コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業

コーポレートガバナンス
「攻めの経営」への転換
変わり始める日本企業
October 2015
EY Institute
アベノミクス成長戦略の「目玉」であるコーポレートガバナンス改革は現在、構築ステージから実践
ステージに移行しつつある。2013 年の日本再興戦略は「社外取締役の活用」、14 年の同改訂版は「グ
ローバル水準の ROE」を通じて、資本市場の論理を企業経営に反映することを求めた。そして 15 年
の再改訂版は「攻めの経営」というキーワードを用いて、経営者から積極果敢な経営判断が導出される
ことを期待している。
14 年までに講じられた資本市場の機能を強化する諸施策は、着実に成果を上げてきている。企業で
は情報開示の充実のみならず監督機能の強化が着実に進展し、投資家については画一的でない議決権行
使が目立つようになった。もっとも、わが国企業の ROE は依然として低水準に止まっており、抜本的
な収益力や資本効率の向上が強く求められる状況に変わりはない。コーポレートガバナンス改革の真価
が問われるのはこれからといえよう。
コーポレートガバナンス改革は
「攻めのガバナンス」から「攻めの経営」へ
1
EY Institute
改革を「形」だけで終わらせないためには、それぞれの企業が自社に特有の「目指す姿」を明確にし
た上で、その実現を後押しするためのコーポレートガバナンス改善を継続しなければならない。それと
同時に、改善されたコーポレートガバナンスが引き出した積極果敢な経営判断を実行するため、企業グ
ループのマネジメント力を向上させなければならない。以上を通じ始めて、持続的に ROE は改善され
ることになるだろう。
本冊では、15 年の株主総会において企業と投資家がいかに「2 つのコード」に対応したか、まず 2
つのレポートで総括する。次にわが国企業の低 ROE 構造につき、さまざまなデータを用いて分析する。
その上で、各企業がコーポレートガバナンス改善を継続するための指標とすべく、欧米主要企業のケー
ススタディーを体系的に報告する。最後に ROE 向上の実行ツールとして、グループガバナンスの在り
方について試論を展開する。
多くの企業が「攻めの経営」にまい進するため、本冊が一助になれば幸いである。
EY 総合研究所 未来経営研究部長 藤島裕三
Ⅰ. 2015 年株主総会シーズンに見る
コーポレートガバナンス・コードの対応状況
・・・・・03
Ⅱ. 2015 年株主総会シーズンにおける議決権行使結果の分析
∼「2 つのコード」元年の投資家動向と企業に求められる取り組み∼
・・・・・11
Ⅲ.「2 つのコード」が迫る中長期的な ROE 向上
・・・・・16
Ⅳ. 日本企業が目指すべきコーポレートガバナンス
∼欧米企業の事例調査から得られる示唆∼
・・・・・21
Ⅴ. 企業価値を創出するグループガバナンス
∼「攻めのガバナンス」を実現する設計と手法∼
・・・・・33
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
2
Ⅰ.2015 年株主総会シーズンに見る
コーポレートガバナンス・コードの対応状況
EY 総合研究所 未来経営研究部
主席研究員 藤島 裕三
研究員補 薩摩 吉子
はじめに
2015 年 6 月 1 日、コーポレートガバナンス・コー
本稿では、コーポレートガバナンス・コードの第 1
ドが運用開始となった。同月以降に株主総会を開催し
章「株主の権利・平等性の確保」と第 4 章「取締役
た上場会社を皮切りとして、同コードに関する初期対
会等の責務」が求める事項のうち、データを用いて進
応、すなわち「コードの各原則を実施しない理由」お
展度が分析できたものについて取り上げる。今後、本
よび「コードの各原則に基づく開示」を記載した、新
格化する同コードへの初期対応、さらには継続的な
フォーマットのコーポレートガバナンス報告書を提出
コーポレートガバナンス強化の取り組みにおいて、各
しなければならない(6 カ月の猶予期間あり)。既に
企業が自らに課すべき「本気度」を判断する際の材料
対応済みの事例も散見されるが、大部分の上場会社に
となることが期待される。
おいては現在、自社の状況確認および対応方針の検討
に追われているものと推察される。
もっとも、コーポレートガバナンス報告書による開
示だけが、コーポレートガバナンス・コード対応の全
てではない。コードを構成する原則・補充原則の中に
は、株主総会に際して株主・投資家の利便性を高める
こと(第 1 章)、株主総会を経て取締役会の監督機能
を高めること(第 4 章)、などを求める内容が含まれ
ている。これらについては 6 月の株主総会シーズン
において、上場会社による取り組みの進展が相当程度
に認められた。既にコーポレートガバナンス・コード
対応は始まっているのである。
3
EY Institute
EY Institute
第 1 章「株主の権利・平等性の確保」にかかわる事項
以下、第 1 章「株主の権利・平等性の確保」にかかわる論点につき、TOPIX100 採用銘柄(2014 年 10 月末
時点、8 月決算企業 1 社除く)を主要企業として分析する。
(1)株主総会の開催日
【補充原則 1-2 ③】
上場会社は、株主との建設的な対話の充実や、そのための正確な情報提供等の観点を考慮し、株主総会開催日
をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設定を行うべきである。
主要企業のうち 3 月決算である 87 社の株主総会
わが国企業の多くは定時株主総会の招集に関わる基
開催日について確認したところ、集中日開催の企業は
準日を決算期末としており、3 月決算企業(すなわち
24 社から 25 社、集中週については 61 社から 64
社にそれぞれ増加した<図 1 >。東証発表の「定時
株主総会集中率推移グラフ(3 月期決算会社)」※ 1 を
見ても、集中日における集中率は最近 6 年間、40%
6 月総会企業)の開催日をさらに分散化するには限界
がある。法的には決算期末と異なる基準日を設定する
ことは可能ではあるが、基準日変更の定款変更を諮る
議案の上程、配当と基準日を別にすることに伴う諸コ
前後で横ばいの推移となっている。株主総会開催日の
スト(郵送代など)の発生など、実務的な負担の増大
分散化は一段落した状況といえる。
が想定される一方、相応のメリットが見いだし難いと
の指摘も散見される。今後、一層の総会分散化が期待
できるとすれば、IFRS の導入やグループ統制の強化
などを見据えて、決算期を 12 月に変更するケースな
どが主となろう。
図 1 株主総会開催日の分布(3 月決算企業、N=87 社)
35%
2014
2015
30%
25%
20%
15%
10%
5%
6/29
6/28
6/27
6/26
6/25
6/24
6/23
6/22
6/21
6/20
6/19
6/18
6/17
6/16
6/15
6/14
6/13
6/12
0%
出典:各社臨時報告書等より新日本有限責任監査法人ナレッジ本部・EY 総合研究所作成
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
4
Ⅰ.2015 年株主総会シーズンに見るコーポレートガバナンス・コードの対応状況
(2)招集通知の発送日 / 開示日
【補充原則 1-2 ②】
上場会社は、株主が総会議案の十分な検討期間を確保することができるよう、招集通知に記載する情報の正確
性を担保しつつその早期発送に努めるべきであり、また、招集通知に記載する情報は、株主総会の招集に係る
取締役会決議から招集通知を発送するまでの間に、TDnet や自社のウェブサイトにより電子的に公表すべき
である。
招集通知の発送日は前年と同様、ほとんどの企業が
発送前開示(発送日より前の日付で招集通知が東証
株主総会開催日の 21 日以上前で、特に 21・22 日
ウェブサイトに掲載された事例を抽出)については、
前が全体の約 6 割を占めた<図 2 >。「コーポレート
実施した企業は前年の 13 社から 71 社と大幅に増加
ガバナンス・コードの策定に関する有識者会議(第 3
<図 3 >、さらに 5 日以上前に開示した事例は 8 社
回)」では、実務上の制約から 3 週間前の発送が限界
から 39 社となった。さらなる発送日の早期化には実
、少なくとも主要企業
務上の制約が重くのしかかる一方、郵送手続きに先ん
においては相当な水準まで取り組みは進展したといえ
じて実施すればよい発送前開示は、コード対応として
る。なお前年比で個別に見てみると、多くの企業では
取り組みやすかったものと推察される。
との意見も提示されており
※2
± 3 日前後と大きく変わっておらず、5 日以上の早
期化に踏み切った企業は 5 社に止まった。
図 2 招集通知の発送日(株主総会の XX 日前)
(社数)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
2014
出典:各社臨時報告書等より新日本有限責任監査法人ナレッジ本部・EY 総合研究所作成
図 3 招集通知の発送前開示(東証ウェブサイトの開示ベース)
(社数)
100
28
80
60
しない
した
86
40
71
20
0
13
2014
2015
出典:東証ウェブサイトより新日本有限責任監査法人ナレッジ本部・EY 総合研究所作成
5
EY Institute
30日前
29日前
28日前
27日前
26日前
25日前
24日前
23日前
22日前
21日前
20日前
19日前
18日前
17日前
16日前
15日前
2015
EY Institute
(3)招集通知の英訳その他
【補充原則 1-2 ④】
上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とする
ための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。
英文招集通知を作成した企業数(東証ウェブサイト
議決権電子行使プラットフォーム※ 3 に参加するな
に掲載している社数ベース)は、前年より 6 社増加
ど、議決権行使の電子化を可能とする取り組みについ
の 93 社となっており、大多数の主要企業において外
ては、既に大部分の主要企業において浸透している<
国人投資家を意識した取り組みが進んだといえる<図
図 5 >。さらに分析対象を TOPIX500 まで広げて
4 >。なお未作成である 6 社のうち 2 社については、
外国人株主比率が 2 割程度に止まっており、また事
みると、新たに今年、議決権行使の電子化に取り組ん
業内容も国内を基盤としているため、費用対効果の観
対的に時価総額が小さい企業においても対応が進みつ
点から尚早と判断したものと想定される。
つあることが分かる。
図 4 英文招集通知の作成
図 5 議決権電子行使プラットフォームへの参加
(社数)
(社数)
100
12
100
6
無
有
80
9
5
していない
している
60
87
93
40
89
90
94
FY2012
FY2013
FY2014
20
20
0
10
80
60
40
だ企業が 385 社と前年から 46 社増加しており、相
0
2014
2015
出典: 東証ウェブサイトより新日本有限責任監査法人ナレッジ本部・
EY 総合研究所作成
出典: 各社コーポレートガバナンス報告書より新日本有限責任監査
法人ナレッジ本部・EY 総合研究所作成
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
6
Ⅰ.2015 年株主総会シーズンに見るコーポレートガバナンス・コードの対応状況
第 4 章「取締役会等の責務」にかかわる事項
次に、第 4 章「取締役会等の責務」にかかわる論点について、主に TOPIX500 採用銘柄(2014 年 10 月末時点)
を対象企業として分析する。
(1)独立社外取締役の選任
【原則 4-8.独立社外取締役の有効な活用】
独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべき
であり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも 2 名以上選任すべきである。
また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、
少なくとも 3 分の 1 以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、
そのための取組み方針を開示すべきである。
対象企業のうち、2 期連続でデータが取得可能な
なお東証が 7 月 29 日に公表したデータ※ 4 による
498 社が選任している独立社外取締役(独立役員に
指定された社外取締役)の合計人数は 1,122 人で、
前年の 862 人から約 30% の増加となった。独立社
外取締役を選任していない(選任数が 0 名の)企業
は 70 社から 15 社に激減した一方で、2 名以上(複
数)を選任している企業は 247 社から 383 社と急
増、全体の 77% を占めるまでに至った<図 6 の左>。
また独立社外取締役の割合が 1 割に満たない企業は
151 社から 56 社と大幅に減少、コードが「自主的
な判断」として求める「3 分の 1 以上」を満たす企
業については 69 社から 100 社と全体の約 2 割を占
めるに至っている<図 6 の右>。なお独立社外取締
役が過半数の企業は 27 社あった。
と、東証 1 部における独立社外取締役を選任した上
