36 特集② アジアにおける環境民主主義の展開З1 アジアにおける環境民主主義の展開 大 久 保 規 子 アジア諸国では,近年,環境裁判所の設立(イ 整備が進んだが,依然として法が適切に執行され ンド),各種環境公益訴訟の導入(フィリピン), ないという課題がある.その原因は,官僚の腐敗, 環境保護法における「参加の章」の創設(中国)等, 施行細則の未整備,予算不足等,さまざまである 市民参加の強化が相次いで行われている.同様の が,参加規定の強化は,法の実効性確保にも寄与 環境民主主義のうねりは,世界各地で認められる. することが見込まれる. そこで,2015 年 3 月 9 日∼10 日に,大阪大学に 2012 年のリオ+20 を契機に,中南米でも,市 おいて,9 カ国の研究者,法曹,NGO を招き, 民参加に関する独自の地域条約を採択しようとす 環境問題と市民参加に関する国際会議を開催し る動きが具体化している3).アジア地域において, た1) .本特集は,計 現在,第 10 原則に関する独自の地域条約を採択 15 本の報告の中から,アジ ア 4 カ国の報告原稿を翻訳するものである. しようとする動きは見られないが,モンゴル,ミ 環境と開発に関するリオ宣言第 10 原則 (1992 ャンマー,中国等,オーフス条約への関心を示す 年)は,環境問題の解決には全ての人の参加が必 国も出てきている.バリガイドライン採択時の理 要であるとし,①情報公開,②政策決定への参加, 事会メンバーでもあった日本には,国内外におけ ③訴訟の重要性について述べている(以下,「第 るイニシアティブが期待される. 10 原則」という).この「第 10 原則」は「参加 (おおくぼ のりこ) 原則」とも呼ばれ,1998 年には,「環境問題にお ける情報へのアクセス,意思決定への市民参加及 び司法へのアクセスに関する条約 (オーフス条 約)が採択された.2010 年には,国連環境計画 (UNEP)において,「環境問題における情報アク セス,市民参加及び司法アクセスに関する国内立 法の発展のためのバリガイドライン (以下,「バ リガイドライン」という)が採択された. 国際 NGO の間には,バリガイドラインに基づ いて環境民主主義指標(EDI)を開発し,各国の現 状を見える化する動きも現れ,2015 年には 70 カ 国の暫定評価結果とデータベースが公開された2). 日本は 70 カ国中 32 位であり,アジアでは 4 位で あった.アジアのトップはインドネシア(17 位) であり,他のアジア諸国において,日本に先駆け た改革が行われていることが裏付けられた. アジアでは,1990 年代以降,急速に環境法の 注 1) この会議は,「環境法の参加原則に係る評価指標 の検討ИЙ環境民主主義の確立に向けた国際連携構 築 (科研費),「エネルギー,化学物質,水管理政策 における市民参加型の意思決定手法に関する国際比 較 (グローバル展開プログラム),「アジア版オーフ ス条約に向けた提言ИЙ環境正義実現のための国際 連携構築 (三井物産環境基金)の共催により行われ た.ディスカッションペーパー(英文)および報告資 料については,グリーンアクセスプロジェクトのホ ー ム ペ ー ジ よ り 入 手 可 能 で あ る (http▂ //greenac cess law osaka u ac jp/sympo /workshop2015 march). 2) 環 境 民 主 主 義 指 標 ( http ▂ / / www environmen taldemocracyindex org/)は,アクセス・イニシア ティブ(TAI)と世界資源研究所(WRI)が各国の協力 者とともに開発したものである. 3) http▂ //www cepal org/rio 20/principio 10/de fault asp?idioma=IN
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