社員とお客様そして地域を「おもてなし」でつなぐ 株式会社佐野テック

社員とお客様そして地域を「おもてなし」でつなぐ
株式会社佐野テック
取材日:平成 27 年 1 月 13 日(火)
取材先:株式会社佐野テック(三重県三重郡菰野町)
レポーター名:岩井、大矢、狩野
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橋に関連する部品の製造、住宅や工場などの建築を行う企業が菰野町にある。株式会社
佐野テック(以下、佐野テック)である。企業の敷地内に入ると、すぐそこに製造現場があり、
いわゆる鉄工所という風景が広がっているが、そんな企業が昨年「三重のおもてなし経営
企業選」に選ばれた。なぜ佐野テックが「おもてなし経営企業」なのか、佐野テックの「お
もてなし」とはどのようなものであるか。佐野明郎社長、佐野貴代専務、総務・経理部の
佐藤大祐さんへの取材を通して見えてきた佐野テックという企業をありのまま伝える。
企業概要
佐野テックが製造するのは橋梁関連部品である。日用品ではないため想像しにくいかも
しれないが、橋に使われている金属部分や橋を支える柱に取り付けられるゴム部分などと
言えば思い浮かべやすいだろう。まさに、人々の暮らしを「支える」ものを製造している
のだ。この事業における特徴は、その主要顧客との関係性である。佐野テックでは主要顧
客である大手橋梁関連企業から金属部品の製造を委託されているが、その主要顧客の全発
注量のうち、7 割超を佐野テックが受注しているのだ。全国に同じ業務を行っている協力企
業が 12 社あるという現状を踏まえると、佐野テックの受注率は極めて高いと言える。
さらに、住宅や工場・事務所・店舗などの建築事業も行っている。鉄骨造・木造建物の
設計・施工であるが、新築だけでなく増改築やリフォームも取り扱う。建築事業では、ほ
ぼ全ての仕事が佐野テックの既存の顧客からの紹介で成立しているという大きな特徴があ
る。佐野テックには営業担当がいないにも関わらず、これまでの 30 年間で 120 棟以上の新
築実績があるのだ。本業の技術を活かした鉄骨建築はもちろんのこと、木造建築も手掛け
ており、実際には半々の割合で行っている。佐野明郎社長(以下、佐野社長)は「紹介で
仕事が進んで行くのは最高の喜びであり、仕事の基本の動きである」と熱く語っていた。
佐野社長が最高の喜びと語るのは、顧客からの信頼を感じるからであろう。橋梁事業と建
築事業の特徴から、佐野テックへの信頼の高さがうかがえる。信頼が高いからこそ主要顧
客から繰り返し多くの受注が得られ、既存の顧客からの紹介で実績を上げられる。
おもてなし経営企業選受賞について
佐野テックは昨年の 5 月に「株式会社佐野鉄工」から「株式会社佐野テック」へ社名変
更をした。そこで、佐野テックの名前を世間に広め、発信する機会としておもてなし経営
企業選への応募を決めたそうだ。この企業選を担当されていた佐野貴代専務は「自分たち
のやっていることを素直に書いただけだ」と話している。すなわち、佐野テックが今まで
行ってきたことが全て「おもてなし経営」であったということだ。
おもてなし経営への取り組み
◆当たり前のことを大切に
公共のものである橋の部品を製造しているため、製造現場では立会検査や製品検査、出
荷検査など様々な検査を受ける。監督官庁による検査を
経て、良い評価を得なければ製造や出荷ができないので
ある。これは同業他社でも同じだが、佐野テックの検査
対応は他とは一味違っている。製品の品質を守るのはも
ちろん、製品を使用するうえで問題のない箇所も丁寧に
仕上げている。製造現場は整理・整頓され、製造から出
荷までのチェック体制を整えている。これにより、検査
(考えを熱く語る佐野明郎社長)
でも高い評価を得ているが、高い評価を得られる理由は
これだけではないようだ。遠くで作業している社員が挨拶をしてくれる。受付の方だけで
なく、事務所の奥にいる社員全員が起立してこちらを迎え入れてくれる。全ての訪問者へ
の社員 1 人 1 人の対応に誠意が見える。これが佐野テックの社員なのである。佐野テック
では毎朝の朝礼を通して、その日の来客が誰なのか、いつ、どんな用件で来るのかを全社
員が把握している。そのため、担当者でなくても訪問予定の来客を迎えることができ、そ
の第一声は、「どちらさまでしょうか」ではなく「○○様、お待ちしておりました」とな