場会社の割合は 48.4% となった。本稿の対象企業
(TOPIX500 採用銘柄)では 90% を優に超えており、
時価総額の大きい企業で取り組みが先行している。東
証は同時に、社外取締役(独立役員でない者も含む)
選任企業の割合を 94.3% としており、5 月施行の改
正会社法が規定する「社外取締役を置くことが相当で
ない理由」の説明責任に関しては、相当に対応が進ん
だことが分かる。今後はコードの求める「独立社外取
締役」「少なくとも 2 名以上」についても、取り組み
の裾野が拡大するか注目される。
図 6 独立社外取締役人数と割合の変化
独立社外取締役人数
(社数)
383
400
2014年7月末時点
2015年7月末時点
300
247
181
200
100
200
150
162
151
175
167
2014年7月末時点
2015年7月末時点
116
100
100
69
56
100
70
独立社外取締役割合
(社数)
50
15
0
0
0名
1名
複数選任
出典:各社コーポレートガバナンス報告書等より EY 総合研究所作成
7
EY Institute
1/10未満
1/10以上
1/5未満
1/5以上
1/3未満
1/3以上
EY Institute
(2)指名 / 報酬委員会の設置
【補充原則 4-10 ①】
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達
していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責
任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置す
ることなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助
言を得るべきである。
対象企業のうち株主総会の終了後、7 月末までに
社外取締役が議長を務める、メンバーの半数以上を
コーポレートガバナンス報告書を提出した監査役会設
社外取締役とするものが 3 分の 2 程度に達するなど、
置会社と監査等委員会設置会社につき、指名と報酬に
客観的なプロセスを備えようとする取り組みが進んで
関する任意諮問委員会の設置状況を確認した。<図 7
いる。なお主要企業(TOPIX100 採用銘柄)に絞り
>および<図 8 >から分かるように、いずれの委員
込むと、約半数の企業がそれぞれの委員会を設置して
会も 4 分の 1 前後の企業で設置されるに止まってい
いる。
る。もっとも設置事例においては、それぞれ半数強で
図 7 指名委員会(任意)の設置状況と社外取締役割合
(社数)
社外取締役割合
80
設置
(社外取締役),
52
63
設置
(社内取締役),
46
,
設置(その他)
2
60
40
,
設置(なし)
2
非設置, 359
20
15
10
13
0
50%以上
33%以上
50%未満
25%以上
33%未満
25%未満
出典:各社コーポレートガバナンス報告書等より EY 総合研究所作成
※( )内は議長
図 8 報酬委員会(任意)の設置状況と社外取締役割合
(社数)
80
設置
(社外取締役),
60
設置
(社内取締役),
55
非設置, 338
,
設置(社外有識者)
1
社外取締役割合
73
60
,
設置(その他)
3
設置(なし)
,
4
40
20
17
15
17
33%以上
50%未満
25%以上
33%未満
25%未満
0
50%以上
出典:各社コーポレートガバナンス報告書等より EY 総合研究所作成
※( )内は議長
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
8
Ⅰ.2015 年株主総会シーズンに見るコーポレートガバナンス・コードの対応状況
(3)監査等委員会設置会社への移行
【「コーポレートガバナンス・コード原案」序文 14】
我が国の上場会社は、通常、監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社のいずれかの
機関設計を選択することとされている。本コード(原案)は、もとよりいずれかの機関設計を慫慂するもので
はなく、いずれの機関設計を採用する会社にも当てはまる、コーポレートガバナンスにおける主要な原則を示
すものである。
「コーポレートガバナンス・コード原案」は補充原
いなかった企業が、従来の社外監査役をそのまま社外
則 4-10 ①の背景説明において、指名・報酬に係る機
取締役である監査等委員として選任し直した例が多い
能の独立性・客観性を強化する手法として、「例えば、
ことが、背景としては考えられる。そのような移行事
任意の諮問委員会を活用することや、監査等委員会設
例では、社外役員あるいは独立役員の人数は変わらず、
置会社である場合には、取締役の指名・報酬について
コーポレートガバナンスの強化につながるかどうかは
株主総会における意見陳述権が付与されている監査等
未知数といえる。今後、監査等委員会設置会社のスキー
委員会を活用すること」を挙げている。本補充原則に
ムを一層のコーポレートガバナンス強化につなげるた
止まらず、コード対応の有効な取り組みとして、監査
めの、追加的かつ実質的な取り組みが問われることに
等委員会設置会社への移行が認識されている模様であ
なろう。
る。
なお上述した 175 社のうち、9 割近くに相当する
175 社にのぼる。移行前(直近期末)と移行後(7
149 社が定款変更によって、重要な業務執行(会社
法第 299 条第 5 項各号に掲げる事項を除く)の決定
を取締役に委任することを可能とした。序文 7 は「本
月末時点)における社外取締役、独立社外取締役、独
コード(原案)は、(中略)会社の意思決定の透明性・
立役員の総数を比較したところ、社外取締役と独立社
公正性を担保しつつ、これを前提とした会社の迅速・
外取締役は急激に増加している一方、独立役員につい
果断な意思決定を促すことを通じて、いわば『攻めの
ては 338 人から 385 人へと微増したに止まってい
ガバナンス』の実現を目指すものである」としている。
る<図 9 >。
各社の移行が目先のコード対応に止まることなく、
「健
独立役員の人数について詳細に見ると、変化がな
全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と
かった企業は 103 社と、増加した 56 社の倍近くに
中長期的な企業価値の向上を図る」(序文 7)ものと
及んでいる。もともと社外取締役を 1 名も選任して
なることが期待される。
監査等委員会設置会社への移行を発表し、7 月末ま
でにコーポレートガバナンス報告書を提出した企業は
図 9 社外取締役、独立社外取締役および独立役員の人数の変化
(人)
475
500
385
400
385
338
300
移行前
移行後
200
100
83
55
0
社外取締役
独立社外取締役
独立役員
出典:各社コーポレートガバナンス報告書等より EY 総合研究所作成
9
EY Institute
EY Institute
まとめ
株主総会における情報開示の充実を求める事項につ
その一方、指名・報酬の諮問委員会については、主
いては、時価総額の大きい主要企業において既に相当
要企業(TOPIX100 採用企業)であっても任意で設
な対応がなされており、昨年から大きな変化は見られ
置しているのは半分程度に過ぎず、広く進展している
なかった。同様の取り組みは相対的に時価総額の小さ
とは言い難い。また、監査等委員会設置会社に移行し
い企業でも検討されているが、各社の外国人株主比率
た企業の多くでは、移行前と比較して独立役員の人数
や最適株主構成の考え方、IR 活動に関する方針など
が増加していない。すなわち、改正会社法や ISS 新
に左右されるため、その広がりは限定的なものに止ま
ポリシーが圧力となって独立社外取締役の選任人数は
るとも考えられる。
増加したものの、もう一段のコーポレートガバナンス
強化に向けた施策については、必ずしも上場会社は積
さらなる株主総会開催日の分散化や招集通知発送日
極的に取り組んでいる訳ではない。
の前倒しには、企業努力に頼るだけでは達成が難しい
と思われる側面もあり、取り組みを促進する規制改革
以上を考え併せると、上場各社におけるコーポレー
も必要になってこよう。例えば、招集手続は会社法第
トガバナンス・コード対応のスタンスについて、当面
299 条により原則書面で実施しなければならないが、
は「二極化」が進展するものと考えられる。時価総額
経産省「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進
が大きく外国人株主比率の高い企業などの間で積極的
研究会」の報告書(4 月 23 日公表)
は「会社が
な対応が競われる一方、コーポレートガバナンス報告
情報を投資家に紙媒体で送付する方式は、書面の他に
書の「コードの各原則に基づく開示」※ 7 に関わる最
情報提供手段がなかった時の考え方」と指摘、紙ベー
低限の記載で済ます企業も相当数に達するのではない
スの開示に問題提起している。
か。「対応の二極化」は「評価の二極化」となり得る。
※5
まさに「それぞれの会社が自らの置かれた状況に応じ
て工夫すべき」(序文 9)ことが問われよう。
取締役会における監督機能の強化を求める事項で
は、特に独立社外取締役の複数選任について、大幅に
進展したことが確認された。改正会社法における「社
外取締役を置くことが相当でない理由」の説明責任に
加えて、議決権行使助言の最大手 ISS が 2016 年 2
月から「取締役会に複数名の社外取締役がいない企業
の経営トップに反対を推奨」すると発表しており※ 6、
来年以降の議決権行使結果に対する懸念が積極的な取
り組みを引き出した影響度は小さくないと考えられ
る。
※1
※2
※3
※4
※5
※6
※7
http://www.jpx.co.jp/listing/events/shareholders-mtg/tvdivq000000011x-att/tvdivq000000tn5l.pdf
http://www.fsa.go.jp/singi/corporategovernance/gijiroku/20140930.html
http://www.icj.co.jp/participation/plat.html
http://www.jpx.co.jp/listing/stocks/ind-executive/
http://www.meti.go.jp/press/2015/04/20150423002/20150423002.html
http://www.issgovernance.com/file/policy/iss-policy-update-announcement_japanese.pdf
http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008j85-att/tvdivq000000uvc4.pdf
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
10
Ⅱ.2015 年株主総会シーズンにおける
議決権行使結果の分析
~「2 つのコード」元年の投資家動向と企業に求められる取り組み~
EY 総合研究所 未来経営研究部
主席研究員 藤島 裕三
研究員補 薩摩 吉子
はじめに
2015 年 6 月にコーポレートガバナンス・コード
に際しては、社外要件の冷却期間(10 年)や責任限
が運用開始されたことで、14 年 2 月に確定したス
定契約の対象範囲拡大、監査等委員会設置会社の創設
チュワードシップ・コードと併せて、成長戦略として
といった制度的な手当も施されている。そしてコーポ
のコーポレートガバナンス改革が軸とする「両輪」が
レートガバナンス・コードにおいては、複数の独立し
出そろった。今後は「建設的な対話(エンゲージメン
た社外取締役の選任といった上場会社に望ましい水準
ト)」を通じて、企業は「持続的な成長と中長期的な
としての「プリンシプル(原則)」が示された。これ
企業価値の向上」の達成にまい進、投資家は「投資と
を受けて、各企業は自社の状況に応じた透明・公正か
対話を通じた企業の持続的成長」を後押しすることに
つ迅速・果断な意思決定を断行する「攻めのガバナン
なる。その意味で 15 年 6 月の株主総会シーズンは、
ス」を構築することが求められる。
今後の対話における「起点」として重要な意味を持つ。
そこで本稿においては、企業と投資家に関する以上
投資家に対しては、14 年 5 月末の時点で第 1 回
のトピックスを念頭に置きつつ、まずは TOPIX100
のスチュワードシップ・コード「受入れ表明」が実施
を構成するわが国の代表的企業(14 年 10 月末時点)
された。もっとも「コードの各原則に基づく公表項目」
について、15 年 3-6 月に実施された株主総会の議決
の開示が求められたのは 8 月末の第 2 回以降であり、
権行使結果をレビューする。さらに、経営トップの選
したがって 15 年こそが実質的な「スチュワードシッ
任など注目議案に関しては、対象企業を拡大した上で
プ・コード元年」と言えるかもしれない。また議決権
詳細な分析を実施する。これら株主総会における投資
行使助言大手の ISS(Institutional
Shareholder
家の動向を考察することを通じて、企業が今後、投資
Services)は、15 年 2 月より新たな助言方針(ポ
リシー)を適用開始した。これによって、15 年から
資本生産性基準(過去 5 期平均または直近期の ROE
について 5% 以上)が導入されるなど、グローバル投
