人間は水から生まれた

人間は水から生まれた
◆人間の体は 60 パーセントが水
私たちの生命は、母親の子宮の羊水の中で始まります。
卵子と精子が受精して、子宮に着床したばかりの胎児は、じつにその 97 パーセ
ントが水でできています。つまり私たち人間は、ほとんど水に近い存在として、
この世に生を受けるのです。
それは、人間という生物のルーツに関係しています。
そもそも地球に生命が誕生したのは"水"という物質の持つ不思議な作用によって
でした。今からおよそ 38 億年も昔のこと、海底のいたるところで噴き上がってい
た熱水と、海水の有機物とが化学反応を起こし、地球で最初の生命体が生まれました。
その原始的な生物が、海の中で数十億年もかけて細胞分裂を繰り返した結果、やっ
と目に見える大きさの生物となり、やがて海から陸に上がって両生類、爬虫類(はちゅ
うるい)、哺乳類(ほにゅうるい)、そして人間へと進化していったのです。
受精したばかりの胎児がほとんど水に近い存在なのは、この太古の記憶の名残り
と考えられています。私たちは 38 億年前と同じように、水の中で原始的な生命体
として生まれ、そして、お母さんの羊水の中で、生物の進化の過程をなぞるように
成長していきます。やがて胎児の水分は少しずつ減少し、誕生の時を迎えます。
生まれたての赤ちゃんは、それでも体重の 80 パーセント近くが水。赤ちゃんの
肌がすべすべして、みずみずしいのはそのためです。赤ちゃんの体に水分が多いの
は、成長するために新陳代謝を繰り返す過程で大量の水を必要とするから。子育て
の経験をした人なら、赤ちゃんが小さい体のわりに、たくさんのミルクを飲むので
驚いた記憶があることでしょう。それも成長のために必要な水分を補給するためです。
しかしそのたっぷりの水分も、乳児から幼児、そして小学生、中学生へと成長す
ると同時にどんどん失われていきます。そして成人になる時には、体重の 65 パー
セント程度まで減ってしまいます。女性の場合は男性よりももっと水分が少なく、
60 パーセント程度にまで減少します。
それでも、人間の体重のじつに 60 パーセントが水でできているのです。
体重の6割が水であるということは、あなたの体重が仮に 50 キロとすると、
体内に 30 リットルもの水を抱えているということ。30 リットルといったらミネラ
ルウォーターのペットボトル 20 本分。それだけの水が、体の中に貯蔵されている
ことになるのです。しかし、不思議なのは、それだけの水が体のどこに隠されてい
るかということ。サウナでがんばって汗をかいたって減る体重はせいぜい1~2キロ。
いったい残りの水はどこにあるのでしょうか。
じつは、体内の水の大部分は、細胞の中に貯えられているのです。30 リットルの
水のうち 22 リットルほどは数十兆個もある細胞ひとつひとつの薄い膜の中に小分
けにされ、封じ込められています。これを<細胞内液>と呼びます。
そして残りの約8リットルの水が、血液やリンパ液などの体液です。こちらは細
胞の膜の外側にある水ですから<細胞外液>と呼ばれています。
それでは逆に、60 パーセントの水以外、残りの 40 パーセントは何かといえば、
これはタンパク質や脂肪、ミネラルといった、体の組織のもとになる物質です。
人間の体内では、こうしたさまざまな物質と水とが混ざり合って、筋肉や皮膚など
を構成しています。
1
◆体内にたくさんの水が必要な理由
水は肉体のもとになっているばかりでなく体の中で多種多様な役割をこなしてい
ます。それは大きく分けて "溶媒" "運搬" "体温調節" の3つに分類されます。
溶媒というのは、水がいろいろな物質を溶かし込んで、体に吸収しやすくする機
能のことをいいます。人間は食事をすると消化液を分泌して食物を溶かし、栄養素
を吸収し、便の形にして排泄しますが、この分泌、吸収、排泄のすべてが水の溶媒
としての機能を利用したものです。また、水はナトリウムやカルシウムなどのミネ
ラルを溶かすことで体に吸収しやすい形に変え、体内のペーハーや浸透圧などのバ
ランスを一定に保つ役割も果たします。
運搬というのは、主に血液によって栄養素や酸素を細胞ひとつひとつに運び、反
対に老廃物や二酸化炭素を運び出す機能のことをいいます。体内の水が足りなくな
ると、血液の濃度が高まり流れが悪くなって運搬機能が十分に果たせなくなり、細
胞がどんどん死んでいってしまうのです。
そして体温調節ですが、これはもちろん、人間の体温を一定に保つ働きです。
私たちはよく汗をかきますが、この発汗という生理作用も、じつは水が蒸発する時
に多くの熱を奪うという性質を利用した、非常に効率のいい体温調節法なのです。
人間は 1 日に少なくとも 0.5 リットル程度の汗をかいています。夏の暑い日やス
ポーツをしている時などは数時間のうちに、何リットルもの汗をかくこともありま
す。これは気温の上昇や運動による発熱によって上がった体温を下げるためです。
