異なる養生温度条件下でのセメント改良土の強度発現

報 文
異なる養生温度条件下でのセメント改良土の強度発現
Strength Characteristics of Cement Treated Soil under Different
Curing Temperature
橋本 聖* 西本 聡** 林 宏親***
Hijiri HASHIMOTO, Satoshi NISHIMOTO and Hirochika HAYASHI
冬期の地盤改良に必要な養生温度を把握する目的として、養生温度条件を変化させ、強度試験、水
銀圧入法による細孔分布測定および偏光顕微鏡撮影を実施した。
実験の結果、養生初期に氷点下の時間が長いほど強度発現が小さく、28日材齢以降の5℃養生とし
ても長期的
(365日材齢)には20℃一定養生を大きく下回るため、強度発現には養生初期より0℃以上
が必要であることがわかった。さらに、各養生条件の経時変化による強度発現の違いをセメント改良
土の細孔径分布や間隙状況を関連させて整理した。
《キーワード:泥炭;養生温度;セメント改良土》
In this study, the authors conducted strength tests, performed pore distribution measurement
using the mercury intrusion method and implemented polarization microscope photography to
clarify the curing temperature required for soil improvement during winter under a constant
curing temperature and varied curing temperatures. The results revealed that a longer period of
freezing temperatures in the early curing stage resulted in poorer strength characteristics. Even
when the curing temperature was 5℃ after a concrete age of 28 days, strength characteristics in
the long run(at an age of 365 days)were far inferior to those achieved with a curing
temperature of 20℃ . It was thus found that a curing temperature of at least 0℃ from the early
stage of curing was required to secure strength. In addition, strength differences resulting from
temporal changes in curing temperatures were closely associated with pore size distribution and
the porosity of cement-treated soil for clarification.
《Keywords:Peat;Curing Temperature;Cement Treated Soil》
寒地土木研究所月報 №705 2012年2月 11
なお、供試体はセメントを用いた地盤改良を想定し、
