BP 統計から見た中国のエネルギー統計、特に石炭

BP 統計から見た中国のエネルギー統計、特に石炭需給統計修正の動向
BP の最新統計1によると、中国の 2014 年の一次エネルギー消費は合計 29.7 億 toe(石油換算ト
ン)で、世界の一次エネルギー消費総量 129.3 億 toe に占める比率は約 23.0%である。しかし、IMF
のデータによると、2014 年の中国の経済規模は世界経済全体の 13%以下であり、エネルギー消費
と経済を対照すると、中国の粗放な生産構造や低いエネルギー消費効率などの問題が浮き彫りに
なる。また、2014 年の中国の二酸化炭素排出量は 97.6 億トンで、アメリカの 60.0 億トン、日本
の 13.4 億トンを大幅に上回っており、世界全体の 27.5%を占める。
百万トン-CO2
25,000
20,000
インド
15,000
日本
アメリカ
10,000
5,000
中国
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(出所)BP「Statistical Review of World Energy June 2015」
図 1. 中国及び日米印の二酸化炭素排出
他方、中国経済成長の減速に伴い、エネルギー消費の伸びも鈍化している。BP 統計によると
2014 年の一次エネルギー消費の対前年比伸び率は 2.6%に止まり、2008 年の金融危機以降の最低
水準となった。また、第 12 次 5 ヵ年計画期(2011~2015 年)の 2011~2014 年の年平均増加率は
4.7%で、第 11 次 5 ヵ年計画期(2006~2010 年)の 6.6%と比較すると 1.9 ポイント下がっている。
中国国家統計局の「2014 年国民経済社会発展統計公報」2によると、2014 年の国内総生産(GDP)
は 63 兆 6,463 億元、成長率は 7.4%である。BP 統計をもとに試算すると、2014 年の GDP 当たり
のエネルギー消費は 0.47toe/万元であり、2010 年の 0.57toe/万元と比べると低下し、エネルギー消
費効率がやや改善されたと見られる。また、2014 年のエネルギー消費弾性値は 0.35 である。
中国のエネルギー消費は依然として、石炭を中心とする消費構造である。BP 統計によると、2014
年の中国の石炭消費は 19.6 億 toe で、一次エネルギー消費に占める比率は 66%、石油消費は 5.2
億トン、天然ガス消費は 1.7 億 toe、水力・原子力・その他再生可能エネルギー消費は 8,167 万 toe
1
2
BP「Statistical Review of World Energy June 2015」
中国国家統計局。http://www.stats.gov.cn/
1
である。
8%
3%
17%
7% 3%
17%
内円:2013年
29.0億toe
外円:2014年
29.7億toe
5%
6%
石油
ガス
石炭
水力
その他
68%
66%
(出所)BP「Statistical Review of World Energy June 2015」
図 2. 中国の一次エネルギー消費構造
2014 年の中国の石炭消費は世界の石炭消費全体の 38.8 億 toe のうち 50.6%を占めており、2000
年の 29.5%と比べると 21 ポイント以上上昇したことになる。中国の石炭消費の変動が世界の石炭
需給に与える影響は極めて大きい。
百万toe
%
4,500
60.0
4,000
石炭消費に占める中国の比率(右目盛) 48.2
44.1
3,500
29.5
32.3
1,789
1,500 1,670
1,902
1,832
2,000
1,870
1,876
1,919 40.0
30.0
世界(中国を除く)
1,691
20.0
1,000
500
50.6
50.0
38.6
3,000
2,500
50.6
45.7
700
808
2000
2002
1,125
1,599
1,446
1,741
1,922
1,962
2010
2012
2014
10.0
中国
0
0.0
2004
2006
2008
(出所)BP「Statistical Review of World Energy June 2015」
図 3. 中国と世界の石炭消費量
また、BP 統計によると、2014 年の世界の石炭(原炭)生産は 81.6 億トンであり、その中で中
国の石炭生産は 38.7 億トンに上り、全体の 47.4%を占めた。中国の石炭生産の変動も消費と同様
2
に世界の石炭需給に与える影響が大きい。
百万トン
アメリカ
インド
オーストラリア
ロシア
南アフリカ
その他
インドネシア
9,000
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
中国
1,000
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(出所)BP「Statistical Review of World Energy June 2015」
図 4. 中国及び世界の国別石炭生産の推移
日本の一般炭と原料炭の輸入価格(CIF)の推移と中国の石炭需要と比較対照すると、中国の石
炭需要が増加した 2000~2007 年には日本の石炭輸入価格も徐々に上昇した。一方、リーマンショ
ックの影響で世界経済が萎縮し資源価格が下落した 2008~2010 年を別にすれば、2011 年以降に
おける中国の石炭需要の伸びの鈍化に連動する形で日本の輸入炭価格も低下していることが分か
る。
百万toe
原料炭
価格(CIF,$/ton)
一般炭
2,500
400
136.2
350
2,000
300
250
1,500