もし人間が発汗しなかったら、ただじっとしているだけでも、体内の温度は軽く 40
度を超え、すぐに生命の危機に陥ってしまうといわれています。
これだけ多様な機能を果たしている水ですから、体内に数十リットルも貯えられ
ていてもまだ足りないくらいなのです。ですから反対に体内の水がほんのちょっと
不足しただけでも、人間はさまざまな機能不全を起こしてしまいます。
◆たった 2 パーセントの水不足で、脱水症状が起こる
人間は食事をしなくても数週間は生き延びることができるといわれています。
しかし、もし水を一滴も飲まなければ、わずか数日間で死に至ります。
ラクダのように体内に水を貯える組織を持っていない人間は、水分不足にきわめ
て敏感な動物です。まして人間には他の動物のように全身を覆う体毛がありません
から、何もしていなくても、自覚しないうちに微量の汗が出て、体内の水分が失わ
れてしまいます。これを不感蒸泄といいます。
ですから、人間は常に水分補給をしなければいけません。水を飲まないまま運動
を続けたり、ダイエットのために水を飲むのを控えたり、小麦色の肌にしたいから
とビーチや日焼けサロンで何時間も体を焼いていたりすると、すぐに体内の水が不
足し、脱水症状に陥ります。
人間は、体内の水のうち、ほんの1パーセントが不足しただけで喉の渇きを感じ、
わずか2パーセントが不足しただけで脱水症状が始まります。そして4パーセント
不足すると感情が不安定になってイライラが高まり、8パーセントの不足で精神錯
乱や呼吸困難が起こり、10 パーセントの不足で臓器不全が起こります。
人間の生命は、絶えず水を飲み、体内を循環させることによって維持されています。
私たちは水を飲むことをついつい軽く考えてしまいがちですが、水は見えないとこ
ろで、私たちの命を支えているのです。
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▶
表1 人体の水分欠乏率と脱水症状
(体重比)
水分欠乏率
症状
0 ●
1 ●
のどの渇き
2 ●
強いのどの渇き/ぼんやりする/重苦しい/食欲減退/血液濃縮
3 ●
4 ●
動きの鈍り/皮膚の紅調化/いらいらする/疲労および惰眠/感情鈍麻
/吐気/感情の不安定
5 ●
6 ●
手足の震え/熱性抑うつ症/混迷/頭痛/熱性こんぱい/体温上昇
/脈拍・呼吸の上昇
7 ●
8 ●
呼吸困難/めまい/チアノーゼ/言語不明瞭/疲労増加/精神錯乱
9 ●
10 ●
筋けいれん/閉眼で平衝失調/失神/舌の膨張/せんもうおよび興奮
状態/循環不全/血液濃縮および血液の減少/腎機能不全
11 ●
12 ●
13 ●
14 ●
15 ●
皮膚がしなびてくる/飲みこみ困難/目の前が暗くなる/目がくぼむ
/排尿痛/聴力損失/皮膚の感覚鈍化/舌がしなびる/目瞼硬直
16 ●
17 ●
18 ●
皮膚のひび割れ/尿生成の停止
19 ●
20 ●
死亡
(%)
科学技術庁監修「人間-環境系・下巻、人間機能データブック」(人間と技術社)より
◆女性は男性よりも水が少ない?
先ほども触れましたが、同じ人間であっても男性と女性では、体内の水分量がか
なり違います。
女性は男性よりも脂肪が多いため、個人差はありますが、男性に比べて 5~10 パ
ーセントほど水分が少ないのです。体質的に乾燥肌の人が女性に多いのも、それが
理由と考えられています。
皮膚はその維持のためにたくさんの水を必要とします。ちょっとした水分不足で
かさついたりつっぱったりするのはそのためです。まして皮膚の中でも角質層と呼
ばれる表面の部分は、そのわずか 20 パーセントくらいしか水分が含まれていませ
3
んから、ただ空気が乾燥しているというだけでも水分が失われてしまいます。
体内の水分が多い男性は、こうした肌のトラブルが比較的表れにくいのですが、
反対に水分が少ない女性はすぐ表面化してしまうのです。
そして皮膚以上に多くの多くの水分を必要とするのが "筋肉" です。
筋肉は、その 80 パーセント近くが水でできており、人間の体内で最も多く水分
を含んでいる組織。ですから筋肉が発達している人ほど体内の水分量が多く、みず
みずしい肉体をしていることになります。そういう意味でも、筋肉組織の多い男性
の体は、女性よりも水分を多く抱えていることになるわけです。
よく、ぽちゃぽちゃと太っている人を "水太り" といいますが、実際は反対です。
脂肪が多く筋肉が少ない人ほど、体内の水分が足りないのです。普通の人の体内の水
分量が 60 パーセントとすると、
肥満体型の人は 50 パーセント以下しか水分がなく、
反対に筋肉質の人は 70 パーセント近くも水分が含まれている場合があるそうです。
肥満の人がよく水を飲むのは、常に体内の水分が不足しているから。また、筋肉
質はプールで沈むのに、肥満の人は浮いてしまうというのも、水分を多く含む筋肉
組織が水より重いからです。
▶
表2 体型別の体液量バランス
普通の人
太りぎみの人
やせている人
◆1日に飲む水の量はどのくらい?
