出来る。
4. 摘要
冬山伐採した広葉樹無処理丸太について 9 月下旬切断し、変色腐朽率、腐朽率、含水率、
絶乾密度数及び中央部に対する重量減少率等の分布について調査し、次の中間結果を得た。
変色腐朽率、腐朽率
シラカンバにおいては、単木ごとの差及び各部のむらも少なく、8 月上旬に比較し木口近
辺の全面変色長は約 10cm 伸び、中央部においては約 2 倍の 60%を示しており、何れも周
辺部が変色している。又肉眼観察による中央部の腐朽率は、3 本平均で 5%前後である。
一方シナノキは、8 月上旬において殆ど健全であったものが、9 月下旬に至り単木ごとの
差も大きく、又丸太各部のむらも極めて大きい。
含水率の分布
シラカンバの木口近辺では 50%前後で約 60cm まで上昇しピークになり、各部のむらも
少ない。一方シナノキにおいては前項同様丸太各部に極めてむらが多く、木口近辺の含水
率も繊維飽和点以下のものが多い。
絶乾密度数の分布
シラカンバでは、むらも少なく木口近辺の低下が明らかである。シナノキでは、前項同
様むらが大きく、特に木口近辺において逆に高い値を示した。従って本法によるシナノキ
丸太各部の絶乾密度数による腐朽度の判定は出来ないが、シラカンバでは充分可能である。
中央部に対する重量減少率
中央部における重量損失が僅少であるとみなした場合の丸太各部の重量減少率を絶乾密
度数から算定した結果、シラカンバ丸太 1 本の重量減少率は、8 月上旬の 1%以下に対し、
9 月下旬では 2%前後である。
以上は、8 月上旬についで 2 回目の中間結果であるが、11 月下旬の防腐試験の調査と平
行して結論を出す予定である。
−林指特産防腐研究室−