即興劇(インプロ)によるコミュニケーショントレーニングが 集団討論場面に

一般社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
IEICE Technical Report
即興劇(インプロ)によるコミュニケーショントレーニングが
集団討論場面に与える影響
月田 有香†1
高嶋 和毅†2
伊藤 雄一†5
横山 ひとみ†3
大坊 郁夫†6
市野 順子†4
北村 喜文†2
†1
Numenia LLC 〒107-0062 東京都港区南青山 2-2-15
東北大学 電気通信研究所 〒9808577 仙台市青葉区片平 2-1-1
†3
東京農工大学 大学院工学研究院 〒184-8588 東京都小金井市中町 2-24-1
†4
香川大学 工学部電子・情報工学科 〒761-0396 香川県高松市林町 2217-20
†5
大阪大学 大学院情報科学研究科 〒565-0456 大阪府吹田市山田丘 1-5
†6
東京未来大学 〒120-0023 東京都足立区千住曙町 34-12
†2
E-mail:
[email protected], {takashima, kitamura}@riec.tohoku.ac.jp
あらまし コミュニケーションスキルトレーニングとして脚光を浴びつつあるインプロが集団討論の場面に与
える効果を検証する.インプロ前後に,あるテーマにそった集団討論の場を設け,それらを主観評価や行動データ
によって比較することでインプロの効果を議論した.その結果,インプロによって,議論における表現力,解読力,
自己主張性,そして集団満足度が向上し,かつ葛藤が減少することが明らかになった.行動データからは,インプ
ロ実施後は,議論場面における発話音量が大きくなり,かつジェスチャも大きくなるといった行動の変化も見られ
た.以上より,インプロが集団討論場面に多くのポジティブな影響を及ぼすことを確認した.
キーワード 非言語情報,コミュニケーション,会話場
Effect of Improvisation Workshop on Group Discussion
Yuka TSUKITA†1
Junko ICHINO†4
†1
†2
†3
Kazuki TAKASHIMA†2 Hitomi YOKOYAMA†3
Yuichi ITOH†5
Ikuo DAIBO†6
Yoshifumi KITAMURA†2
Numenia LLC, 2-2-15 Minamiaoyam, Minato-ku, Shinjyuku, Tokyo 107-0072
Research Institute of Electrical Communication, Tohoku University, 2-1-1 Katahira, Aoba-ku, Sendai 980-8577
Institute of Engineering, Tokyo University of Agriculture and Technology, 2-24-16, Nakacho, Koganei, 184-8588
†4
†5
Faculty of Engineering, Kagawa University, 2217-20 Hayashicho, Takamatsu, Kagawa 761-0396
Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, 1-5 Yamadaoka, Suita, 565-0456
†6
Tokyo Future University, 34-12 Senjuakebono-machi, Adachi-ku, Tokyo, 120-0023
E-mail: [email protected], {takashima, kitamura}@riec.tohoku.ac.jp
Abstract This work validated effects of improvisation workshop on group discussion by analyzing subjective ratings from
participants and objective measurements of their non-verbal behaviors by sensors during the discussion tasks. We compared
two group discussion tasks with 8-person which were held before and after the improvisation workshop. The subjective
evaluation confirmed positive effects of the improvisation on the subsequent discussion in terms of participants’ encoding
ability, decoding ability, assertiveness, satisfaction with group discussion, and intragroup conflict (task conflict). Also, an
analysis of the non-verbal behaviors showed that volume of voices and hand gestures of participants increased after the
workshop.
Keyword Non-verbal information, interpersonal communication training
1. は じ め に
実現に向けて,多種多様なコミュニケーショントレー
他者とのコミュニケーションは,豊かな社会生活を
ニングが取り入れられている.その中で,最近注目を
営む上で不可欠であり,円滑なコミュニケーションの
集めつつあるものに,インプロヴィゼーション
This article is a technical report without peer review, and its polished and/or extended version may be published elsewhere.