それでは、人間は1日にどのくらいの量の水を摂取しなければならないのでしょ
うか。
まず、1日に体外に排出される水の量は2~3リットルほどです。その内訳は尿
として1~2リットル、汗や呼吸、そして自分では気づかない皮膚からの "不感蒸
泄" として1リットル前後、あとは便の中に含まれる水分が 0.1 リットルくらい。
もちろん夏の暑い日や、スポーツで体を動かした時などは大量の汗が出ますから、
5リットル以上にも達することがあります。
ですから、健康な生活を維持するためにはそれと同量の水分補給が必要となりま
す。しかし、夏場にビールを何リットルも飲む人はいますが、毎日毎日2~3リッ
トルもの飲料水を飲む人はまずいません。
人間が水分補給するのは、飲料水からだけではありません。水分は食べ物にも含
まれています。新鮮なトマトやキャベツは 95 パーセント近くが水でできています
し、食パンにだって 40 パーセントの水が含まれています。私たちは食事によって
も水分補給をしているのです。
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平均して、人間が1日に摂取する水分は、飲み物か
ら 1.2~1.5 リットル、食べ物から 0.8~1.2 リットル。
これに加えて体内でタンパク質や脂肪が酵素によっ
て分解される時に副産物として分泌される水が 0.3
リットルくらいありますから、合計すると 2.3~3 リ
ットル。つまりほぼ排出されるのと同量の水を摂って
いるということになります。
もちろん、スポーツなどで汗を流した時は流した汗
の分だけ水を補給する必要があります。ほんの 10 年
ほど前までは「スポーツ中に水を飲むと疲れる」とい
った間違った常識がまかり通っていましたが、スポー
ツ医学が進歩した現在では、その危険性が指摘され、
オリンピックなどの公式試合においても、試合中の水
分補給が認められるようになってきました。特にテニ
スやマラソンなど数時間も連続して運動を行う競技
の場合、水分補給はより重要といわれています。
◆からだの水は1ヵ月で入れ替わる
人間の体内で、1日に使用される水の総量は、約 180 リットルといわれます。
1日に飲む水が2~3リットルなのに、使用される水が 180 リットルというのは
おかしいと思われるかもしれません。
じつは体内の水は、ただ口から入って排泄されるわけではないのです。水は人間
の体の中で濾過 (ろか)され、再吸収されて、何度も何度も繰り返し利用されます。
その繰り返し利用される水の総量が、
1日 180 リットルに達するということなのです。
口から入った水分は、水もコーヒーもビールも食べ物もすべて、腸から吸収され
ます。吸収された水は体内のあらゆる場所に移動し、そこで唾液になったり、胃液
になったり、細胞活動の維持に回されたり、それぞれの役割を果たします。
やがて役目を終えた水の多くは、腎臓に運ばれ、濾過されたのち尿として排泄さ
れますが、一部の水は腸管から再度吸収されて、再び体内を駆け巡ります。
これが何度も繰り返されて、最初に口から入った水分が、すべて体外に出ていく
までにかかる時間は、だいたい1ヵ月と考えられています。つまり、1ヵ月で体内
の水は入れ替わるのです。
1ヵ月で体内の水が入れ替わるということは、見方を変えれば、たった1ヵ月で
体内の悪い水を追い出し、体質改善ができるということでもあるのです。
◆老化とは水を失うこと
いかに筋肉質でみずみずしい肉体をしていても、細胞の中の水は年齢を重ねるご
とに減少していきます。老化とともに細胞の新陳代謝がスムーズでなくなり、活発
に機能する細胞が減って、かわりに水分の含有量の少ない組織が増えるため、どん
どん水分が失われてしまうのです。
やがて老人と呼ばれる頃には、体内の水分は 50 パーセント程度にまで減ります。
ここまで減ると、多くの水分を必要とする筋肉組織を維持できなくなり、どんどん
筋肉がおちていきます。そして筋肉と一緒に水分もまた減少します。
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若い頃は体内の水に勢いがあり、量が多いため筋肉も柔軟です。しかし水分の減
った筋肉は疲れやすく、力もあまりありません。老人の体力の低下は、この水分の
減少による筋力の衰えから始まります。つまり年をとるということは、体の中の水
を失っていくことなのです。
では反対に、水をたくさん飲み続けたら老化は防止できるのでしょうか。じつは
このことが現代医学の重要な研究テーマとなっています。もちろん老化そのものは
遺伝子のプログラムによるものですから、水を飲んだというだけで止められるもの
ではありません。しかし体内の水を常に潤沢にすることで、生理機能を活発にさせ、
老化のプログラムを遅らせることができるのでは、と真剣に考えられているのです。
後ほど詳しく説明しますが、水には「新陳代謝機能を高める」
「老廃物を排除する」
、
そして「血液の循環をよくする」といったさまざまな効能があります。従って水を
たくさん飲み続けることで、動脈硬化や脳卒中、糖尿病や腎臓病、肝臓病といった
疾患を予防できると訴える研究者もいます。だから水には老化防止だけではなく、
延命効果もあるというわけです。
しかし、どんな水でもただ飲み続ければいいと、トリハロメタンやトリクロロエ
チレンといった発ガン性物質を含んだ水道水を毎日飲んでいたらまったくの逆効果
です。当然のことながら、ガンを発症する確立が高くなってしまうからです。