1.はじめに
泥炭に含まれている灌木類の遺体を19mm フルイで除
セメントによる改良地盤の強度増加に影響する要素
去した試料に、湿潤重量比40% の改良材を粉体のま
としては、土質、養生温度、セメントの種類とその添
まホバートミキサーで均一に撹拌、混合した。さらに、
加率、撹拌方法などが挙げられる。これらの要素のう
撹拌した試料をφ =50mm、H=100mm のプラスチッ
ち、冬期に構築される改良地盤の強度増加は養生温度
クモールドに投入し、地盤工学会基準「安定処理土の
に大きく依存すると考えられる(図-1)。過去に中層
締固めをしない供試体作製方法」(JGS 0821-2000)7)
混合処理工法で施工された改良地盤を調査したとこ
に基づき作製した。改良材はセメント系固化材(高有
ろ、改良地盤表面部の強度が著しく低下する事例が顕
機質土用)を使用し、セメントと改良対象土の混合時
在化した1)。この要因として、深層混合処理工法のよ
間は同基準に準拠して10分とした。
うなサンドマットが不要であり、改良地盤が直接、低
温の外気温
(養生温度)に晒され、強度発現が阻害され
たことが考えられる。
また、既往の研究では養生温度が20℃よりも低い場
合、養生温度が20℃の場合と比べて発現強度が低くな
る2)3)4)5)ことや0℃以下になると強度の発現が期待
表-1 改良対象土の土質特性
⹜ᢱฬ
࿯☸ሶ䈱ኒᐲ 㱝㫊
⥄ὼ฽᳓Ყ 㪮㫅
㪣㫀
ᒝᾲᷫ㊂
ᡷ⦟᧚
ᷝട㊂ 㶎
✵ᷙ䈟⋥ᓟ䈱฽᳓Ყ
㪮
できない6)、との報告がされている。これらの一連の
ᵆ὇䋺ᒰ೎↸⭠ጨ
㪊
㪈㪅㪌㪏㪇
㪍㪌㪇
㪐㪈
㩿㪾㪆㪺㫄 㪀
㩿㩼㪀
㩿㩼㪀
䉶䊜䊮䊃♽࿕ൻ᧚䋨㜞᦭ᯏ⾰࿯↪䋩
㪋㪇
㪈㪌㪍
㩿㩼㪀
㩿㩼㪀
㶎䇭ᷝട㊂䈲⹜ᢱ䈱ḨẢ㊀㊂䈮ኻ䈜䉎୯䈪䈅䉎䇯
研究における実験条件として、セメント改良土の養生
2.2 養生条件
温度が強度に与える影響、特に、強度発現に必要な具
養生条件は0℃、5℃、20℃の一定養生温度と、0
体的な養生温度が示されているが、いずれも養生温度
~-10℃の変動養生温度(以降、変動 A)、5~-5
を一定としたものである。しかし、実際の現場条件、
℃の変動養生温度(以降、変動 B)の計5パターンであ
特に冬期においてはプラスとマイナスの気温は絶えず
る(湿度は90 ~ 100%)。なお、変動 A は釧路の1月
変動していることが多く、このような養生条件下で得
における毎日の各時間の平均温度を再現したものであ
られる強度は一定の養生温度とは異なる可能性がある。
り、変動 B は変動 A の各時間温度を5℃上昇させた
そこで、
養生温度を一定ならびに変動させた条件で、
養生条件である(図-2)。変動 A、変動 B の養生開
セメント改良した泥炭(以後、セメント改良土)の強度
始温度はそれぞれ0℃、5℃とした。20℃は地盤工学
など各種試験を実施し、冬期の中層混合処理工法の強
会基準「安定処理土の締固めをしない供試体作製方法」
度発現に必要な養生温度を提案した。
に基づく養生温度である。
これらの養生条件のうち、5℃、20℃は最初から一
定の養生温度であるが、0℃、変動 A、変動 B は28
日材齢以降の養生温度を5℃の一定養生温度とした
(図-3)。これは、28日材齢までの養生条件の違いが、
365日材齢の強度に及ぼす影響を把握するためである。
ᤨ㑆䋨ᤨ䋩
㪇
㪊
㪍
㪐
㪈㪉 㪈㪌 㪈㪏 㪉㪈 㪉㪋
㪍
㪋
2.実験概要
2.1 実験試料および配合条件
改良対象土は当別町蕨岱で採取した泥炭である。表
-1に土質試験結果を示す。
12
㙃↢᷷ᐲ䋨㷄䋩
図-1 厳冬期の地盤改良
䇭ᄌേ㪙
㪉
㪇