家との「対話」に臨む際に有用となる示唆を得ること
資家に影響力が大きい変更が実施されている。
企業に関しては、15 年 5 月に改正会社法が施行さ
れ、「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説
明が義務付けられた。この「社外取締役の実質義務化」
11
EY Institute
を目的とする。
EY Institute
TOPIX100 企業の全議案分析
TOPIX100 採用銘柄のうち、15 年 3 月から 6 月
特に議案数が増加した議案として、定款一部変更が
に株主総会を開催した 99 社(他の 1 社は 8 月に開
挙げられる。監査等委員会設置会社への移行や責任限
催予定)につき、総会決議に関わる臨時報告書で開示
定契約の対象範囲拡大といった、会社法改正に伴う定
された議決権行使結果をまとめた<図 1 >。これに
款変更が主な内容となっている。これらの会社法改正
よると、多くの議案において賛成率は横ばいもしくは
に関連する議案を含めて、ほとんどの定款変更議案は
若干の改善が見られる程度となっている。
高い賛成率を確保した。
取締役選任議案は、取締役任期 2 年の企業におい
役員報酬に関連する議案としては、退職慰労金支給
て改選期を迎えた取締役が少なかったため、上程され
が制度打ち切りで減少する一方、株式報酬を重視する
た議案数は若干減少した。平均賛成率は若干の改善と
潮流から新株予約権付与が増加している。なお新株予
なっている。社内取締役に限ってみると、低 ROE 企
約権付与について、社外取締役や監査役に対する付与
業の経営トップに対する反対行使の影響を、社外取締
を諮る議案などに関しては、反対票が比較的多い傾向
役の増加による賛成率向上などでカバーした形となっ
が見られる。
た。一方で社外取締役については、取締役会出席率が
低い再任者が少なからず目立ったものの、独立性を
買収防衛策は非継続(廃止)が相次いでいることも
伴った候補者の増加などが奏功して、全体としては賛
あり、TOPIX100 採用銘柄において議案数は極めて
成率が上昇している。
少なくなっている。去年更新を迎えた 1 社に比べる
と、今年の 3 社は賛成率が大幅に上昇しているよう
監査役については多くが改選期を迎えたため、議案
に見えるが、前回継続時における賛成率と比較したと
数は大幅に増加した。平均賛成率は 1 ポイント弱ほ
ころ、いずれも 5 ポイントを超える低下となっている。
ど改善しており、社外監査役に限っても同程度の改善
なお同 3 社で比較すると、外国人株主割合が高いほ
傾向となっている。取締役選任議案と同様に社外監査
ど賛成率が低い傾向が顕著に見られた。
役の賛成率について、独立性を伴った候補者の増加な
どで向上したと考えられる。
図 1 TOPIX100 採用銘柄の議決権行使結果(議案別)
議案
2014 年
社数
議案数
平均賛成率
2015 年
社数
議案数
平均賛成率
剰余金処分
75
75
96.1%
74
74
96.8%
取締役選任
94
1,040
95.0%
94
1,000
95.2%
監査役選任
67
110
92.2%
69
157
93.0%
定款一部変更
28
28
97.5%
48
50
97.6%
2
2
98.7%
3
88.1%
1
1
89.7%
(うち監査等委員会設置会社への移行)
退職慰労金支給
3
役員報酬額改定
9
10
96.4%
7
9
96.0%
新株予約権発行
12
12
92.6%
14
17
92.6%
組織再編関連
その他の会社提案
(うち買収防衛策)
合計・平均
1
1
95.4%
0
0
-
28
30
94.8%
36
39
93.6%
1
1
55.4%
3
3
69.2%
99
1,309
94.8%
99
1,347
95.1%
出典:各社臨時報告書等より新日本有限責任監査法人ナレッジ本部・EY 総合研究所作成
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
12
Ⅱ.2015 年株主総会シーズンにおける議決権行使結果の分析
Ⅱ. ∼「2 つのコード」元年の投資家動向と企業に求めらえる取り組み∼
TOPIX500 企業(製造業)の個別議案分析
特に投資家の関心が高い三つの議案について、TOPIX500 採用企業のうち 15 年 6 月に株主総会を実施した製
造業である企業に対象を拡大し、より詳細な分析を以下に実施する。
1. 経営トップの賛成率
14-15 年にかけて、社外取締役が 1 人以下だと賛
成率が低い傾向が明確となっている<図 2 >。ISS
は 14 年から 1 名、16 年から 2 名の社外取締役がい
同傾向は 2015 年に顕著となっている<図 3 >。14
ない場合、経営トップに反対推奨する方針であること
年においても一部投資家は低 ROE を理由に反対行使
などが影響した模様。もっとも 15 年においては、社
したと見られるが、15 年は ISS の資本生産性基準が
外取締役のいない企業は 0 社と急減している。15 年
5 月施行の改正会社法で、社外取締役設置が実質義務
化された効果と考えられよう。なお、社外取締役が 2
基準に抵触(過去 5 期平均かつ直近期の ROE が 5%
次に ROE との関係を見たところ、過去 5 期平均
と直近期のいずれも 5% 未満の企業が相対的に低く、
影響して反対票が増加したと考えられる。なお、ISS
未満)した 26 社の平均賛成率は 84.7% である。
名以上になると大きな差は見られない。社外取締役
が取締役会の 3 分の 1 もしくは過半数を占めるべき、
といった一部投資家による主張は、少なくとも現状で
は大きく影響していないと言える。
図 2 社外取締役の人数別による経営トップ選任議案の平均賛成率の変化
2014年6月株主総会
100%
95%
93.8%
93.5%
94.4%
2015年6月株主総会
100%
N=191
N=204
95%
93.5%
93.6%
91.9%
93.7%
94.1%
93.2%
91.7%
90%
90%
85%
85%
81.9%
80%
80%
0人
(14社)
1人
2人
(63社) (56社)
3人
(32社)
4人
5人以上
0人
(15社) (11社)
(0社)
1人
2人
(33社) (97社)
3人
(37社)
4人
出典:各社臨時報告書等より新日本有限責任監査法人ナレッジ本部・EY 総合研究所作成
図 3 ROE の水準別による経営トップ選任議案の平均賛成率
直近ROE
100%
2014
95%
90.7%
90%
100%
2015
93.9%
92.9%
95.7%
91.7%
94.8%
93.1%
95%
90%
88.2%
85%
5年平均ROE
2014
92.1%
91.6%
93.5%
93.1%
95.0%
93.0%
89.5%
85%
80%
5%
未満
5% 未満
5%
5% 以上
以上
8%
8% 未満
未満
8%
以上
8% 以上
10%
10% 未満
未満
80%
10%
10% 以上
以上
5%
5% 未満
未満
出典:各社臨時報告書等より新日本有限責任監査法人ナレッジ本部・EY 総合研究所作成
13
2015
95.2%
EY Institute
5%
以上
5% 以上
8%
未満
8% 未満
8%
以上
8% 以上
10%
未満
10% 未満
5人以上
(20社) (17社)
10%
以上
10% 以上
EY Institute
2. 社外役員の賛成率
3. 買収防衛策の賛成率
社外取締役選任議案の平均賛成率は 94.4%(0.8
買収防衛策の導入議案(全て継続)を上程した企業
ポイント増)、社外監査役は 90.4%(1.0 ポイント減)
は 18 社で、平均賛成率は 68.6%(4.9 ポイント減)
となった。それぞれ賛成率の分布を見ると、社外取締
だった。導入企業の外国人株主比率と比較すると、絶
役は全体的に賛成率が向上した結果、90% 以上の議
対水準および前回継続時からの変化度のいずれも、右
案が増加しているのに対して、社外監査役は 70% 以
肩下がりの分布となっている<図 5 >。ただし同程
下の候補者が増加するなど、全体的に賛成率が低下し
度の外国人株主比率であっても、賛成率・変化度とも
ていることが分かる<図 4 >。TOPIX100 採用銘柄
に企業ごとのバラツキが見られる。外国人投資家ひい
に限った分析では、社外取締役と社外監査役のいずれ
ては機関投資家全般において、買収防衛策を一律に反
も賛成率は向上していた。独立性に対する投資家の
対としている訳ではなく、個別の設計や説明によって
要求は社外取締役より社外監査役に対して厳しいが、
は賛成している可能性が考えられよう。
TOPIX100 採用銘柄の多くはその要求水準に応えて
いる一方、相対的に時価総額が小さい企業においては
必ずしも同水準に追い付いておらず、反対票が増加し
たものと推測される。
図 4 社外取締役(左)・社外監査役(右)選任議案の賛成率分布
社外取締役選任
(構成比)
85%
2014.6
80%
75%
20%
75%
35%
2015.6
2014.6
30%
70%
25%
65%
~
~
20%
15%
15%
10%
10%
2015.6
~
~
5%
5%
0%
社外監査役選任
(構成比)
(賛成率)
60% 以上 70% 以上
60%
未満 60% 以上 70% 以上
60
% 未満
70%
70
未満 80%
80% 未満
未満
% 未満
0%
80%
80% 以上
以上 90% 以上
90% 以上
90%
90% 未満
未満
(賛成率)
60% 以上 70% 以上 80% 以上
60%
未満 60% 以上 70% 以上 80% 以上 90%
60
90%以上
以上
% 未満
70
未満 80%
80%未満
未満 90%
90%未満
未満
70%
% 未満
出典:各社臨時報告書等より新日本有限責任監査法人ナレッジ本部・EY 総合研究所作成
図 5 外国人株主比率による買収防衛策導入議案の賛成率分布
(賛成率)
(賛成率増減)
100%
20%
90%
15%
80%
10%
70%
5%
60%
0%
50%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
(外国人株主比率)
-5%
-30%
-20%
-10%
0%
10%
20%
(外国人株主比率増減)
出典:各社臨時報告書等より新日本有限責任監査法人ナレッジ本部・EY 総合研究所作成
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
14
Ⅱ.2015 年株主総会シーズンにおける議決権行使結果の分析
Ⅱ. ∼「2 つのコード」元年の投資家動向と企業に求めらえる取り組み∼
まとめ
「2 つのコード」元年となった 15 年の株主総会シー
背景として企業においては、改正会社法に対応した
ズンは、企業と投資家の双方が取り組みを深化させた
社外取締役の選任など、ミニマム・リクワイヤメント
ことで、例えば以下のような特徴が議決権行使結果に
にキャッチアップする取り組みが進んだことが挙げら
表れた。
れる。また時価総額が大きい企業を中心に、独立性の
伴った社外監査役の選任や買収防衛策に関わる説明の
• 経営トップの選任議案について、社外取締役が不在
工夫など、投資家の要求水準に応えようとする一段上
のため反対されるケースは、企業の取り組みが進展
の取り組みも進展しており、賛成率の向上・バラツキ
した結果、大幅に減少した(TOPIX500 の製造業
に影響していると考えられる。
では皆無)
。一方で、ROE が 5% 未満の経営トップ
一方で投資家については、スチュワードシップ・コー
に対しては、反対行使する投資家が目立って増加し
ドの本格的な運用開始に伴い、ISS はじめ議決権行使
ている。
助言機関のポリシーなどを参考にしつつ、独自もしく
はさらに厳格な行使判断をした事例が増加したと見ら
• 社外取締役の選任議案は、取締役会出席率の改善や
れる。その結果、社外監査役や買収防衛策など平均賛
独立性を伴った候補者の増加などで、全体的に賛成
、個
成率は低下しているが(TOPIX500 の製造業)
率が向上した。その反面、社外監査役の独立性に対
別企業の取り組みと合わせた相乗効果で、バラツキを
する投資家の視点は厳しく、時価総額が相対的に小
もたらす結果となっている。
さい企業(TOPIX100 以外)では反対票が増えて
すなわち企業・投資家の双方が独自の取り組みを進
いる。
めた結果、個別企業ごとに議決権行使結果が異なる傾
向が強まったと言える。企業の立場から換言すると、
• 買収防衛策の導入議案に対しては、例年通りに厳し
自社独自の取り組みや説明を積極的に実施すること
いスタンスで臨む投資家が多く、特に外国人株主比
で、より多くの賛成票を獲得することが可能性となる。
率の高い企業においては反対率が顕著に表れた。た
したがって「建設的な対話(エンゲージメント)」に
だし同程度の外国人株主比率であっても、賛成率・
おいて、どのような取り組みが自社に望ましいのか、
変化度ともに企業ごとのバラツキが見られる。
そして自社の取り組みがいかに実効的か、議論を通じ
て投資家の信認を高めることが、今後の株主総会対策
として極めて有効となろう。
ISS は 16 年以降、複数の社外取締役がいない場合
は経営トップに反対すると発表しており、投資家の要
求水準は今後、年を追って厳格化することが予想され
る。また同時に、スチュワードシップ・コードが求め
る「自らの責任と判断の下」で、投資家は議決権行使
を判断する傾向が強まると見られる。その際に重要な
材料となるのが「対話」であり、企業においては今後
「対話」の巧拙が大いに問われよう。
15
EY Institute
Ⅲ.
