今後の脱炭素化とCCSの役割 茅 陽一 (公財)地球環境産業技術研究機構・理事長 2015.10.2 1 目次 1.CO2ゼロエミッションの必要性 2.諸分野での化石燃料代替の可能性 3.電力構成の長期像とCCSの実現性 4.全エネルギー需要でみた脱炭素の可能性 とCCSの重要性 5.まとめ 2 図:CO2累積排出量と温度上昇との関係 Source:IPCC AR5 WG1, SPM、2013 3 抜本的脱炭素化の必要 IPCCの指摘 「CO2累積排出量と大気温度とはほぼ線形 の関係」 ⇒ 大気温度の安定化のためには CO2排出をほぼゼロとすることが必要 現在:一次エネルギーの8割以上を 化石燃料が占める ・・将来のゼロエミッションをどう実現するか? 4 2℃目標 図:4つのRCPの温度上昇パス(1990=0) 注:工業化以前-1990でほぼ0.6℃上昇 図:4つのRCPシナリオの排出曲線(ECS=3℃) 出所:IPCC AR5 WG1 ,Fig.SPM4 5 6 year Fig. CO2 emission for 2 degree target. Source: IPCC AR‐4 WG3 SPM 7 世界のGHG排出抑制への対応状況 1.殆どの先進各国は温度上昇2℃目標に合意 2.上記合意に対応する排出シナリオは 21世紀中にゼロエミッション達成の必要 3.殆どの先進各国は2050年GHG80%削減 目標に合意 8 Climate Change Act 2008 of UK • It is the duty of the Secretary of State to ensure that the net UK carbon account for all six Kyoto greenhouse gases for the year 2050 is at least 80% lower than the 1990 baseline, toward avoiding dangerous climate change. 9 10 バイオマスエネルギーの量的限界 バイオマスの代表:森林 日本:全面積の6割 世界:全面積の3割(耕地は1割) 森林年成長量に対応するエネルギー量 1)日本:17 ×106 ton oil /年 (日本の一次エネルギー需要の3%程度) 2)世界: 27× 108 ton oil /年 (世界の一次エネルギー需要の20%程度) 現実に使われているエネルギー とうもろこし・さとうきびよりのエタノール 60×106 ton /年 (日本の全自動車用燃料量とほぼ同じ) 11 世界の運輸部門CO2排出量 種類 自動車燃料 CO2排出量(対世界総排出量) 16% 船舶燃料 4% 航空機燃料 3% 総計 23% 12 自動車燃料の代替(1) ーバイオ燃料による代替ー *現実に米国・ブラジルである程度進行 *日本の場合 日本全燃料量~世界の現在の全生産量 したがって、日本での燃料の大部分 を輸入バイオ燃料で賄うことは殆ど 不可能 *世界の場合 セルロース→バイオ燃料が成功しても 量的に殆どの森林成長量を消費の必要 ・・・・長期将来に部分的にのみ可能 13 自動車燃料の代替(2) ーEVによる代替ー 電池の問題 問題点:1)電池重量 0.1kWh/kg前後? ⇒ 電池制約で走行距離に限界 2)充電時間 数時間? 3)電池コスト 低減の必要 可能性の一例 Singapore NTU: TiO2負極のLi イオン電池 利点:1)充電時間2分 2)充放電10,000回〈長寿命) 問題点:1)エネルギー密度0.07kWh/kg程度 2)未だ基礎実験段階 14 自動車燃料の代替(3) ーFCVによる代替ー 1.FCVの利点 1)水素充填時間数分 2)一充填で数百km走行可能 3)排気物が存在しないクリーン車 2.FCVの問題点:燃料の水素を何から作るか? *現状では NG,ないし石油 ・・化石燃料であるのでCO2排出 *電気→水の電気分解 再エネの電気でない限り総合効率が低い (一次E → 電力 → 水素 → 駆動用電力) 15 船舶・航空燃料の代替 1.世界需要 CO2排出でみて 世界全体の 5% 2.バイオ燃料の利用 現在ある程度の開発は実行中(例:RITE) ただし、量的にはかなり困難 世界森林成長量の4分の1が必要 16 民生エネルギー需要の代替 家庭全電化が回答? 