Copyright ©20●●
by
IEICE
( improvisation; 以 降 , イ ン プ ロ と 略 す ) が あ る
い る [1].そ の た め ,多 く の 企 業 が 新 人 研 修 に 導 入 す る
[1][2][3][4]. イ ン プ ロ と は 即 興 劇 で あ り , 打 ち 合 わ せ
など近年急速に社会に浸透してきた.また,若年層の
や台本が存在しない.既成概念にとらわれず,その場
コミュニケーション力の向上を目的に,多くの大学等
の状況や相手に素早く柔軟に反応し,様々な身体や言
の教育機関が,インプロを用いた実践的なワークショ
動の表現によって,他の仲間と活発なストーリーを作
ップや授業を導入し,その効果の議論も進んできてい
って行く.インプロは,目的に応じて様々なプログラ
る [1][2][4].
ムから構成され,表現力,自己主張性や理解力といっ
インプロでは,即興劇を応用した多様なトレーニン
たコミュニケーション能力を高めることや,さらには
グプログラムがある.例えば,参加者が円形になり,
集団におけるチーム力(例えば信頼関係等)の向上に
見えないボールを投げあうキャッチボールを模倣した
も寄与する.そのため,演劇界にとどまらず,コミュ
ワークなどがある.ここでは,相手のニックネームを
ニケーションスキルが求められる企業の人材育成研修
呼んで,見えないボールを投げ,対象者は返事と共に
や対人援助職,教育場面で積極的に実践されており,
受け取り,また次の人に同様にボールを投げるという
その導入事例は急速に伸びている.
ことを繰り返す単純かつ簡単なワークではあるが,コ
一方,インプロの効果検証については,観察による
ミュニケーションにおける受発信,相手へのアイコン
参 加 者 の 変 化 の 質 的 な 検 討 [1]や 自 尊 感 情 の 研 究 [2]等
タクトや配慮など,人間がコミュニケーションを取る
があるものの,その効果性,すなわちインプロで身に
上で基本となる要素を,ワークを通して体感できるこ
つけることのできる表現力や,参加者の行動が実際に
と に 特 徴 が あ る .他 の 代 表 的 な プ ロ グ ラ ム と し て ,
“ Yes
どのように変化したかについては,十分に検討されて
and”が あ る . こ れ は , 対 話 に お い て , あ る 台 詞 や 提 案
いない.これらを明らかにできれば,インプロの理論
に対して表現と言動で完全な同意を示し,それに新た
的展開に加え,インプロによる効果的なトレーニング
な意見やアイデアを付け加えて返すものである.単に
法の開発等の実践的展開が可能となる.さらにその要
段取りが組まれたやりとりを繰り返すのではなく,そ
素を幅広いコンテンツ制作に利用することもできる.
の場を盛り上げるべく,即興で様々な表情やジェスチ
我々はこれまで,インプロの基本的なプログラムの
ャを考えたり,さらには気の利いた返しなどを考えた
効果を,各種センサを用いて客観的に評価する方法に
り す る .こ の 過 程 が ,対 話 や 相 手 の 提 案 へ 理 解 や 受 容 ,
ついて検討しており,インプロ内での参加者の表現力
対話のキャッチボールを楽しくかつ表現豊かに続ける
の向上を両手を使ったジェスチャの大きさで読み取る
意識を強化することが出来る.
こ と が で き る 可 能 性 を 示 し た [3].し か し ,イ ン プ ロ で
その他,インプロは人間関係力育成にも有効である
は,ファシリテータが参加者に多種多様な身体的表現
と い う 報 告 も さ れ て い る [4].こ の 報 告 で は ,構 成 的 グ
を促す場面を多く含んでいるため,インプロの真の効
ル ー プ エ ン カ ウ ン タ ー ( SGE) と い う 従 来 の 課 題 遂 行
果を検証するためには,インプロ後の参加者の行動の
を通した他者との関係性の向上を図る方法と比べて,
変化を見る必要がある.