「2 つのコード」が迫る中長期的な ROE 向上
EY 総合研究所 未来経営研究部
上席主任研究員 深澤 寛晴
ROE を巡る議論
2015 年はスチュワードシップ・コードおよびコー
昨年来、ROE に関連してさまざまな方面から提言
ポレートガバナンス・コードのいわゆる 「2 つのコー
や意見発信等がなされている<表 1 >。
ド」 がそろった最初の年となった。2 つのコードが目
実際に目指すべき ROE が企業によって異なるの
指すのは中長期的な企業価値の向上だ。株主の視点か
はあらためて指摘するまでもないが、伊藤レポート
ら企業価値を示す代表的な指標といえば自己資本利益
や ISS が具体的な水準(5% もしくは 8%)を示した
率(ROE)であり、資本市場の注目度は依然として
意義は大きい。以下では、この水準を念頭に置いて
高い。本稿では、2 つのコードの出発点となる中長期
ROE の実績値を見てみよう。
的な ROE について、日本企業における過去の実績値
に注目して分析を行い、2 つのコードに対する示唆を
導出する。
表 1 ROE に関連した提言や意見発信等
「日本再興戦略」改訂 2014 (コーポレートガバナンスの強化について)グローバル水準の ROE の達成
等を一つの目安
−未来への挑戦−
ISS 注 1 議決権行使助言基準 過去 5 期平均 ROE が 5% を下回る場合、経営トップに反対推奨ただし直近
年度の ROE が 5% 以上ならば反対推奨しない
伊藤レポート注 2
グローバルな投資家と対話するには、最低 ROE8% 達成をコミットすべき
コーポレートガバナンス・ 収益力・資本効率等に関する目標を提示、明確に説明すべき(「資本効率」
コード(原則 5-2)
は主に ROE を念頭においていると考えられる)
注 1 ISS(Institutional Shareholder Services)は議決権行使助言機関の最大手
注 2 正式には「『持続的成長への競争力とインセンティブ∼企業と投資家の望ましい関係構築∼』プロジェクト『最終報告書』」
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
16
Ⅲ.「2 つのコード」が迫る中長期的な ROE 向上
中長期的な ROE の推移
今回、分析対象としたのは、東証一部上場企業のう
ROE の動きを分子と分母に分けて見てみよう(<
ち電力と金融を除く 1,206 社(詳細は<図 1 >の対
図 2 >;データの性質上、合算値を用いざるを得な
象・注参照)だ。また財務健全性が悪化し自己資本が
いため、<図 1 >の「合算値」ベースの ROE を対象
減少している企業は、ROE が極端な数値になりがち
とする)。分子となる純利益が金融危機前の水準に戻っ
なため、除いている。
たのは 14 年 3 期であり、直近でも危機前を 9% 上
これらの企業について過去 10 年間の ROE の推
回るにすぎない。一方、自己資本は 13 年 3 期に危
移を示す<図 1 >。 中位値に注目する※ 1 と、3% ∼
機前の水準を超え、直近では 29% 上回っている。前
7% 強のレンジで推移しており、過半数の企業が伊藤
レポートが示す 8% を上回った年度は一度もなかった
ことが分かる。金融危機のあった 09 年 3 期から 14
年 3 期まで続けて改善しているが、最高でも 7% 強
と金融危機前の 8% 弱を下回る水準に止まっている。
段で直近の ROE が前年度に比べてやや低下している
また、直近は前年度を若干ながら下回っている。
い付いていないと見ることもできよう。
ことを指摘したが、これは自己資本の前年度比伸び率
が 10.4% と純利益の 9.3% を上回ったためだ。報道
等で一部企業の自己株式取得や増配が注目されたが、
日本企業全体では株主還元による自己資本の圧縮が追
図 1 主要企業の ROE 推移
10%
9%
8%
7%
6%
5%
4%
中位値
3%
単純平均
2%
1%
0%
2006.3 2007.3 2008.3 2009.3 2010.3 2011.3 2012.3 2013.3 2014.3 2015.3
出典 : QUICK より EY 総合研究所作成
対象 : 東証一部上場企業(金融・電力、期間中に債務超過に陥った企業および過去 10 年間の平均
DE レシオが 1 倍を超える企業を除く)のうち、必要なデータを取得可能な 1,206 社
(注) 決算期は各社により異なるが、便宜上 3 月決算を想定して年月を示している。2015.3 は
14 年 5 月から 15 年 4 月に終わる決算期。
図 2 主要企業の自己資本と純利益の推移
16
80%
200
14
60%
180
12
40%
10
120
0%
100
6
-20%
-40%
0
出典・対象・注:<図 1 >を参照
EY Institute
兆円
前年比(右軸)
10%
140
20%
2
17
160
8
4
15%
5%
80
0%
60
40
-60%
20
-80%
0
兆円
前年比(右軸)
-5%
-10%
EY Institute
短期・中長・長期的な平均 ROE
高(低)ROE の長期化
<図 3 >に直近(短期)、過去 5 年(中期)、過去
機関投資家にとって重要なのは過去ではなく将来の
10 年(長期)における平均 ROE を示す。 ISS が示
ROE だ。足元の ROE が低迷していても、中長期的
す 5% という水準を下回る企業数に注目すると、短期
な向上が見込まれれば投資する価値がある。そこで、
よりも中期、中期よりも長期の方が多くなっている。
今回分析対象期間とした 10 年間について、最初の 3
一方で伊藤レポートが掲げる 8% という水準を超える
年が終了した時点に戻ってみよう。その時点における
企業数については逆の傾向が見て取れる。 従前、日本
直近 3 年間の実績 ROE の平均値=短期的な ROE に
企業は中長期的な視点で経営をしており、短期的な指
よって企業を四つに分け、それぞれについて以降 7
標にとらわれるべきでない、との声が聞かれたが、期
年間の平均 ROE に注目したのが<表 2 >だ。 例えば、
間を長くとるほど ROE の低い企業が増えるのが実際
左端 1 番上のセルは最初の 3 年間の平均 ROE が上
だ。スチュワードシップ・コードは機関投資家に対し
位 1/4 に入り、以降 7 年間の平均 ROE も上位 1/4
て中長期の視点を持つことを要求しているが、機関投
に入った企業の数が 172 社だったことを示している。
資家が中長期の視点を持ったとしても、実績としてそ
同様に<表 2 >の全体を見ると、左上から右下の
の期待に応えることのできた企業は一部に止まったと
対角線上のセルに入る企業数が多いことが分かる。つ
言わざるを得ない。
まり、最初の 3 年間の平均 ROE が高い企業の多くが
図 3 主要企業の ROE
直近
10%以上
26.8%
8%-10%
16.4%
過去5年平均
5%未満
31.5%
10%以上
21.1%
過去10年平均
5%未満
38.1%
5%未満
41.3%
8%-10%
13.0%
8%-10%
13.3%
5%-8%
25.3%
10%以上
19.2%
5%-8%
26.5%
5%-8%
27.5%
出典・対象・注:<図 1 >を参照
表 2 最初の 3 年間の ROE と以降 7 年間の平均 ROE
社数
以降 7 年間の平均 ROE
上位 1/4
次位 1/4
次々位 1/4
下位 1/4
(8.2% 超) (5.1%-8.2%)(2.8%-5.1%) (2.8% 以下)
上位 1/4
(11.9% 超)
172
69
38
22
次位 1/4
(7.4%-11.9%)
86
113
60
43
次々位 1/4
平均 ROE (4.1%-7.4%)
22
85
105
90
下位 1/4
(4.1% 以下)
21
35
99
146
最初の
3 年間の
出典・対象・注:<図 1 >を参照
(注)各行につき、最も社数の大きいセルを■、次に社数の多いセルを■で示している。( )内は ROE のレンジ。
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
18
Ⅲ.「2 つのコード」が迫る中長期的な ROE 向上
ROE と株主資本コスト
以降 7 年間も高 ROE で、逆に最初の 3 年間の平均
ROE について目指すべき水準は企業によって異な
ROE が低い企業は以降 7 年間も低 ROE となる傾向
がある。また、上位と次位、次々位と下位に 2 分すると、
最初の 3 年間と以降の 7 年間で前者から後者に落ち
る。<表 2 >についても各社の目指すべき水準の違
る、あるいは後者から前者に上がる企業が非常に少な
き水準は満たしている、と解釈できるかもしれない)。
いことが分かる。機関投資家からすれば、コストをか
ファイナンス理論上は株式に関する資本コスト(株主
けてまで中長期的な視点から調査を行う必要などはな
資本コスト)が目指すべき ROE の水準の目安となる
く、最初の 3 年間の ROE という短期的な業績指標に
から、ここでは株主資本コストに注目してみよう。
注目するだけでその後の 7 年間という比較的長い期
リスクフリー・レート(RFR)を 2%、マーケット・
間の業績を相当程度予測できたことになる。
リスク・プレミアム(MRP)を 5% と仮定して各社
いが影響している可能性は否定し難い(例えば下位
1/4 の ROE 実績値は低いものの、各社が目指すべ
の株主資本コストを算出し(詳細は本稿末【補論】を
参照)、10 年間の平均 ROE の四分位別に平均値を
示したのが<図 4 >だ。理論上、資本コストが高い
ほど目指すべき ROE の水準は高くなるから、ROE
の実績値が目指すべき水準の影響を受けているとす
ると、上位 1/4 で株主資本コストが最も高く、下位
1/4 が最も低くなるはずだ。しかし、<図 4 >を見
ると明確な違いは見られず、むしろ下位 1/4 がやや
高い水準となっている※ 2。各社が目指すべき ROE 水
準である株主資本コストと、現実の ROE 実績値との
間には関連性は見られず、したがって<表 2 >につ
いても各社の目指すべき水準の影響はない(あったと
しても重要でない)と言える。
図 4 ROE(10 年平均)の四分位別の平均株主資本コスト
7%
6.21%
6.11%
6.06%
上位1/4
(9.1%超)
次位1/4
(9.1%-5.9%)
次々位1/4
(5.9%-3.4%)
6%
6.38%
5%
4%
3%
2%
1%
0%
出典・対象・注:<図 1 >を参照。( )内は ROE のレンジ。
19
EY Institute
下位1/4
(3.4%以下)
EY Institute
まとめ
本 稿 で 明 ら か に な っ た 日 本 企 業( 主 要 企 業)の
①および③より日本企業の ROE が長期にわたって
ROE の実績値に関する事実をまとめると、以下の通
低迷しており、「長期志向の日本的経営」 は言い訳に
りだ。
なっていないこと、さらに②よりその要因として事業
面以上に財務面の課題が大きいことが指摘できる。こ
①
②
過 去 10 年 間、ROE が 伊 藤 レ ポ ー ト の 示 す
8% という水準を上回る企業が過半数に達し
たことは一度もない。
れらは 2 つのコードを通じて取り組むべき課題であ
る、中長期的な ROE 向上の重要性と緊急性を示して
いると言えよう。
一方、④は 2 つのコードに対して、極めて重要な
金融危機前に比べると、純利益よりも自己資
本の方が回復・増加のペースが速く、ROE 向
上の足かせになっている。
示唆を持っている。いわゆるメインストリームの機
③
期間を長くとるほど平均 ROE が低い企業の
数が増え、平均 ROE が高い企業の数は減る。
マーク対比で運用の成果を評価されるから、相対的な
④
相対的な高 ROE および低 ROE は継続する傾
向がある。これは株主資本コストの違いに影
響されない。
関投資家は年金基金等の顧客から TOPIX 等のベンチ
ROE の予想は重要だ。しかし実績値のみに基づく分
析だけで将来の相対的な ROE を予想できるのであれ
ば、機関投資家にコストをかけて長期的な企業価値を
分析する、さらには「建設的な対話」を行うコストを
負担するモチベーションは湧かないだろう。
スチュワードシップ・コードの原則 7 は機関投資
家に対して「実力を備える」ことを、コーポレートガ
バナンス・コードの基本原則 4 は企業の取締役会に
対して「収益力・資本効率等の改善を図るべく(中略)
役割・責任を適切に果たす」ことを要求している。本
稿で指摘した現状を踏まえると、「2 つのコード」の
成否のカギは当面は後者が握っていると言えそうだ。
※ 1 全体の動きを示す指標として単純平均や合算値も考えられる
が、単純平均は ROE が極端な水準になった一部企業の影響、
合算値は大企業の影響が過大となる可能性があることから、こ
こでは中位値に注目している。合算値を併記しているのは<図
2 >で分子と分母の合算値を扱うため。
※ 2 各社の株主資本コストの標準偏差はどの四分位でも 1.2% ∼
1.5% だから、統計的にも各四分位の株主資本コストが異なる
という仮説は棄却される。
【補論】
株主資本コストは株主の当該企業の株式への投資に対する期待収益率であり、理論上、下式に
より算出される。
株主資本コスト= RFR +β× MRP
RFR:リスクフリー・レート(ここでは 10 年国債利回り)
MRP:マーケット・リスク・プレミアム= Rm − RFR
Rm:市場全体のリターン(ここでは TOPIX(配当込み))
β:MRP に対する株価の感応度
<図 4 >の株主資本コストにおいてβは 05 年 4 月の第 1 週から 15 年 3 月最終週までの週
次データを用いて算出している。
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
20
Ⅳ.日本企業が目指すべきコーポレートガバナンス
~欧米企業の事例調査から得られる示唆~
EY 総合研究所 未来経営研究部
上席主任研究員 深澤 寛晴
はじめに
本年 5 月 1 日に改正会社法、
6 月 1 日にコーポレー
一方、CG の実情についてはどうだろう。欧米企業
・コードの適用がスタートし、日
トガバナンス(CG)
の状況が紹介されるケースは少なくないが、個別の項
本企業の CG 改革は実践段階に入った。改正会社法に