それでは「体に正しい水」、つまり人間の健康維持にふさわしい水とは、どういう
水なのでしょうか。それを説明する前に、まず人間の体の中を流れている水の性質
について知っておく必要があります。
◆人間の血液は海の水に似ている
20 世紀のはじめ、フランスの生物学者であるルネ・カントンという人物が、さま
ざまな比較調査の結果「哺乳類の血液は海の水と同じような成分で構成されている」
と発表し、世界中の人を驚かせました。
確かに、人間の血液と海の水とを比較してみると、その成分が非常によく似てい
ることがわかります。とくにナトリウムやカリウム、カルシウムといったミネラル
のバランスは驚くほど似通っています。
これは、先ほど説明したように「すべての生命が海から生まれた」ことの証明で
あると考えられています。人間をはじめとする哺乳類は、海から陸に生活の場を移
してからも順応できるように、体内を常に海の中に近い環境にしているのです。
ヨーロッパで研究、実践されている<タラソテラピー>と呼ばれる海洋療法も、
人間の血液によく似た海水の性質を利用して、人間の自然治癒力を高めようという
発想から生まれたものです。
人間の細胞の中に封じ込められている水(細胞内液)も、血液とはかなりその組
成が異なるものの、ナトリウムやカリウム、マグネシウムなどさまざまなミネラル
を含んだ水です。
人間の体の中を流れている水は、このようにさまざまなミネラルを溶かし込んだ
状態で存在しています。つまり、人間は生まれながらにして体内に大量のミネラル
ウォーターを抱えていることになるのです。
ですから、こうした人間の体内の水に近い性質を持った水がもしあるとすれば、
それは人間の健康維持にふさわしい、
「体に正しい水」であるといえるでしょう。
私たちは、健康にふさわしい水というと、すぐに "純粋な水" という言葉を思い
6
浮かべます。しかし、"純水な水" というのが "何も入っていない水" という意味だ
とすると、それはまったく違います。蒸留水のようにまるでミネラルの含まれてい
ない水を飲むと、人間はかえって体のバランスを崩してしまうからです。
反対に、いくら人間の血液に似た成分構成をしているからといって、海水ほどミ
ネラルが多い水は飲み水には適していません。海水には血液と同じようにたくさん
のナトリウムが含まれていますから、大量に飲めばやはり体のバランスを壊してし
まいます。
つまり「体に正しい水」とは、体内の水に近い性質を持ちながら、特定のミネラ
ルが過剰に入っていたり少なすぎたりしない "ミネラルバランスのいい" 水のこと
なのです。
それでは、その "ミネラル" とはいったい何なのでしょうか。次はその "ミネラ
ル" について、具体的に説明しましょう。
水に含まれる "ミネラル" の秘密
◆ミネラルと体の関係
ミネラルが人間の健康にとって重要なものであるということは、誰でも知ってい
ます。しかし、ミネラルが体内でどういう働きをするのか、そしてどのように摂取
したらいいのかといった具体的なことについては、あまり知られていないのではな
いでしょうか。
たとえば、食事の時に栄養素のバランスを考える人は多いと思います。ケーキの
食べすぎで脂肪分を摂りすぎているとか、野菜を食べていないからビタミンが足り
ないといったように。でも、その食事でミネラルがどのくらい摂取できているかを
意識している人は少ないはずです。
ミネラルは、健康を保つために必要不可欠な五大栄養素のひとつ。たんぱく質、
炭水化物、脂質が三大栄養素なのは家庭科の授業で習ったと思いますが、これにビ
タミンとミネラルを加えたものを五大栄養素といいます。このどれが欠けても、
人間は生命活動を維持することができません。
ただし、ミネラルと他の栄養素には大きな違いがあります。それは他の栄養素が
複数の物質が結合してできたものなのに対し、ミネラルはひとつの元素であるとい
うことです。そう、ミネラルとは「人体に必要な元素」のことなのです。酸素、
炭素、水素など現在地球上で発見されている百数種の元素のうち、人間の健康に直
接かかわっているもの数十種類をミネラルと呼びます。
ミネラルは炭水化物や脂質のようにそのままエネルギーのもとになったり、骨や
筋肉に変わったりするわけではありません。しかし食べ物をエネルギーに変えたり、
筋肉をつくりだすためには不可欠なものです。つまりミネラルは、体のさまざまな
機能をコントロールしているのです。
ミネラルはその必要摂取量から大きく2つに分類されます。ひとつは1日に 100
ミリグラム以上の摂取が必要とされるもので、これをマクロミネラルと呼びます。
もうひとつはごく微量の摂取量でその役割を果たすもので、トレースミネラルとい
います。
マクロミネラルの代表はカルシウム、マグネシウム、カリウムなど、トレースミ
7
ネラルの代表は鉄、亜鉛、銅、マンガン、セレンなどです。マクロミネラルには過
剰に摂取しても自然に体外に排出されるものが多いのに対して、トレースミネラル
には少しでも多く摂取するとかえって有害な作用をするものが少なくありません。
◆重要なマクロミネラル
ミネラルは体の中のあらゆる生理機能を助けていますが、そのうちの主な役割は
以下の4つに分類されます。
①骨や歯など、体の一部になる。
②体内酵素の成分になる。
③さまざまな体液の調節をする。
④ホルモンの成分、または情報伝達物質として作用する。
数十種類のミネラルのうち、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム
などのマクロミネラルは、この4つの役割に、直接または間接的に深く関係している、
人間にとって最も重要なミネラルです。
まずカルシウムは、骨や歯の構成成分であるのはもちろん、神経やホルモンの伝
達を助ける作用を持っています。また血液の凝固作用や精神の安定にも必要な成分
であり、さまざまな成人病の予防にも役立ちます。
マグネシウムはカルシウムと同様に骨や歯の成分となるミネラルであり、体内の
酵素のはたらきを促す作用を持っています。また神経や筋肉の動きを調節するはた
らきがあるので、神経の興奮を鎮め、筋肉の痙攣(けいれん)や硬直を防ぐ効果もあります。
ナトリウムは体液の量やペーハーなどの調節を行なうミネラルで、筋肉の運動機
能を正常に保ち、低血圧を予防するのにも役立ちます。ただし多く摂りすぎると成
人病の原因にもなるミネラルです。
カリウムは細胞内にたくさん存在し、浸透圧の調節やエネルギーを蓄積する作用
のあるミネラル。高血圧を予防し、心臓病の発生を防ぎます。
もしこれらのマクロミネラルが体内で不足すると、生理機能が十分でなくなり、
疲れたり、イライラしたり、体調が不安定になったりします。ですから健康のため
には、これらをバランスよく摂取することが大切です。
◆体を動かす電解質イオン
これらマクロミネラルのうち、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウ
ムなどは、水や食物から人間の体内に吸収されて<細胞内液>や<細胞外液>に
溶け込み "電解質イオン" となります。
イオンとはプラスやマイナスの電気を帯びている元素や分子のことですが、その
うち水に溶けることでイオンとなり、水の中に電気を導く性質を持つものを "電解
質イオン" と呼んでいます。
つまり、人間の血液や細胞内液といった体液に含まれるカルシウムやマグネシウ
ムなどは、電気を帯びているのです。
人間の体内では、脳のさまざまな情報や指令は神経細胞を通じ電気信号によって
伝わるしくみになっています。ミネラルが体内で電解質に変わるのは、こうした神
経細胞間の情報伝達をスムーズにするためと考えられています。
ミネラルが、細胞の代謝を促したり、浸透圧を調整したり、神経の興奮を鎮めた
りといった複雑な作用ができるのも、電解質になることで電気信号が伝わりやすく
8
なるから。つまり、ミネラルはさまざまな情報を体の末端まで伝える、連絡係のよ
うな役割を果たしているのです。
ですから、これらの電解質イオンが体内で不足したり、反対に多すぎたりすると、
神経細胞間の伝達がうまくいかなくり、必要な指示が伝わらなかったり、誤った
情報が伝わったりします。これが私たちが健康を損ねたり、さまざまな病気になる
大きな原因のひとつです。
私たちがミネラルを摂取する時に「ミネラルバランスが大事」といわれる理由は
ここにあります。カルシウム、マグネシウム、カリウムといった電解質イオンは、
その量と電気的なバランスによって、体内の情報をコントロールしているからです。
◆水でミネラルが摂取できる
日本ではこれまで「ミネラルは食事から摂るもの」と言われ続けてきました。
それは日本で飲める水のほとんどが、ミネラル分の少ない "軟水" だからです。
火山列島である日本の国土には火山灰土壌の割合が高く、酸性の土になりやすい
ので、もともと土壌にミネラルがあまり多く含まれていません。しかも雨が多いた
め地下水が地層の中に留まっている時間が短く、ミネラルが溶け出しにくいのです。
ですから日本の水道水や井戸水をいくら飲んでも、ミネラルを補給することはほ
とんど期待できません。それよりも食事からの方がずっと効率よくミネラルを摂取
できます。それが「ミネラルは食事から」といわれていた理由です。
しかし、それでは本当にミネラルを水で摂取することはできないのかといえば、
そんなことはありません。むしろ食べ物より水を飲む方が、効率よく摂取できる
ミネラルもたくさんあります。たとえば、カルシウムがそうです。
一般にカルシウムは吸収率のよくないミネラルといわれています。チーズのよう
な乳製品でも約 50 パーセント、小魚や野菜では 15~30 パーセント程度しか吸収率
がありません。それはこれらの食品に含まれているカルシウムがイオン化されてい
ないためです。
一般的に食品に含まれるカルシウ
ムは、炭酸カルシウムや乳酸カルシ
ウムなど、他の物質と結合した形で
存在しています。それが胃や腸によ
って消化されてカルシウムイオンと
なり、小腸の細胞膜を通り抜けるこ
とができる大きさになって、やっと
体内に吸収されます。
ところが、先ほど説明した通り、
カルシウムは水に溶けることでイオ
ン化するミネラルですから、ミネラ
ルウォーターの中にはカルシウムが
最初からイオン化されたものがあります。
こうしたカルシウムは非常に吸収率が高いのです。
フランスにある、世界で唯一といわれる水専門の研究機関『ウォーター・インス
ティテュート・ペリエ・ヴィッテル』では、日本でも輸入販売されている<ヴィッ
テル>という水のカルシウムの吸収率について、さまざまな研究を行っています。
9
そしてその結果、<ヴィッテル>に含まれるカルシウムには、食品の中で最もカル
シウム吸収率が高いとされる牛乳と、同等以上の吸収率があることがわかっています。
また、日本人には、乳糖不耐性といって、牛乳に含まれる乳糖という物質を分解
するラクターゼという酵素を先天的に持っていない人がたくさんいます。たとえば
牛乳を飲むとすぐ下痢をしてしまうという人がそうです。こういう体質の人は体内
