イタリア語話者のための会話教材における発音表示 小林 ミナ (早稲田大学) 藤井 清美 (金沢工業大学) 栁田 直美 (一橋大学) 【目的】 イタリア語を事例に母語ごとのローマ字による発音表記を開発する。 【問題の背景】 音声コミュニケーショ ンの1つである会話教 育では,音声だけを媒 体とした学習が可能で ある。しかし,理解や 記憶のために何らかの 表記が必要になること がある。 ただし,そこに日本語 の正書法が介在する必 要はない。アルファベ ットを用いる言語の母 語話者であれば,ロー マ字表記を用いること は,有効な手段の1つ になる。 そのローマ字表記は, 学習者にとって,日本 語を「音として理解し, 産出する」ことに役立 つものでなければなら ない。 また,学習者の母語を 考慮して,母語ごとに 開発される必要がある。 【調査の概要】 【結果】 目的①日本語を「音と <表記データ>★ [1] すみません,ここって無料の Wifi ありま して理解,再生するこ すか と」を目的とするロー Sumi-ma-sen kokottè muriòo no Wifi マ字表記が母語によっ arimaskà? [2] 別々でお願いします。 て異なるかどうかを明 Betsu betsu de onegai shimàs らかにする。 [3] あのー,これ使えますか。 Anoo core tsukàe-maskà? 目的②母語を配慮した [4] 一括で。 ローマ字表記を作成す Ikkatsu de. る際の留意点を明らか [5] これ温めてもらえますか。 Korè, àtata-metè moràe-maskà? にする。 [6] 雨が降らなくて良かったですね。 Ame ga fura-nakte yo-katta des ne. 協力者 [7] みんな同じ格好だから,子どもがどこに いるかわからないですよね。 イタリア語母語話者 1 Minna onagi kakkòo dakarà, kodomo ga 名(日本語レベルは上 doko ni iru ka uàkara-nai des yo ne 級)。 [8] ご質問ありがとうございます。 goshitsu-mon arigatòo gozai-mas [9] お答えになっていますでしょうか。 方法 Oko-tàe ni natte imàs deshòo ka 12 の日本語表現★を [10]ありがとうございます。今後の課題とさ せていただきます。 提示し, 「日本語の知識 Arigatòo gozài-mas.Kongo no kadai to をまったく持たないイ sasète itadàki-mas. タリア語の母語話者が, [11]見た,見た。 Mita mità. イタリア語の感覚で発 [12]いま記録更新中なんでしょ。 音したら日本語に聞こ Ima,kiròk kòoshin-chùu nan deshò. えるローマ字表記を作 成してほしい」と依頼。 注目すべき点 母音の無声化 →<表記データ> shimàs[2] 「なぜそのように表記 拗音 したのか」 「表記にあた muriòo[1] って難しかったところ 半母音ワ はどこか」を語っても uàkara-nai[7] らった。 →<プロトコルデータ> アクセントの付加 Mita mità[11] 【考察】 ■ 左記の注目すべき 点は,イタリア語の 音価と照らし合わ せても,きわめて妥 当である。 ■ アクセントの付加 などによって,プロ ソディレベルまで 反映できる可能性 がある。 ■ 英語話者に対する 調査結果(小林・藤 井・栁田 2014)とま ったく異なるロー マ字表記が得られ た。たとえば ー ー ー ー ーo h-g o h-zai-ee-mahs. [10] ahlree-gah-t K o hng-g o h n o h kah-dye toh sah-she-tey iy-tah dah-kee-mahs 【今後の課題】 ■ 異なる体系のロー マ字表記と母語話 者(日本語ゼロ)を 組み合わせた,定量 的な発音&聴取実 験。 ■ それぞれのローマ 字表記のさらなる 精緻化。
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