目について開示例を示すものが多く、個別の企業を取
よる監査等委員会設置会社制度の導入で制度面の選択
り上げてその CG の実情を調査・分析するといった
肢が増えたことに加え、CG コードが原則主義および
ケースはあまり見られない。 また、対象が米国や英国
コンプライ・オア・エクスプレイン方式を採用してい
に偏る傾向があり、ドイツやフランスといった大陸欧
ることから、企業は極めて弾力的な対応が可能となっ
州の事例が紹介されるケースが少ない点も指摘され
た。各社が固有の事情に応じて独自の CG を追求する
る。このように CG の実態面について、欧米の事例は
ことが求められており、同時にそのための環境が整っ
日本に十分に紹介されているとは言い難いのが現状と
たと言える。
言える。
日本の CG コードは主に英国の同コードを手本とし
EY 総合研究所では大陸欧州を含む欧米企業の CG
て策定されたが、有識者会議では OECD の CG 原則
について、継続的に事例調査を行っている。本稿では
やドイツ・フランスの CG コードも参考資料として供
同調査について成果の一部を紹介するとともに、日本
されている。また、監査等委員会設置会社制度は監査
企業に対する示唆を導出する。
役設置会社制度と指名委員会等設置会社制度の中間的
な位置付けとして導入されたが、そもそもの指名委員
会等設置会社制度は米国のガバナンス規制に範を取っ
て導入された制度だ。CG コードを含む法規制面につ
いては、欧米の先行事例は相当程度日本に反映されて
いると言える。
21
EY Institute
EY Institute
事例調査※ 1:対象企業
調査対象とした企業は以下の 16 社だ。各国の時価
業種を絞り込んだのは事業環境の違いによる影響を
総額上位企業を選んでいる。
抑えるため、この二つの業種を選んだのは米国・英国・
ドイツ・フランスの 4 カ国それぞれに大手企業があ
• 製薬企業 8 社:米国・英国・スイス各 2 社、ドイ
ツ・フランス各 1 社
るためだ。製薬については、ドイツおよびフランスに
• 金融機関 8 社:米国・英国・ドイツ・フランス各
2社
ることを考慮し、ドイツとフランス企業については各
ついて時価総額について上位 1 位と 2 位の差が大き
いこと、スイスにも軽視しにくい大手企業が 2 社あ
1 社に減らす一方でスイス企業 2 社を加えた。
以下、例えば米国の製薬会社の時価総額 1 位、2
位は米国 A 社、米国 B 社、同金融機関の時価総額 1 位、
2 位は米国 X 社、米国 Y 社といった形で表記する。
Pickup Information
EY 総合研究所 未来経営研究部では、シリーズレポー
トである「成長戦略としてのコーポレートガバナンス」
を 2014 年より継続的に発行しております。
未来経営研究部の研究員が収集・分析した情報をタイ
ムリーに発信することを心がけております。
詳しくは、http://eyi.eyjapan.jp をご覧ください。
また、コード適用目前の時期であった 2015 年 5 月には、
「コーポレートガバナンス その改革を日本型経営に真に活か
すために」と題した冊子を制作・公開しております。各企業に
おける経営者や実務担当者に資するべく関連情報を整理、分析
した内容となっており、EY Japan グループのクライアント
の皆さまのみならず、広く多くの方々に手に取って頂けました。
その「コーポレートガバナンス その改革を日本型経営に
真に活かすために」に掲載した記事の一遍“欧米企業のコーポ
レートガバナンスの現状”は、本章のレポート “日本企業が
目指すべきコーポレートガバナンス(CG)∼ 欧米企業の事例
調査から得られる示唆”
の前段階にあたるものでして、今回
は欧米企業の事例分析の数・質ともに高めて、そこから日本企
業に参考になる点までを分析・考察する内容となっております。
EY 総合研究所では、外部情報の収集・整理だけでなく、事
例研究・調査・分析を継続的に行うことで、より高度な知見や、
新しい着眼点でのナレッジを集約し、情報発信やクライアント
へのサービス提供につなげてまいります。
「コーポレートガバナンス その改革を日本型経営に真に活かすために」
http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-business-management/2015-05-20.html
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
22
Ⅳ.日本企業が目指すべきコーポレートガバナンス
Ⅱ. ∼欧米企業の事例調査から得られる示唆∼
取締役会の人数・内訳
取締役会
※2
の人数・内訳から見てみよう。 <図 1
図 1 取締役会の人数と内訳
>に、調査対象企業の取締役会の人数と内訳を示す。
15
取締役の人数は 10 ∼ 20 人、従業員代表を除くと
10
10 ∼ 17 人だ。日本企業(東証一部)では取締役の
人数は 8.6 人※ 3 だが、大企業(売上 1 兆円以上)に
限定すると 11.6 人だから、欧米と大きな差はないと
【米国】
20
5
0
言える。
13
13
14
12
12
13
半を非執行取締役が占めていることが分かる。日本企
業(東証一部、監査役設置会社)の社外取締役は平均
1
1
1
1
B社
X社
Y社
執行
1.04 人、委員会設置会社(現在の指名委員会等設置
会社)に限定しても平均 4.70 人だから、取締役会の
内訳(執行と非執行)については大きな差があるとい
える。
10
5
0
【社内 / 社外ではなく執行 / 非執行】
日本の取締役は社内 - 社外で区別されるが、欧
15
米では社内 - 社外ではなく執行 - 非執行で区別さ
10
れる。非執行について独立性が問われる点では日
本と同様だ。社内取締役=執行取締役となるのが
通常だが、社内取締役であっても経営執行のライ
17
14
13
11
10
0
3
1
2
A社
B社
執行
20
5
0
ンから外れている者については非執行取締役とさ
前線から身を引いた後も会長として取締役会に加
非執行(非独立)
10
10
0
0
0
A社
X社
Y社
非執行
従業員代表
【フランス】
10
11
5
3
1
15
14
2
2
10
10
1
2
1
1
Y社
非執行(非独立)
従業員代表
【スイス】
11
10
11
9
10
0
1
A社
B社
執行
非執行(独立)
出典:各社年次報告書または proxy
EY Institute
非執行(独立)
10
A社
X社
執行
非執行(独立)
23
Y社
10
は独立していない(非独立の)非執行取締役とい
0
X社
10
わるケースは珍しくない。このような場合の会長
5
0
3
10
15
0
15
0
4
20
20
20
10
20
執行
0
13
【ドイツ】
15
う位置付けになることがある。
13
20
れることがある点に注意が必要だ。
日本でも社長が後進に道を譲り、経営執行の最
非執行(独立)
【英国】
20
15
10
A社
一方、非執行取締役※ 4 は 9 ∼ 14 人となっており、
全ての企業において(従業員代表を除く)取締役の大
11
statement より EY 総合研究所作成
EY Institute
取締役会の議長
以下、国別に特徴を見てみよう。
次に、取締役会の議長について見てみよう。ポイン
トは「議長と CEO の分離」だ。経営執行に関する情
• 米国
4 社全てにおいて、最高経営責任者(CEO)を除く全取締
報を多く持つ CEO に権限が集中するのを避けること
が目的だが、近年は同様の目的で筆頭独立取締役を設
役が非執行(独立)となっている。
置する動きもある。今回対象とした企業については、
実質的に全てのケースで議長と CEO の分離または筆
• 英国
米国に比べると執行取締役の人数が 2 ∼ 4 人とやや多い。
CEO に加えて会長(Chairman)や最高財務責任者(CFO)
が執行取締役を務めるケースがあるようだ。
の分離」は長年にわたって同国 CG の課題として挙げられる
一定以上の規模の企業では、取締役の人数は 20 人とするこ
が、進んでいないのが実態のようだ。一方、4 社全てで筆頭
と、株主代表および従業員代表の取締役を各 10 人とするこ
と、経営者は取締役になれない(=執行取締役は存在しない)
ことが法定されている。また、独立性については明確な開示
がなされないケースが多く、例えば A 社は「株主代表取締
役の過半数かつ取締役全体の少なくとも 3/4 は独立とする」
と説明するにとどまっており、実際に何人が独立しているか
は明記していない。他社も同様のため、<図 1 >では 3 社
とも非執行・従業員代表各 10 人としており、非執行取締役
独立取締役を設置している。
• 英国
CEO が議長を務めるケースは見られず、4 社全てにおいて
「議長と CEO の分離」を達成している。X 社では執行取締
役である会長が、他の 3 社では独立した非執行取締役が議
長を務めている。4 社とも筆頭独立取締役を置いている点は
米国企業と同様だ。
における独立・非独立の内訳は記載していない。
• ドイツ
• フランス
A 社と Y 社では CEO 以外、X 社では CEO および会長以外
上述の通り法定により執行取締役がいないため、3 社全てに
おいて「議長と CEO の分離」が達成されている。ただし、
は全ての取締役が非執行だ。一部の非執行取締役が大株主と
X 社を除く 2 社の議長は前 CEO であり、独立性が高いとは
の関係や在任期間等を理由に非独立とされている。同国では
言い難い。
従業員による持株比率が一定水準を超える場合は従業員代表
の取締役を選任することが求められており、X 社および Y
• フランス
A 社および Y 社では CEO が議長を務めており、「議長と
CEO の分離」を達成しているのは執行取締役の会長が議長
を務める X 社だけだ。もっとも A 社では通常は CEO と議
長を分離しているが、2014 年中に CEO を解任したため、
一時的な措置として議長が兼務していた。15 年に入ってか
社では同取締役を 2 名選任している。A 社については同比
率が低く従業員代表の取締役を選任していないが、5 人の従
業員代表者が議決権を持たない形で取締役会に陪席してい
る。またドイツでは従業員代表を独立として扱うことが多い
が、フランスでは同国の CG コードに基づき非独立と扱うの
が通常のようだ。
らは新たな CEO を選任し、議長と CEO が分離した状態に
• スイス
人数は 10 人および 11 人とやや少ない。A 社は取締役全員、
全て独立とされている。
ている。以下、個別に見てみよう。
• 米国
4 社全てにおいて CEO が議長を務めている。「議長と CEO
• ドイツ
B 社は CEO を除く全員が非執行取締役だ。非執行取締役は
頭独立取締役の設置の、いずれかあるいは両方を行っ
戻っている。なお、
Y 社では筆頭独立取締役を選任している。
• スイス
2 社ともに独立した非執行取締役が議長を務めており、「議
長と CEO の分離」を達成している。ただし、A 社の議長は
10 年まで同社の COO(Chief Operating Officer)を務
めおり、「過去 3 年間、同社の従業員として働いていない」
という同社の基準※ 5 には抵触しないものの、独立性への懸
念は否定しにくい。同社では勤務経験のない取締役 2 人を
副議長としており、事業に詳しい議長と独立性の高い副議長
でバランスを取っているとの見方もできよう。
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
24
Ⅳ.日本企業が目指すべきコーポレートガバナンス
Ⅱ. ∼欧米企業の事例調査から得られる示唆∼
非執行取締役のバックグラウンド
<図 2 >に非執行取締役のバックグラウンドを示
欧米企業について特徴的なのは、製薬では医療関係
。このテーマについては国別よりも業種別の方
の学会・研究者が多く、金融では経営者(金融)が多
が傾向の違いが明らかなため、同図は製薬と金融に分
い点だ。それぞれに求められる「業界特有の知識」が
けている。
異なっていることを反映していると考えられる。 例え
まず経営者(事業会社)が多い点で製薬と金融に差
ば金融では、金融危機の反省からリスク管理の高度化
はない。日本企業(監査役設置会社)でも独立社外取
に加え、リスク管理に非執行取締役の関与を求める傾
締役の 64% は他の会社の出身者が占めており、欧米
向が高まっていることから、同じ金融出身で高度なリ
と同様の傾向と言える。一方、日本企業では弁護士・
スク管理の知識を持ち合わせている人材を求めたと
会計士が独立社外取締役の 19% を占めるが、欧米企
考えられる。 なお米国の金融 2 社では経営者(金融)
す
※6
業ではゼロまたは 1 人に止まっている(<図 2 >で
の数がやや少ないが、他に分類されている取締役でも、
は「その他専門家」)。米国 Y 社では 2 人となってい
個人の経歴を詳細に見ると金融やリスク管理の知識・
るものの、このうち 1 人はリスク管理の専門家だ。
経験を伺わせるケースが少なくない。
図 2 非執行取締役のバックグラウンド
14
【製薬各社】
(人)
12
10
8
6
4
2
0
米国A社
14
米国B社
英国A社
英国B社
ドイツA社
フランスA社
スイスA社
スイスB社
【金融各社】
(人)
12
10
その他専門家
8
学者・研究者
6
公的機関関係者
4
経営者(金融)
2
経営者(事業)
0
米国X社
米国Y社
出典:各社年次報告書または proxy
英国X社
statement より EY 総合研究所作成
(注)ドイツ Y 社およびフランス X 社は必要な開示なし
25
EY Institute
英国Y社
ドイツX社
フランスY社
EY Institute
取締役会の開催回数
取締役会の開催回数については<図 3 >の通りだ。
直近(14 年)において 10 回を超えている企業が 5
社あるが、これについては一時的な要因により開催回
数が増えた可能性が指摘される。具体的には、米国 B
社と英国 B 社については前者が後者に対して行った
買収提案を巡る交渉、英国 Y 社およびフランス X 社
についてはロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の不
正操作および不正送金に対する当局の追及、フランス
