椎体形成術 Ⅰ - 日本IVR学会

2005 日本 IVR 学会「技術教育セミナー」:上村昭博
連載 3
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2005 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
椎体形成術 Ⅰ
聖路加国際病院 放射線科
上村昭博
はじめに
経皮的椎体形成術は 1987 年フランスの Galibert によ
って頸椎血管腫に対する術後の補填として初めて報告
1)
された 。その後欧米を中心に低侵襲的かつ簡便な圧迫
骨折の治療法として急速に普及し, 現在欧米ではすでに
一般的な治療法となっており, 本邦においても徐々にひ
ろまりつつある。現在では骨粗鬆症性圧迫骨折が主な
対象であるが, 転移性脊椎腫瘍あるいは多発性骨髄腫な
2)
どの脊椎悪性腫瘍に対しても適応となる 。とくに荷重
部位の骨破壊性転移病変に対しては安定性の即時回復
と合わせて早期の除痛効果が得られ, 放射線治療の弱点
を克服する決定的な低侵襲的治療法である。また放射
線治療などの他の治療と併用することも可能である。
経皮的椎体形成術の適応決定や術前術後評価における
画像診断の役割については未だ確立した見解は出され
ていないが, 本稿では当院での経験から経皮的椎体形成
術における画像診断の役割について術前, 術中, 術後に
分けて広く述べる。
術前画像診断
当院では術前画像診断として単純撮影, 造影 MRI,
CT, 骨 シ ン チ グ ラ ム , C-arm 撮 影 装 置 に よ る 3D
Rotational Angiography(3D-RA)を用いている。ルーチ
ンには単純撮影, 造影 MRI, CT を撮り, 骨シンチグラ
ム, 3D-RA は optional である(Table 1)。術前画像診断
の役割について Table 2 に示す。圧迫骨折のレベル, 骨
折の形態, つぶれの程度, 後弯変形の程度等の評価につ
いては単純写真で十分であろう。しかしながら悪性腫
瘍による病的骨折の除外や, 脊柱管狭窄の程度, 術後除
痛効果に影響を与えうる椎体内クレフトや壊死巣, 椎体
内炎症性変化などの存在診断あるいはセメント分布の
予測については MRI が必要である。また実際の刺入部
位の決定や椎体周囲へのセメント漏出を予測するため
には 3D-RA も有用であり, できるだけ多くの情報を術
前に得ておく必要がある。
1. 圧迫骨折の形態評価
圧迫骨折はその形態によりいくつかの分類に分けら
れ, それぞれの形状にある一定の病理学的意義があり,
読影にあたってはそれらの状況をある程度推測する必要
がある(Fig.1)。楔形(wedge-shape)は胸腰椎移行部に
56(174)
Table 1 Imaging modalities for pre-procedural work-up
Routine
Optional
Plain Radiograph
Bone Scintigram
Multidetector CT
3D-RA
MRI
T1WI
STIR or Fat-suppressed T2WI
Fat-suppressed Gd-T1WI
Table 2 Crucial informations obtained by preprocedural
imaging for percutaneous vertebroplasty
① Fracture level
② Morphology of compression fracture
③ Severity of compression
④ Kyphotic change
⑤ Malignant or benign
⑥ Intravertebral necrotic lesions
⑦ Contrast enhancement on MRI
⑧ Spinal canal stenosis
⑨ Prediction of cement distribution
⑩ Prediction of cement leakage
多く見られ, 後弯の原因となる(a)
。両凹型(biconcaveshape)は強い骨粗鬆症患者に多く見られ, 特にステロ
イド内服や膠原病などに伴ったいわゆる二次性骨粗鬆
症患者に多く見られる傾向にある(b)
(Fig.2)。また 圧
壊型(crush-shape)は骨壊死を伴った圧迫骨折, すなわ
ち偽関節の圧迫骨折に生じやすい形態である(c)。
2. 骨粗鬆症の程度判定
全身の骨粗鬆症の程度を正確に判定するには二重エ
ネルギーX線吸収法(DXA)などによる骨量測定が基本
ではあるが, 治療椎体の骨粗鬆症の程度を判断するため
には単純X線撮影による評価が重要である。骨粗鬆症
の初期においては横方向の骨梁の吸収が進む一方で, 縦
方向の骨梁は相対的に保たれる。したがって初期の段
階においては縦の骨梁が目立ち, 末期になると縦の骨梁
自体も吸収されてしまうため皮質骨だけが目立つパタ
ーン(額縁様)となる。2000 年度の原発性骨粗鬆症の診
断基準では以下のように骨粗鬆症程度の判定基準を定
3)
めている 。
①骨萎縮なし:縦と横の骨梁が密に走行
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技術教育セミナー / 椎体形成術-Ⅰ
②骨萎縮度Ⅰ度:縦の骨梁が目立つ
③骨萎縮度Ⅱ度以上:縦の骨梁が粗となったり, 不明瞭
となる
骨粗鬆症程度を術前に掴んでおくことは, 実際の針の
挿入加減を調節するのに大いに役立つ。
(a)
(b)
(c)
3. 良性か悪性か
圧迫骨折の原因が骨粗鬆症によるものか悪性腫瘍に
よる病的骨折であるかを評価することは治療方針に大
きく関わることであり, 画像診断の役割は重要である。
単純写真や CT のみで評価することは危険であり, 積極
