跛行馬50頭における手根骨と中手骨近位領域の

(6
3
)
文 献 紹 介
跛行馬50頭における手根骨と中手骨近位領域のMRI
所見
Magnet
i
cr
es
onancei
magi
ngf
i
ndi
ngs
i
nt
hecar
pusandpr
oxi
malmet
acar
palr
egi
onof50l
amehor
s
es
A.NagyandS.Dys
on
Equi
nevet
.J
.2012,44;163168
美浦トレーニング・センター 競走馬診療所 山﨑洋祐
現在、手根骨および中手骨近位領域の疼痛によって跛行を呈した馬の診断に、MRI
がしばしば使われるように
なってきた。しかし、その領域のMRI
所見は簡単に紹介されたものしかなく、詳細に報告されたものはない。
この研究の目的は、手根骨もしくは中手骨近位領域を原因とする跛行を呈した馬のMRI
所見を報告するととも
に、他の画像診断法の結果との関連をみることである。
材料と方法
41頭は片方の前肢の跛行(左前肢23頭、右前肢
2003年1月 か ら2010年9月 の 期 間 に お い て
18頭)であり、9頭は両前肢の跛行であった。跛行の
Ani
malHeal
t
hTr
us
t
で手根骨ならびに中手骨近位
発症期間は1週間から2年間(平均値3.
4ヶ月、中央
領域のMRI
検査を行った跛行馬50頭の診療記録を
値1.
5ヶ月)
であった。
調査した。対象はX線もしくはエコー検査がされており、
跛行馬50頭で跛行の原因となった前肢(58本)と
診断麻酔によって手根骨もしくは中手骨近位領域を原
健常前肢(7本)
のMRI
所見に関して検討した。
因とする跛行と診断された馬とした。年齢、種、性、
競技種目、跛行を呈した肢、発症期間および診断麻
X線、エコー検査所見
酔の記録を使用した。
X線検査での異常は、20頭で認められた。手根骨
6頭は 全 身 麻 酔 下 でヒト用 のs
hor
t
bor
neGE
が不透明になったものや、骨腫のような病変、関節周
Si
gnaEchos
peedmagnet1.
5Tを 用 い 高 磁 場
囲の軽度な炎症、第2第3中手骨間に軽度な骨膜形
MRI
検査を行った。44頭は鎮静下の立位で0.
27T
成などが確認された。
openmagnet(
Hal
l
mar
q社)
を用いて低 磁 場MRI
エコー検査では15頭で繋靭帯の近位に軽度な異
検査を行った。画像はT1強調またはT2強調グラディ
常と、1頭で深指屈筋腱の副靭帯が太くなっているの
エントエコー法で横断面、縦断面、背側の断面像を
が認められるのみであった。
画像化した。
MRI
の所見
結果
・主要な異常所見
対象馬の年齢は2歳から17歳まで(平均値6.
8歳、
も多く認められた異常所見は、手根骨の内側なら
中央値6歳)であった。品種はサラブレッド系24頭、
びに中手骨近位
温血種17頭、アラブ系4頭、その他5頭であった。
度が
競技種目は競走(
平地19頭、ナショナルハント1頭)
、
肢のうち27本が第3手根骨の内側に異常所見が認め
障害飛越(
8頭)
、馬場馬術(
8頭)
、総合馬術(
5頭)
、
られた。また、第2
と第3手根骨間などの
エンデュランス競技(
4頭)
および多種目(
5頭)
であっ
間に骨膜の
た。
位
内側の T1、T2強調像の
強
したことであった。跛行を呈した29本の前
する骨
生が認められた。さらに第3中手骨近
では掌側面の皮質骨でT1、T2強調像の
(6
4
)
馬の科学 vo
l
.
5
0
(1
)2
0
1
3
強度が減少していた。
である。跛行を呈していない前肢にも信号強度が少
し減少しているものもあったが、信号強度の減少の程
・跛行を呈していない前肢のMRI
所見
度と跛行の程度が符号することが考えられた。臨床
跛行を呈していない7頭の前肢では異常な所見は
的に、手根骨および中手骨近位の内側がより大きな
認められなかった。第3手根骨(
3頭)
および第3中手
力に暴露されていることを示唆する。骨内膜の粗造な
骨(
2頭)
近位端の内側でT1、T2強調像の信号強度
所見は、跛行を呈してない肢の手根骨では見られず、
の低下が認められたが、程度および範囲は跛行を呈
病的変化である可能性がある。軟骨または皮質骨の
した肢よりも小さかった。エコー像で深指屈筋腱の副
場合、これらの信号強度は低いため、診断に気を付け
靭帯や繋靭帯が軽度に太くなっていたものはT1、T2
なければならない。
強調像で正常な信号強度であった。
MRI
は、従来の画像診断によって検知されない
様々な病変の診断を可能にした。本研究は、MRI
検
考察
査をした跛行馬の予後を調査していないが、有用な
本研究で最も多く認められた異常所見は跛行を呈
予後の情報を提供できると考えられた。
した前肢の手根骨内側と第2、第3中手骨近位端内
MRI
には従来の画像診断技術と比較して、補足的
側でT1、T2強調像の信号強度が低下していたこと
な診断情報を与える可能性があると考えられた。