国語部テーマ 一年間を見通した読みの観点の蓄積 ~子どもが自ら思考する課題づくり~ 国語科学習指導案 指導者:樋口 綾香 ゆうすげ村の小さな旅館(東京書籍三年上 茂市久美子) ~自力読みのための基礎作り~ 1.学年・組 第3学年東組(33名) 2.日時 平成27年5月18日(月)第3時限(10:45~11:30) 3.授業づくりの視点 本単元での提案 本教材は2年生で学習した「お手紙」からつながる物語教材である。本単元では、読解の基 本である読解の手がかり、つまり読みの観点を知り、それらを活用して自力で読む力を身につ けることをねらいとする。1・2年生で獲得した読みの観点(作者、題名、話の設定=時・場・ 人物、あらすじ、会話文、地の文)に加えて、中心人物(とその変容)、対人物、キーアイテム、 伏線という4観点を獲得させる。そのために1次では、既習の物語文での復習、比較を通して 本教材の特徴や構造を捉えさせ、学習の見通しを持たせる。本時では、読みの観点を基に一人 読みをして読み取った内容をつむぎあわせることで自力読みをアウトプットしていく。 さらに、同シリーズの「4月」の話を4観点を基に読み、視覚的に捉えられる X チャートを用 いて比較することで、作品どうしを関連づけたり作者を意識しながら読んだりする方法を身に つけさせたい。さらに、自力読みを評価するため、本教材のシリーズ他10作品や同作者のフ ァンタジー作品を多読させ、ブックトークをするという言語活動を行う。 教材について 児童について 物語の構造 本教材は、「ゆうすげ村の小さな旅館」に収められている12編 のうちの1つである「ウサギダイコン」という話である。小さな 旅館で起こる不思議な出来事を題材にして、ゆうすげ村の12ヶ 月が作品の中で描かれている。本教材は5月の話であり、1話目 の作品である。12編すべてに対人物の正体が動物だとわかる 伏線があるが、5月の本教材と4月の話は物語全体に関わる伏線 があり、12ヶ月の物語をうまくつなぐ役割がある。 「きつつきの商売」では、 場面の様子や情景から登 場人物の気持ちを考え、そ れを音読で表現する活動 を行った。しかし、物語を 構造的に読むことについ てはまだ経験が少ない。 「ゆうすげ村の小さな旅館」という場所の特殊性 ゆうすげ村という村に一軒の小さな旅館がある。旅館に来るさま ざまな客が対人物となり、不思議なもの(キーアイテム)を登場 させる。そのお客さんが帰ると1つの話が完結する。本教材では、 12編の中で唯一旅館の客ではない人物が対人物となっている。 ファンタジー作品ならではの物語のしかけ=伏線 対人物の「美月」がウサギであることがわかるヒントが随所に散 りばめられている。これらに気づくと読み返すおもしろさが増 え、読書の幅も広がるだろう。また、人物像を叙述を基に分析す ると、中心人物と対人物の家族関係や性格などにつながりがあ り、これも伏線となり得る。シリーズ他作品を読むと、さらに伏 線を見つけることができる。 発表において、自分の考え は言えるものの、その根拠 を叙述を基に伝えられる 児童は少ない。 朝読書の時間は静かに読 書に集中している。読ん だ本を紹介する「読書メ モ」に自主的に取り組ん でいる子がいる。iOS ア プリ「ビブリア」を活用し て日常的に友達と本の感 想を共有している。 指導にあたって 物語全体の構造から見えてくる、それぞれの場面での登場人物のかかわり合い、伏線による 山場への盛り上がりを捉えさせたい。そのために本文を1枚の紙に写し、児童が物語全体を 把握しやすいように工夫する。また、読みの観点の定着は、毎時間の学習の蓄積に他ならな い。児童との対話、児童同士の意見のつむぎあいを繰り返すことでより確かなものになるよ う、話しあい・聞きあいを活動の中に多く取り入れ、国語用語の定着を意識して指導言を発 するとともに観点に基づいた授業のふりかえりを毎時間記述させる。 4.単元目標および評価規準 単元目標 関心 意欲 態度 具体的評価規準 物語を読むことに興味を持 ・物語を読んで、おもしろいところや不思議なところ ち、物語のしかけを探しなが ら読もうとしている。 