-1- 【田舎の法律問題】 里道の話 筆者の主観で

【田舎の法律問題】
◇里道の話◆
筆者の主観で,「田舎らしい」と感じた法律問題を取り上げます。実際には地域に限定
されない問題ですので,多かれ少なかれ,都会でも起きうる事柄でしょう。
今回は,「里道」を取り上げます。今回の話題は,「法律の分野でも,すべての事柄に
はっきりした解答が用意されているわけではない」ということの一例かもしれません。
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里道とは・・・法律上の道路の区分に当てはまらない道路
弁護士の仕事をしていると,土地家屋測量士などの不動産関係の専門家の方には遠く
及びませんが,それなりに色々な「道」と関わることがあります。
その中には,「道路ではないが,やはり道路である」という,特殊な存在もあります。
どういうことかと言うと,「法律上は道路とされていない」けれども,「現に道路とし
て機能している」存在がある,ということです。
そもそも,道路にも様々な種類があります。例えば,一般国道,高速自動車国道,都
道府県道,市町村道などの区分は,道路法によるものです。他にも,土地改良法に基づ
く農業用道路(いわゆる農道),森林法に基づく林道など,道路の区分のほとんどは,何
らかの法律に基づいています。
しかし,中には,法律上の根拠がない道路,法律上の道路の区分に当てはまらない道
路が存在しています。
その一つが,「里道(りどう)」です。
里道は,農地の脇の通路などで見られることが多い,いわゆる公道の一種です。公道
なので,道路の目的や性質に応じて,一般公衆が通行に利用することができます。不動
産登記上,地番が付されていない場合が多いようです。公図上赤線で表示されていたこ
とから,「赤道(あかみち)」などとも呼ばれます。
里道と類似した,法律上の根拠がない公道として,「畦道(あぜみち)」というものも
あります。
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里道は誰のものか
里道の権利関係は,歴史的な経緯から多少複雑になっていて,市町村の所有である場
合と,国の所有である場合があります。
里道は,明治時代にすべて国有となった後,平成12年になって,次のような処理が
なされました。
(a)現に道路として使用されているもの:国⇒市町村に一括譲与
(b)既に道路としての機能を失っているもの:国有のまま
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里道の維持・管理をするのは誰か
里道に限らず,不動産としての道路は,単体での市場価値は乏しいものです。しかし,
市場価値の高低にかかわらず,実際に公共の道路として機能している以上,道路として
の機能が維持される必要があります。
建前としては,里道の管理者は,
(a)前述の経緯で国有となっている場合:都道府県が国の委託を受けて管理
(b)前述の経緯で市町村の保有となっている場合:市町村が管理
ということになっています。
しかし,(a)の場合は,そもそも道路として機能していないという建前なので,道路と
しての維持・管理・補修はほぼ期待できません。したがって,管理が必要であれば,消
去法的に,地域住民が管理をするしかありません。
また(b)の場合も,自治体が事実上管理を地域住民任せにしている場合が相当ある,と
いわれています。
そのため,古くなった里道の維持・管理・補修をしなければならない場合に,では誰
がするのか,ということが問題になります。
これは,裏を返せば,里道の維持・管理・補修がなされておらず,その結果何らかの
事故が発生して第三者に損害が生じた場合に,誰が損害賠償の責任を負うのか,という
問題でもあります。
過去の裁判例では,法定外公共用財産の事実上の管理者である市町村は,管理につい
ての条例がない場合,法律上の管理者でないときでも,その管理瑕疵による損害賠償責
任の主体になり得ることが,認められたものがあります(一般論として責任の主体にな
り得るとしても,実際に責任が生じるかどうかは,個別の事情によります。)。
もっとも,他の裁判例では,管理者に要求される管理の程度は,「その地域において果
たしている機能に応じた管理がなされれば足りるものと解される」と判断したものもあ
ります。
したがって,法的には,少なくとも(b)の場合には,市町村には,里道の管理が適切で
なかった場合には損害賠償責任が生じる可能性がある(ただし,要求される管理の程度
は高くない),と考えられます。
(a)の場合も,一般論としては同じと考えられますが,建前上は「既に道路としての機
能を失っている」場合ですので,要求される管理の程度が非常に低くなると予想されま
す。
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里道と地域住民の関係は?
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本来自治体が里道の維持・管理・補修をするべきなのに,諸々の理由でそれがなされ
ない場合,それでは地域住民が生活するうえで困る,という事態が予想されます。
そこで,自治体が事実上里道の管理を地域住民任せにしている場合に,地域住民に,
里道の維持・管理・補修をする権限が生じるか,適切な管理がなされていなかった場合
に損害賠償責任が生じるか,という問題も考えられます。
もっとも,自治体が里道の管理を地域住民任せにしている,というのは,明示的な合
意や契約がない限り,「事実としての慣習」にとどまるでしょう。
法律上は,事実としての慣習について,
「公の秩序または善良の風俗に反しない慣習は,
法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り,
法律と同一の効力を有する。」(法の適用に関する通則法3条)とされています。
「法令の規定により認められたもの」の例として,「法令中の公の秩序に関しない規定
と異なる慣習がある場合において,法律行為の当事者がその慣習による意思を有してい
ると認められるときは,その慣習に従う。」(民法92条)などがあります。
里道は公道の一種であり,公共用財産ですので,その管理は「公の秩序」に関する事
項と考えられます。管理の権限は,原則として,前記のとおり市町村または都道府県に
あります。
一方,地域住民はあくまで私人ですので,慣習として事実上管理しているだけで,こ
の原則を覆すことは難しいと考えられます。地域住民に,公道たる里道の管理権限が認
められるのは,本来の管理者である市町村などとの間で,明示的に管理の委託契約を結
んだ場合などに限られるでしょう。
理想論としては,誰でも利用できる「共有地」は,利用のただ乗りを招いて管理が適
切になされないおそれがあるので,公的な規制によって適切な管理を実現すべき,とい
うことになります。
公道の管理などは,まさに公的な規制が求められる場面の典型,と考えられますが,
公道の中でも里道は,利害関係がごく一部の地域に限られるため,自治体による適切な
管理がなされない事態が起きやすい,といえます。
この問題には,はっきりした解答があるわけではありません。自治体と地域住民の間
で粘り強く話し合って,個別の事情に応じて何らかの落ち着きどころを見いだすしかな
い,そういう種類の問題だということです。
(注)本コラムは,個別の事案についての結論を保証するものではありませんので,具
体的な事案について疑問がある場合には必ず専門家にお尋ねください。
〒848-0041 佐賀県伊万里市新天町615-1
弁護士法人いまり法律事務所 弁護士 圷悠樹(佐賀県弁護士会所属)【文責】
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