で乳糖を分解することができず、そのまま体外に出してしまうのですが、その時一
緒にカルシウム分も排出してしまいます。従って、こうした乳糖不耐性の人には、
牛乳よりもミネラル分を多く含んだ<ヴィッテル>のようなミネラルウォーターの
方が、はるかにカルシウム吸収率が高いといえるのです。
日本と異なり水成岩の地層でできているヨーロッパには、カルシウムやマグネシ
ウムをたくさん含んだ水が多いため、ミネラルウォーターがミネラルの補給源とし
て積極的に利用されています。おそらく今後は日本でも、こうしたヨーロッパの「水
でミネラル補給する」というスタイルが、広く一般にも浸透していくと予想されます。
深刻な現代人のミネラル不足
◆骨粗鬆症予備軍が増えている
現代の日本人は、食生活の変化などが原因で慢性的にミネラルが不足していると
いわれています。中でも顕著なのがカルシウム不足です。
厚生省が毎年行なっている「国民栄養調査」によれば、日本人のカルシウム平均
摂取量は、成人一日あたりの必要量とされる 600 ミリグラムに対し、550 ミリグラ
ム程度しかありません。
1995 年度の女性の「年代別カルシウム摂取量」のデータを見ると、特に 10 代後
半、20 代、30 代の女性の摂取量が低いのが目につきます。
とりわけ 20 代の女性は所要量の 81 パーセントしかカルシウムを摂取しておらず、
摂取不足はより深刻であるといえるでしょう。
▶
表3 年代別カルシウム摂取量
10
カルシウムの摂取不足は、さまざまな体の機能不全の原因になるのはもちろん、
やがては "骨粗鬆症(こつそしょうしょう)" という恐ろしい病気を引き起こす、大きな原因
となります。
最近は新聞やテレビでも取り上げられることの多い骨粗鬆症は、骨の組織のカル
シウムが不足することによって、組織が軽石のようにスカスカになり、ちょっとし
たはずみで骨折したり、骨が変形したりするという恐ろしい病気です。
かつては更年期以降の女性に多い病気と考えられてきましたが、ここ数年は 20
代、30 代の女性にもその初期症状が見られるようになってきました。やがて骨粗鬆
症を発症しかねない予備軍は、毎年、加速度的に増加しています。
◆一生の骨量は 20 代までに決まる
1993 年、厚生省が小学生から大学生の男女約 500 人を対象に、骨の中にカルシウ
ムなどのミネラルがどれだけ含まれているかを調べる《骨密度調査》を行ないました。
その結果、人間の骨は 17 歳から 20 歳の間に成長のピークを迎え、20 代には早
くも老化が始まることがわかりました。つまり、人間の一生の骨量は 20 代までに
決まってしまうのです。それまでは「人間の骨は 30 代まで成長する」というのが
定説だったのですから、この厚生省の発表は大きな反響を呼びました。
それは今まで 30 代からでいいと考えられていた骨粗鬆症の予防も、もっと早い
時期から行なう方がいいということ。できれば骨量が決まってしまう 20 代までの
間に、日頃の食生活でカルシウムをたくさん摂取しておいた方が、骨粗鬆症にかか
りにくくなるのです。
それなのに若い世代のカルシウム摂取不足は年々深刻になるばかり。数年前、あ
る専門学校が生徒を対象に調査したところ「20 歳前後の女性の約 15 パーセントは
50~60 代の骨量しかなかった」という、ショッキングな結果も出ているほどです。
▶
表4 年齢別カルシウム所要量
11
その原因のひとつが無計画なダイエット。きちんと栄養バランスを考えないで行
なう食事制限はミネラル摂取不足を招きがちです。ただカロリーさえ減らせばいい
とサラダやフルーツばかり食べていたり、食物繊維だけを摂りすぎたりすると、
いっぺんに体内のミネラルが不足してしまうのです。
"痩(や)せたい願望" の強い女性の中には、欧米のスーパーモデルたちの真似をして、
菜食を始める人がいます。しかし酸性土壌でミネラルが少ない日本の土壌で育つ野
菜やフルーツには、そもそも欧米の野菜のように豊富なミネラルが含まれていません。
ですから菜食だけで必要なミネラルを補給するのには無理があります。
また、便秘解消や血管へのコレステロール沈着を防ぐと注目されている食物繊維
も、それだけを食べ続けていると、消化管の中でカルシウムやマグネシウムとくっ
ついて溶けにくい物質を作り、体内に吸入されにくくしてしまう作用をします。
カルシウムを十分に補給するためには、まず、こうした毎日の食生活の見直しか
ら始めましょう。間違ったダイエットを続けていると、骨がスカスカになり、老後
を寝たきりで過ごすことにもなりかねません。
◆カルシウムとマグネシウムの不思議な関係
私たちの食生活には慢性的にカルシウムが不足しています。しかし、だからとい
って、あわてて牛乳をたくさん飲んでも、カルシウムのサプリメントをポリポリ食
べても、それだけで骨が丈夫になったり、健康になるということはありません。
カルシウムばかりいくら大量に摂っても、それだけでは骨粗鬆症の予防にはなら
ないばかりか、かえって体内のマグネシウムの欠乏を招く可能性があるからです。
マグネシウムはカルシウムと相対的に働くミネラル。どちらか一方が足りないと
体内で十分に機能することができません。つまりカルシウムを補給するためには、
マグネシウムも同時に摂取することが不可欠なのです。
たとえばカルシウムには筋肉を引き締める作用があるのに対し、マグネシウムに
は緩める作用があります。力を入れようとするとカルシウムが筋肉細胞に入りこん