インプロはより人間関係の強化に向く可能性を指摘し
そこで本研究では,インプロの前後にあるテーマに
て い る .SGE も イ ン プ ロ も 他 者 の 理 解 を 基 に し た ト レ
そった集団討論の場を設け,それらにおける主観評価
ーニングであるが,インプロのほうがより身体的な表
や非言語的な行動を計測し比較することで,インプロ
現 が 多 い こ と が 特 徴 で あ る .SGE と は 異 な り ,イ ン プ
の効果を検証する.討論の場面は通常の会話とは異な
ロは教育指導要領等にも記載されていない新しい方法
り,より表現力や自己主張性,さらにはグループの団
であるため,教育現場への展開に向けても,より詳細
結も求められるものであり,インプロで強化が期待で
な検証が望まれている.
き る ス キ ル と 関 連 が 深 い た め に 設 定 し た .本 実 験 で は ,
インプロ前後の 2 つの討論場およびインプロはそれぞ
れ 男 女 混 合 の 8 名 グ ル ー プ が 参 加 し , 討 論 1, イ ン プ
ロ,討論 2 という順で実施した.
2.2. 非 言 語 行 動 による対 話 や場 の解 析
人と人の対話における場や状態推定は,古くからの
重要な研究テーマである.特に,対人社会心理学の分
野では,対話の場の構造や力動についてはこれまでも
2. 関 連 研 究
多くの研究がなされており,非言語行動に着目した場
2.1. インプロ
の状態推定や社会スキルの影響について検討してきた
インプロは,即興劇に基づくコミュニケーショント
[5].我 々 も ,こ れ ま で ,複 数 人 対 話 に お け る 場 の 活 性
レーニングであり,発想力,表現力,創造性,コミュ
度の推定を目的として,頭部の位置センサ,マイク,
ニケーションの活性化,そしてチームの団結力やメン
手首に装着する加速度センサなど,複数のセンサから
バ同士の信頼関係の向上を図ることができるとされて
取得できる話者の非言語情報から場の活性度を求める
表 1.討 論 テ ー マ
討 論 1 (イ ン プ ロ 前 )
討 論 2 (イ ン プ ロ 後 )
グループ 1
友人
安定した生活
グループ 2
社会貢献
名誉
グループ 3
勉強
お金
表 2.イ ン プ ロ の 構 成
図 1. 実 験 に 用 い た セ ン サ
推 定 式 を 提 案 し て い る [6][7].そ の 他 ,話 者 の 非 言 語
情報を抽出して会話場をモデル化しようとする研究
例 は 多 く あ り [8],各 種 非 言 語 情 報 を 正 確 に 計 測 す る
ための識別アルゴリズムの開発等も活発になされて
い る [9]
しかしながら,インプロ等のコミュニケーション
タイトル
内容
時 間 (分 )
身体と心をほぐ
す
ア イ ス ブ レ イ
ク・自己解法
コミュニケーシ
ョン
説 明 ,ス ト レ ッ チ ,ゆ る
体操,8 カウント
1-7 ゲ ー ム , ミ ー テ ィ ン
ググリーティング
名 前 キ ャ ッ チ ボ ー ル ,私
あ な た ,私 あ な た( 移 動
有り)
連想ゲーム,共通点探
し ,( す べ て ペ ア )
イ ェ ス ゲ ー ム ,ノ ー ゲ ー
ム ,イ エ ス ア ン ド( す べ
てペア)
輪になって一人ずつ
8
コミュニケーシ
ョンと発想
Yes and
トレーニングやワークショップ(または授業)の効
果検証や,それに関連する対話場面は,従来よりア
振り返り
10
10
7
7
7
ンケートベースによる評価が多く,様々なセンサを
利用して非言語情報等の客観的行動データも用いて総
合的に評価しようとした例は見られない.
