1 ロシア連邦競争法と最近の動向 講師:瓜生糸賀法律事務所 外国法

ロシア連邦競争法と最近の動向
講師:瓜生糸賀法律事務所
外国法研究員ジュロフ・ロマン氏、弁護士上杉達也氏
日時:2015 年 5 月 19 日 13:30~16:30
1.ロシア連邦競争法の法源
(1)ロシア憲法
第 8 条第 1 項は商品等の自由移動、競争支援、経済活動の自由を保証する。また第 34 条第
2 項は独占及び不正競争を禁止する。
(2)連邦法
①民法第 10 条第 1 項は権利濫用、市場支配的地位の濫用を禁止する。その他②競争保護
に関する連邦法、③自然独占に関する連邦法、④行政的違反行為に関する連邦法、刑法
などがある。
(3)大統領命令、指令、連邦政府決定
(4)連邦反独占庁の法令
(5)判例
2.ロシア連邦競争法の執行機関
連邦反独占庁
大統領指令(2004 年 3 月 9 日付第 314 号)により創設。連邦政府が反独占庁の活動を管
理する。合計 84 の地方事務局があり、中央との権限分掌がなされている。例えば企業結合
規制において結合後の資産合計が 150 億ルーブル以下又は売上高合計が 300 億ルーブル以
下の事案は地方事務局に提出する、などである。
3.支配的地位の濫用
(1)支配的地位の定義(ロシア連邦競争法第 5 条)
①市場シェア 50%超の場合は支配的地位にある。50%以下でもシェア安定性、競争事業
者シェア、参入可能性、市場特性などを勘案して支配的地位と認定される場合あり。
②金融機関を除き、市場シェア 35%以下であれば支配的地位ではない。
③市場で 1 位から 3 位の事業者合計シェアが 50%超、1 位から 5 位の事業者合計シェア
が 75%超であれば、35%以下であって(その場合であっても市場シェア 8%以下の事
業者は除く)
、長期間(基本的に 1 年間)市場シェアの変化が乏しく、且つ新規参入困
難で、商品代替性がない場合は支配的地位と認定される。
④連邦法の定めがある場合は支配的地位と認定される。例えば、電力では 20%以上、通
信では 25%以上のシェアを持つ場合
⑤反独占庁の調査により市場シェアが 35%以下であっても流通取引に決定的な影響を及
ぼす場合は支配的地位と認定される。
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(2)濫用行為(ロシア連邦競争法第 10 条)
同条は支配的地位の濫用を禁止するが、濫用行為とは競争を妨害、制限、排除する行為
(又は不作為)及び他の事業者の利益を侵害する行為(又は不作為)と定義されており、
具体的には 11 の濫用行為が例示されている。
①独占的高価・廉価設定・維持、
②事業者排除による価格引上げ、
③不当拘束条件付取引、
④正当理由なき生産減少・縮小、
⑤正当理由なき取引拒絶、
⑥正当理由なき差別対価、
⑦金融機関による不当高価・廉価設定、
⑧差別的条件設定、
⑨市場参入・撤退妨害、
⑩法律により規定された価格設定の違反、
⑪電力卸売・小売価格の操作
(3)高度集中的商品市場における非差別的アクセス確保
ロシア連邦競争法第 5 条第 5 項により自然独占事業者は支配的地位にあるとされ、同 10 条
第 3 項は連邦法、連邦政府法令が非差別的アクセス確保の規制を制定することを認めてい
る。すでに「パイプラインによる石油輸送に関する自然独占事業者のサービスに関する非
差別的アクセス確保規則」があるが、Fourth Antimonopoly Package にも非差別的アクセ
ス確保を拡大する規定案が含まれている。
4.経済的集中規制
(1)ロシア連邦競争法第 27 条は事前承認を要する企業再編と法人設立を定めている。
①資産合計 70 億ルーブル超、前年売上高合計 100 億ルーブル超が基準となっている。
②ロシア連邦政府、中央銀行が別途決定した基準が適用されることもある。
③支配的地位にある事業者として一覧管理に登録されている企業。
(2)ロシア連邦競争法第 28 条は事前承認を要する株式及び資産取得を定めている。
上記(1)と同一基準がある。
(3)反独占庁は、市場シェア 35%以上及び支配的地位にある事業者を一覧管理する義務
がある(ロシア連邦競争法第 23 条第 1 項第 8 号)
。Fourth Antimonopoly Package には支
配的事業者の一覧管理登録を廃止することが盛り込まれており、経済的集中取引に対する
規制緩和が期待されている。
5.カルテル
(1)同一商品市場において販売を行っている競争事業者間の合意が下記の結果をもたら
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す場合、又はもたらすおそれがある場合には禁止される。(ロシア連邦競争法第 11 条第 1
項) ①価格設定、維持、②入札談合、③市場分割、顧客分割、④供給協定、⑤取引拒絶
(2)Fourth Antimonopoly Package には購入カルテルも違反とする規制案が盛り込まれ
ている。
6.合弁事業における事業者間の合意
(1)Third Antimonopoly Package により、ロシア連邦競争法第 11 条第 1 項に規定する
結果をもたらす可能性がある合弁事業における事業者間の合意は、下記の場合は許容され
ることになった。①特定商品市場における競争を排除する可能性がない場合、②第三者に
対する制限をもたらさない場合、③生産改善、商品流通・技術及び経済発展促進、直接投
資、事業者利益と同等の買主利益をもたらす場合
(2)Fourth Antimonopoly Package には、合弁事業における競争事業者間の合意がカル
テル被疑とならぬよう新たな規定案が用意されている。
7.連邦反独占庁の合議機関
Fourth Antimonopoly Package では、合議機関設置が予定されており、ロシア連邦競争法
のより適切な運用及び地方反独占機関による決定、命令の再審理が行われることになる。
8.排除措置と警告
(1)
先述のとおり、
ロシア連邦競争法第 10 条は支配的地位にある事業者が①競争を妨害、
制限、排除する行為(又は不作為)及び②他の事業者の利益を侵害する行為(又は不作為)
を禁止するが、①と②とには同様の制裁が規定されていた。そこで Third Antimonopoly
Package により当局は②については排除措置で対処することが可能となった。すなわち排
除措置をうけた事業者は是正措置をとれば行政処分を受けないという仕組みである。
排除措置と似た制度に警告があるが、これはあくまでも事業者の役員にたいして発令する
ものである。
(2)Fourth Antimonopoly Package では、排除措置の適用範囲が拡大される予定である。
すなわち支配的地位の濫用(ロシア連邦競争法第 10 条第 1 項第 3 号、5 号、6 号、8 号)、
不正競争行為(ロシア連邦競争法第 14 条第 1 項)
、他の行政当局による行為(ロシア連邦
競争法第 15 条)である。また警告についても事業者の役員に止まらず、他の行政当局の役
員に対しても発令できるよう検討がされている。
以上
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