的に MRI 検査を用いる必要がある。悪性腫瘍の場合は
椎体後面の凸面化, 椎弓根におよぶ信号変化, 骨外への
4)
腫瘤形成などが特徴である (Fig.3)。また骨粗鬆症性
圧迫骨折では T1 強調画像における帯状の低信号帯, 椎
体内の正常骨髄の残存あるいは椎体後縁の脊柱管への
後方突出(retropulsion)が認められる 4)(Fig.4)。また骨
粗鬆性圧迫骨折は, 急性期から亜急性期において T 1 強
調像で低信号, T 2 強調像あるいは STIR 法で高信号を呈
し, 発症後 1 ヵ月には正常の骨髄信号に回復するという
経時的信号変化を示す点も悪性腫瘍との鑑別点になり
5)
うる 。拡散強調画像を用いた良悪性の鑑別についての
報告も少なからずあるが, その有用性については疑問が
6 ∼ 8)
残る 。ルーチンの MRI 検査で良悪性の鑑別は十分可
Fig.1 Morphological classification of compression fractures
a : Wedge type
b : biconcave of codfish type
c : crush type
Fig.2
A female in her 50’
s
with multilevel biconcave-shaped compression fractures due to
secondary osteoporosis.
There is a history of
long-term use of steroid
for rheumatoid arthritis.
Fig.4 T1-weighted sagittal image of L2-L4
osteoporotic compression fractures
Retropulsion of posterior border of L2 and L3
vertebrae (small arrows) and a low-signalintensity band of L4 vertebral body (large
arrow) are noted.
a b
Fig.3 T1 weighted sagittal images of L1 compression fracture due to metastasis from lung cancer
a : A donvex posterior border of the vertebral body is
recognized.(arrow)
b : Abnormal signal intensity of the pedicle is noted.
(arrow)
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9)
能であろう 。注意すべきなのは多発性骨髄腫であり,
骨髄腫関連の圧迫骨折の多くは良性パターンをとるた
め, 臨床的に疑われる場合は骨生検を同時に行う必要が
ある。
4. 椎体内壊死病変の有無
圧迫骨折における椎体内壊死病変は Kummel’
s disease
としてよく知られている虚血性病変の二次性変化であ
Fig.5 Gas-filled cleft
Plain radiogram reveals radiolucent bands
of intraosseous vacuum
(arrows).
10)
る 。椎体内壊死病変にはガスによって満たされたク
レフト(gas-filled cleft), 液体によって満たされたクレ
フト(fluid-filled cleft)あるいはクレフトを持たずに内部
が壊死産物によって充填されるもの(クレフトのない骨
壊死巣)の 3 種があるが, 実際にはこれら 3 種が共存し
ている場合が多い。Gas-filled cleft は単純撮影にて透亮
像として認められるが(Fig.5), 屈曲位および伸展位の
11)
両者の画像で診断を行わないと見逃す危険性がある 。
Fluid-filled cleft は MRI 上 CSF と同等の信号を持った円
盤状の領域として認められる(Fig.6)。クレフトのない
骨壊死巣は各撮像系列のいずれにおいても低信号領域
として認められ, 特に造影 T 1 強調画像では造影増強効
果部位と明瞭に区別された領域として描出される
(Fig.7)。椎体内壊死病変は内圧がかなり低い状態であ
るため椎体形成術の際に引き込まれるようにセメント
が充填されることが多い。またこれらの所見を有する
症例はその不安定性により体動時の慢性的な強い痛み
を訴える場合が多く, 椎体形成術が安定性を回復させる
12)
ことにより, 良好な除痛効果が期待できる 。従ってこ
れらの椎体内壊死病変の存在は積極的な椎体形成術の
適応となる。
5. 造影増強効果(MRI)の有無
急性期から亜急性期の圧迫骨折においては MRI にて
椎体内に造影増強効果を示し, 炎症性変化や浮腫性変化
4, 13)
を見ているとされる 。また慢性期においても造影増
強効果が遷延する症例が少なからずあり, 肉芽あるいは
13)
線維性変化を見ているとされる (Table 3)。我々の検
討では椎体内の造影増強効果の範囲がより広いほど術
Table 3 Correlation between CE and pathological
findings
Acute/Subacute
CE pattern Diffuse
Inflammation
Edema
Pathology Granulation
Fibrosis
Fig.6 Fat-suppressed T2-weighted sagittal image
shows L1 compression fracture with fluid-filled
cleft which is isointense relative to CSF (arrow).