㪄㪉
㪄㪋
䇭ᄌേ䌁
㪄㪍
㪄㪏
㪄㪈㪇
㪄㪈㪉
図-2 変動養生温度のパターン
寒地土木研究所月報 №705 2012年2月
3.試験結果
3.1 物理・力学特性
図-4にセメント改良土の物理特性(含水比と湿潤
密度)の経時変化を示す。
池上ら10)、林ら11)は、恒温・恒湿条件で室内配合試
験を実施した場合、含水比と湿潤密度などの物理的特
性は長期的にほとんど変化していないと報告している。
図-3 各養生条件における養生日数と養生温度
養生日数の経時変化と含水比の関係をみると(図-
4 a)
)大きなばらつきは見られるものの、時間の経過
2.3 試験項目
に伴い含水比が低下する傾向があった。これは、高有
表-2に各養生温度の試験項目を示す。28日材齢お
機質用のセメント系固化材を用いたことから、水和生
よび365日材齢のセメント改良土の物理・力学特性は、
成物(エトリンガイト)が生成する際に多量の水を消費
所定の期間養生した供試体に対して土の含水比試験、
したためと考えられる。一方、養生日数の経過に伴う
湿潤密度試験、一軸圧縮試験により求めた。また、セ
湿潤密度の変化は、変動 A、変動 B 以外はほとんど
メント改良土の骨格構造の変化の評価は、水銀圧入法
確認されなかった(図-4 b))。変動 A および変動 B
8)
による細孔分布測定 、偏光顕微鏡撮影によった。
の湿潤密度が小さくなった原因は、供試体を脱型する
際に供試体上部の試料が凍結融解の繰り返しによって
表-2 各養生温度の試験項目
膨張し、膨張した分を控除して重量が減ったことと考
㙃↢᷷ᐲ䋨㷄䋩
えられる。
㪉㪇
㪌
㪇
ᄌേ䌁
ᄌേ䌂
฽᳓Ყ⹜㛎
䂾
䂾
䂾
䂾
䂾
ḨẢኒᐲ⹜㛎
䂾
䂾
䂾
䂾
䂾
৻ゲ࿶❗⹜㛎
䂾
䂾
䂾
䂾
䂾
係を示す。強度比とは各材齢のそれぞれの養生温度で
⚦ሹಽᏓ᷹ቯ
䂾
䂾
䂾
䂾
䂾
஍శ㗼ᓸ㏜
䂾
䂾
䂾
䂾
得られた一軸圧縮強さを、同じ材齢の20℃養生の一軸
図-5に28、365日材齢の各養生温度と強度比の関
圧縮強さを基準として正規化した値である。28、365
なお、水銀圧入法による細孔分布測定は、試料に対
して段階的に圧力を増加しながら水銀を圧入し、圧入
る試験である。試料の乾燥方法は真空乾燥機を用いて
60℃で7日間乾燥させた試料を用いた。本研究におい
ては、養生温度0℃および変動 A、変動 B の供試体
฽᳓Ყ㩿㩼㪀
した水銀の量と圧力から間隙の体積量と直径を測定す
は凍結による測定への影響が想定されるため、試験前
日に5℃で解凍してから実施した。
さらに、偏光顕微鏡を用いてセメント改良土の間隙
㪈㪍㪇
㪈㪌㪇
㪈㪋㪇
㪈㪊㪇
㪈㪉㪇
㪈㪈㪇
㪈㪇㪇
㪐㪇
㪏㪇
ᄌേ㪘
ᄌേ㪙
㪇㷄
㪌㷄
㪉㪇㷄
a)
㪈
㪈㪇
状況の把握9)を試みた。観察に用いた試料は、細孔分
㪈㪅㪋㪇
空引きし、青色染料で染色した樹脂
(以降、ブルーレ
㪈㪅㪊㪌
ジン)を試料片に浸透させ、樹脂をさらに浸透させる
た め に、 試 料 を 圧 力 容 器 に 移 し 替 え、 一 定 の 圧 力
(20MPa)を加えて12時間置いた。さらに、圧力容器
から試料片を封入した樹脂を取り出しカッターで切断
し、試料片の厚さが0.03mm 程度になるまで研磨して
薄片状に形成した。観察は、偏光顕微鏡で接眼レンズ
×10、対物レンズ×10でこの薄片を用いて写真撮影
して行った。
ḨẢኒᐲ㩿㪾㪆㪺㫄㪊㪀
布測定で分取した試料片を真空デシケータに入れて真
㪈㪇㪇
㪈㪇㪇㪇
㙃↢ᣣᢙ㩿㪻㪸㫐㫊㪀
㪈㪇㪇㪇㪇
ᄌേ㪘
ᄌേ㪙
㪇㷄
㪌㷄
㪉㪇㷄
㪈㪅㪊㪇
㪈㪅㪉㪌
㪈㪅㪉㪇
b)
㪈㪅㪈㪌
㪈㪅㪈㪇
㪈
㪈㪇
㪈㪇㪇
㪈㪇㪇㪇