に着目しながら感想を述べようとしている。 ・読みの観点を基に、物語を構造的に読もうとしてい る。 読んだ物語のしかけに気づ ・ブックトークを通して、読みの観点を基に、物語の き、そのしかけが生み出すお おもしろさを紹介しようとしている。 話す もしろさを伝えようとして ・相手を見て、聞き取りやすい声の大きさや読む速さ 聞く いる。 を考えて話している。 ・友達の本の紹介を聞いて、自分の考えと比べながら 聞いている。 それぞれの場面で起きた出 ・中心人物の行動や気持ちに着目しながら、それぞれ 来事を読み取り、場面と場面 読む の場面の出来事について叙述を基に読んでいる。 とを関連づけて読んでいる。 ・同じ主人公が登場する物語を読んで、読みの観点を 物語のしかけを見つけるた めに、文章中の語や表現に着 目して読んでいる。 言語に 表現したり、理解したりする ついて ために、必要な語句を増やし の知識 ている。 もとに紹介している。 ・シリーズを通して描かれた登場人物の性格や気持 ちを読み取っている。 ・会話文や地の文の違い、心内語について理解して読 めている。 ・意見や感想を述べるために必要な語句を増やして いる。 理解 技能 5. 単元展開と指導言例(本時8/11) 次 時 内容と指導言 「お手紙」を読み、既習の読みの観点について確認するとともに、全体の構造としか 1 1 けについて考える。 →「だれの気持ちがいちばん変わったかな」 →「中心人物の気持ちは、どこで、どのように、どうして変わったのかな」 通読し、初発の感想を書く。 →「物語を読んで、おもしろいと思ったところや不思議に思ったところとその理由 を書きましょう」 2 物語のしかけについて知り、学習課題を確かめる。 →「物語をおもしろくしているしかけを探そう」 →「何がこの作品をおもしろくしていると思いますか」 学習の見通しを立てる。 「ゆうすげ村の小さな旅館」を読んで,場面分けをする。 3 →「場面を分けるとき、何を基準にして分ければよかったかな」 1場面に書いてある物語の設定についておさえる。 →「時・場・人物を確かめましょう」 中心人物と対人物についてイメージマップを使って人物像を考える。 →「中心人物と対人物はだれかな」 →「性格が分かるところはどこかな」( 一人読み→全体交流) 4 イメージマップから、中心人物と対人物のつながりを見つけ、物語全体の設定につい て考える。 →「人物イメージマップを作ろう」 →「二人がつながるところや、似ているところはないかな」 「どうしてこの二人は出会ったんだろう」 物語の伏線について場面ごとに考える。 →「美月さんがウサギであることがわかる手がかりを見つけましょう」=伏線 5 2 キーアイテムについて考える。 →「たくさんの伏線の中でいちばん大事な伏線はどれ?」 「どうしてそう思ったの」 2場面と対応する場面、山場の場面(5場面)の「つぼみさん」の行動、結末の場面 (6場面)の「美月」の手紙について考える。 6 →「2場面の出来事を考えよう」「2場面と内容が反対の場面はあるかな」 ・ →「5場面で、つぼみさんが『美月さんへ』と書いてこっそり帰ったのは、 7 なぜかな」 →「6場面で、わざわざ『ウサギの美月より』と書いたのは、なぜだろう」 →「この物語は他に11この話をあわせて1つの物語になっています」 「ゆうすげ村の小さな旅館(5月)」を読んで見つけたしかけと獲得した読みの観点 8 (本時) を基に、同シリーズの「4月」の話を読み、新たな伏線を見つける。 →「新しく学習した読みの観点について復習しましょう」 「どんな伏線があったかな」 「4月の話を読んで、中心人物・対人物・キーアイテム・伏線についてワークシ ートにまとめましょう」 「5月と比べて気づいたことを発表しましょう」 3 9 ファンタジー作品を読み、読みの観点(中心人物・対人物・キーアイテム・伏線)を ・ 基に読書メモを作成する。 10 本のおもしろさを紹介するシナリオを書く。 11 グループセッションでブックトークを行い、その感想を交流する。 