で筋肉を収縮させ、力を抜こうとすると細胞にマグネシウムが作用して筋肉の緊張
を解くのです。ですから体内のカルシウムが多くマグネシウムが不足したりすると、
筋肉が膨張したまなになって、痙攣やこむら返りが起きる原因となります。
そしてマグネシウムは骨の形成にも大きく関係しています。マグネシウムはカル
シウムを骨から出したり入れたりするホルモンの分泌量を助け、骨の密度をコント
ロールすると考えられているからです。また、人間の骨はカルシウムとリンをもと
に作られますが、この2つを結びつけるのにマグネシウムの化合物がちょうど接着
剤の役割を果たすともいわれています。だからカルシウムをいくら摂取しても、マ
グネシウムがないと骨は形成されないのです。しかもマグネシウムには血管壁への
カルシウムの沈着を防ぎ、肝臓や腎臓の結石を妨げる効能がありますから、カルシ
ウムの摂りすぎによるさまざまな弊害を予防してくれるメリットもあります。
それでは、カルシウムとマグネシウムはどのくらいの比率で摂取したらいいので
しょうか。現在、厚生省が定めている成人の1日のマグネシウム摂取目標値は 300
ミリグラムとなっており、カルシウムの必要所要量が1日 600 ミリグラムですから、
カルシウム2に対してマグネシウム1というのが、理想的な摂取比率といえるでしょう。
ところが、この理想的な比率でカルシウムとマグネシウムを含んでいる食品とい
うのはほとんどないのです。牛乳を例にとっても、マグネシウムの含有量はカルシ
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ウムに対してわずか 10 分の1にすぎません。だからマグネシウムは意識して採ら
ないと補給できないミネラルといえます。またマグネシウムはアルコールや糖分、
脂質を摂りすぎるとすぐに消費され、不足を招くミネラルですから、お酒や甘いも
のの好きな人は、特に注意する必要があります。
◆こんなに変わった日本人の食生活
日本人に慢性的にミネラルが不足している原因は、ここ 30 年ほどの間の急激な
食生活の変化にあるといわれています。
軟水を飲み水とし、またその軟水で育ったミネラル含有量の少ない野菜を食べて
いる日本人は、硬水を飲み水としているヨーロッパの人々のように、水や野菜から
ミネラル補給をすることができません。そのかわり、小魚やひじき、わかめといっ
た海産物をたくさん食べることでカルシウムやマグネシウムの補給をしてきました。
ところがここ 30 年あまりの間に、日本人はハンバーガーやスパゲッティといっ
た西欧型の食生活を好むようになり、海産物を食べる量が著しく減少してしまいま
した。今、ひじきやわかめが一般的な家庭の食卓に並ぶことはほとんどありません。
じつは、このひじきこそが理想的な比率でカルシウムとマグネシウムを含んでい
る数少ない食品のひとつなのです。また、わかめや昆布、海苔などもマグネシウム
を豊富に含んだ食品です。軟水を飲んでいる日本人がミネラル不足に悩むことがな
かったのも、こうした海藻類を食べていたおかげでした。
しかし、かといって、ここまで西欧化してしまった現代日本人の食生活を、数十
年前の姿に戻すことは難しい話です。最近になってやっとこうした日本の伝統食の
価値が見直され、洋風料理にも日本の食材が使われるようになってきましたが、毎
日わかめやひじき入りのパスタやハンバーグばかりを食べるわけにはいきません。
そこで、日本人のミネラル補給の方法として注目されているのが、ミネラルが豊
富な硬水を飲むことです。
これまで、ヨーロッパのミネラルウォーターに代表される硬水は "まずい水" と
して敬遠される傾向にありました。それは長い間、軟水を飲み水としてきた日本人
には、硬水の豊富なミネラルが独特のクセや苦味として感じられたからです。
しかし、不思議なことに、かつては味にクセがあると言われ続けていたヨーロッ
パのミネラルウォーターが、ここ数年、20 代を中心とする若者層に支持され、消費
量を飛躍的に増やしています。これはもしかすると、若い人たちのミネラル不足の
体が無意識のうちに硬水を求めるようになってきたからなのかもしれません。
◆イライラの原因もミネラル不足
最近、イライラした人をよくみかけませんか。通勤電車の中でも、町を歩いてい
ても、イライラして落ち着かない人が増えているように感じます。巷では "キレる
中学生" が社会問題になったりもしていますね。
日頃ストレスの多い生活をしていると、何かとイライラがつのってきます。現代
社会では職場や私生活での人間関係がストレスの最大の原因とか。でも、毎日のイ
ライラの本当の原因は、もしかすると別のところにあるのではないでしょうか。
なぜなら、イライラはミネラルの不足によっても起こるからです。
とりわけ重要なのはカルシウムです。カルシウムが神経の情報伝達に関わってい
ることは先ほど説明した通りですが、これが不足すると神経の興奮が鎮められなく
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なり、落ち着きがなくなって、細かいことが気になったり怒りっぽくなったりします。
そして、カルシウムと同様、マグネシウムの不足もイライラの原因です。マグネ
シウムが不足すると思考力が低下するため、余計にイライラしてしまうのです。
また同時に憂鬱(ゆううつ)な気分を招きますから「ついカッとして怒った後で自己嫌悪
に陥る」といった感情の起伏も、マグネシウム不足に関係していると考えられます。
