言葉から生まれるより良いケア ――自分自身と向き合ってみませんか

第2回
社会福祉法人新井頸南福祉会
研究成果発表会
言葉から生まれるより良いケア
――自分自身と向き合ってみませんか?――
みなかみの里②
◎小林香苗(ゆきのみや・施設入所課),○鹿住奈保子(みなかみの里・施設入所課)
白井真弓(ゆきのみや・多機能介護課),古川智美(北条の家・多機能介護課)
吉崎ひとみ(北条の家・訪問介護課) ,小林信行(みなかみの里・施設入所課)
顧問課長:石黒智也(ゆきのみや・施設入所課)
Ⅰ.研究の背景
4.主な調査内容
介護者が何気なく使い、言葉によりご利用者の行
①アンケート調査
動を制止・拘束しているスピーチロック(心理的虐
<職員>経験年数や業種等の基本属性に加え、ス
待)
。
ピーチロックへの理解度、使用度、使用場面など 10
虐待の研修はあっても、身体的虐待が主であり、
項目について調査を実施した。
心理的虐待に触れる機会が少ないのが現状である。
<ご利用者>性別、職員から言われた声掛け、言
「待って」等の言葉・合理的なケアでなければ仕事
われた時の気分、どのように対応してほしいかとい
をしきれない状況がある中で、福祉に携わっている
う 4 項目について調査を実施した。
もののスピーチロックという言葉を知らずに介護し
②研修会:スピーチロックが起こる場面についての
ている職員が多い。
対応策をグループワークで検討してもらい、参考文
献 1)
、2)を使用して高齢者虐待防止の対応策等につ
いて資料提供を行った。研修会前後にスピーチロッ
Ⅱ.研究の目的
「職場環境の整備や職員の意識改革がスピーチロ
クを減らす工夫ができると思うか等の前半3 ・後半
ックの減少に繋がり、ご利用者へのケアの質の向上
5 項目についてアンケート調査を実施した。
へと結びつくのではないか」という仮説を基にアン
5.調査に際しての倫理的留意
ケートや研修会の実施を行い、考察をしていく。
実施に際しては、各施設長及び、対象となる職員・
ご利用者に調査の目的の説明を行い、協力の同意を
Ⅲ.研究方法
得た。調査データの取り扱いに際しては、プライバ
1.対象
シーの保護に留意した。
①アンケート調査
6.分析方法
<職員>2014 年 9 月時点の新井頸南福祉会パート
アンケート調査・研修会の前後アンケートについ
職員から課長までの介護に携わる 298 名を対象とし、
ては、単純集計及びクロス集計で示した。
回収数は 278 枚(回収率 93.3%)であった。
<ご利用者>聞き取り可能なご利用者を対象とし、
Ⅳ.結果
回収数は 155 枚であった。
1.アンケート調査
②研修会(前後アンケート有)※以後( )内省略。
<職員>
みなかみブロックから 11 名(4 名欠席)
。
スピーチロックの認識は、
「知らない」「意味は分
からない」という回答で約半数を占めた。経験年数 4
2.調査方法
アンケート調査・研修会の前後アンケートは共に
年以下では「知らない」が 46%を占め、
「知ってる」
留置法による自記式質問紙調査。
は 34%に留まり、経験が上がると「知っている」の
3.調査実施期間
割合が増加した。一方、10 年以上でも約 30%の職員
①アンケート調査:2014 年 9 月 1 日~9 月 16 日
が「よく知らない」と答えた。
スピーチロックの頻度は「たまに使う」、「しょっ
②研修会:2014 年 10 月 14 日
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研究成果発表会
ちゅう使う」で約 9 割を占めた。4 年以下では「しょ
も含めて説明する」事でスピーチロックを緩和して
っちゅう使う」が他の年代よりも高かった。
いるという意見も多く、
“どこまでがそれに当たるか”
スピーチロックが起こる場面は、どの施設でも「排
という人によっての捉え方の違いもあるためである。
泄」
「コール対応」
「移動」が多かった。
職場全体で取り組みたいという意見もあり、大きな
