海外における日本語教育~イギリスで考えたこと~ A組 嶋田(浅川)和子

海外における日本語教育~イギリスで考えたこと~
A組
嶋田(浅川)和子
爽やかな風が吹き、時には汗ばむような陽気となった日本を離れ、連休明けの7日にリーズ
に向け出発しました。出発前に「リーズの気温」をインターネットで検索してびっくり! な
んと最低温度3度、最高温度15度と出ていたのです。大急ぎで厚めのジャケットをカバン
に入れ込みました。
今回は、「英国日本語教育学会
(BATJ)
」が主催する春の研修会で
の講演・ワークショップのための
イギリス行きでした。エジンバラ
とロンドンの中間地点にあり、み
んなが集まりやすいということで、
開催場所はリーズ大学。リーズは、
大都市ではありますが、少し中心
地を出ると、ヨークシャー地方の
田園風景が広がる、とても魅力的
な町でした。
日本から遠く離れたイギリスの
日本語教育に接しているうちに、
皆さまにイギリスの日本語教育、
世界の日本語教育についてお話
リーズ
ししたい気持ちが湧いてきまし
た。そして、母語である日本語
や日本語教育に、少しでも関心
を持っていただければ幸いです。
日本には200万人を超す外国
にルーツを持つ方々が暮らして
います。皆さまの身近にもさま
ざまな国・地域から来て、日本
語を学んでいる方々がいること
を、ちょっと考えてみていただ
けませんか。
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■イギリスにおける日本語学習者の増減の背景とは?
イギリスにおいて日本語を学ぶ学習者数は、世界17位、15,097人、日本語教師の数
は585人となっています(『海外の日本語教育の現状 2012年度日本語教育機関調査より』国
際交流基金)。
日本語学習者数が増えた背景には、1986年イギリス政府が「未来に向けて―アジア・ア
フリカ言語および地域研究に対する英国外交・通商上の要請に関する一考(通称:パーカー・
レポート)」を出したということがあります。このレポートでは、「世界貿易における日本の
役割の増大と国内市場の漸次の自由化」について述べられおり、イギリス経済の発展のため
には、日本語・日本文化を学ぶべきであると記されていたのです。
さらに、1995年にランゲージ・カレッジ制度(認定された公立中等教育に対して、語学
教育機器の購入や語学教師の雇用のための補助金を交付する)が導入されたことも大きなき
っかけとなりました。それは、この補助金をもらうためには、最低1つの非欧米系言語の導
入が求められ、そのことが日本語教育には追い風となったのです。
とはいえ、今回の調査結果は、3年前の結果より大幅に減少しています。それは、2010
年に発足した保守党・自由民主党連立政権による「財政緊縮策」の影響によるランゲージ・
カレッジへの補助金の終了、教育制度の変化など、さまざまな要因があります。
そして、前回の調査から3年経ち、調査の年を迎えた今、現場の声を集めてみると、日本語
学習者数は増えており、大学では日本語教師数も伸びているようです。次の調査結果が待た
れます(国際交流基金の調査は3年ごとに行われています)。
※イギリスでは5月7日に総選挙が行われ、キャメロン率いる保守党が単独与党となり
ました。今後どう教育政策が展開されていくかについて、関係者の注目が集まってい
ます。
■日本語学習の目的の第一位は「日本語そのものへの興味」!
では、日本語学習の目的として、どういったものがあるのでしょうか。グラフ1は、イギリ
スにおける第5位までの項目を、世界全体の数値と比較したものですが、他と比べても、
「日
本語そのものへの関心」やサブカルチャーへの関心の高さが窺えます(国際交流基金 2012 年
度調査)。これは、イギリスとは全く違う文化を持つ日本への関心から来ていると言えます。
そして、
「漢字文化」であることも、日本語学習を難しくするとともに、大きな魅力の一つに
もなっていると言えます。
※世界全体でも、第一位は「日本語そのものへの興味」が1位となっています。
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グラフ1 日本語学習者数
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
92.9
83.4
62.2
79.5
70.1
55.5
54
49.7
54.9
28.6
イギリス
全体
■海外における日本語学習者の数、そして実態は?