Chronic
Heterogeneous and patchy
Granulation
Fibrosis
Degeneration
Woven bone
a b
Fig.7
Coexistence of necrotic area without intravertebral cleft and
fluid-filled cleft (a ; Fat-suppressed T2-weighted image, b ;
Fat-suppressed contrast-enhanced T1-weighted image).
Necrotic area without cleft shows low-intensity on T2-weighted image without contrast enhancement, which is resulted
from opacification of necrotic products (large arrows). Fluidfilled cleft is also recognized adjacent to necrotic area (small
arrow). Contrast-enhanced T1-weighted image clearly visualize the boundary between the residual trabecular bone and
necrotic area.
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後の良好な除痛効果が期待できるという結果を得てい
14)
る 。造影増強効果の範囲が広い椎体を積極的に椎体
形成術の適応とするのが良いであろう。
部が容易に発見でき, 椎間板へのセメント漏出を術前の
段階である程度予測しうる(Fig.9)。椎間板へのセメン
ト漏出は隣接レベルの圧迫骨折発症リスクが高くなる
15)
ため , 予防的椎体形成術を術前にプランニングするこ
とも可能である。また C-arm 撮影装置による術前 3D-RA
の multiplanar reconstruction(MPR)画像による多方向
からの椎体辺縁の断裂部評価も有用である(Fig.10)。
6. 椎体内セメント分布予測
椎体形成術における椎体内の骨セメントの分布には
① Trabecular pattern ;骨梁内の間隙をしみわたるよう
に分布するタイプ, ② Solid pattern ;一つの塊のように
集積するタイプに大きく分けられる(Fig.8)。術前造影
MRI にて検査で正常骨髄と判断される部位あるいは造
影増強効果を示す領域は基本的に trabecular pattern の
セメント分布を示す。一方, 造影 MRI にて造影増強効
果を示さない椎体内壊死病変の部位には solid pattern の
分布が見られる。したがって術前造影 MRI 検査を十分
に検討することにより椎体内のセメント分布をある程
度予想することが可能であり, 針の先端の位置, セメン
ト粘度の調節に有用である。
術中画像診断
1. ガイド画像
我々は 2 方向の透視画像下で椎体形成術を行ってい
る。針の刺入時, セメント注入時のそれぞれの場面にお
7. 椎体外セメント漏出予測
椎体外のセメント漏出として最も頻度の高い部位は
椎間板である。術前の造影 T 1 強調画像にて終板軟骨は
はっきりとした線状低信号として描出されるため断裂
a b
Fig.8 Distribution patterns of injected cement
a : Trabecular pattern interspersing throughout the
trabecular bone.
b : Solid pattern filling intravertebral cleft or necrotic
lesions.
Fig.10
MPR images of preprocedural 3D-RI allow interaction
with multidirectional images and have advantages in
preprocedural assessment of disrupted sites of vertebral margin (arrows).
a b c
Fig.9 Cement leakage in a 90’
s-year-old male case. Pre-procedural FS Gd-T1WI
a : Suggests cortical break but CT.
b : Clearly reveals disruption of the inferior endplate (arrow). Post-procedural CT.
c : Reveals cement leakage into adjacent disc through the disruption of the endplate (arrow).