3.3. 実 験 参 加 者
大 学 生 8 人 グ ル ー プ を 3 組 , 計 24 名 で あ っ た ( 総
計 , 男 性 9 名 , 女 性 15 名 , 平 均 年 齢 21.8 歳 ). 3 組 と
3. 実 験 計 画
3.1. 概 要
実験では,参加者同士の自己紹介後,与えられたテ
ーマにそって討論し,その後,ファシリテータによる
イ ン プ ロ を 実 施 す る .そ の 後 ,フ ァ シ リ テ ー タ は 抜 け ,
別のテーマについて討論する.これら3点において主
観評価およびセンサによって客観的に行動を計測し,
も,できるだけ全員が初対面でかつ年齢差が2歳以上
離 れ な い よ う に し ,か つ 男 女 混 合 の グ ル ー プ で あ っ た .
インプロのプログラムは 2 人ペアになる場面や,複
数人でモノをイメージして身体で表現したりするもの
も あ り ,通 常 ,10-20 人 規 模 で の 実 践 が 効 果 的 で あ る .
本実験では,センサの数やトラッキングエリア等の制
約から,8 人のグループを対象とした.
主にインプロ前後の討論場面における差を見ることで,
インプロの効果を検証する.
3.4. 手 続 き
実験参加者は入室後,頭部センサ,マイク,両手に
3.2. 環 境
実験参加者(話者,インプロ受講者)の非言語情報
は ,先 行 研 究 [6]と 同 様 に ,図 1 に 示 す よ う に ,頭 部 に
3 次元位置センサを,両手首には加速度センサ,胸元
には無線マイクを装着し,インプロや討論場面中の頭
部位置や方向,ジェスチャ,発話情報を取得した.す
べての計測データはリアルタイムで取得し,サーバに
集められるようにプログラムされている.
実験環境は,討論場面では,参加者が身体の場所を
自由に変えられることと,座って落ち着いた会話がで
きるように,図 2 に示すキャスター付きの椅子を用い
た.インプロ場面では,椅子をすべて撤去し,約 3 m
×4 m の 頭 部 セ ン サ の ト ラ ッ キ ン グ エ リ ア を 利 用 し て
インプロの講習を行った.
加速度センサを実験者の指示のもと装着し,椅子に座
った.その後,同意書にサインをし,討論場面でのテ
ーマを決めるための,価値ランキングアンケートに回
答 し た .こ の ア ン ケ ー ト は ,愛 ,安 定 し た 生 活 ,勉 強 ,
社会貢献,友人,楽しむこと,自己表現,健康,衣食
住について,興味の強度を7段階で回答するものであ
った.この後,実験者は,このアンケートを回収し,
全員が中程度の興味を持つテーマを 2 つ選定した.実
際に選定したテーマを表 1 に示す.
続いて,実験参加者の自己紹介の間,実験者によっ
て各種センサの動作確認がされた.確認後,実験参加
者 は ,与 え ら れ た テ ー マ に つ い て 15 分 間 討 論 し ,そ の
後アンケートに回答した.それが終わると,椅子を撤
去してスペースを確保し,多数の企業や教育機関でイ
ンプロ実施の実績があるインプロファシリテータ(第
一 著 者 )に よ る 約 90 分 の イ ン プ ロ ト レ ー ニ ン グ を 受
けた.インプロ終了後,椅子を戻して,インプロに
ついてのアンケートに回答し,2 つ目のテーマにつ
い て 15 分 間 討 論 し た .最 後 に ,こ の 討 論 2 に つ い て
のアンケートとインタビューをして実験を終了した.
実 験 は 謝 礼 等 の 事 務 手 続 き を 含 め て 約 100 分 で 終 了
した.
インプロについては,詳細は省くが,表 2 に示す
ように,自己紹介,名前キャッチボール,イエスゲ
ー ム ,ノ ー ゲ ー ム と い っ た も の で あ り ,相 手 と の 対
図 2. 討 論 場 面
話において,大きな身体的動作や瞬時の対応を求め
るようなものであり,インプロファシリテータの統
制のもと,実験参加者は他の7人とのインタラクシ
ョンを進めていく.
4. 実 験 結 果
本節では,簡単に実験の観察結果を述べ,アンケ
ートによる主観評価と行動データの解析結果を示す.
行動データについては,本稿では,設定したタスク
である討論場面に最も関連が深い発話の情報と,先
行 研 究 で 議 論 [3]し た ジ ェ ス チ ャ( 腕 の 動 き )に つ い て
解析した結果を報告する.