㙃↢ᣣᢙ㩿㪻㪸㫐㫊㪀
㪈㪇㪇㪇㪇
図-4 物理特性の経時変化
寒地土木研究所月報 №705 2012年2月 13
日材齢の20℃養生の一軸圧縮強さ(3供試体の平均値)
算温度 M(℃・days)は次の(1)式で示される。
2
はそれぞれ qu28(20℃)=3,294kN/m 、qu365(20℃)=4,085kN/
m2で強度伸び率は1.24であった。
qu =A・log(M)+ B,M= Σ(t+10)T (1)
12)
城戸ら は、高炉 B 種セメント、セメント系固化
材を用いて泥炭の湿潤重量に対するセメント重量比
(t:養生温度(℃),T:養生期間(days),A:傾き,B:
切片)
(20%,30%,40%)
で改良した泥炭の強度発現について、
28日材齢における5℃養生の強度は、20℃養生の強度
図-6に各養生条件の積算温度と一軸圧縮強さの関
の6割程度期待できると報告している。今回の実験で
係を示す。一軸圧縮強さと積算温度は、堀内ら4)と同
は、28日材齢における養生温度5℃の強度比が0.5(5
様に片対数グラフ上で線形関係において高い相関性が
割)程度と城戸らの実験結果より低めであったが、同
確認され、積算温度の増加に伴って一軸圧縮強さは大
様の強度発現の傾向がみられた。
きくなる傾向が読み取れる。しかし、養生条件の違い
13)
佐藤ら は5℃養生を1、3ヶ月間継続した後、6
による一軸圧縮強さの増加傾向は0℃、5℃、20℃の
ヶ月間20℃養生した供試体の強度は、当初から20℃養
積算温度と変動 A、変動 B で大きく異なっており、
生で実施した場合と同じであったと報告している。
変動 A、変動 B の長期的な予測強度は0℃、5℃、
今回の室内試験で得られた時間の経過に伴う強度比
20℃の一定養生のそれらよりも小さいことが推測でき
は、養生温度を問わず増加する傾向にあり、5℃養生
る。これは、初期の養生条件の違いが、長期的な強度
の強度比は365日材齢で20℃養生の強度比とほぼ同じ
発現に影響を及ぼすことを示唆している。
になった。また、0℃養生の強度比は20℃養生の9割
㪌㪃㪇㪇㪇
生のそれぞれ2、3割の強度比しか得られなかった。
㪋㪃㪌㪇㪇
コンクリートでは、養生温度と養生期間を掛けた積
㪋㪃㪇㪇㪇
算温度によってコンクリートの強度を推定できるが、
堀内ら4)はセメント改良土に対しても同じ考え方が適
用できるとしている。一軸圧縮強さ qu(kN/m2)と積
㫈㫌㪉㪏㩿㫅㷄㪀㪆㫈㫌㪉㪏㩿㪉㪇㷄㪀
㪈㪅㪉
㪈
ᣣ᧚㦂
⋧㑐ଥᢙ䇭㪇㪅㪐㪈
㪉㪃㪌㪇㪇
㪉㪃㪇㪇㪇
⋧㑐ଥᢙ䇭㪇㪅㪏㪋
㪈㪃㪌㪇㪇
㪇㪅㪍
㪌㪇㪇
㪇㪅㪋
㪇
㪈
㪇㪅㪉
ᄌേ㪘
ᄌേ㪙
㪇
㪌
㙃↢᷷ᐲ㩿㷄㪀
㪉㪇
㪈㪅㪉
㫈㫌㪊㪍㪌㩿㫅㷄㪀㪆㫈㫌㪊㪍㪌㩿㪉㪇㷄㪀
㪊㪃㪇㪇㪇
㪈㪃㪇㪇㪇
㪈
ᄌേ㪘
ᄌേ㪙
㪇㷄
㪌㷄
㪉㪇㷄
㪊㪃㪌㪇㪇
㪇㪅㪏
㪇
㪈㪇
㪈㪇㪇
㪈㪇㪇㪇 㪈㪇㪇㪇㪇 㪈㪇㪇㪇㪇㪇
Ⓧ▚᷷ᐲ䇭㪤㩷㩿㷄䊶㪻㪸㫐㪀
図-6 積算温度と一軸圧縮強さの関係
3.2 水銀圧入法による細孔分布測定
ᣣ᧚㦂
細孔径分布とは、間隙の細孔径(直径)に対してその
㪇㪅㪏
径を有している間隙の細孔量(容積)を示したものであ
㪇㪅㪍
り、セメント改良土の経時的な骨格構造の変化を把握
㪇㪅㪋
するために有効である14)15)。高野ら16)、池上ら10)や林
ら11)は、異なるセメント添加量におけるセメント改良
㪇㪅㪉
土の経時的な骨格構造の変化を水銀圧入法による細孔
㪇
ᄌേ㪘
ᄌേ㪙
㪇
㪌
㙃↢᷷ᐲ㩿㷄㪀
㪉㪇
図-5 養生温度と養生温度20℃の一軸圧縮
強さを基準とした強度比の関係
14
৻ゲ࿶❗ᒝ䈘䇭㫈㫌㩷㩿㫂㪥㪆㫄㪉㪀