また反対に「ストレスを感じると体から排泄されるカルシウムとマグネシウムの
量が増える」こともわかっています。つまり、ストレスがかかればかかるほど、体
内のカルシウムとマグネシウムが足りなくなり、よりストレスが高じてしまうのです。
人間は摂取するカルシウムの量が体が必要とする量より少ないと、血液や筋肉、そ
して骨そのものからカルシウムを補おうとしますから、ストレスが高じた状態がず
っと続くと、精神ばかりでなく体そのものが壊れてしまいます。
この悪循環を断ち切るには、継続的にカルシウムとマグネシウムを補給すること
が大切です。体内のカルシウムやマグネシウムが十分に足りていれば、少しばかり
イヤなことがあっても自分の感情をコントロールできるようになり、また体調も良
くなって、イライラが鎮まっていくはずです。
◆水のリラックス効果
職場や学校で不愉快な出来事があり、イライラしながら家に帰ると、なぜか水が
飲みたくなり、コップ1杯の水をぐっと飲み干したら妙に気分が落ち着いて楽にな
った……。こんな経験をしたことがありませんか。
水には人をリラックスさせる不思議な力があります。人間は川や湖のように水の
ある風景を見ているだけでも心が落ち着きますし、せせらぎの音を聞くだけでも安
心します。それは、人間がもともと水から生まれた生命体だからかもしれません。
しかし、水を飲むことで気分がリラックスするのには、それなりの根拠があるの
です。まずイライラが高じると、体温が上昇して汗をかき、水分が不足します。
またストレスによって血液中のナトリウムが増え、血圧が高くなる人もいます。
コップ1杯の水はこの水分不足を解消し、血液中のナトリウム濃度を下げるはたら
きをしてくれます。
そして水には、ストレスで不足しているカルシウムやマグネシウムを補う効果も
あります。水でミネラルが補給できることは先に述べた通りですが、この場合、特
に水が優れているのはその速効性です。
たとえば、イライラしているからとカルシウムの錠剤を飲んだとしても、それが
胃や腸で消化され、イオン化され、吸収されるまでには時間がかかります。それに
対して、あらかじめカルシウムやマグネシウムがイオン化されているミネラルウォ
ーターなら、すぐに体内に摂り入れることができます。
イライラが高じている時には、ミネラルをたくさん含んだ硬水を、少しずつ、時
間をかけて飲みましょう。それだけで気分が変わってくるはずです。
◆水で病気を予防する
水は、成人病をはじめとする、さまざまな病気を予防するのに役立ちます。
まず、水を飲むことは、血液の濃度を正常に保つという、人間の病気予防にとっ
て、非常に大きな役割を果たします。
私たちは血液というと、水のようにサラサラとしたものを想像します。しかし実際の
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血液はかなり粘り気の強い液体です。血液はその約 60 パーセントが<血漿(けっしょう)>
と呼ばれる液体成分で、残りが <赤血球> <白血球> <血小板> と呼ばれる有
形の成分でできていますから、もともと濃度が高いのです。また血液には、ケガな
どで血管が血管が切れた時に出血を最小限に抑えるという大事な役割がありますか
ら、そのためにもある程度の粘り気が必要なのです。
しかし、血液の粘度が高くなりすぎると、血管内をスムーズに流れなくなり、固
まりやすくなってしまいます。これが動脈硬化や血栓を引き起こす原因です。また、
ドロドロの血液を送り出すために心臓に負担がかかり、血圧も高くなるため、心臓
病や高血圧症の原因にもなるのです。
この血液の粘度と、直接関係しているのが体内の水分です。体の水分量が低下す
ると、血液中の水分量も低下するからです。だから水を十分に補給することは、血
液の粘度を下げることにつながります。そして、それが成人病の予防にも役立ちます。
水を飲むことが病気予防に役立つ理由にはもうひとつ、尿として老廃物を体外に
出してくれる作用があります。
老廃物は、いわば体のゴミです。きちんと体外に捨てていれば問題はないのです
が、捨てないまま溜めこんでいると、やがてそれが病気の引き金になります。たと
えば尿毒症という病気は、尿の出が少なく体内に老廃物が溜まることによって起き
ますし、女性に多い膀胱炎(ぼうこうえん)も、膀胱の中に入りこんだ大腸菌が尿によっ
て排泄されずに増えてしまった結果起きる病気です。また、尿の成分が結晶化して
詰まってしまう尿路結石や腎臓結石と呼ばれる病気も、水分摂取量が少なく尿を溜
めこみすぎたことが原因で起こります。
人間は健康であれば、腎臓がスムーズに働きますから、それほど注意していなく
ても、老廃物を自然に出してくれるのですが、体調を崩していたり、恥ずかしいか
らとトイレに行くのを我慢していたりすると、やがてこうした病気が起こります。
これを予防するためには、こまめな水分補給を心がけましょう。水をたくさん飲
むことが、尿の量を増やし老廃物の排出を促進する最も確実な方法なのです。腎臓
や尿路の結石はひどい痛みを伴う病気として知られていますが、こうした結石も大
きくなる前であれば尿の量を増やして勢いよく排尿することで、外に出してしまう
ことが可能です。
ほとんどの人は、生きているうちに大きな病気を何回かは経験します。将来、成
人病で苦しまないためにも、積極的に水を飲むことが大切なのです。
早川光著
「ミネラルウォーターで生まれ変わる」第1章
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全文抜粋