では、世界における日本語学習者数についても触れておきましょう。皆さんは、いったいど
れぐらいの人が海外で日本語を学んでいるとお考えでしょうか。
① 10万人
②40万人
③100万人
④200万人
⑤400万人
世界の日本語学習者数は「3,985、669人」、⑤が正解です。また、上位10位までを
あげると表1のようになります。この数字は総数であり、本来は、人口比で考えることも大
切ですが、とりあえず総数での比較にとどめます。
※「人口10万人あたりの学習者数統計」では、1位韓国、中国は19位となります。
こうした学習者数も、3年ごとの調査では、大きな変化が見えてきます。これは、日本との
関係性、日本の経済状況、その国の経済、外交政策、教育制度(第二外国語の扱いや受験制
度)など様々な要因が絡まり合って起こってくるのです。
2004年に設立された中国の「孔子学院」、それを追うようにして出来た韓国の「世宗学堂」
といった語学教育機関では、中国語、韓国語の普及のために必死になっています。日本も今
ここで、抜本的に日本語教育政策を見直すべき時が来ていると思います。日本語を学ぶ人が
増えることは、日本・日本文化・日本人を理解する人が増えることであり、それは日本にと
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って、大きな力となっていきます。また、そういった日本語学習者との触れ合いは、日本人
の意識改革にも大きな力を与えてくれると言えます。
表1
各国・<地域>の学習者数(2012年度調査)
国・<地域>
1 中国
学習者数
1,046,490
2 インドネシア
872,411
3 韓国
840,187
4 オーストラリア
296,672
5 台湾
233,417
6 米国
155,939
7 タイ
129,616
8 ベトナム
46,762
9 マレーシア
33,077
10 フィリピン
32,418
◆「北の首都:リーズ」の不思議な魅力
最後に、リーズについてちょっとお話ししたいと思います。
今回訪れたリーズは、ウエスト・ヨークシャーにあるイング
ランド第4の都市で、
「北の首都」とも言われています。以
前は羊毛産業を中心に大いに栄えましたが、その後衰退。
しかし、うまく産業転換を図り、今ではIT関連、金融を
中心とした経済都市として注目を浴びています。
人々はとてもフレンドリーで、陽気、町には温かい雰囲気
が漂っています。ロンドンとはまた違った味わいが楽しめ
ます。街では、こんな「ワンちゃん専用箱」を見つけまし
た。あるロンドン在住の先生は、
「これ、ロンドン市内でも
あちこちにあるんですけど、どういうわけか、路上は犬の排泄物だらけなんですよ」と笑い
ながら話してくださいました。滞在中、リーズでは犬の排泄物を道路で見かけることはあり
ませんでしたが、もっとうろうろ町を歩き回ったら、違った印象を受けることになったのか
もしれません。
では、リーズ大学に勤務して10年というM先生の言葉をお伝えし、あとは数枚の写真に「街
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の雰囲気」を伝えてもらうことにします。
「コンパクトにまとまって中心街があり、とても便利なんですよ。それでいて、なんかゆっ
たりとした感じで・・・。少し行けば、羊のいる田園風景が見られます。ただ寒さは結構大変
です。もっと北にあるエジンバラより寒いことも多く……。コンサート、美術館となるとロ
ンドンにはかないませんが、リーズは住みやすいし、これからもずっと住みたいと思ってい
ます。そうそう、明日(5月10日)はリーズハーフマラソンでちょっと走ってきます」
※リーズハーフマラソンは、毎年大勢の人が参加する人気レースとなっています。
http://www.runforall.com/half-marathon/leeds/
街のアチコチに、ちょっとした「憩いの
ストリート・ガーデンでは、坊やが鳩と
場」がありました。
一緒に張り切って歩いていました。
踊り場は、とても素敵な空間でした!
ホテルの近くの街並みです。この奥に
は、Notre Dame College があります。
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