の強度比が期待できるが、変動 A、変動 B は20℃養
分布測定を実施しており、セメント改良土の間隙が微
細化すれば経時的に強度は増加する、と報告している。
そこで、28、365日材齢のそれぞれの養生条件で0.001
~ 1,000 μm の範囲を細孔径分布測定し、細孔径分布
寒地土木研究所月報 №705 2012年2月
孔径分布試験から得られた間隙の全容積、中央孔径値
28日材齢では5℃、20℃養生の細孔量のピークが細
とは、総細孔量に対する各細孔量曲線において累積細
孔径1μm 以下、それ以外の養生温度では細孔径1μm
孔量百分率が50% となる細孔径であり、粒径加積曲
以上に分布していた。これは、5℃養生以上では、時
線の D50(平均粒径)と同じ考え方である。
間の経過に伴う継続したセメント水和反応によって、
図-8は総細孔量と一軸圧縮強さの経時変化を示
生成物が間隙の骨格構造を密にする過程と判断できる
す。20℃養生の総細孔量は経時変化に伴い増えたが、
が、
5℃より低い養生温度(変動パターンも含む)では、
その他の養生条件では総細孔量が減少すれば一軸圧縮
セメント水和反応が遅延もしくは反応していないこと
強さが大きくなる傾向にあった(図-8 a)b)
)。図-
を示唆している
(図-7 a)
)
。
9は中央孔径値と一軸圧縮強さの経時変化を示す。28
365日材齢の細孔径と細孔量の関係をみると、0℃
日材齢をみると、養生温度条件が高いほど(変動条件
5℃、20℃養生の細孔径分布は一様に細孔量のピーク
は氷点下の割合が小さいほど)中央孔径値が小さくな
が細孔径1μm 以下の分布を示しているものの、変動
る傾向にあるが,強度との相関は明確ではない(図-
A、変動 B の細孔径分布をみると、細孔径1μm 以上
9 a)
)。一方、365日材齢では28日材齢と比較して養
を示した。
(図-7 b)
)
。20℃養生以外は、材齢の長
生条件を問わず中央孔径値は小さくなる反面、強度の
期化に伴って細孔径の小さな間隙が増加する傾向を示
増加が確認された(図-9 b)
)。
している。これらは、セメント水和反応等による生成
林らは11)骨格構造(総細孔量と中央孔径値)の指標と
物が間隙を細分化していった結果であり、初期養生条
一軸圧縮強さの間には、総細孔量および中央孔径値の
件
(28日材齢まで)
、すなわち、凍結・融解の繰返し作
増加にともなう強度の低下が定性的に認められるとし
用の有無によって水和反応速度に違いが生じたと考え
て、骨格構造の変化がセメント改良土の強度発現の主
られる。
要な要因の一つとして考えることができるとしてい
骨格構造と強度に関しては、総細孔量、中央孔径値
る。今回得られた総細孔量、中央孔径値と一軸圧縮強
と一軸圧縮強さの関係で整理した。総細孔量とは、細
さの関係からも、時間の経過によって、細孔径や中央
⚦ሹ㊂䇭㩿㫄㫄㪊㪆㪾㪀
ᣣ᧚㦂
㪊㪇
㪉㪇
a)
㪈㪇
㪇
㪇㪅㪇㪇㪈 㪇㪅㪇㪈
㪇㪅㪈
㪈
㪈㪇
㪈㪇㪇
⚦ሹᓘ㩿⋥ᓘ㪀䇭㩿㱘㫄㪀
㪋㪇
㪉㪇
㪈㪇
b)
㪊㪇
㪇
㪇㪅㪇㪇㪈 㪇㪅㪇㪈
㪇㪅㪈
㪈
㪈㪇
㪈㪇㪇
⚦ሹᓘ㩿⋥ᓘ㪀䇭㩿㱘㫄㪀
図-7 細孔径分布の経時変化
寒地土木研究所月報 №705 2012年2月 㪌㪇㪇㪇
ᣣ᧚㦂
㪋㪇㪇㪇
㪊㪇㪇㪇
㪉㪇㪇㪇
㪈㪇㪇㪇
ᄌേ㪘
ᄌേ㪙
㪇㷄
㪌㷄
㪉㪇㷄
a)
㪈㪇㪇㪇
㪇
㪌㪇㪇
㪈㪇㪇㪇
ᄌേ㪘
ᄌേ㪙
㪇㷄
㪌㷄
㪉㪇㷄
ᣣ᧚㦂
⚦ሹ㊂䇭㩿㫄㫄㪊㪆㪾㪀
ᄌേ㪘
ᄌേ㪙
㪇㷄
㪌㷄
㪉㪇㷄
৻ゲ࿶❗ᒝ䈘㫈㫌㪊㪍㪌㩿㫂㪥㪆㫄㪉㪀
㪋㪇
৻ゲ࿶❗ᒝ䈘㫈㫌㪉㪏㩿㫂㪥㪆㫄㪉㪀
の経時変化を整理した(図-7)
。
㪈㪇㪇㪇