空調:電力ヒートポンプ利用 調理:IHによる電力代替 従来のLPG,灯油利用は電力以外代替 不可能 17 産業の非電力エネルギー代替(1) ー鉄鋼・セメントプロセス用ー 1.鉄鋼 酸化鉄→コークスによる還元 CO2発生 2.セメント CaCO3 →CaO 必然的にCO2発生 上記2つのプロセスについては現在CCS 適用の研究プロジェクト進行中。ただし、完全 なゼロエミッションは相当にコスト高? 18 産業の非電力エネルギー代替(2) ープロセス等の熱需要対象ー 1.特性 対象業種によって多種多様 一般に数百度以上の高熱 2.主要需要対象(日本の場合) 化学工業: 0.5千万 oil ton 程度(石油) 鉄鋼業: 1 千万 oil ton 程度(石炭) 合計: 5 千万 oil ton 程度 バイオマス燃料代替は質的量的に困難? (日本の森林年間成長量の2倍) 個別に検討しない限り脱CO2の可能性不明 相当に脱CO2は困難 19 日本の電源構成の推移 100% 90% 80% 70% 再エネ 60% 石油火力等 50% LNG火力 40% 石炭火力 30% 原子力 20% 10% 0% 2005 2013 2030計画 20 図:日本人口の将来推計 21 電力における脱炭素 案1.従来型の電源構成 火力発電所へのCCS(CO2回収貯留)設置 案2.再生可能エネルギー中心の電源構成 再生可能エネルギー(太陽光発電・風力発電等) の大量導入 ただし 再エネの出力変動に対応するための 二次電池の大量設置が必要 22 2100年電力構成の2案 2010 総発電電力 (億kWh) 11,560 2030 政府推計 10,650 2100 案1 案2 7,500 原子力 25% 20~22% 28% 30% 再生可能E 水力 太陽光 風力 バイオマス 8% 8 - - - 22~24% 9 7 2 4 42% 12 15 10 5 60% 12 30 13 5 56% 26 3 27 30% 10 - 20 火力 石炭 石油 LNG 66% 37 4 25 10% 0 - 10 23 将来電源に対するCCS必要量 案1:従来型、火力による出力調整。 案2:再エネ型、二次電池による出力調整。 いづれも火力より排出されるCO2はすべてCCS処理。 100万トン/年 貯留井数 総数 30年容量貯留井 年当たり建設数 案1 火力調整型 12,100万トンCO2 4本/年 案2 二次電池調整型 2,800万トンCO2 1本/年弱 24 日本のCO2貯留可能性 1.貯留容量 RITEの過去2度にわたる調査によれば 日本周辺のCO2貯留容量: 1,460億トン 日本の現在の総排出の120年分 2.貯留とPA 主として周辺海域の地下帯水層のため、 Public Acceptance問題は比較的考えやすい 25 日本の長期CO2対策 CO2排出源 CO2削減対策 電力 燃料転換 CCS ○~△ 産業非電力E 鉄鋼業高炉 セメント製造 他産業 CCS(検討中) CCS(検討中) 大型施設のみCCS △ △ △~× 民生 全電化 ○~△ 運輸・自動車 EV化 ½程度? FC化 ½程度? NG水蒸気改質 プラスCCS △ △ △~× 運輸 航空機 国内船舶 バイオ燃料 対策の効果性 △ △ 問題点 出力調整用ツール (火力or電池) 数が多い 分散型水素stationと 大規模CCSの不一致 国際船舶は大きい (3億5千万トンoil) 26 まとめ 1.脱炭素対策の中で電力の脱炭素化は第一の鍵となる。 2.電力でのCCS利用は不可欠。 貯留容量は物理的には存在するがどれだけ実際に利用できるか? 今後は具体的な用地調査とコスト低減の努力が重要。 3.産業、運輸分野では、脱炭素の鍵は以下の2つである。 1)産業大型熱利用施設へのCCS導入 2)天然ガスよりの水素製造へのCCS導入 しかしその実現は容易ではなく、 1)では現実の施設の詳細な調査 2)では分散水素ステーションの立地とそのステーション への水素製造施設からの効率的供給方法の検討が重要。 4.CCSの役割はきわめて重く、その実現に政府も大きな努力をすべき。 27
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