229.1
97.7
200
1,000
150
114.4
100
500
50
中国の石炭需要(百万toe)
0
0
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
(出所)BP「Statistical Review of World Energy June 2015」
図 5. 中国の石炭需要と日本の輸入炭価格
3
2014
中国国家統計局は 2014 年末に予定されていた「中国能源(エネルギー)統計年鑑」の出版を延
期したが、2015 年 6 月時点では依然出版時期は明らかにされていない。また、国家統計局は 2015
年 2 月に公表した「2014 年国民経済社会発展統計公報」の中で、2013 年以前の統計を修正すると
している。以下、2015 年版並びに 2014 年版の BP 統計を用いて、中国のエネルギー統計の修正内
容について解析する。
2015 年版の BP 統計は 2000 年以降の一次エネルギーの数値を大幅に修正している。2014 年版
の BP 統計は 2013 年の中国の一次エネルギー消費を 28.5 億 toe としていたが、2015 年版では約
29.0 億 toe に修正され、両者の誤差は 4,572 万 toe に上る。また、2007 年における一次エネルギー
消費の数値の誤差は 2.5 億 toe に達している。また、一次エネルギーの中で修正幅が最も大きいの
は石炭である。2014 年版の BP 統計は 2013 年の石炭消費を 19.3 億 toe としていたが、2015 年版
では 19.6 億トンに修正され、誤差は 3,593 万 toe になる。石炭消費の誤差が最も大きかったのは
一次エネルギーと同じく 2007 年であり、2014 年版と 2015 年版には 2.5 億 toe の差がある。この
2.5 億 toe もの誤差は日本の 2014 年の一次エネルギー消費 4.6 億 toe の半分以上に相当する。
なお、
その他のエネルギー源(石油、天然ガスなど)については、修正幅はわずかなものに止まった。
百万toe
BP 2015
誤差
BP 2014
2,500
300
253
2,000
1,573
1,500
1,961
250
1,925
200
1,320
150
1,000
100
500
50
0
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
(出所)BP「Statistical Review of World Energy June 2015」
、
「BP Statistical Review of World Energy June 2014」
図 6. 中国の石炭消費と統計問題
また、石炭生産については、2014 年版の BP 統計では 2013 年の石炭生産は 36.8 億トンとされ
ていたのに対し、2015 年版は約 39.7 億トンに修正しており、両者の誤差は 2.9 億トンとなる。さ
らに、中国の第 12 次 5 ヵ年計画(2011~2015 年)は 2015 年の石炭生産を 38 億トン以内に抑え
るとの計画指標を掲げていたが、2015 年版 BP 統計によると、第 12 次 5 ヵ年計画 1 年目の 2011
年には石炭生産は早々と 37.6 億トンに達しており、2 年目の 2012 年には石炭生産は計画指標を超
え、39.5 億トンに達した。
4
2014
3,874
2013
3,680
3,974
2012
3,645
3,945
3,516
2011
3,764
3,235
2010
3,428
2,973
2009
3,115
2,802
2008
2,903
2,692
2007
2,760
2,529
2006
2,570
2,350
2005
0
500
1,000
百万トン
2,365
1,500
2,000
2,500
BP 2014
3,000
3,500
4,000
4,500
BP 2015
(出所)BP「Statistical Review of World Energy June 2015」
、
「BP Statistical Review of World Energy June 2014」
図 7. 中国の石炭生産と統計問題
ところで、中国政府が 2014 年 2 月に言及していた 2013 年以前の統計修正結果を明らかにする
前に、BP は 2015 年版において大幅な修正を行ったことになるが、これは BP が中国側から基礎
データの提供を受けて修正を行ったものであり、実質的に中国側のエネルギー統計修正の意向を
受けたものと見られる。中国政府が統計の修正作業を進めるのは、CO2 排出量の算定と関連して
いると推測される。今年の COP21 で各国は公約草案を提出しなければならないという国際合意が
あり、2014 年 11 月の APEC 会期中に米中両国は GHG(温室効果ガス)排出の削減を合意してい
た。GHG 排出量は 2005 年あるいは 2010 年の排出量を基準年として計算するため、2005 年もしく
は 2010 年のエネルギー消費量が高くなると基準 GHG 排出量も大きくなり、その結果、2030 年又
は 2050 年の CO2 の所要削減量を少なくすることが出来る。これが中国の統計修正の目的の一つと
見られる。
最後に、本資料は BP 統計を基づいて解析したものであり、中国の公式統計が公表され次第、
追加分析を行うことが必要である。
(エイジアム研究所 首席研究員 張 継偉)
Asiam Research Institute http://www.asiam.co.jp/
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