㪈㪌㪇㪇
✚⚦ሹ㊂㩿㫄㫄㪊㪆㪾㪀
㪌㪇㪇㪇
ᣣ᧚㦂
㪋㪇㪇㪇
㪊㪇㪇㪇
㪉㪇㪇㪇
ᄌേ㪘
ᄌേ㪙
㪇㷄
㪌㷄
㪉㪇㷄
㪉㪇㪇㪇
b)
㪈㪇㪇㪇
㪇
㪌㪇㪇
㪈㪇㪇㪇
㪈㪌㪇㪇
✚⚦ሹ㊂㩿㫄㫄㪊㪆㪾㪀
㪉㪇㪇㪇
図-8 総細孔量と一軸圧縮強さの経時変化
15
৻ゲ࿶❗ᒝ䈘㫈㫌㪉㪏㩿㫂㪥㪆㫄㪉㪀
片の端部を撮影しており、泥炭に含まれていた繊維が
㪌㪇㪇㪇
ᣣ᧚㦂
㪋㪇㪇㪇
㪊㪇㪇㪇
㪉㪇㪇㪇
薄片製作時に欠落して大きな間隙が残ったためであ
る。この間隙以外に0℃養生にみえる円形の間隙が、
一部確認されるが、構造の密実化が図られていると考
えられる。変動A、変動 B は0℃養生に存在する円
形の間隙のほかに筋状の間隙が多数存在しており、養
a)
㪈㪇㪇㪇
生温度の違いによる間隙の差が明瞭であった。
28日材齢で観察した試料は供試体中心部の試料を用
㪇
㪇㪅㪇
৻ゲ࿶❗ᒝ䈘㩷㫈㫌㪊㪍㪌㩿㫂㪥㪆㫄㪉㪀
ᄌേ㪘
ᄌേ㪙
㪇㷄
㪌㷄
㪉㪇㷄
㪈㪅㪇
㪉㪅㪇
㪊㪅㪇
㪋㪅㪇
ਛᄩሹᓘ୯㩿⋥ᓘ㪀㩿㱘㫄㪀
㪌㪇㪇㪇
㪌㪅㪇
㪋㪇㪇㪇
㪊㪇㪇㪇
いを観察した(図-11)。
各養生条件の供試体中心部をみると、20℃養生、変
動 B に局所的に間隙が存在するものの全体的には密
実化が図られていたが、供試体縁辺部では0℃、20℃
と変動 A、変動 B に明確な違いがみられた。0℃、
㪉㪇㪇㪇
20℃は筋状の間隙が局所的に存在するだけであり、全
b)
㪈㪇㪇㪇
日材齢では供試体の中心部と縁辺部の2箇所で採取し
た試料を用いて、気中との接触の有無による間隙の違
ᄌേ㪘
ᄌേ㪙
㪇㷄
㪌㷄
㪉㪇㷄
ᣣ᧚㦂
いたが、直接、気中に接したものではないため、365
体的には供試体中心部と同様な密実化が図られていた
が、変動 A、変動 B では筋状の間隙が多く認められ、
㪇
㪇㪅㪇
㪈㪅㪇
㪉㪅㪇
㪊㪅㪇
㪋㪅㪇
ਛᄩሹᓘ୯㩿⋥ᓘ㪀㩿㱘㫄㪀
㪌㪅㪇
間隙の割合は変動 A が変動 B よりも多い状態であった。
これらから、0℃より高い養生温度であれば局所的
図-9 中央孔径値と一軸圧縮強さの経時変化
に間隙が残るものの、供試体中心部、縁辺部を問わず
セメント水和反応が期待できると考えられる。
孔径値が小さくなること、総細孔量が少ないほど強度
一方、養生温度が氷点下へ変動する条件(変動 A,B)
が大きくなる傾向、すなわち、林らの報告と同様に、
では、供試体中心部はセメント水和反応が期待できる
セメント改良土における構造の密実化と強度増加の関
が、供試体縁辺部では、初期(養生28日まで)の養生条
係が認められたといえる。
件(氷点下、凍結融解)の影響によってセメント水和反
応が低下し、間隙が多く残ったと推察される。変動A
が変動 B と比べて間隙の割合が多いのは、供試体表
3.3 偏光顕微鏡観察
既往の研究では、電子顕微鏡によってセメント水和
6)12)
物の生成状況を確認した事例が数多くある
。これ
面に凍結融解が繰返し生じたことに加えて最低温度が
低かったことが要因と考えられる。
らが撮影される倍率は、3,500 ~ 7,500倍と非常に精緻
間隙が多くなれば必然的に供試体の強度が低下する
なレベルであり、
セメント水和物の生成を確認できる。
と考えられるが、各養生条件の総細孔量(図-8)、間
しかし、セメント改良土の間隙の全体像を把握するに
隙状況(図-11)と強度比(図-5)の関係をみると両者
は適当ではない。地質学の分野では岩石の組織や鉱物
は調和的であり、間隙量と強度は密接に関係している
の種類、間隙の有無などを把握するために、岩石薄片
といえる。
17)
を作製して偏光顕微鏡による観察 が行われている。
