不忍池のカモの減少が意味するものは - TOKYO

野 鳥・Tokyo
不忍池のカモの減少が意味するものは
しのばず自然観察会代表 小川 潔
東京上野の不忍池は、たくさんの水鳥を至近距
本来の餌場である水田が失われ
離で見られる場所として知られてきました。その
た東京周辺では、餌になる雑草
不忍池のカモの渡来数は、昨年 12 月末の調査で
園のようなものを用意すべきで
245 羽でした。
はないかと、公園管理所長と話
不忍池のカモの個体数推移を振り返ってみます
をしたこともありましたが、所
と、私がこの池のカモと付き合い始めた 1960 年
長交替で先には進みませんでし
代末以来、右肩上がりで年々個体数は増加し、
た。
1970 年代半ばころには「一万羽のカモ」とたび
ところで、カモの数は 2008 年より 600 羽前後
たび報道されたものです。1981 年年始からはし
になっていましたが、昨年 12 月には前年の 518
のばず自然観察会メンバーによる調査となり、そ
羽のほぼ半分になりました。この冬、不忍池で変
の年の 12 月から年末の日曜日という一定条件下
わったことといえば、蓮池の園路の新増設と改修
で カ ウ ン ト を 続 け て き ま し た。 初 期 に は 7 ~
の工事があります。ハスが覆った蓮池に張り出す
8000 羽台を上下し、1989 年には最大 8716 羽を数
浮島設置による園路増設は、蓮池の当該部分の周
えました。暖冬だった 1990 年の年末には 4707 羽
囲を完全に立ち入り禁止にして進められたので、
に減少したものの、翌年には 8610 羽に戻りまし
人がいない空間が数か月間つくられました。近年
た。その後、1993 年 12 月の 7599 羽を最後に減
はカモが見られる場所が人の集まる場所に限定さ
少の一途をたどりました。
れてきたので、こうしたことも影響している可能
この時期、カモ個体数減少の原因としては、上
性があります。これまでも池の部分的改修工事に
野動物園による給餌および餌の販売中止が考えら
よるカモ類の減少はその都度見られました。しか
れます。周辺に住む十数名の個人が大量のパンを
し、昨シーズンに減少が底を打って微増に転じた
撒くことから、給餌の是非が話題となった時期で
動物園池も含めて、今シーズンは不忍池の三つの
もありました。現在では、当時の人たちは高齢に
池すべてで半減しました。
なり、餌やりの顔ぶれも変わり、規模も小さくな
過去にも 1983 年、夏季に動物園池の浚渫工事
りました。餌が労せずして得られるという不忍池
が行われた後の冬季に 4000 羽台に激減したこと
の条件が変わったのと、別の場所にも安全な水域
がありました。夏の工事を冬鳥であるカモたちは
が増えて、カモが不忍池に集中する必要がなくな
知らないはずです。その冬の状態変化は、前シー
ったのが減少の主因と私は考えてきました。上野
ズンまで動物園池を覆っていたハスが除去された
公園の管理者である東京都による 2007 年からの
ことでした。こうした状況証拠から今シーズンの
餌やり禁止キャンペーンも、不忍池のカモの減少
カモの減少を見ると、上空までやってきたカモた
に追い打ちをかけたと見られます。
ちが蓮池の形状変化と工事に気づいて、着水を回
カモの数が給餌に依っていたとすれば、数の減
避した可能性も否定しがたいように思われます。
少は不忍池が持っている自然の収容力に近づいて
“水鳥の楽園”として、世界的に知られた上野・
いるとも見られ、さみしい気はしますが、健全な
不忍池のこれらの変化が何を意味するのか、興味
方向へ向っているのかも知れません。それでも、
を持って注視しています。
ユリカモメ No.702 2014.4
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