2015年度試験 回答例

基礎無機化学
2015 年度試験(75 点満点) 解答例
問 1.(配点:計 12 点)
(1) 以下の記号で示される原子やイオンに含まれる中性子,陽子,電子の数をそれぞれ答えよ.
(配点:中性子・陽子・電子全て合っていて正解,1 点×4)
7
Li

19
F
3
He
32
2
S
中性子 4
10
1
16
陽子
3
9
2
16
電子
2
9
2
18
(2) これら 4 つのイオンや中性原子の,最外殻電子の主量子数をそれぞれ答えよ(イオンに関しては,そのイ
オンになっている状態で,最も外側の電子の主量子数を答えること.2 点×4).
主量子数 1
2
1
3
問 2. 必要に応じてスレーターの規則を用い,以下の問い(1)~(3)に答えよ.ただしここでは,スレーターの規
則は以下のようなものだとする.(配点:計 10 点)
(1) 中性のカルシウム原子(Ca)の電子配置を書け.なお,書き方としては(1s)2(2s)2(例として,Be の電子配
置)という書き方で,内殻電子も省略せずに書くこと.(配点:2 点)
(1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6(4s)2
(2) Ca の最外殻電子から見た有効核電荷を計算せよ.(配点:2 点)
20 - 0.35×1 - 0.85×8 - 1 × 10 = 2.85
2.85
(3) ある電子から見た有効核電荷が Zeff,その電子の主量子数が n であるとき,その電子を引き抜くのに必要
なエネルギーは E0×(Zeff÷n)2 で近似できる(E0 はある定数).これを使って,「Ca を Ca2+にするのに必要なエ
ネルギー(Ca から電子引き抜き,さらに Ca+からもう一つ電子を引き抜くのに必要なトータルのエネルギー)」と
「Ca2+を Ca3+にするの必要なエネルギー(Ca2+から電子を 1 つ引き抜くエネルギー)」を比べることで,Ca3+にす
るのが非常に困難である事を示せ.(配点:6 点)
最外殻電子の主量子数と,そこから見た有効核電荷
Ca:主量子数 4,2.85,Ca+:主量子数 4,3.20,Ca2+:主量子数 3,8.75
Ca を Ca+にするのに必要なエネルギー:E0×2.852÷42 =0.508E0
Ca+を Ca2+にするのに必要なエネルギー:E0×3.202÷42 =0.640E0
∴Ca を Ca2+にするのに必要なエネルギー=1.148E0
Ca2+を Ca3+にするのに必要なエネルギー:E0×8.752÷32 = 8.51E0
Ca2+を Ca3+にするには,Ca を Ca2+にする場合の約 8 倍のエネルギーが必要で,3+にはなりにくい.
問 3. 第一イオン化エネルギーに関する以下の問いに答えよ.(配点:計 6 点)
(1) 周期表で縦に並んだ「Ne,Ar,Kr,Xe」を第一イオン化エネルギーが小さい順に並べ,そのような順序に
なる理由を説明せよ(説明まで合っていて 3 点).
小さい順に,Xe,Kr,Ar,Ne
理由:周期表の下の方ほど最外殻の電子の主量子数が大きく核から遠く,引力を受けにくいから
(2) 周期表で横に並んだ「O,F,Ne」を第一イオン化エネルギーが小さい順に並べ,そのような順序になる理
由を説明せよ(説明まで合っていて 3 点).
小さい順に.O,F,Ne
理由:周期表を右に行くほど最外殻から見た有効核電荷が増え,電子が強く引っ張られるから.
問 4. 電気陰性度に関する以下の問いに答えよ.(配点:計 7 点)
(1) 「O,F,Si,P」の 4 つの元素を,電気陰性度が大きい順に並べよ(3 点)
大きい順に,F,O,P,Si
(2) 以下の単結合のうち,結合の分極が最も大きいものはどれだと予想できるか?(4 点)
O-O
F-F
Si-Si
P-P
O-F
O-Si
O-P
F-Si
F-P
Si-P
最も分極が大きいのは,電気陰性度の差が最も大きい F-Si である.
問 5. ルイス構造,酸化数,混成軌道に関する以下の問いに答えよ.(配点:12)
(1) 以下の分子の骨格に多重結合や非共有電子対を追加し,8 電子則を満たし,しかも全原子の形式電荷が
ゼロであるようなルイス構造を完成させよ.なお,非共有電子対は省略せず,全て記載すること.(4 点)
※炭素の右下の 1~6 は各原子を区別するために付けてあるだけであり,それ以上の意味は無い.
(2) 得られたルイス構造をもとに,C1~C6 の各炭素原子,O,Cl の各原子の酸化数を求めよ.