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いて常に real-time monitoring が必要であるからである。
盲目的なセメント注入は危険であり, 静脈や脊柱管また
は神経管内へのセメント漏出に気付かず肺塞栓や脊
髄・神経損傷を起こすリスクがある。しかしながら, 仙
骨の椎体形成術においては透視画像では側面像の視認
16)
性が悪いため, 例外的に CT ガイドで手技を行う 。
2. Venography
セメント注入直前にセメントの静脈内流出を予測す
る目的で venography を行う施設もあるが, 我々の施設
では行っていない。造影剤の椎体内残存によりセメン
ト注入の際に視認性が非常に悪くなり, その短所が長所
を上回るからである。また venography の実施が安全性
17, 18)
。重要
を高めるわけではないという報告も見られる
なことはセメント注入前に内筒を抜いた際に静脈血の
逆流が明らかな場合はそこからセメントを決して注入
しないということである。
Fig.11 Postprocedural 3D-RI (identical to Fig.10) allows
detailed assessment of cement distribution
A small amount of cement leakage into intravertebral
disc is clearly visualized (arrow).
術後画像診断
1. セメント分布の確認
我々はセメント分布の確認として, 単純撮影, CT,
3D-RI の 3 種を用いている。セメント分布パターン, 椎
体外へのセメント漏出あるいは静脈への逆流などを詳
細に評価し, 術後の経過観察に反映させる。特に 3D-RI
は手技の終了後, 場所を変えずに撮像できることから早
急な対応が可能である。また MPR 画像を用いることで
詳細な評価が可能であり, セメント分布評価の有用な術
後画像診断ツールである(Fig.11)。静脈への逆流が見
られた場合には胸部 CT でセメントによる肺塞栓の除外
ならびに注意深い呼吸状態のチェックが必要となる
(Fig.12)。また脊柱管内や神経根周囲への漏出が見ら
れた場合は臨床症状と対比したうえで必要であれば早
急な治療が望まれる。
Fig.12 Gradient rendering 3D-RI showing cement
leakage into ascending lumbar vein (arrows)
On-site assessment of cement leakage into paravertebral veins requiring immediate exclusion of pulmonary embolism is possible by using 3D-RI. This
patient was asymptomatic and there was no evidence
of pulmonary embolism.
a b
Fig.13 Kyphosis correction and height restoration
(a ; preprocedural T1-weighted sagittal image, b ;
postprocedural CT image) : vertebroplasty for 2
vertebrae. The kyphotic angle was corrected
after vertebroplasty. The height of collapsed vertebral bodies was restored as well (arrows).
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2. 後弯矯正/椎体増高効果
術後の除痛効果以外に後弯の矯正および椎体増高効
19)
果も椎体形成術の治療効果である 。特に椎体内壊死
病変を有する例においてこの効果は明瞭である
(Fig.13)。後弯を矯正することにより, 腹部の圧迫感や
呼吸困難が解消する例は良く経験される。また姿勢が
良くなり, 身長が伸びることで精神的な生活の質も向上
する。
まとめ
経皮的椎体形成術に際しては各画像診断ツールの特
性を理解し, 場面に応じて適切に画像診断を行っていく
必要がある。適切な画像診断が椎体形成術の成功の鍵
を握るといっても過言ではない。
【文献】
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2005 日本 IVR 学会「技術教育セミナー」:内藤 晃, 他
連載 3
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椎体形成術 Ⅰ