4.1. 観 察
討論場面では,図 2 に示すように 8 人が輪になり,
適度な距離を保った状態で討論をしていた.3 グルー
プの観察の結果,8 人の中にサブグループが出来るよ
うなことはなかった.3 グループとも,先導するメン
バが 1 人から 3 人程いたため,全員の発話のバランス
は 全 員 で 均 等 で は な か っ た が ,15 分 間 の 間 に 会 話 に 参
加しなかった例や極端な沈黙などは見られなかった.
インプロ場面では,今回の計測対象ではないが,図
3 に示すように,身体的な表現を伴った他のメンバと
のインタラクションを多く実施していた.
4.2. 主 観 評 価
イ ン プ ロ の 実 践 に よ り ,月 田 [3]の 結 果 と 同 様 に 参 加
者の表出性やコミュニケーション能力が向上すると考
えられる.それにより,円滑なコミュニケーションが
営 ま れ る こ と で ,高 尾 [1]が 指 摘 す る よ う に ,コ ミ ュ ニ
ケーションが活性化し,チームの団結力やメンバ同士
の信頼関係の向上が期待できる.最終的には,対人関
係 性 の 向 上 [4]が 期 待 で き る .
そこで,本研究では,多様なインプロの効果を以下
に 示 す 指 標 で 評 価 し た . 以 下 は , す べ て Group(3 組 )
と Process (討 論 1, イ ン プ ロ , 討 論 2)の 2 要 因 分 散 分 析
と TukeyHSD に よ る 多 重 比 較 の 結 果 の ま と め で あ る
図 3. イ ン プ ロ 講 習 場 面
4.2.1. ラ ポ ー ル
ラ ポ ー ル 測 定 項 目 [10]を 改 訂 し た も の 3 項 目 8 件 法
を 用 い た .項 目 は ,
“ 協 力 的 に 会 話 が 進 ん だ ”,
“会話は
し に く い も の だ っ た ”,“ 相 互 に 興 味 を 持 っ て 会 話 が で
き た ”, 等 で あ る .
解析の結果,図 4 に示すように,討論 1 と討論 2 お
よ び , 討 論 1 と イ ン プ ロ 間 に 有 意 な 差 が 見 ら れ た (p
<.001).
4.2.2. ENDCOREs
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ス キ ル を 測 定 す る 尺 度 ,「 自 己
統制」
「表現力」
「解読力」
「自己主張」
「他者受容」
「関
係 調 整 」の 5 因 子 の う ち ,本 研 究 で は「 表 現 力 」
「解読
力」
「 自 己 主 張 」を 使 用 し た .各 因 子 は 4 項 目 7 件 法 で
あ る [11].
解析の結果,図 5 に示すように,表現力について,
討論 1 では,討論 2 より 1 ポイント程有意に高い評定
値 が 得 ら れ た (p <.001).ま た ,討 論 1 に 比 べ て イ ン プ
ロ 中 の 評 価 は 著 し く 高 く な っ て い た (p <.001).
解読力については,図 6 に示すように,討論 1 は討
論 2 よ り 有 意 に 高 い 評 定 値 で あ っ た (p <.001).
自己主張性についても同様に,討論1と討論 2 の間
に 有 意 差 が 認 め ら れ た (p <.05)(図 7).
4.2.3. 集 団 の 満 足 度
話し合いに対する満足度(集団への満足度)を 6 項
目 ,7 件 法 で 取 得 し た [12].こ こ は ,イ ン プ ロ 後 に は 取
得していなかったアンケート項目であるため,討論 1
と 2 のみの比較である.
