解体から「買いたい」へ 表舞台へ出る自動車リサイクル

2015/11/30 10:21
日本経済新聞 印刷画面
解体から「買いたい」へ 表舞台へ出る自動車リサイクル
2015/11/30 6:30 日本経済新聞 電子版
年間340万台に上る「廃車」の価値を高めようと、かつて「解体屋」と呼ばれてきた自動車リ
サイクル業者が連携し始めた。優秀な日本製のエンジンを評価する国際的な規格を定め、中東や
アジアなど新興国での流通を活発にする試みだ。解体屋は世界の「静脈産業」として脱皮しよう
としている。
■廃車340万台に2100社ひしめく
巨大な恐竜のくちばしのようなニブラと呼ばれる重
機が、乗用車を軽々とひっくり返し、焼き魚のはらわ
たを取るように、ハーネス(電線)やガラス、ビニー
ルなどの部品を丁寧に取り除いていく。がらんどうに
なった車体は強力なプレス機に送られ、一辺1メート
ルほどの立方体の鉄の塊に圧縮されていく。
巨大な重機が車から重要部品をつまみだす(会宝
産業の解体工場)
これがクルマの最後の姿。自動車解体工場の最終工
程だ。金沢市に本社を置く会宝産業は、年間1万
5000台の廃車を処理し、エンジンなどの部品のリサ
イクルで年商約30億円、そのうち75%を海外への輸出で稼ぐ業界最大手だ。
「価格の高い銅が含まれているから、ハーネスは慎重に取り除きます」(桜井茂宏常務)。エ
アバッグやエアコンのフロンガス、シュレッダーダストといった自動車リサイクル法でメーカー
に引き取り義務がある3品目を除けば、ほとんどがリサイクル可能な資源となる。搬入された車
からガソリンやオイルを抜くところから始まり、エンジンや車軸、シートなどを外して最終工程
にいたるまでの時間は最短15分から90分程度だ。
国内で販売される新車(軽自動車含む)は約560万台(2014年)。廃車になるクルマの数は
340万台前後だ。これに対し国内のリサイクル業者は約2100社に上る。2005年に施行された自
動車リサイクル法で、解体業者に設備が義務付けられるようになり、かなりの会社が撤退した
が、ピーク時には5000社近くに膨らんだ時代もある。高度経済成長期に自動車が右肩上がりで
販売を伸ばし、鉄スクラップが高く売れた時代の名残をとどめているのだ。
「年間に1万台を処理できる業者が350社あれば十分な市場だ。これからも淘汰が進むだろ
う」。会宝産業の近藤典彦会長はこう話す。近藤氏は、自動車リサイクル産業の近代化の旗を振
る業界のリーダー的存在だが、やはり右肩上がりの時代を生きてきた世代だ。1960年代に東京
都江戸川区の中古車販売会社で修行をした後、69年に故郷の金沢に戻り解体業を開始。「当時
はもうかるからやる、という気持ちしかなかった」と振り返る。
http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXMZO94421750W5A121C1000000&uah=DF250820149810
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■20年落ちセダン7万5000円
自動車の解体
や鉄スクラッ
プ、アルミニウ
ム、銅を売りさ
ばいていたが、
転機が訪れたの
は91年。クウ
「車リサイクル業者はこれからも淘汰が続
く」と近藤氏
ェートなど中東
の顧客が泊まり
込みで来社し、
整然と棚にならぶエンジン。売り上げの75%は
海外輸出だ
20トンもの中
古エンジンを買い付けに来た。日本車のエンジンに海外で需要があることに着目し、解体業から
諸外国で再生利用される中古部品を販売するビジネスへの脱皮に成功したのだ。中古エンジンの
輸出は、タイ、ケニア、ナイジェリア、ガーナ、シンガポールなど計80か国、年間2万台を超え
ている。
輸出という「出口」を見つけた会宝は、自動車リサイクル業が変身する可能性を示し始めた。
同業他社が驚いたのは昨年夏の出来事だ。
1995年式のトヨタ・カローラを持ち込んだ一般ユーザーが、会宝の査定マンから7万5000円
の買い取り料金を受け取る現場が、全国ネットのテレビで放映されたからだ。この年式の車な
ら、自動車ディーラーに持ち込まれ、良くても1万円程度の査定額で引き取られる。ディーラー
はこれに利益分を積み、2万∼3万円程度でリサイクル業者に売却するのが通常だ。
「テレビが撮っているから大盤振る舞いしたわけではない」と近藤氏。その証拠として部品売
却の明細はボンネット2000円、テールランプ1000円、ハンドル2000円、鉄スクラップ1万
7000。肝心のエンジンに至っては5万5000円の値が付いた。合計11万円。3万5000円の粗利
が出ている計算だ。こうした高値買い取りが可能なのも、輸出という出口があるからだ。これが
契機になって、会宝のビジネスモデルを学ぼうとする同業者が集まり始めた。
日本では考えにくいが、中東や東南アジア、アフリカなどの新興国では一度購入した車が故障
すればエンジンを載せ換え、パーツを交換して乗り続けるという。交換パーツはドアやハンド
ル、シート、計器類、エンジンに及び、その市場規模は1000億円に及ぶともいわれる。新車販
売マーケットを動脈産業と呼ぶなら、中古エンジン市場は静脈産業と呼んでもいいだろう。
「会宝が目指しているのは国内だけでなく、世界中に走っている11億台の 後始末 をしたい。
それには日本のリサイクル技術が必要」と近藤氏は話す。現在、ブラジルのミマスジュライス州
ベロオリゾンテ市に、海外で2つ目となるリサイクル工場を建設中で、16年6月に稼働予定だ。
同5月からは現地の技術者8人を金沢に呼んで、自社の施設で研修を受けさせる。
http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXMZO94421750W5A121C1000000&uah=DF250820149810
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■3000キロも30万キロも同じ?
