機能・コスト・サポート ユーザー4社それぞれの理由

020- 特集part2協和発酵 03.9.10 1:05 PM ページ20
緊急特集 なぜ国産 EPR が売れているのか?
機能・コスト・サポート
ユーザー 4 社それぞれの理由
協和発酵工業は富士通の「GLOVIA/SUMMIT」
高園産業は東洋ビジネスエンジニアリングの「MCFrame」
近畿車輛はエス・エス・ジェイの「SuperStream」
第一サービスはピーシーエーの「Dream21」を導入した。
各社の製品選択のプロセスと採用の理由を探る。
●協和発酵工業
GLOVIA/SUMMIT
パッケージ選定の鍵はデータ構造にあり
フィット&ギャップ分析など不要!
協和発酵工業は会計分野におい
いたからです」
と説明する。
く自己診断できるようにするのが、今
回のパッケージ導入の狙いだ。その
ためには、販売部門やサポート窓口、
間接部門の活動内容を、会計データ
とヒモ付けて管理できる仕組みが求
められる。
て、富士通純正の大企業向け ERP
同社の考える会計システムとは、法
パッケージ「GLOVIA/SUMMIT」
(以
定調書を出力するための制度会計シ
従来、販売管理や顧客管理、経費
下、GLOVIA)
の導入を進め、関連
ステムではない。経営者の意思決定
システムなどのデータは、会計データと
各社の情報を統合する
「グループ管理
と戦略立案を支援する
「シェアード会
関連付けられていなかった。優良顧
会計システム」
を構築しつつある。
計データウェアハウス」だ。
客は誰か? どの商品が最も利益を
今回の会計システムの統合は、
「シ
経営の PDCA のサイクルの中で、
出しているのか?
成績の良い販売
店はどこなのか?
各部門が管理し
ェアードサービスセンター」の確立を狙
「C(Check)
にあたるのが会計システ
ったものだ。グループ各社の会計機
ム」と位 置 づ け ている。次 の 行 動
ている情報を会計データと組み合わ
能をセンターに集中させ、コストを削減
(Action)
を決定するには、現在の実
せることで、より正確な現状分析が可
するわけだ。2003 年の 4 月1 日に、親
力を知っておく必要がある。現状を客
会社および子会社 3 社でカットオーバ
観的かつ正確に把握するための指標
協和発酵ではこうした「戦略的管理
ー。現在は第 2 フェーズに入っており、
として、会計データが極めて有効だと
会計」を実現すべく、様々な会計パッ
10 月1日に 5 社、2004 年の 4 月1日に
言うのだ。
ケージを比較検討した。だが、条件を
能になる。
「会計のデータは、誰でも同じ見方
満たす製品は、ほとんど無かった。各
ができます。見る人によって解釈の仕
部門の持つデータを会計情報に落と
方が異なるといったことはありません。
し込み分析するためには、明細レベ
ンター兼、経営企画室次長の中山嘉
そういったデータは、再利用価値が
ルの情報を会計システム内部に持た
之氏は、GLOVIA を採用した理由を
非常に高いのです」
(中山主査)。会
せる必要があったからだ。そして一般
「アプリケーションのアーキテクチャが、
計という標準化された情報を用いて
の会計システムは「制度会計」
しか視
当社の考える会計システムと合致して
あらゆる企業活動を測定し、効率良
野に入れておらず、そういった明細デ
7 社で稼働させ、国内の連結子会社
をすべて統合する計画だ。
プロジェクトを率いる情報システムセ
20
ソリューション IT 2003.10
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緊急特集
なぜ国産 EPR が売れているのか?
