R4システムの問題点 老人保健施設 すずかけの里 田中 愛(介護支援

R4システムの問題点
老人保健施設 すずかけの里
○田中 愛(介護支援専門員)
寺嶋 康志・齋藤 恵子・今田 了治・村上 秀一
抄録要旨:当施設では、平成5年に独自のケアプラン方式「すずかけ式判定基準」を作成し、22
年それを用い実践している。今回、R4システムと照らし合わせ、比較検証したので報
告する。
<はじめに>
平成22年に初版「新全老健版ケアマネジメント方式~R4システム~」が完成した。平成26
年には改訂版が発刊されたが問題点が多い。
一方、当施設では、平成5年に独自のケアプラン方式「すずかけ式判定基準」を作成し、改良を
重ねながら22年それを用い実践している。
「すずかけ式判定基準」は10項目の各項目を1点から
5点までの5段階評価とし、点数はレーダーチャート上に表現している。更に評価の総合点数から
判定スケールを用いて要介護度を導き出している。これら評価の点数化・図表化により、医師・看
護師をはじめとする各職域が利用者の状態像を一目で把握可能となっている。
今回、R4システムと比較検証したので報告する。
<方 法>
「すずかけ式判定基準」概況5項目と日常生活5項目の計10項目に対し、
「R4システム版IC
Fレベルアセスメント」は14項目を評価基準としている。これら各項目について比較した。
<結 果>
すずかけ式判定基準の特徴は、行政により指定されている認定調査票をアセスメントに用いてい
ることである。
概況5項目、
日常生活5項目の計10項目による生活機能全般にわたる評価である。
生活機能の全般的状況を知るための「医療」
「寝たきり度」
「認知症」
「体重」
「家庭・社会資源」
の概況5項目と、生活行為の状況を知るための「排泄」
「入浴」
「清潔整容・衣服着脱」
「食事摂取」
「服薬・金銭管理」の日常生活5項目の計10項目を評価基準としている。また、評価を5段階に
点数化し、状態をレーダーチャート上に再現し、評価の総合点数により自動的に要介護度を判定し
ている。
R4システムの特徴は、ICFを論拠とした「R4システム版ICFレベルアセスメント」を作
成し導入している。WHOによるICFの概念であるが、ICFが作成されるまではICIDHが
使用されており、障害の種類の分類であった。ICIDHは様々な批判を受け、2001年改定に
至り、障害のみの分類ではなく、あらゆる人間を対象として、その生活と人生のプラス・マイナス
全てを分類・記載・評価するものとなった。
「R4システム版ICFレベルアセスメント」は14項
目からなっているが、それ以外には独自性は認められない。
双方の共通点としては、
評価を5段階評価とし、
機能レベルが高い利用者が高い点数となること、
多職種によるチームアセスメントがケアプランへ反映することであり、これらに関しては、すずか
け式判定基準の要素と同様であり評価できる。
各項目及び評価スケールを比較したところ、
「認知症」
「排泄・入浴動作」
「清潔整容・衣服着脱」
に関する機能レベルは一致している。しかし、それ以外の項目は、統計学的な確率に基づいており、
アセスメント状況において状態像の把握に混乱を生じることがある。
摂食・嚥下機能の評価を行う際、当施設では、むせ・口腔内残留を考慮し、誤嚥の危険性や改善
の可能性を含めて見ている。スケールでは一見一致しているように見えるが、R4は状態を判断し
ているのみであり、誤嚥の危険性や改善の可能性を評価していない。
更に老人保健施設(以下、老健施設)は医療を重要視した施設であるにも関わらず、R4ではケ
アプラン上に原因疾患と発症及び経過を記載するのみで「医療」に関する項目がない。そのため、
アセスメント結果が医学的視点を欠くものとなる可能性が高く、高齢者の全体像を捉えるものにな
っていない。当施設では、
「医療」及び「体重」の項目は判定基準作成の当初より重要視してきた項
目である。医療ニーズの状況は高齢者の生活全体を左右し、アセスメント項目には欠かせないもの
である。
「体重」に関しては、高齢者の栄養状態・健康状態の最も重要な指標の一つである。
また、改訂版において「社会参加」として余暇活動や社会交流の項目が追加された。これらは利
用者本人の状況のみを評価する項目となっている。しかし、老健施設として在宅復帰機能の強化を
求められる中、それだけでは在宅復帰や在宅介護支援へのアプローチとしては不十分に思われる。
利用者を取り巻く家庭環境や社会資源(交通の便)等も考慮する必要がある。
R4システムは種々の書式が多いのも特徴である。すずかけ式判定基準は客観的に利用者を評価
し、一目で状態を把握できる。更に入退所判定会議とカンファレンスを同時に行うことができ、業
務の効率化が図られている。施設サービスのみならず、居宅サービスにおいても同一の書式を用い
ている。
<考 察>
「すずかけ式判定基準」は全国介護老人保健施設大会に研究報告を行ってきたケアプラン方式で
あり、高い評価を得たものである。行政の動きを視野に入れながら、在宅復帰支援機能の更なる強
化や施設及び在宅の双方にわたる切れ目ない支援ができるよう老健施設ならではの医療ニーズを踏
まえた効果的なケアプラン方式を検討し、
質の高いケアに結びつけていくことが重要と考えている。