A 社については CEO の解任だ。これら 5 社につい
て前年(13 年)の実績を見ると最も多い英国 B 社で
11 回だが、うち 5 回は臨時開催だ。他 4 社はいず
れも 10 回以内であることを考慮すると、欧米企業に
おける取締役会の開催回数は平時においては 6 ∼ 10
回程度と言って差し支えないだろう。日本の上場企業
が「少なくとも月に一度以上開催※ 7」とされている
のに比べると、かなり少ないと言える。
図 3 取締役会の開催回数
20
20
19
(回)
16
15
2013
13
10
8
99
7
11
10
8
9
12
11
10
99
66
6
2014
6
7
8
8
99
9
8
6
6
4
0
A社
B社
X社
Y社
米国
出典:各社年次報告書または proxy
A社
B社
X社
Y社
英国
A社
X社
ドイツ
Y社
A社
X社
フランス
Y社
A社
B社
スイス
statement より EY 総合研究所作成
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
26
Ⅳ.日本企業が目指すべきコーポレートガバナンス
Ⅱ. ∼欧米企業の事例調査から得られる示唆∼
各種委員会の状況
<表 1 >に示す通り、調査対象とした 16 社全て
開催回数を見ると、指名委員会については 2 社を
で指名・報酬・監査の 3 委員会を設置しており、そ
除き 3 ∼ 6 回の範囲に収まっているが、その他の委
の他にも別途の委員会を設置する企業が少なくない。
員会については企業・委員会によって大きく異なり、
取締役会の開催回数が少ない背景にはこれら委員会の
国や業種による特徴は見いだしにくい。ドイツ企業は
存在があると考えられる。
回数が少ないが、上述の通り権限を移行する途上にあ
人数は 3 ∼ 6 人程度が多いが、英国 A 社のように
7 ∼ 8 人とするケースもある。委員はフランス A 社
の指名委員会の 1 名※ 8 を除き全て非執行取締役だ。
3 委員会は経営者に利益相反が生じるテーマを扱うた
ることが影響しているようだ。また、フランス A 社
については指名および報酬委員会の開催回数が多く
なっているが、CEO が解任されたことが影響してい
る可能性が指摘される。
め、非執行取締役が主体的な役割を担う必要がある。
日本の指名委員会等設置会社では過半数を社外取締役
その他の委員会について見ると、金融ではリスクに
とすることが法定されているが、全委員が社外取締役
関する委員会や企業倫理に関する委員会(米国 X の
(社内取締役が 0 人)の企業の割合は指名・報酬・監
例ではリスク委員会および企業責任委員会)が目立つ。
査の各委員会で 12.3%・19.3%・49.1% に止まる。
いずれも金融危機の反省を受けた金融監督当局の方針
この点については欧米企業とは大きな差があると言え
が影響していると考えられる。一方、製薬では科学・
る。
技術等に関連した委員会(米国 A 社の例では科学・
ドイツ企業 3 社および筆頭独立取締役が報酬・指
技術・持続可能性員会)を設置する例が見られる。金
名委員会を兼務する英国 X 社を除くと、委員長の兼
融については企業としてあってはならない姿、製薬に
務は見られない。非執行取締役の間でも権限・職務の
ついては企業して目指す姿を議論するための委員会が
集中を避けるのが通常のようだ。なお、従前、ドイツ
志向されていると言える。同時に、こうしたテーマを
企業では取締役会議長を委員長とする議長委員会
議論できる人材が非執行取締役として選任されている
※9
に、指名・報酬を含む多くの権限が集中していた。指
名・報酬委員会を設置して権限分散に取り組むように
なったのは比較的最近のようだ。ただし、指名・報酬
委員会の委員長や委員は議長委員会と重複するケース
が多く、議長委員会からの権限分散はいまだ移行期と
考えられる。
27
EY Institute
ことも付言しておきたい。
EY Institute
表 1 指名・報酬・監査委員会(人数と開催回数)
指名
製薬
米国
金融
製薬
英国
金融
ドイツ
製薬
金融
フランス
製薬
金融
スイス
製薬
報酬
監査
その他の委員会
人数
回数
人数
回数
人数
回数
A社
4
4
4
6
6
8
規制・法令遵守・政府事項委員会、科学・技術・持続可
能性委員会、金融委員会
B社
6
6
4
7
4
12
コーポレートガバナンス委員会、規制・コンプライアン
ス委員会、監査委員会、報酬委員会、科学技術委員会
X社
5
3
5
5
6
10
リスク委員会、企業責任委員会、信用委員会、金融委員会、
人材委員会
Y社
3
5
3
6
3
15
リスク委員会、公共責任委員会、特別目的委員会
A社
8
4
7
6
7
6
企業責任委員会、金融委員会、企業管理・取引委員会
B社
4
5
5
14
5
5
科学委員会
X社
5
4
3
11
3
7
リスク委員会、金融システム脆弱性委員会、行為・価値
委員会、博愛・共同体投資監視委員会、議長委員会
Y社
4
6
6
6
8
4
リスク委員会
A社
2
1
4
2
6
4
議長委員会
X社
5
5
4
7
6
10
Y社
5
3
4
2
5
6
リスク委員会、議長委員会、社会福祉委員会、調停委員
会
A社
4
11
4
12
6
6
戦略委員会
X社
4
6
4
6
5
4
内部統制・リスク管理・コンプライアンス委員会
Y社
4
5
5
7
5
10
A社
4
4
4
6
5
7
リスク委員会、研究開発委員会
B社
2
5
3
3
4
5
コーポレートガバナンス・持続可能性委員会
出典:各社年次報告書または proxy
リスク委員会、議長委員会、誠実委員会、調停委員会
なし
statement より EY 総合研究所作成
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
28
Ⅳ.日本企業が目指すべきコーポレートガバナンス
Ⅱ. ∼欧米企業の事例調査から得られる示唆∼
役員報酬
最後に役員報酬について見てみよう。欧米企業の役
定量的な指標については、財務数値や株価(米国
員報酬は固定報酬、変動報酬、および年金等のフリン
A 社の例では「営業売上成長」や「相対 TSR」等)
ジ・ベネフィットの三つに分けられ、変動報酬は短期
が多くなっているが、これらは経営者が成果を実現し
(年次)と長期に分けられるのが通常だ。今回の対象
たことに対する報酬と位置付けられる。一方、それ以
企業 16 社についてもおおむねこのような構成になっ
外の指標として定性的な項目(米国 A 社の例では「イ
ている。また、固定あるいは変動報酬の一部がストッ
ノベーションを通じた価値創造」等)が設定されてい
ク・オプション(SO)、リストリクテッド・ストッ
るが、こちらは経営者が中長期的な成果を実現するた
ク(RS、譲渡制限付株式)、あるいはパフォーマンス・
め行っている取り組みの進捗に対する報酬と位置付け
シェア(PS、業績目標付株式)等の株式報酬で支払
られる。このような複雑な役員報酬は、企業として短
われる点についても共通している。
期的および中長期的に追及する成果とそのための取り
一方、変動報酬において参照する指標等については
組みが明確化されていることの証左と言えよう。なお、
企業により大きく異なる<表 2 >。日本企業の変動
成果をより適正に反映するため、数年程度の平均値を
報酬は営業利益や純利益といった単一の指標を掲げる
用いる※ 10、競合他社との比較に基づく相対値を用い
ケースが多く、シンプルな設計になっているケースが
るといった工夫を凝らすケースも散見される。
多いが、<表 2 >を見ると欧米企業では複数の定量
このような複雑な役員報酬体系に関しては、設計す
的な指標に加え定性的な指標を合わせて掲げるケース
る段階および経営者を評価し報酬を算出する段階で公
が多いことが分かる。
正性・透明性を確保する必要がある。そのため欧米企
業では非執行取締役による報酬委員会が整備され、重
要な機能を担っている点も、役員報酬に関連した重要
な要素として指摘される。
表 2 CEO に対する変動報酬において参照する指標等
米国
A社
米国
B社
バル売上成長、人材・エンゲージメント・評判
• 長期:営業売上、累積調整済営業 EPS、相対 TSR
• 年次:総収益、調整済 EPS、営業 CF、戦略的目標(イノベーションの中核における業績の改善、適切な資
本の配分に関する意思決定、社会からの尊敬、オーナーシップ文化の創造)
• 長期:絶対・相対 TSR
X社
米国
• 年次:純利益、EPS、RORCE、相対 RORCE、相対 ROE、相対 TSR、戦略的目標(融資成長率、預金成長率等)
• 長期:絶対・相対 RORCE、純営業損失
米国
• 年次・長期:事業・財務の結果(純利益、収益、有形純資産、ROTCE、EPS、Tier1 資本比率、株主価値)、
Y社
英国
A社
英国
B社
29
• 年次:営業売上成長、FCF、調整済営業 EPS 成長、イノベーションを通じた価値創造、優れた執行、グロー
リスク管理、顧客、人材管理とリーダーシップ
• 年次:財務(コア営業利益、コア PBIT)、個人目標(グローバル事業の再構築、経営陣の構成、研究開発、
公衆衛生に対する事業と貢献の強化等)
• 長期:研究開発新製品、調整済み FCF、相対 TSR
• 年次:財務(営業 CF、コア EPS、総収益)、科学におけるリーダーシップ(パイプライン関連)、成長への
回帰(特定の商品 / 市場の売上等)、個人の業績(戦略・リーダーシップ)
• 長期:相対 TSR、累積 CF、科学におけるリーダーシップ、成長への回帰、DPS、配当性向
EY Institute
EY Institute
表 2 CEO に対する変動報酬において参照する指標等(続き)
英国
• 年次:財務(税前利益、ROE、費用効率性、配当、資本力(普通株式 tier1 資本))、非財務(戦略の実行、
リスク・法令遵守)、同社価値の促進
X社
• Group PSP:財務(資本力(普通株式 tier1 資本)、累進的配当性向、ROE、費用効率性)、非財務(戦略
英国
• 年次:基礎的利益、バランスト・スコアカード目標(財務、事業構築、リスク、人材開発)
• 長期:経済的利益、絶対 TSR、戦略的施策(経費率、顧客満足、英国の繁栄を支援(中小企業貸出等))
Y社
ドイツ
A社
の実行、リスク・コンプライアンス、人材)
• 短期:コア EPS、EBITDA マージン、売上成長、CFROI、安全性・法令遵守・持続的成長を含む定性目標、
個人別目標
• 長期:絶対・相対株価
ドイツ
X社
• 年次:資本(コア Tier1 資本比率及びレバレッジ比率)、費用(経費率)、競争力(報告された付加価値)、
文化 / 顧客(従業員のコミットメント、行動、及び評判)、上記に関する定性目標
• 長期:相対 TSR、文化・顧客
ドイツ
Y社
• 短期:EVA、個人別の業績目標
• 長期:EVA、相対 TSR
フランス
A社
• 短期:財務(売上成長、事業純利益の成長)、研究開発の業績、組織構成・後継者計画、企業責任(特許・倫理・
人材・環境)
• 中期:純利益、ROA、相対 TSR
フランス
X社
• 年次:EPS 成長率、粗利益、定性基準(先見性、決定力、管理、模範性)、税前 ROE
• 長期:相対・絶対株価上昇率
フランス
Y社
• 年次:定量(EPS、粗利益、経費率)、定性(戦略の実行、規制遵守・リスク管理、組織の最適化、CSR)
• 長期、相対 TSR、BPS、純利益
スイス
A社
スイス
B社
• 年次:グループ売上、グループ純利益、グループ FCF(売上比)、企業業績、イノベーション、個人目標(財務(EPS
等)、イノベーション及び成長、ポートフォリオ・レビュー、組織・質・顧客満足、部門横断的なシナジー)
• 長期:財務(キャッシュ付加価値)、イノベーション、相対 TSR
• 賞与:グループ・部門の利益、売上成長、資本コスト控除後営業利益、EPS、議決権なし株式証券成長、パ
イプラインの開発、個人・機能の業績
• PSP:個人の貢献、相対 TSR
出典: 各社年次報告書または proxy
(注)
statement より EY 総合研究所作成
FCF:Free Cash Flow、EPS:Earnings Per Share(1 株 当 た り 利 益 )、TSR:Total Shareholders Return( 株 式 総 利 回 り )、
RORCE:Return on Realized Common Equity、ROE:Return On Equity( 自 己 資 本 利 益 率 )、ROTCE:Return On Tangible
Common Equity:、PBIT:Profit Before Interest and Tax、DPS:Dividend Per Share(1 株当たり配当)、PSP:Performance
Share Plan、EBITDA :Earnings Before Interest, Tax, Depreciation, and Amortization( ド イ ツ A 社 は earnings before
financial result, taxes, depreciation and amortization と説明)、CFROI:Cash Flow Return on Investment、EVA:Economic
Value Added、ROA:Return On Asset( 総 資 産 利 益 率 )、BPS:Book-value Per Share(1 株 当 た り 純 資 産 )、CSR:Corporate
Social Responsibility
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
30
Ⅳ.日本企業が目指すべきコーポレートガバナンス
Ⅱ. ∼欧米企業の事例調査から得られる示唆∼
まとめ ∼日本企業への示唆∼
本稿では欧米企業の事例を紹介した。これから得られる示唆として、以下 3 点を推進することが、日本企業に
求められていると結論付けられる。
① 取締役会の監督機能を強化する
めている点は、理想形が定まってないことの好例だろ
う。また、近年のドイツ企業における指名・報酬委員
非執行取締役が主体の取締役会、議長と CEO の分
会の設置や権限の分散は継続的な取り組みの好例だ。
離あるいは筆頭独立取締役の設置、利益相反が懸念さ
各国・各社の状況に応じた取り組みが継続的に行われ
れる指名・報酬・監査に関する委員会の整備、経営者