ータを管理するようにはできていない。
制度会計が扱うデータは、取引先
たデータで完結するため、実用的なレ
スポンスを得ているという。
単位や販売店毎などに集計された結
搭載メモリは 12GB。ここに入れら
果だ。そうした粗いデータでは、細か
れるだけのデータを詰め込んでいる。
な活動診断はできない。会計のデー
メモリ内のデータ構造やアクセス方法
タを様々な切り口から分析し、時には
は、
「富士通独自のノウハウ」だという。
ドリルダウンやドリルスルー分析して、
「富士通の、ハードベンダとしての強
問題を深堀りしていきたかったのだ。
みを活かした独特のシステム・アーキ
そして GLOVIA だけが、会計システ
テクチャが、当社のイメージする会計
ム内で、各部門で発生する明細デー
システムと一致したのです」
(同)
とのこ
えたからだ。
「業務をパッケージに合
タを管理することができたのだ。
とだ。
わせるのが BPR」
という声もあるが、
協和発酵では、販売や購買、生産
といった各業務システムと GLOVIA
を接続。
「金額」に関連する発生デー
タすべてを取り込んでいる。たとえば
販売システムの売上伝票だ。売上げ
が計上された段階で、GLOVIA にト
ス。センター側で仕訳して会計データ
に変換後、DB に蓄積していく。
もちろんどの ERP パッケージでも、
こうした明細レベルのデータを持たせ
パッケージ選定後に
フィット&ギャップを分析
ERP パッケージを検討する際には、
「フィット&ギャップ分析」
を実施するの
が常だ。
協和発酵でも同様の分析を行っ
た。ただし、GLOVIA の導入がほぼ
決定した後にだ。アドオン開発のボリ
ュームを確かめるためだったと言う。
▲情報システムセンター兼統
合企画室の中山嘉之氏次長
無理矢理パッケージに合わせたため、
かえって業務効率の低下を招くケース
もある。
「パッケージ標準の入出力機
能が、個々の企業にぴったりマッチす
るなど、あり得ません。海外製品だっ
たらなおさらです」
(同)
とのことだ。
価格とサポート力では
国産ベンダに軍配
GLOVIA を選択した理由には、コ
るのは不可能ではない。だが、DB が
中山主査は「パッケージ選択の決
ストもあった。協和発酵では、海外と
巨大化し、パフォーマンス低下を招く
め手は DB のアーキテクチャです。業
国産あわせて 5 社に見積りを依頼し
のは、目に見えていた。
務プロセスのフィット率ではありませ
た。
「詳細なアドオン要件などは提示
GLOVIA は、B/S と P/L の「残高
ん」
と断言する。
「フィット率が何割以
せず、ユーザーライセンスだけを見た
データ」をメモリに格納することで、こ
上なら ERP 導入は成功する」
といっ
ので、正確な比較ではありません。そ
の問題を解決している。
た指標があるわけではないからだ。
れでも欧 米 製 品に比 べ 、国 産 製 品
まず各業務システムから、GLOVIA
またアドオン開発は絶対悪のように
にデータが送られて来る。インタフェー
言われているが、入力画面や帳票に
GLOVIA の提示価格は、欧米製品
ス 部 分 は 、川 鉄 情 報 システムの
ついてのアドオン開発は、大した問題
の半分程度だった。アドオン費用を加
「Openway-FT」又は FTP を利用。
ではないと見ている。
「いくら業務プロ
算すると、さらに差が広がると見た。
接続先のシステムに合わせ 20 種類、
セスや画面、帳票でパッケージを選択
ライセンス料金が高ければ、保守料金
約 100 のインタフェースを開発したとい
したところで、DB に必要な項目が無
も当然高くなる。どう見ても海外製品
う。トランザクション数は月間約 150 万
かったら、お話にならない」
と言う。
の「割高感」
は否めなかった。
はかなり安 価 でした」
( 中山 主 査 )。
件にのぼる。基本は日に 1 度だが、経
今回も、標準の出力帳票では項目
費精算などは、ユーザー側で随時転
が不足していたため、相当の追加開
が弱いのでは」
という声も聞こえるが、
送できる。
発が発生した。また入力画面も全て
その点は心配はしなかった。どの製
DB の更新に合わせて、メモリ上の
独自仕様で作り込んだ。入出力はグ
品も、4、5 年前に比べパートナーが力
残高データは随時更新されていく。通
ループ各社のルールや業務フロー、企
をつけてきた。導入実績も増え、ノウ
常の分析作業は、メモリに蓄積され
業文化や操作性を考慮すべきだと考
ハウが蓄積されているから、懸念材料
「海外製品は導入時のサポート力
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020- 特集part2協和発酵 03.9.10 1:05 PM ページ22
にはならないと考えた。