なお,H に関しては酸化数を答える必要は無い.(全て正解できて 4 点)
C1:0, C2:-1, C3:+1, C4:+1, C5:0, C6:-1, O:-2, Cl:-1
(3) 得られたルイス構造に VSEPR 則を適用することで,C1~C6 の各炭素原子,O,Cl の各原子の軌道がそれ
ぞれ sp 混成軌道,sp2 混成軌道,sp3 混成軌道のどれになっているのかを推測し答えよ(どの混成軌道なのか
だけ答えれば良く,そう判断した理由や経緯まで細かく書く必要は無い).(全て正解できて 4 点)
C1:sp2, C2:sp2, C3:sp2, C4:sp2, C5:sp, C6:sp, O:sp3, Cl:sp3
問 6. Li-Be という 2 原子分子が存在できる事を,分子軌道法の考え方により説明し(内殻の軌道である 1s は
無視して良い),結合の次数がいくつになるのかを答えよ.なお,本当なら Li と Be では軌道のエネルギーが
異なるのだが,簡単のためそれらのエネルギーは等しいとする.(配点:説明 4 点,次数 3 点,計 7 点)
※ここで言う「存在できる」とは,2 つの原子がバラバラでいるよりも,Li-Be という分子を作った方がエネルギー
が低い,という意味である.
Li と Be の結合では,それぞれの 2s 軌道を使うことができる.これらが重なって,反結合性軌道(σ2s*)が 1 つ,
結合性軌道(σ2s)ができ,そこにそれぞれの価電子合わせて 3 つが入る.この結果,σ2s に 2 つ,σ2s*に 1 つ電
子が入り,0.5 重結合を形成する.よって Li-Be は存在できる.
問 7. 第 2 族元素である Ba とハロゲン(F2,Cl2,Br2,I2)との反応は,以下のように,ハロゲンが Ba から電子
を奪う反応として書ける.これに関し,以下の問いに答えよ.(配点:6 点)
Ba + X2 → Ba2+ + 2X-
(1) F,Cl,Br,I を電子親和力が大きい順に並べ,そうなる理由を答えよ.(理由まで合っていて 3 点)
電子親和力が大きい順に,F,Cl,Br,I
理由:周期表の上の元素ほど,空きのある軌道で最もエネルギーの低いものの主量子数が小さく,新たに受
け入れる電子が核の近くに存在できる.このため核からの引力を強く受け,エネルギーが下がる(=電子親和
力が大きい)
(3) Ba と,どのハロゲン(F2,Cl2,Br2,I2)を組み合わせた場合が最も激しく反応すると考えられか?(3 点)
ハロゲンが電子を奪う反応なので,最も電子を奪い力が強い F2 を用いた場合が激しく反応すると考えられる.
問 8. 希ガス元素の一つ「Ne」は,正イオンにも負イオンにもなりにくい.正イオンになりにくい理由と,負イオン
になりにくい理由をそれぞれ説明せよ.(配点:両方できて 7 点,片方なら 3 点)
※ただし,「希ガス元素で安定だから」だとか「閉殻で安定だから」などというのは全く説明になっていないので,
回答として認められない.「希ガスだと(閉殻だと)なぜ安定なのか」を説明すること.
正イオンになりにくい理由:周期表の右端であり,同周期の中で最も最外殻電子から見た有効核電荷が大き
い.このため最外殻電子は強く束縛され,正イオンになりにくい.
負イオンになりにくい理由:空きのある軌道は一つ上の主量子数の 3s 軌道となってしまう.この軌道に電子が
入ると,埋まった 2s・2p 軌道による遮蔽が強く効き,核からの引力をほとんど受けなくなる.このため追加され
た電子は容易に脱離してしまう.よって負イオンにはなりにくい.
問 9.窒素(N2)と水素(H2)からアンモニア(NH3)が出来る反応を単純化して書くと,以下のようになる.この時,
以下の問いに答えよ.(配点:計 8 点)
N2 + (A)H2
→ (B)NH3
(1) 式中の係数(A)と(B)を求めよ.(2 点)
(A):3 (B):2
(2) 反応式の両辺,つまり「N2 分子が 1 mol と H2 分子が(A) mol」でいる状態と「NH3 分子が(B) mol」
となっている状態を比べると,どちらのエネルギーが低い(=安定に)のかを,以下の結合解離エンタ
ルピー(結合を引きちぎって原子同士をバラバラにするのに必要なエネルギー)を用いて計算せよ.途
中の計算も記すこと.(6 点)
各結合のおおよその結合解離エネルギー
N≡N 三重結合: 942 kJ/mol
H-H 単結合:
436 kJ/mol
N-H 単結合:
390 kJ/mol
N2 1 mol と H2 3 mol が反応する場合を考える.
左辺の場合の結合エネルギーの総和:942 kJ/mol × 1 mol + 436 kJ/mol × 3 mol = 2250 kJ
右辺の場合の結合エネルギーの総和:390 kJ/mol × 3 × 2 mol = 2340 kJ
よって,NH3 となった方がエネルギーが下がる.
※結合エネルギーが大きい=結合して分子になった時,それだけエネルギーが下がる,である.