中国労災病院 放射線科
内藤 晃, 帖佐啓吾, 飯田 慎
はじめに
経皮的椎体形成術は, 1987 年にフランスの Galibert ら
により脊椎腫瘍に対する経皮的椎体形成術の試みが報
1)
告され , 1990 年代後半になり米国において, 骨粗鬆症
による圧迫骨折に対する報告がなされた。現在では海
外においては相当数の症例に行われ, 脊椎疾患に起因に
する疼痛の緩和, および骨補強に優れた効果が報告され
1, 2)
ている 。
経皮的椎体形成術は, 外傷および骨粗鬆症による椎体
の圧迫骨折, 転移性脊椎腫瘍による疼痛除去に非常に有
用とされる。またそれ以外にも椎体骨嚢腫, 椎体血管
腫, 多発性骨髄腫などにも有用とされる。
本稿においては, 外傷(転倒)および骨粗鬆症による
椎体の圧迫骨折に対する経皮的椎体形成術について, 患
者選択(適応決定)と術前・術後管理を中心に述べる。
臨床的背景
閉経後の女性の 60 %以上が骨粗鬆症に罹患するとさ
れ, このうち 40 %に圧迫骨折があるとされる。しかし,
圧迫骨折は女性のみでなく, 男性にも生ずる。特にステ
ロイド服用者においては, その発生頻度は性別を問わず
高い。圧迫骨折に対する従来の治療法は, 根治療法の対
象となる場合を除き, 痛みに対しては鎮痛剤投与, 圧潰
防止に対してギブス固定, コルセット着用, 安静臥床で
あった。疼痛は 1 ∼ 3 ヵ月の安静臥床により多くは改善
するが, 高齢者では臥床による筋力低下, 骨粗鬆症の進
行などにより, 疼痛が改善しても寝たきりを余儀なくさ
れることも少なくない。長期臥床により筋力低下, 関節
拘縮, 骨粗鬆症, 褥瘡, 肺炎, 尿路感染症, 痴呆症状, 深
部静脈血栓症など様々な合併症の出現も問題となる。
ちなみに骨折は, 脳血管障害, 痴呆についで寝たきりの
原因の第 3 位である。
1 個の椎体圧迫骨折を有する症例では, 1 年以内に再
度圧迫骨折を来す頻度は, 骨折のない症例に比較して
3.5 倍に, 2 個以上の圧迫骨折を有する症例では 8 倍にな
るとされる 3)。すなわち, 一度圧迫骨折を起こすと他の
椎体に圧迫骨折を来す頻度が上昇し, 悪循環となり, 寝
たきり老人となる可能性は高くなる。
臨床診断
まずは圧迫骨折の診断が重要である。圧迫骨折の原
62(180)
因として, 外傷(転倒)が重要とされるが, 外傷の既往
のある症例は 25 %程度であり, むしろ外傷のない症例
が多い。重たい物を持ったり, 引きずったりすることで
起こることもあり, また乗車時の振動や, 日常の些細な
動作が誘因となることもある。このため注意深い問診
が重要である。
主症状は背部痛, 腰痛である。特に体動時痛, すなわ
ち痛くて寝返りができない, 咳嗽にても痛いなどが重要
な症状である。また背部痛, 腰痛のみならず, 側胸部痛,
側腹部痛などが主症状となることもある。転倒により
圧迫骨折を起こした場合には直後より症状が出現する
ことが多い。しかし, 外傷がない場合には, 起床後, あ
るいは圧迫骨折が起きた数日後より出現することもあ
り, 注意を要する。
理学的には, 局所の圧痛, 叩打痛のあることが重要で
あるが, 局所の叩打痛のない症例も少なくない。また,
前傾姿勢が取れない, 肘を付かずに顔が洗えないなども
重要な点である。圧迫骨折が進行し椎体の圧潰を来す
と, 亀背を来す。
画像診断
画像診断は脊椎単純 X 線写真, MRI が主体である。疼
痛, 亀背の部位に応じて, 胸椎, 胸腰椎移行部, 腰椎な
どの脊椎単純 X 線写真の撮影を行う。
圧迫骨折発症直後には, 単純 X 線写真では変化のない
ことが多い。時期がやや経過すると骨皮質の輪郭が不
整となる。さらに経過すると楔状椎, 魚椎, 扁平椎など
を生ずる。また偽関節を来すと, 椎体内に横走する透亮
像が見られる。急性期圧迫骨折か陳旧性圧迫骨折かは
単純 X 線写真のみでは判定困難であり, MRI の施行が不
可欠である。MRI では, 脊椎の T 1 強調矢状断像, 脂肪
抑制 T 2 強調矢状断像が有用である。筆者らは施行して
いないが, 脂肪抑制造影 T1 強調矢状断像も有用である。
急性期圧迫骨折では, 骨折椎体は圧潰の有無にかかわ
らず, 部分的にあるいは全体が T 1 強調像で低信号, 脂
肪抑制 T 2 強調像で高信号を呈する。また cleft を形成す
ると, 脂肪抑制 T 2 強調像で水と同等の著明な高信号を
呈する部が出現する。偽関節を形成すると椎体の圧潰,
cleft が見られる。Cleft 内に空気が存在する場合には, T1
強調像, 脂肪抑制T2 強調像いずれでも低信号を呈するた
め注意を要する。
2005 日本 IVR 学会「技術教育セミナー」:内藤 晃, 他