ることが重要と言える。
の業績を適正に反映させる複雑な役員報酬等、欧米企
日本では 03 年に現在の指名委員会等設置会社制度
業の取締役会が経営者に対する監督に特化した機関と
がスタートし、06 年までは徐々に同制度への移行が
して機能していることは明らかだろう。
進んだが、その後は頭打ちとなり、継続的な取り組
従前、日本の取締役会は社内取締役のみで構成され、
みにはつながらなかった。直近では会社法改正や CG
実質的に経営の執行に特化した機関だった。近年、社
コード適用開始を受けて社外取締役の数が急増してい
外取締役の設置・増員の流れの中で監督機能が意識さ
るが、これが CG 強化に向けた継続的な取り組みにつ
れるようになってきたが、いまだ軸足は執行にあるの
ながるかは未知数だ。
が実態だろう。
CG に関して欧米企業と日本企業の差は極めて大き
い。上記①②を含む取り組みを継続的に行い、独自の
② 企業として目指す姿を明確に示す
CG を確立することが求められていると言えよう。
①で指摘した監督機能とは経営における Plan-Do-
Check-Action(PDCA)に他ならない。PDCA の
中で最も重要なのが Plan であり、そこで企業(経営
者)が目指す姿・成果とそれを実現するための取り組
み(以下、目指す姿等)について時間軸を含めて明確
に示すことが Check-Action のプロセスを機能させ
るためにも重要となる。欧米企業ではこの目指す姿等
が明確に示されており、それは役員報酬の設計、非執
※1
行取締役の人選、委員会の構成等に反映されている。
日本企業でも経営理念や経営計画等を通じて目指す
※2
※3
本稿では経営の監督を担う機関をもって取締役会、そのメンバーを取締
役と呼ぶこととする。大半の国では Board of Director が該当し、通
常は取締役会と訳されるが、ドイツで同様の機能を担う Supervisory
Board は監査役会と訳されることが多い。本稿では混乱を避けるため、
同国の Supervisory Board についても取締役会と表記する。また、
経営の執行を担う者は経営者、そのトップは CEO とする。
東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書 2015 より。以下、特に
※4
断りのない限り、日本企業に関する数値は同白書に基づく。
従業員代表の取締役も非執行ではあるが、便宜上、本稿では非執行取
姿等を示すケースは珍しくないが、Check-Action
を含む PDCA 全体を機能させ、役員報酬等に反映さ
せられるほど精緻な内容になっているか、再考の余地
があるのではないか。また、目指す姿等が明確に示さ
れているのであれば、それを反映させた役員報酬の設
計等も検討に値しよう。
③ CG 強化に向けて継続的に取り組む
欧米企業でも CG の理想形として定まったものがも
ともとあった訳ではなく、CG 強化に向けた取り組み
が継続的に行われる中で今日に至っている。CEO へ
の権限集中を抑制するために英国企業は議長と CEO
の分離を進め、米国企業は筆頭独立取締役の設置を進
31
EY Institute
調 査 は 2015 年 に 公 表 さ れ た 各 社 年 次 報 告 書 或 い は Proxy
Statement に基づいて行った(一部は各社 HP により補完)。取締役
の人数等は 2014 年末時点。
締役の数には含めない。
日本の会社法では社外性の要件は同 10 年だから、これに比べると同社
の基準は緩い印象もあるが、日本の場合は終身雇用の慣行を考慮した
ものであり、同列に比べるのは困難と考えられる。
※6
欧米では経営者・学界・公的機関等を渡り歩く等キャリア形成が複雑
な人が少なくないため、判断が難しい面もあるが、期間の長さ等を勘
案して判断した。
※ 7 「2014 新規上場ガイドブック JASDAQ 編」東京証券取引所より
※8
同社では、議長が従前より非執行取締役として指名委員会の委員を務
めていた。CEO 解任により一時的に CEO を兼務(「取締役会の議長」
参照)することになったが、その後も執行取締役として同委員を続け
ている。
※9
委員会の名称は各社により異なる。
※ 10 <表 2 >には記載していないが、長期の業績連動報酬では数年(3 年
程度が多い)の平均値を参照するケースが多い。
※5
EY Institute
• EY 総合研究所 Web サイトのご案内
eyi.eyjapan.jp
EY 総合研究所では、独自の調査・研究、広範囲に収集した最新情報や知見を、国内独自の視点を加味
した上で、Web サイトにて公開しております。また、所属する研究員、会社概要、メディア掲載、セミナー
や提供しているサービスに関する情報についても紹介しておりますので、ぜひ、ご覧ください。
EY Japan および EY と連携した幅広い情報・
知見をお伝えいたします。
会社案内、各種レポート、パンフレットも
ダウンロードできます。
「EY 総研インサイト」のバックナンバーも掲
載しています。
• ナレッジ
eyi.eyjapan.jp/knowledge/
EY 総合研究所では、総研に所属する精鋭のエコノミストと研究員に
よる独自の調査・研究のみならず、これら各国の専門家や政策当局から
日々もたらされる最新情報や知見やナレッジを広範囲に収集、国内独自
の視点を加味した上で、幅広い情報発信を行っています。
また、シリーズとして複数編公表しているレポートについては、「シ
リーズレポート」のページにも収録し、まとめてご覧いただけます。
• サービス
eyi.eyjapan.jp/services/
EY 総合研究所では、研究員の持つ専門性を活かし、また EY Japan
内の各サービスラインやセクターとも連携した独自サービスを開発し、
提供を開始しております。
• 資本市場リレーションシップ構築支援
∼「点」ではなく「面」の取り組みを通じた投資家との良好な関係の構築
eyi.eyjapan.jp/services/capitalism-relationship.html
• おもてなし 2.0 による経営支援サービス
∼ポストおもてなし経営の実現に向けた診断プログラム
eyi.eyjapan.jp/services/omotenashi.html
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
32
Ⅴ.企業価値を創出するグループガバナンス
~「攻めのガバナンス」を実現する設計と手法~
EY 総合研究所 未来経営研究部
主席研究員 藤島 裕三
はじめに
わが国資本市場が活況を呈している。TOPIX(東
2014 −未来への挑戦−」2014 年 6 月 24 日発表)
証株価指数)は長期上昇トレンドを続けており、バ
することが求められている。会社の迅速・果断な意
ブル崩壊後における最高値(2007 年 2 月)の更新
思決定を促す「攻めのガバナンス」の実現を目指す、
も視野に入っている。2015 年 1-3 月期の国内総生
コーポレートガバナンス・コードの運用開始(2015
産(GDP)予想が前期比で年率 2.8% プラスと堅調
年 6 月 1 日)が代表的な施策だが、同コードは経営
(2015 年 6 月 8 日発表)、14 年度における国の税
者の意識改革を促すものであり、現実に企業価値を持
収は見積もりを 2 兆円以上も上振れする見通しであ
続的に高めるためには経営者による統率の下、企業グ
るなど、日本経済が堅調に回復していることに加え、
ループが一丸となって価値向上にまい進する必要があ
株主還元の積極化や ROE(自己資本利益率)指標の
る。
設定といった、資本市場を向いた経営姿勢を上場企業
本稿では企業グループにおける価値創造プロセスを
が強めていることが背景にある。
「グループガバナンス」と定義した上で、実効性を高
一方で、活況を一時的なものに終わらせないため
めるためのグループ類型および権限分掌の設定・調整
に、「経営者が『稼ぐ力』の向上を目指して、大胆な
手法について考察する。
事業再編や新規事業に挑戦」(「『日本再興戦略』改訂
図 1 コーポレートガバナンス、グループガバナンスそして内部統制
株主
少数株主
株主
コーポレートガバナンス
親会社
会社
事業
グループガバナンス(領域)
事業
出典:EY 総合研究所作成
33
EY Institute
子会社
子会社
子会社
内部統制
EY Institute
グループガバナンスとは何か
グループガバナンスの設計
ガバナンス(governance;統治)とは、その単
企業グループの成長過程に応じた類型として、大別
語自体が複数のメンバー(グループや集団)を対象と
すれば以下の二つが想定される。なお企業・事業の改
しており、企業など組織においては統率・管理プロセ
廃サイクルによっては、必ずしも一方向ではないこと
スの全体を表すことが多い。ガバナンスの目的を限定
を留意されたい。
した代表例が「コーポレートガバナンス(corporate
(A)グループ一体経営型
governance;企業統治)」であり、株式取得を通じ
て企業の実質的な所有者となった株主が、株主共同の
親会社が子会社の経営につき、監督のみならず執行
利益である企業価値の最大化に向けて企業がまい進す
レベルまで関与・統制する。別会社とはいえコーポレー
るよう、経営全般を委託した取締役を通じて規律付け
トガバナンスの論理を前面には出さず、本社内におけ
および動議付けを行うものである。
る内部統制の延長線上として子会社を経営する。単体
株主が企業(実際には経営者)を「統治」するコー
経営から発展する途中の成長企業であったり、子会社
ポレートガバナンスに対して、経営者が実際に企業価
事業が本業(親会社事業)と連携しないと成り立たず、
値を創出するため組織を統率する仕組みが「内部統制
相互によるシナジー追求が不可欠な関係であったりす
(internal
controls)」である。組織内部のメンバー
る場合など、グループ一体経営型のグループガバナン
は主に契約関係で結ばれており、株主と取締役のよう
スが効率的と考えられる。
な委任関係にはないため、通常は「ガバナンス」とい
う単語は用いられない。しかし高度に発展した現代企
わが国企業におけるグループ経営の実態に照らし合
業においては、親会社が株主として子会社などによる
わしてみると、コア領域が明確な事業持株会社グルー
企業グループを形成、資本関係ひいては委任関係によ
プが想起される。親会社がサプライチェーンの頂点に
る支配・管理のプロセスを内包している。グループ内
存在している、親会社の技術や顧客が各事業の基盤で
部統制にコーポレートガバナンスの論理を活用したも
ある、といった企業集団であれば、グループ全体を親
のというのが、わが国でしばしば使われている「グルー
会社が統率することに違和感はない。新規事業の立ち
プガバナンス」という用語と考えられる。
上げに際しては法規制や顧客対応などで子会社とした
<図 1 >は企業グループの形成過程と内部統制、
が、事業が軌道に乗ってシナジーをより追求すべき段
グループガバナンスの関係を図示したものである。単
階になったので親会社に取り込む、といったグループ
一の企業体であれば組織内は内部統制システム(白い
の枠内における柔軟な調整を進めやすい。
囲み)のみでコントロールされ、株主との関係による
コーポレートガバナンス(矢印)の他に経営に関す
(B)事業ポートフォリオ型
る「ガバナンス」は存在しない。しかし企業グループ
親会社は子会社の執行につき直接は関与せず、株主
に複数の子会社などが設立されると、親会社との間に
としての監督機能に徹する。立場としては分散投資を
コーポレートガバナンスと類似した関係としてグルー
行う運用機関に近く、コーポレートガバナンスの論理
プガバナンスが出現する(黄色い囲みの中で完結する
である株主利益を基準に子会社経営陣を評価する。高
矢印)。
度な連結経営が定着している成熟企業であったり、子
15 年 5 月 1 日に施行された改正会社法および会
会社のビジネス領域が本業から離れた多角化事業で、
社法施行規則では、子会社における内部統制の構築に
親会社における常識や成功体験から離れる必要があっ
親会社が責任を負うという、グループガバナンスを重
たりする場合などは、事業ポートフォリオ型のグルー
視する方向性が明確にされた。企業活動が多角化・グ
プガバナンスが有効だろう。
ローバル化する中で今後、グループ会社ごとの個別最
実際のグループ経営における活用事例としては、多
適ではなく、グループとしての全体最適を追求するシ
角化や M&A 戦略で形成された純粋持株会社(以下、
ステムとして、グループガバナンスの考え方は重要性
HD)グループが典型的だろう。従来の本業が不振で
を増していくだろう。
新たな柱の確立を急いでいる、各事業に関連性が薄く
て連携の必要性が小さい、といった場合であれば、親
会社が事細かに統率するよりも子会社の自律性に任せ
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
34
Ⅴ.企業価値を創出するグループガバナンス
Ⅱ. ∼「攻めのガバナンス」を実現する設計と手法∼
グループガバナンスの手法
るべきである。ただし各子会社は厳しく成果を問われ
上述したグループガバナンスのいずれのパターンを
ることになり、親会社が存続の価値なしと判断すれば
採用する際においても、実効性を持たせるための鍵と
即、売却となりかねない。M&A(スピンオフも含む)
なるのは、親会社の取締役会と子会社の経営者の間に
を活用した、グループの枠を超えた大胆な再編が可能
おける権限分掌である。これを直接的にデザインする
となる。
のが(1)役員兼任であり、間接的にサポートするの
なお上記(A)(B)は最も典型的なグループガバ
役員報酬である。以下それぞれについて考察を進める。
が(2)会議体設置、そして実効性を持たせるのが(3)
ナンスのあり方であって、実際には「折衷型」とも言
うべき中間的な、双方のエッセンスを兼ね備えた設計
(1)役員兼任
も考え得る。本業とシナジーの大きい子会社は(A)
親会社の業務執行取締役が子会社の経営者(代表取
グループ一体経営型で統率する一方、新規の多角化事
締役社長など)を兼任すれば、子会社トップは親会社
業を手掛ける子会社は(B)事業ポートフォリオ型で
の株主に責任を持った連結の発想で子会社経営に取り
監督する、といったハイブリッドなグループガバナン