だが、海外の中古エンジン流通はまだ課題が多い。会宝の近藤氏は「新興国に輸出される中古
エンジンは、そのエンジンの品質や劣化を精査することなく、アズ・イズ(現状のまま)で右か
ら左へと市場に流されている」と指摘する。つまり、3000km走ったエンジンも、30万km走っ
たエンジンも優劣の判断のないまま、同じ価格で取引されている。多くの場合外観を目視したた
けで価格が決められたエンジンは「そのままバイヤーの手によって一般消費者へとわたり、やが
て売り手、買い手の間でトラブルを生む」(近藤氏)。
会宝は、輸出用の中古車エンジンを分解せずに品質評価
する独自基準を新たにつくった。Japan Reuse
Standard(JRS)と名づけられたこの基準は、(1)走行距離
(2)始動状態(3)さび(4)オーバーヒートの有無(5)オイル漏
れ(6)各気筒のコンプレッション(圧縮)のブレ――の6
ポイントをチェックする。特に最も重要な圧縮のブレにつ
いては、エンジンを車に載せた状態で各気筒のパルスを読
コンプレッション(圧縮)やオイル漏れ、オ
ーバーヒートの有無などがひと目でわかる
み取る独自の検査システムを開発した。
2013年には、JRSの技術仕様書を英国規格協会(BSI)に
認証申請し、同年10月にはPAS777(中古オートモーティブエンジン及び関連するトランスミ
ッションユニットの機能評価及びラベリングに関する仕様書)の発行にこぎ着けた。中古エンジ
ンの品質を評価する世界初の国際基準が生まれた。
10月21日、北は札幌市から南は鹿児島市まで、全国19社・団体が加盟するNPO法人「RU
Mアライアンス」のメンバーが東京国際フォーラムに集まった。自動車リサイクルを通じて環境
問題に貢献する趣旨で、会宝が発起人として発足した団体だ。代表理事を務める近藤氏は、
「我々リサイクル業者が直接ユーザーから車を買い取る比率を高めていきたい」と話した。これ
までのBtoBビジネスからBtoCへカジを切ろうという宣言だ。
■一般ユーザーを狙え
自動車ディーラーを介した買い取りではなく、直接
ユーザーから買い取りを増やさなければ、良質な車が
獲得できなくなる、という危機感が背景にある。会宝
の場合、全体の買い取り金額に占めるBtoC比率は、
過去5年で9.5%から18%に倍増している。
中古車買い取りでは、ガリバーやイエローハットと
いった全国チェーンの存在感が強いが、こうした市場
に食い込んでいこうという。RUMアライアンスに加
盟する各社は、すでに「リサイクル祭り」と呼ばれ
質の高い中古車の調達はますます難しくなってい
る(会宝産業の解体工場)
http://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGXMZO94421750W5A121C1000000&uah=DF250820149810
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る、中古車買い取りの地域イベントを全国6カ所で定期的に開催している。遠方の顧客に対して
は、最寄りのメンバー企業を紹介するといった全国チェーンに対抗するネットワークづくりも始
めた。
新興国への部品輸出と、認証制度による付加価値向上という武器を持った元「解体屋」たち
が、表舞台にフィールドを広げようとしている。
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