セメント改良土でも同様の方法で間隙の状況を把握で
4.まとめ
きないか試行的に実施した。
図-10は、
28日材齢における各養生温度(0℃、20℃、
冬期の中層混合処理工法の強度発現に必要な養生温
変動 A、変動 B)の試料を偏光顕微鏡により撮影した
度を把握する目的として、養生温度条件を変化させ、
写真である。なお、5℃は0℃に近い間隙状態が確認
強度試験、水銀圧入法による細孔分布測定および偏光
されたために割愛した。各養生温度で青くみえる部分
顕微鏡撮影を実施した。その結果、以下の知見を得る
は、ブルーレジンが間隙に入り込んだ状態である。28
ことができた。
日材齢の20℃養生で大きな間隙がみえるが、これは薄
16
寒地土木研究所月報 №705 2012年2月
ਛᔃㇱ
ਛᔃㇱ
20℃
ਛᔃㇱ
ਛᔃㇱ
0℃
変動 A
変動 B
図-10 各養生温度における偏光顕微鏡撮影(28日材齢)
ਛᔃㇱ
ਛᔃㇱ
ਛᔃㇱ
✼ㄝㇱ
✼ㄝㇱ
✼ㄝㇱ
20℃
0℃
ਛᔃㇱ
✼ㄝㇱ
変動 A
変動 B
図-11 各養生温度における偏光顕微鏡撮影(365日材齢)
・ 初期
(28日材齢まで)の養生温度が0℃以上であれ
変化し間隙量にも違いが生じたと推察される。
ば、28日材齢以降で養生温度5℃の状態を保つこと
によって、365日材齢で20℃養生の強度の9割を得
5.あとがき
ることができた。
・ 変動 A、変動 B ともに28日材齢以降、養生温度
上記の知見を現場条件に置き換えると、厳冬期の北
5℃の状態を保ったにも関わらず、365日材齢の強
海道において中層混合処理工法を実施する場合、施工
度は20℃養生の強度の2~3割程度であった。特に
時あるいは施工後1ヶ月以内の外気温が常時でなくて
28日材齢までに氷点下での養生時間が長い変動 A
も時間や日によって0℃を下回ることのある現場で
の強度比が小さかった。
は、改良地盤地表部は寒気に晒されることから、強度
・ 一軸圧縮強さと水銀圧入法による細孔分布測定
発現が長期に渡って滞ることが想定される。
(細孔径分布、総細孔量、中央孔径値)には数値のバ
筆者ら18)は2月に釧路町で中層混合処理工法による
ラツキがあるにせよ相関関係がある。セメント改良
試験施工を実施し、改良地盤地表面上への覆土が強度
土の間隙の径、量とも小さくなるほど強度が大きく
発現に有効であるとの知見を得ている。日平均気温が
なる。
0℃以下で中層混合処理工法を実施する場合には、外
・ 偏光顕微鏡観察の結果、365日材齢では養生条件
気が直接、改良地盤地表面に晒されない覆土処置など
を問わず供試体中心部において同程度の構造の密実
の対策が必要である。ただし、現時点ではどの程度の
化が図られていた。ただし、供試体縁辺部では変動
覆土厚が強度発現に有効であるか明確にはなっていな
A および変動 B では多くの間隙が確認され、間隙
い。
の割合は変動 A が多かった。初期養生条件
(28日材
梶取ら19)は、二次元熱伝導 FEM 解析(TEMP/W)
齢まで)でセメント改良土が凍結融解やマイナス温
を用いて凍結指数に応じた改良地盤の凍結深を推定す
度に晒される度合いによって、セメント水和反応も
ることが可能と報告している。現場条件に応じた改良
寒地土木研究所月報 №705 2012年2月 17
地盤の凍結深を推定できれば、凍結深以上の覆土を施
浩美・寺師昌明・大石幹太:セメント安定処理土
すことによって改良地盤の強度発現の増加が期待でき
の経時的強度増加と骨格構造の変化,土木学会第
ると考えられる。これらの研究成果は追って報告した
58回 年 次 学 術 講 演 会, Ⅲ -588,pp.1175-1176,
い。
2003.