るのである。佐野社長は、「お客さんに挨拶をするのは当たり前。でもこの当たり前のこ
とをやるのがなかなか難しい」と語る。訪問の予約をしているにも関わらず、訪問したと
き「どちらさまでしょうか」と言われたら悲しい。やはり挨拶をして迎えなければならな
い。そんな佐野社長の思いが、社員 1 人 1 人の誠意ある対応を実現させているのだろう。
そして、この対応が出来ることが顧客の安心感につながり、同じことを頼むのなら佐野テ
ックに、となるのである。
◆すべてを明らかにする姿勢
佐野社長は日頃から、何事も目的をはっきりさせ、なぜそれを行うのか、を全社員に伝
えることを徹底しており、社員とのコミュニケーションをとても大切にしている。毎年の
ボーナス支給の際には社長が社員一人ひとりと個人面談を行い、社員からの要望事項など
を聞く。さらに、より深く社員とのコミュニケーションをとる場として、今年は少人数で
社員と話をする食事会も企画している。何事であれ、行動の目的が分からなければ達成で
きない。はっきりと目的意識を持っているからこそ、挨拶などの基本的なことを大切にで
きる。また、目的が分かっていれば、時には指示された仕事だけでなく、さらに何ができ
るのかを考えることができるのである。目的をはっきり伝える、というただそれだけの些
細なことだが、この些細なことで会社の雰囲気は大きく違いを見せる。
◆全然違う業種にヒントがある、そして地域とつながる
佐野テックが力を入れている取り組みに「カイゼン
見学会」がある。これは社員からの日常の作業や職場
環境に関する改善提案をもとに実際に改善した点を、
地元を中心とした様々な業種の企業、地域住民などに
見学してもらうというものだ。同業種でない企業に見
学してもらうことにも意味がある。異業種の企業でも
何か発見、改善するためのヒントがあるという考えだ。
「我々はこれを湯呑として使っていたけど、他のとこ
ろではモノをすくっていた。そのときに、そうか!そ
(カイゼンの一例、備品の在庫量が
一目で分かりやすくなっている)
れをすくう道具
として使えるんだ!という発想が生まれる」と佐野社
長は生き生きと話す。改善をしようとしても、自社の
事しか知らない状態であれば、発想は限られる。他の
企業、店舗や工場など、自社以外を見ることで新たな
発想が生まれるきっかけをつくることができる。この
菰野町観光協会のキャラクター
「こもしか」を来客用駐車場の案内
看板に取り入れている。会社の細や
かなところに地域を愛する思いが
見られる。
ような考えがあり、佐野テックは多様な人々が見学に
訪れることを歓迎しているのだ。
そして、参加者からカイゼンについての意見をもら
い、さらなるカイゼンへとつなげている。また、参加
企業に逆訪問をし、カイゼンの輪を広げている。カイ
ゼンを通して地元企業とのつながりができているのだ。
今後の抱負
佐野社長は今後について「地域に愛されるような企業の継続をしていきたい。そのため
の仕事であり、おもてなしだと思う」と話す。現在も、地域の方々から持ち込まれる、く
わの溶接やドラム缶の切断といったちょっとした仕事依頼にも快く無料で応えている。地
域を愛し、おもてなしの心を大切にできる佐野テック。その姿勢は社員を通じて多くの人
に伝わり、これからも愛される企業であり続けるだろう。
―編集後記―
取材を通し、佐野テックはお客様と社員をとても大切
にしている企業だということが分かりました。お客様を
大切にすることは企業にとって当たり前のことですが、
それと同等もしくはそれ以上に社員とのコミュニケー
ションや社員の意見を佐野社長は本当に大切にされて
います。その証として、カイゼンの 1 つ 1 つには社員 1
人 1 人の存在が感じられました。また、一番印象に残っ
た言葉は「仕事は家族の幸せや目標を達成するためのツールであり、一番ではない」とい
う言葉です。この言葉に佐野社長の社員に対する思い、そして佐野社長の考える会社のあ
り方が全て込められていると思いました。佐野社長の考えの根底にこの思いがあるからこ
そ、社員第一の会社を作ることができたのではないかと思います。このような会社が増え
ていけば、私たちも安心して働くことができる環境ができていくのではないでしょうか。
今後も社員とお客様そして地域をおもてなしでつなぐ佐野テックであり続けてほしいです。