6.本時の目標 「ゆうすげ村の小さな旅館(5月)」を読んで見つけたしかけと獲得した読みの観点を基に、 同シリーズの「4月」の話を読んで、物語の伏線やシリーズ読書のおもしろさを見つけること ができる。 7.指導言を中心とした本時の展開 及び 予想される児童の発言・行動 [かまえる] 新しく学習した読みの観点は何 物語を読むためには、中心人物と対人物の行動や気持ち でしたか。 に着目して読まなければならないことや、キーアイテム が展開に大きく関わっていることなどを意識させるため に、これまでの学習を振り返り、獲得した読みの観点と その内容を X チャートにまとめる。 「中心人物はつぼみさん」 「対人物はウサギの美月さん」 「キーアイテムはウサギダイコン」 伏線にはどんな効果がありまし 本時の学びに深く関わる伏線の効果について児童の考 たか。 えを明らかにしておく。「ふかめる」段階での学びの深 化を実感させるねらいがある。 「美月さんがウサギだとわかるヒントがあったよ」 「伏線があると最後まで読むと納得したり、驚いたりす るから読むのがもっと楽しくなるよ」 [のぞむ] 「4月」の4観点について一人読 みをして読み取ったことをワー クシート書きましょう。 同じシリーズの話を読むことで、重要な読みの観点「中 心人物・対人物・キーアイテム・伏線」について比較し ながら読ませることができる。一人読みを宿題(事前学 習)として取り組ませ、4観点について読み取ったこと をプリントに書き込ませておく。そうすることで、スム ーズにグループ交流ができるようにする。 エキスパートグループで1グル ープ1観点について話し合いま す。 「対人物は熊井さんだね」 「中心人物は変わらずに、つぼみさんだ」 「キーアイテムは風船と薬、どっちかな」 [ひらく] 元のグループに戻って、自分が話 ジグソー学習を取り入れ、エキスパートグループで深め し合った観点についてみんなに た読みをジグソーグループに戻って説明するという活 伝えましょう。(ジグソーグルー 動を取り入れ、3次のブックトークへ向けて、自分の読 プ) みを説明する力を身につけさせる。 「中心人物は、みんな同じ意見でつぼみさんだったよ 「キーアイテムは、迷ったんだけど、風船だということ になったよ。なぜなら、まほうが関係しているから」 4観点で読み取ったことを発表 しましょう。 4観点の内容を比較する活動を生むため、5月の X チ ャートの横に4月の X チャートを板書し、視覚的に共 通点、相違点を捉えやすくする。また、相違点の中に共 通点を見出すことが作品どうしの伏線を見つけること につながる。 [ふかめる] 「5月」の4観点と比べ、気づい 1つの話の中での伏線を学習してきたが、その枠を超 たことはありませんか。また、作 え、作品どうしの伏線を見つけさせたい。そのため、こ 品同士がつながっているところ こでの比較は4観点の中でも伏線に焦点化する。する も探してみましょう。 と、「5月」の手紙が、実は1年越しの伏線だったこと が分かる。このような読みの体験を通して、新しい読書 のしかたを身につけたり、楽しんだりして物語を読んで ほしいと考える。 「対人物の名前はいつも動物の名前からきているみたい」 「4月のお話は 5 月につながっているんじゃないかな」 「5月の最後の手紙は、4月の後の5月につながる伏線に なっているよ」 「他の月の作品も読んでみたいな」 [ふりかえる] 5月と4月の「ゆうすげ村シリー 読みの観点を基にして、同じ作者のシリーズ作品を読む ズ」の作品を読んで、物語を読む ことで、お話がつながっていく楽しさや、ファンタジー 楽しさについて考えたことをふ 作品のしかけを見つけながら読む楽しさを感じさせた りかえりに書きましょう。 い。この学習をきっかけにして、読書の幅が広まり、新 たな読み方を楽しめる児童が増えることを願う。 8.板書資料 2時 3時 4時 5時
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