組み、必然的に(A)グループ一体経営型のグループ
スを敷くことが現実のケースには少なくないだろう。
ガバナンスが実行される。親会社の取締役会は各子会
社の経営トップが集まり、いかに相互連携するか、い
かにシナジーを追求するかを話し合う場となる。した
がって子会社に権限委譲される範囲は相対的に小さ
く、重要な業務執行は親会社の決定・承認に従って実
施される。親会社取締役会の討議を通じて全体最適を
実現する手法といえよう。
一方、親子間で役員兼任がない場合には、子会社単
体として業績拡大することで報いればよく、(B)事
業ポートフォリオ型のグループガバナンス体制に向
いている。特に HD 体制を想定すると、親会社の取
図 2 グループガバナンス類型に応じた役員兼任のあり方(仮説)
(A)グループ一体経営型
(A)(B)の折衷型
(B)事業ポートフォリオ型
親 会 社 業 務 執 行 子会社トップを兼任、各事業 特に重要な子会社ついては経 グループ戦略の策定、子会社
取締役
の執行責任者としてグループ 営トップを兼任、核となる本 の監督機能に専念。本社機能
(管理、人事、リスクなど)を
社機能の担当者も参画
全体の観点から業務執行
担当
親会社執行役員、 本 社 機 能( 管 理 業 務、 人 事、 相対的に重要性の低い子会社 各ビジネスの業務執行責任者
上級管理職
リスクなど)を担当、特に重 や本社機能の業務執行を担当 として、子会社のトップおよ
び経営幹部を兼任
要な子会社の経営に関与
子会社トップ
親会社業務執行取締役
トップ以外の
子会社役員
親会社からの出向者および、 グループにおける重要性など
グループ会社からの転籍者が の位置付けにより、ローテー
多く、ローテーションも存在 ション活用か生え抜き育成か
判断
出典:EY 総合研究所作成
35
EY Institute
親会社取締役 / 執行役員等
親会社執行役員 / 管理職
生え抜きを中心に役員を構成、
親会社からは非常勤取締役や
監 査 役( 常 勤・ 非 常 勤 ) を
招聘
EY Institute
締役会はグループ全体の企業価値を最大化する観点か
<表 1 >は(A)グループ一体経営型と(B)事業ポー
ら、各子会社に相当な範囲で業務執行に関わる権限を
トフォリオ型における、それぞれに適した会議体設置
委譲した上で、その成果を厳しくチェックすることで
のイメージである。基本的に(A)は会議体が少なく、
子会社トップの選解任ひいては子会社事業の改廃を判
(B)は多く設置することになる。(B)事業ポートフォ
断することになる。親会社取締役会の評価を通じて全
リオ型における子会社の場合、どうしても相対的にグ
体最適を図る手法だといえる。
ループ全体最適の観点が希薄になりがちなため、会議
<図 2 >はグループガバナンスの類型に応じた、
体によるコミュニケーションで求心力を高めることは
役員兼任のあり方についての仮説である。(A)グルー
有効だろう。一方で(A)グループ一体経営型におい
プ一体経営型の親会社取締役会には各子会社のトップ
ては、「親会社任せ」の冷めた雰囲気が子会社にまん
が参画、(B)事業ポートフォリオ型の親会社取締役
延しないよう、特定の経営テーマ(新サービス開発、
会は本社機能の担当役員が中心、といった構成を基本
グローバル展開など)を討議する会議体を設置するこ
線に、親子会社それぞれの役員体勢についてモデルを
とで、共同参画意識ひいては責任意識を高めるとよい
想定した。なお(A)(B)の折衷型については、グ
のではないか。
ループ企業価値に対する影響度などに応じて子会社を
(3)役員報酬
区分、その重要性に応じて役員兼任を検討することが
役員兼任で親会社と子会社の権限分掌と責任範囲を
現実的だと思われる。
規律付け、会議体設置で健全なグループ企業価値の観
(2)会議体設置
点を共有した上で、各子会社が望ましい成長路線にま
役員兼任の設計は、グループガバナンスを「権限と
い進するよう動機付けるのに有用なのが役員報酬であ
責任」の観点から方向付ける、極めて強力な手法だ
る。役員報酬はそれ自体が大きなテーマであるため本
といえる。しかし強力が故の弊害も懸念される。(A)
稿では多くを論じないが、グループガバナンスという
グループ一体経営型で兼任関係を強固にした場合、子
概念がコーポレートガバナンスの論理を活用したもの
会社トップは親会社の取締役である意識が強くなりが
であり、従ってコーポレートガバナンスにおける一大
ちであり、子会社の事業を積極的に成長させるインセ
テーマである役員報酬も当然、グループガバナンスに
ンティブに欠けるかもしれない。子会社の役職員に
おいて活用が期待される。例えば、責任意識が希薄に
とっても自社が独立した事業体という気概に乏しく、
なりがちな(A)グループ一体経営型の子会社には、
親会社の指示待ちなど受け身かつ責任意識が希薄な状
自社事業の伸長度に大きく連動した賞与制度を導入す
況になりかねない。
る、グループ意識が忘れられがちな(B)事業ポート
一方で(B)事業ポートフォリオ型で親子間の兼任
フォリオ型の子会社に対しては、親会社株価に連動す
関係を排除した場合、子会社トップはじめ役職員は親
るストックオプションを付与する、などが考えられよ
会社や他の子会社の意向・事情を無視して、自社の思
う。
惑だけでビジネスを拡大、グループ内で競合(カニバ
リズム)を起こすような事態も考えられる。グループ
の遠心力を高めることは、子会社の活動がグループ全
か い り
体の利害から乖離するリスクと表裏一体とも言える。
このような役員兼任によって生じ得る「ひずみ」を調
整するため、グループ横断的な会議体の活用が考えら
れる。
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
36
Ⅴ.企業価値を創出するグループガバナンス
Ⅱ. ∼「攻めのガバナンス」を実現する設計と手法∼
グループガバナンスの活用
成長戦略はコーポレートガバナンス改革を通じて
分析による「金のなる木」は親会社の業務執行取締
「事業再編や事業組換等の取組により収益性を飛躍的
役が子会社トップを兼任、グループ企業価値を第一
に向上させた企業が、果敢に海外 M&A や海外展開
にキャッシュフローを配分するのがよい。
「スター」
を進め、グローバルトップ企業となれる」(「日本再興
についても親会社兼任とすることで、次期グループ
戦略 -JAPAN
CEO の候補として育成すべきではないか。一方で「問
is BACK-」2013 年 6 月 14 日発表)
ことを期待している。まさに「攻めのガバナンス」の
題児」は子会社専任トップの下、将来に向けた収益
実行段階としてグループガバナンスをどう活用すべき
事業化にまい進することが望ましい。「負け犬」につ
か、以下の各ケースについて検討を進める。
いても子会社専任とするが、MBO(management
buy out)などによるスピンオフも視野に入れた、
抜本的な見直しが不可欠とすべきだろう。
①事業再編・組み換え
高度に多角化が進展している企業グループの場合、
非効率な事業に経営資源が滞留しており、成長機会の
②海外子会社管理
豊富な事業が伸び悩むといったケースが見られる。グ
グローバル展開に伴い海外子会社を設置する企業は
ループ企業価値を最大化するには、まず既存の経営資
増え続けており、グループ全体に対する貢献度は今後
源を最適化するため、内輪の論理を排除して事業再編
ますます高まっていくだろう。従前は、親会社の業務
を断行する必要がある。その際には各事業の経営実態
執行取締役もしくは執行役員、上級管理職などが海外
を「見える化」するため、HD 体制など(B)事業ポー
子会社のトップに就任、(A)グループ一体経営型に
トフォリオ型のグループガバナンス設計への移行を検
近いグループガバナンスとすることが多かったのでは
討することも選択肢となろう。
ないか。しかし近年、グローバル競争の激化や現地マ
ただし事業再編を目的に(B)に移行する場合は、
ネジメントの複雑化に伴い、現地採用のリーダーを専
非効率な事業の整理統合を経て、最終的には(A)グ
任の子会社トップに据えるなど、
(B)事業ポートフォ
ループ一体経営型に回帰することが想定される。した
リオ型もしくは折衷型を採用する例が増加している感
がって現状の各子会社について、将来のグループ企業
がある。
価値を支えるものか、現在の価値を維持して将来につ
現地人材を選任の子会社トップとする場合、距離は
なげるものか、現在はもちろん将来においても期待薄
もちろん言語や法規制、商慣行の違いなどが壁となり、
なものかに分けて、グループガバナンス手法を選択す
親会社取締役会と意思疎通が難しくなりがちである。
べきである。
海外子会社におけるグループ求心力を高めるため、会
例えば PPM(product portfolio management)
議体に子会社トップを参加させることが考えられる。
表 1 グループ横断的な会議体設置のあり方(仮説)
HD 会議体
(A)グループ一体経営型
経営会議
投融資委員会
× ろうため、重要な投融資案件はその場で、十分な ○ に決定権限を委譲。超えるものは上記の経営会議
事業推進会議
(各種)
内部監査委員会
親会社取締役会・経営会議に子会社トップが出そ
情報提供と意見交換を経た上で、判断・決裁される。
△
EY Institute
一定の範囲内(金額、領域)については各子会社
(意見交換会)と同じ構成の投融資委員会で審議。
グループ横断的なさまざまなテーマから、特に取
グループ横断的なテーマを広範に取り扱う、さま
り組みが急がれるものに絞った、プロジェクト的
ざまな会議体を設置して各社の利害を調整(業務
○
な会議体を設置(新サービス開発、グローバル展
システム、物流システム、IT マネジメント、ダイバー
開など)。
シティなど)。
親会社の監査部が子会社の監査担当と連携して、
親会社および子会社の監査役でグループ監査役会
絡会を設置。
会を設置。
△ グループ全体の内部監査を実施。連携のための連 ○ を開催。各社の監査部・監査担当で内部監査委員
出典:EY 総合研究所作成 (注)○は有効、△は時に有効、×はあまり有効でない
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(B)事業ポートフォリオ型
親会社の業務執行取締役は中核子会社の経営トッ
親会社の業務執行取締役と子会社の社長(親会社
プを兼任しており、実質的には取締役会に近い機
の執行役員)による意見交換会と、これに子会社
△
○
能(取締役会は社外取締役や監査役に対する説明
の経営幹部を加えた情報連絡会を設置。
の場)。
EY Institute
まとめ
物理的に顔を合わせることが困難でも、電話・テレビ
コーポレートガバナンスが資本市場を活用すること
会議を活用することはできる。討議のすべてを英語化
で、経営者に企業価値最大化を意識付けるための仕掛
する必要はない。同じビジネスという共通言語がある
けとすれば、グループガバナンスは経営者が企業価値
し、数値で理解できる部分も少なくないだろう。
最大化に向けて組織を駆り立てるためのシステムだと
なお近い将来(もしくは既に現在)、成果を上げた
言える。前者がコーポレートガバナンス・コードの運
外国人である海外子会社の経営トップを、親会社の取
用開始などによって強力に推進される中、価値向上の
締役とすることが検討されるのが、ごく一般的な状況
実行フェーズとして後者のグループガバナンスは今
になるかもしれない。親会社の株主に対して受託者責
後、大いに注目されるだろうし、また注目されるべき
任を共有する立場として取り立てるか、あくまで親会
テーマだと考えられる。
社との委任関係に基づいて役員報酬などで精勤に報い
るか、グローバル企業におけるグループガバナンスの
本稿においてはグループガバナンスのあり方につい
論点として今後、大いに注目するべきと考えられる。
て、主に(A)グループ一体経営型と(B)事業ポー
トフォリオ型に分けて、それぞれに望ましい役員兼任
③ M&A、経営統合
や会議体設置など具体的な手法を考察した。実際のグ
長らく低成長に苦しんできたわが国企業がグローバ
ループガバナンス構築に際しては、企業風土や事業の
ルトップを目指すため、既存の事業や組織の枠を超え
経緯、役員個人の資質などが色濃く反映されるため、
たノンオーガニック(非連続)の経営判断が期待され
本稿で展開したロジックがそのまま活用できるとは限
ている。その典型が M&A 戦略であり、また最もド
らないだろう。重要なことは企業グループごとに独自
ラスチックな変革を迫るのが経営統合だろう。いずれ
の「攻めのガバナンス」を実現することであり、その
も異なった企業文化の融合(= PMI;post
ために最適なグループガバナンスを検討・構築する一
merger
integration)が不可欠で、その際に大きな推進力に
助になれば幸いである。
も阻害要因にもなり得るのがグループガバナンスのあ
り方だと言える。
グループガバナンスが M&A や経営統合の推進力と
なるには、シナジー実現にかけられる時間と合致した
設計でなければならない。一刻も早くシナジーを実現
して競争力強化を図る必要があるならば、
(A)グルー
プ一体経営型による事業持株会社の親会社が主導し
て、被買収企業の経営資源を取り込み新たな価値を創
出しなければならない。したがって子会社トップとし
ては、親会社の業務執行取締役などが送り込まれるこ
とが想定される。
時間をかけて異文化の融合を図ることが許容される
なら、(B)事業ポートフォリオ型による HD 会社の
親会社の下で、買収側と被買収側が対等の精神で相互
理解を深めることが望ましい。この場合の子会社トッ
プには、被買収企業の経営者がそのまま就くのが自然
だろう。もっとも PMI に時間をかけるのが許容され
るのは、グループ内の融和を優先することでシナジー
を確実に得るためである。そのため高度に多角化した
コングロマリット企業体などでなければ、いずれは
(A)グループ一体経営型に近いグループガバナンス
に移行するのが望ましいかもしれない。
コーポレートガバナンス 「攻めの経営」への転換 変わり始める日本企業
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EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory
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