他職員が使っているスピーチロックの言葉を聞い
方向性を決め職場全体で取り組む環境を作ることで、
た時の気持ちでは、「嫌だと思った」
「気になった」
職員の意識が高まったり、対応への不安が減り、よ
という回答で 81%を占めたが、注意ややんわりと伝
り良い言葉掛けができると考えられる。また、外部
えたのは約 15%の少数の職員であった。
研修でスピーチロックについて勉強する職員もいる
が、長年外部研修の機会の無い環境で働く職員にと
<ご利用者>
っては法人内での勉強会が貴重な機会となっている。
職員からの言葉がけでは、どの施設においても「待
今回の研修会での意識の変化から、少なからず職
ってて」とともに「(対象となる言葉かけが)なし」
員の認識・意識付けは可能であるといえる。また、
が突出している。
大規模な研修ではなく、状況を把握しながら互いに
言われた時の気持ちでは、
「何も感じない」
・
「仕方
考える時間を作れる小規模での研修会を行う事で、
ない」
・
「嫌だった」の順で多かった。
より密に話し合いができ、その後もお互いに声をか
どのような言葉がけを望むかでは、
「優しく言って
けやすい環境になると考えられる。
ほしい」
「笑顔で言ってほしい」という順で多かった。
アンケートや研修会から丁寧に理由も含めて言葉
掛けをする等の対応が挙がっていたが、ご利用者へ
2.研修会
のアンケートからは「優しく」
「笑顔で」との希望が
グループワークでは、スピーチロックが起こる場
「丁寧に」を上回っていた。丁寧な言葉だけがご利
面への対応として、整備・人員不足面への対応の他、
用者の心の満足度やケアの質に繋がるのではなく、
理由も含め丁寧に説明・寄り添う等の対応も挙げら
安心できる口調や表情なども用いて対応することが
れた。だが、スピーチロックの捉え方の相違や人員
とても重要である。
の増加=スピーチロックの減少ではないのではない
かという疑問も挙がった。
Ⅵ.結論
研修会後アンケートで、
「自分はスピーチロックを
現状では職場環境の整備は難しい。しかし、職員
よくしていると思う」
「スピーチロックを減らす工夫
のスピーチロックへの認識・意識付けは可能である
ができる」という回答が 3 名ずつ増加した。
と言え、小規模かつこまめな研修会の実施が必要不
可欠である。ご利用者の真の想いを職員間で共有す
Ⅴ.考察
ると共に今後、当法人でのスピーチロックの定義付
1.スピーチロック減少のための職場環境の整備
けや取り組みの方向性が問われている。
職員のアンケート結果より、トイレ数の不足・人
員不足によりトイレ希望やコールに対応しきれず仕
謝辞
方なくご利用者を待たせるとの回答が多く、設備や
本研究にあたり、アンケート調査及び研修会に多
人員の整備を望む意見が多かった。ご利用者へのア
大なるご協力をしてくださったご利用者の皆様、職
ンケートでも「待ってて」と言われる頻度が高くな
員の皆様には、深く感謝申し上げます。
っており、排泄やコール対応はご利用者にとって緊
急性が高く、我慢を要する事が多くなるため行動の
引用・参考文献
制限を感じる場面であると言える。この事から、設
1)社会福祉法人東北福祉会認知症介護研究・研修仙
備や人員が増え、要望にすぐに対応する事で「待た
台センター「施設・事業所における高齢者虐待防
せる」という行為が少なからず減らせると考える。
止学習テキスト」
( www.pref.ibaraki.jp/___/koureisyakutaibous
2.意識改革がスピーチロックを減らし、ケアの質の
向上に繋がる
igakusyutekisut...)
スピーチロックについての勉強会については、実
2)原克行『スピーチロックの廃止に向けて-「何気
例等を交えて詳しく考えるものが良いと考える。こ
なく」使ってしまう言葉を見直そう』
れは、アンケートより「言い方を丁寧にする・理由
(www.ituki.com/hara.pdf)
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