11)林宏親・西本聡・大石幹太・寺師昌明:セメント
参考文献
安定処理土の長期強度特性その2-室内実験によ
る検討-,北海道開発土木研究所月報 No.612号,
1)橋本聖・西本聡・林宏親:トレンチャー式撹拌工
法による改良強度のばらつきについて,第7回地
pp.28-36,2004.
12)城戸優一郎・西本聡・林宏親・橋本聖:セメント
盤改良シンポジウム論文集,pp.81-84,2006.
改良した泥炭における養生温度が改良強度へ与え
2)馬場崎亮一・寺師昌明・鈴木健夫・前川淳・川村
る影響,地盤工学会北海道支部技術報告集第48号,
政史・深沢栄造:安定処理土の強度に及ぼす影響
因子,セメント系安定処理土に関するシンポジウ
ム,pp.20-41,1996.
pp.35-40,2008.
13)佐藤厚子・鈴木輝之・西本聡:セメントおよび石
灰改良土の発現強度に及ぼす養生温度の影響,地
3)榎並昭・吉野学・日比野信一・高橋守男・秋谷健
盤工学ジャーナル vol.3,No.4,pp.331-342,2009.
二:ソイルセメントコラムの原位置温度測定及び
14)池上正春・増田勝人・一場武洋・鶴谷広一・佐藤
養生温度の強度に及ぼす影響,第20回土質工学研
茂樹・寺師昌明・大石幹太:深層混合処理工法に
究発表会講演集,pp.1737-1740,1985.
より改良され20年を経過した海底粘土の物理特性
4)堀内澄夫・伊藤益光・森田哲士・吉原重紀:低温
度下におけるセメント混合土の強度発現性,第19
回土質工学研究発表会講演集,pp.1609-1610,
1984.
5)細谷芳巳・牧原依夫・木幡行宏・奈須徹夫・日比
義彦・荻野拓哉:セメント系改良材による現場改
良土の品質評価,セメント系安定処理土に関する
シンポジウム,pp.42-56,1996.
6)社団法人セメント協会:セメント系固化材による
地盤改良マニュアル第3版,pp.40-41,2003.
7)社団法人地盤工学会:土質試験の方法と解説-第
1回改訂版-,pp.308-316,2000.
8)山口晴幸・池永均:土構造評価への水銀圧入型ポ
ロ シ メ ー タ ー 装 置 の 利 用, 土 と 基 礎,Vol.41,
pp.15-20,1993.
9)内田隆:貯留岩の孔隙性と孔径分布,石油技術協
会誌第49号第1号,pp.29-40,1984.
ならびに強度,土木学会第57回年次学術講演会,
Ⅲ -062,pp.123-124,2002.
15)林宏親・西本聡・大石幹太・寺師昌明:セメント
安定処理土の長期強度特性その1- DJM 改良柱
体 の 現 場 調 査 -, 北 海 道 開 発 土 木 研 究 所 月 報
No.611号,pp.11-19,2004.
16)高野幸男・酒巻克之:固化材による安定処理土の
細孔径分布について,第21回土質工学研究発表会,
pp.1965-1966,1986.
17)地人書館:岩石・化石の顕微鏡観察,2001.
18)橋本聖・西本聡・林宏親・梶取真一・牧野昌己・
伊藤浩邦・松下恭司:低温条件下で中層混合処理
した改良地盤の強度特性,第9回地盤改良シンポ
ジウム論文集,pp.317-320,2010.
19)梶取真一・西本聡・林宏親・橋本聖:セメント改
良地盤の凍結深さの推定に関する一考察,(社)地
盤工学会北海道支部第51号,pp.137-144,2011.
10)池上正春・佐藤英樹・一場武洋・小沢大造・志村
18
寒地土木研究所月報 №705 2012年2月
橋本 聖*
西本 聡**
林 宏親***
Hijiri HASHIMOTO
Satoshi NISHIMOTO
Hirochika HAYASHI
寒地土木研究所
寒地基礎研究グループ
寒地地盤チーム
研究員
技術士(建設)
寒地土木研究所
寒地基礎研究グループ
寒地地盤チーム
上席研究員
技術士(建設・総合)
寒地土木研究所
寒地基礎研究グループ
寒地地盤チーム
主任研究員
博士
(工学)
技術士
(建設・総合)
寒地土木研究所月報 №705 2012年2月 19