ただ、ベンダへの要望は国産の方
が通りやすいと見ている。依頼内容
SCM や CRM、SEMといったフロント
システムは、個々の事業のベクトルに
系の機能を追加している。だが中山
沿ったものにすべきだと考えたのだ。
主査は「フロント部分にまでパッケージ
が英語に翻訳されて担当者に届くま
「ライバル会社の大半は専業メーカ
を適用するつもりはありません」
と言う。
でには、かなりの時間を要する。その
ーです。当然、その事業に特化したシ
オーダーを受ければ在庫が減り、出
後、全世界から寄せられるリクエスト
ステムを構築しています。汎用的なシ
荷実績にプラスされる。こうした基本
に優先順位をつけ、
開発にとりかかる。
ステムでは戦えません」
(中山主査)
。
的な業務の流れは、カッチリと作る必
その際、ユーザー数が少ない日本企
システムのライフサイクルの面からも、
要がある。それを手作りで構築すると、
業のリクエストは、どうしても後回しに
ビッグバンは「無駄が多い」
と考えられ
膨大な検証が必要になるため、パッケ
されがちだ。
「ロイヤリティでは、既に
た。各業務システムは、それぞれ構築
ージを利用した方が手っ取り早い。
アジア他国の方が上になっている」
と
時期も、寿命も異なる。ビッグバン導入
だが「枝葉」
となる部分は、スクラッチ
言われるほどだ。
では、何の問題もなく稼働しているシ
開発した方が良いとの意見だ。
その点国内ベンダは、非常に意見
ステムも捨てることになる。
フロント部分には、永遠不変のロジ
もう1 つの理由は、ビッグバン導入を
ックは確立されていない。むしろ各企
間内にも、いくつかのリクエストを出し、
すると人的リソースやコスト面での負
業のオリジナリティや工夫を凝らすべ
即時対応してもらった機能もあると言
担が大き過ぎるからだ。少なくとも協
きとの考えだ。
う。すぐに対応するのが無理な場合
和発酵では、全システムを入れ換え、
には、どのバージョンでいつ頃対応す
また数年後に全部を置き換えるという
目され、いくつかのベンダがそのため
るのかを連絡してもらえる。将来の見
投資サイクルは、あり得なかった。
の機能をパッケージに追加している。
が通りやすい。今回のプロジェクト期
近年、経営手法として「BSC」が注
通しが立てば、ユーザー側も安心して
ただし、全業務システムを統合する
実は協和発酵でも、BSC の仕組みを
待つことができるし、開発計画や投資
というERP のコンセプトを否定してい
自社開発。GLOVIAと組み合わせ活
計画も立てられるわけだ。
るわけではない。むしろグループ経営
用している。
の観点からは、
「システム統合による求
このシステムの開発は、手間ではな
心力の発生」が非常に重要だという。
かった。DB を用意して必要な管理項
個別最適による現場の業務効率改
目を設定し、BSC の表記法に則って
ERP ベンダは「ビッグバン導入が増
善と、経営者のための情報統合。こ
表示するだけで済んだ。唯一難しか
えています。システム統合のメリットが
の 2 つをできるだけ安価かつ迅速に
ったのは、戦略マップのカード同士を
理解されてきたのだと思います」
と口を
両立できるシステムデザインを追求した
結びつけ、グラフィカルに表示する部
揃える。だが中山主査は「当社にとっ
結果が、今回のシステムに結実したわ
分だったが、MS-Word でマップを描
ては、まったく意味がありません」
と言
けだ。すべてのデータを統合しようと
画し、HTML に変換。各カードの裏
い切る。今回の GLOVIA の適用範
は考えず、会計情報に的を絞る。その
にハイパーリンクのタグを手で貼ること
囲も、会計部分だけだ。
代わりデータ分析の自由度とパフォー
で、便宜的に対応した。1 人の担当
マンスを確保したわけだ。
者が 1 カ月ですべて完成させた。パ
全ての企業にビッグバン導入が
最適なわけではない
これには 2 つの理由がある。まず
は個別の業務アプリケーション機能の
問題だ。
協和発酵は、食品、化学、医薬、バ
イオなど複数の事業を展開している。
基幹システムはパッケージ
フロント部分は手組みで開発
協和発酵では今後、GLOVIA の
各事業部門や関連会社は、性質の異
データを活用するための、戦略系シス
なる市場や顧客を相手にしている。
テム構築を計画している。
商品の販売プロセスやライフサイクル
22
もまちまちだ。それらを支える業務系
ソリューション IT 2003.10
最 近 では 国 内 の E R P ベンダも、
ッケージ標準の BSC システムを導入
すれば千万円単位のコストがかかる。
だが今回の開発には、100 万円もか
かっていないとのことだ
今後は、SCM や CRM といった分
野での経営にインパクトを与えるシス
テム開発を視野に入れている。