ANOVA の 結 果 , 図 8 に 示 す よ う に , 両 者 に 有 意 差
7
6
6
ラポート
6
5
4
3
ENDCOREs 解読力
7
7
ENDCOREs 表現力
8
5
4
3
2
2
1
インプロ
討論1
討論2
図 5 表現力
7
6
6
6
4
3
集団葛藤(課題)
7
5
4
3
2
2
1
討論1
インプロ
討論2
1
図 7 自己主張性
インプロ
討論2
図 6 解読力
7
集団の満足度
ENDCOREs 自己主張性
図 4 ラポール
5
3
1
討論1
討論2
4
2
1
討論1 インプロ
5
5
4
3
2
1
討論1
討論2
図 8 集団の満足度
討論1
討論2
図 9 集団の葛藤
が 認 め ら れ た (p <.001).Group 間 に も 主 効 果 が あ り ,3
し,腕の揺れなどを除くため,閾値以上の大きさを持
組中 1 組において,満足度は変化無しであった.
つ 動 き の み を 取 り 出 し た . 主 観 評 価 と 同 様 の ANOVA
4.2.4. 葛 藤 尺 度
2 でのジェスチャの大きさ有意に増加したことがわか
を 実 施 し た 結 果 ,図 10 に 示 す よ う に ,討 論 1 よ り 討 論
関係葛藤とは,対人関係における価値観やパーソナ
っ た (p <.05).こ れ も ,主 観 評 価 を 強 化 す る 結 果 で あ り ,
リティの不一致であり,課題葛藤は意見やアイデアの
インプロ後は,より身体的に豊かな表現をもって議論
相 違 で あ る . こ れ ら を 4 項 目 ず つ 計 8 項 目 7 件 法 [13]
に臨んでいたことが分かる.ただし,グループにも主
で取得した.
課題葛藤については,図 9 に示すように,討論 1 と
効果があり,グループ 1 は,グループ 2 と 3 より全体
的に身体表現は小さかった.
討論 2 の間に有意差が認められ,葛藤は有意に減少し
ていた.関係葛藤について差は見られなかった.
5. 議 論
アンケートの結果と非言語情報の解析結果から,イ
4.3. 非 言 語 行 動
ンプロによって,表現力,解読力,自己主張性(やや
4.3.1. 発 話
弱 め ),そ し て 集 団 満 足 度 が 向 上 し ,か つ 葛 藤 が 減 少 す
発話音量,発話時間(量)ともに,3 組のデータか
ることが明らかになった.行動データからは,依然と
らは,グループ間や個人の差が大きくでており,両討
して解析が必要であるものの,インプロ後は,発話音
論場面に主効果は見られなかった.しかしながら,イ
量が大きくなり,かつジェスチャを多用する傾向が確
ンプロ前後を比較すると,発話における音量は,イン
認できた.観察結果から,インプロでの比較的大きな
プ ロ 後 の 方 が ,前 の も の に 比 べ て ,平 均 で 20% 程 度 大
身体動作や発声の効果が保たれたと考えられる.
きくなる傾向は確認できた.これは,心理指標の結果
表現力の向上も見られ,インプロが非常に有望であ
を支持する結果である.討論のテーマは,実験者側が
ることが分かったが,これについては,継続の効果を
アンケートを経て指定したものであったが,インプロ
検証することも重要である.また,インプロによって
を実施したことにより,中程度の興味のテーマについ
集団満足度の向上が顕著であったことが興味深く,イ
ての討論であっても発言の積極性が増したと考えられ
ンプロによって即時的によいチーム作りができる可能
る.
性を明確に示している.これについても継続的な評価
4.3.2. ジ ェ ス チ ャ
は 当 然 必 要 で あ る が ,90 分 程 度 の ワ ー ク シ ョ ッ プ で 大
ジ ェ ス チ ャ は X, Y, Z 軸 の 加 速 度 の 大 き さ を 指 標 と
きくメンバへの信頼度や満足度が変わることは大きな
は,より細かな非言語の解析と主観評価データとの関
連性の調査や統制群との比較を予定している.
加速度の大きさ m/s2
0.4
0.3
謝辞
本研究の一部は,東北大学電気通信研究所における
0.2
共同プロジェクト研究による.
0.1
文
0
討論1
討論2
図 10. ジ ェ ス チ ャ の 大 き さ
意味を持つ.
今後はさらにデータの解析を進めてゆきたい.例え
ば,発話に関しては,より集団特有の詳細な特徴に踏
み 込 む た め に , Gini 係 数 と い っ た 発 話 の 偏 り や 分 散 ,
さらにはクロストークやターンテイキング等について
調べる必要がある.ジェスチャの大きさについては 2
つの討論場面で明確な差がでたと述べたが,ジェスチ
ャ の 回 数 に つ い て も 約 10% 程 度 の 増 加 が 観 察 さ れ た .
こ れ ら を よ り 詳 細 に 観 測 し ,主 観 評 価 ENDCOREs 表 現
力等との関連を調査していくことも必要である.頭部
データについては,今回は対象外としたが,相手への
理解やアイコンタクト等について言及するためには,
相槌などの頭部データの詳細な解析も必要である.現
状,頭部センサの精度は相槌や視線の向きを認識でき
るレベルであるが,身体の揺れとの判別が難しく,録
画したビデオとの突き合わせなどをしたうえで,議論
す る 予 定 で あ る . さ ら に , 本 実 験 で は , 議 論 1, イ ン
プロ,議論 2 と順番を固定したため,順序効果がやや
表れている可能性もある.即席によいチーム作りをす
る場面を考えると,この実験順序は有意義であるが,
純 粋 に イ ン プ ロ の 効 果 を 見 る た め に は , 討 論 1, 休 憩 ,
討 論 2( イ ン プ ロ な し ) の 統 制 群 の デ ー タ を 集 め て 本
実験結果と比較する必要がある.
6. ま と め
本研究では,インプロが集団議論の場面に与える影
響について実験的に調査した.インプロ前後に集団議
論の場を設け,その両場面を主観評価および非言語情
報の計測をもって比較することで,インプロの効果を
検証した.2 つの討論場面およびインプロはすべて男
女混合の 8 名グループであった.その結果,インプロ
前の討論に比べて,インプロ後は,表現性,自己主張
性,集団の満足度などが大きく向上することがわかっ
た.また非言語情報の計測からは,発話の音量が大き
くなる傾向や,ジェスチャが大きくなり,より身体的
に表情豊かな表現をしている傾向が確認できた.今後
献
[1] 高 尾 隆 : 大 学 生 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン と イ ン
プ ロ 授 業 の 可 能 性 , 教 育 , 23-30, 2010 年 3 月 号
[2] 石 原 み ち る : イ ン プ ロ ・ ワ ー ク シ ョ ッ プ が 大
学 生 の 自 尊 感 情 に 及 ぼ す 影 響 , 山 陽 論 叢 , vol. 18,
pp. 1-14, 2011.
[3] 月 田 有 香 , 坂 本 登 , 横 山 ひ と み , 高 嶋 和
毅 , 北 村 喜 文 : コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン・ト レ ー ニ ン
グにおける表出性に関する検討, 情報処理学会全
国 大 会 論 文 集 , pp. 4:40-4:41, 2013.
[4] 正 保 春 彦 : グ ル ー プ ワ ー ク の 心 理 的 効 果 に つ
い て の 一 考 察 : 構 成 的 グ ル ー プ・エ ン カ ウ ン タ ー
とインプロヴィゼーションの比較から, 茨城大学
教 育 実 践 研 究 (31), 279-291, 2010.
[5] 大 坊 郁 夫:し ぐ さ の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ー 人
は 親 し み を ど う 伝 え あ う か ー , サ イ エ ン ス 社 1998
[6] 高 嶋 和 毅 , 藤 田 和 之 , 横 山 ひ と み , 伊 藤
雄 一 , 北 村 喜 文 ,: 6 人 会 話 に お け る 非 言 語 情 報 と
場 の 活 性 度 に 関 す る 検 討 ,信 学 技 報 , HCS2012-41,
pp. 49-54, 2012.
[7] 前 田 貴 司 , 梶 村 康 祐 , 高 嶋 和 毅 , 山 口 徳 郎 ,
北村喜文, 岸野文郎, 前田奈穂, 大坊郁夫, 林: 3
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