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臨床的適応
筆者らの経皮的椎体形成術の適応は, 急性, 陳旧性を
問わず圧迫骨折による疼痛を有することであり, 叩打痛
の有無は問わない。年齢による制限はないが, 50 歳以
上であれば適応としており, 低侵襲性であるが故に年齢
に上限はなく, また高齢者, 寝たきり老人にも施行可能
である。寝たきり老人であっても, 主に体動時の背部
痛・腰痛を訴える場合には, 適応としている。若年者に
ついては, 長期予後のデータに乏しいため, 現在のとこ
ろ施行していない。
圧迫骨折が原因でない根性坐骨神経痛の合併症例で
は, 坐骨神経痛は改善しないが, 圧迫骨折による局所の
疼痛があれば適応としている。圧迫骨折に起因する根
性坐骨神経痛合併症例では, 圧迫骨折部位の疼痛がある
場合には適応としている。禁忌は, 出血傾向のある場
合, 極度の全身状態不良の場合などである。適応外は,
圧迫骨折による脊髄圧迫症状・下肢麻痺のある場合で
ある。ただし, 脊髄圧迫症状・下肢麻痺が整形外科的手
術により改善し, 局所の疼痛がある場合には適応として
いる。圧迫骨折に起因しない, 変形性脊椎症, 黄色靭帯
骨化症などによる脊髄圧迫症状・下肢麻痺のある場合
には, 整形外科的手術と併用し, 症例に応じて適応を決
定する。このような臨床的適応に基づいた上で, 画像診
断を行い適応を決定している。
画像診断からみた適応
画像診断による適応は, MRI の脂肪抑制 T 2 強調像お
よび T 1 強調像で信号変化のあることである。圧潰があ
っても信号の回復している椎体は適応外としている。
圧潰が高度ではなく, 椎体のごく一部にのみ信号変化が
見られる場合には適応としていない。Cleft を有する症
例, 偽関節症例は, T 2 強調像で高信号を呈さなくても
非常に良い適応であり, 除痛効果も高い 4)。高度圧潰症
例も上述の条件を満たせば良い適応である。骨折線が
後壁に及ぶものも適応であり, 椎体後壁の骨欠損のある
症例も高度でない限り適応である。また骨折椎体の後
方への突出のある場合も, これによる脊髄圧迫症状がな
い限り適応である。また椎体の骨の状態を把握するた
めには, CT も有用である。椎体・椎弓の骨折線, 偽関
節・ cleft の状態, 骨硬化の有無などの判定には CT が重
要である。MRI 施行不能症例では, 骨シンチ, CT , 臨
床症状にて総合的に判定を行う。
施行椎体数については特に制限はないと考えている。
施行椎体数が増加すると手術時間が延長するが, 術中の
鎮静が保てれば複数椎体の施行に支障はない 5)。
施行時期についての適応
椎体形成術の施行時期に関しては, 圧迫骨折発症か
ら, 椎体形成術施行までの期間が短いほど疼痛改善の効
果は高い。そのため発症後出来るだけ早期に行うのが
表 1 椎体形成術の適応
臨床的適応
圧迫骨折に起因する疼痛のあること
叩打痛の有無は問わない
年齢制限はない
根性坐骨神経痛の合併例も適応
圧迫骨折による脊髄圧迫症状は適応外
画像的適応
脂肪抑制 T 2 強調像および T 1 強調像で
信号変化のあること
cleft を有する症例
偽関節症例
MRI にて信号変化のある高度圧潰症例
骨折線が後壁に及ぶもの
骨が脊柱管内に突出するもの
高度でない椎体後壁の骨欠損症例
望ましいと考えている。圧潰が進行すると, 亀背となり
脊柱の malalignment が生ずる。圧迫骨折を生じた椎体
の予後の予測は困難である。すなわち圧潰が軽度で治
癒するか, あるいは進行するか, あるいは偽関節を形成
するかの予測は困難である。さらに椎体の圧潰進行や
偽関節形成は, 安静, 臥床にても生ずることがあり, 偽
関節を形成すると, 疼痛が数年に及び持続する。椎体形
成術により圧潰進行や偽関節形成の防止が可能であるか
の検討は必要であるが, 骨折後早期に椎体形成術を行う
のがよいと考えているのはこのような観点からである。
インフォームドコンセント
他の治療と同様, インフォームドコンセントは重要で
ある。まず圧迫骨折による疼痛除去が目的であること,
治療中の体位, 治療方法などについて説明する。また合
併症の説明は特に重要である。注入針の刺入による, 脊
髄, 神経根損傷, 他臓器損傷, 骨セメント漏出による脊
髄, 神経根損傷, 静脈流入による肺塞栓などについて十
分に説明する。また股関節の手術において骨セメント
自体の作用による死亡例のあることも説明する。治療
効果として, 新鮮例および偽関節例では効果は良好であ
るが, 亜急性期の症例では効果が少ないことも説明す
る。また高齢者では, 圧迫骨折を来す以前に腰痛のある
ことも多い。椎体形成術によりすべての背部痛・腰痛
から開放されると誤解する場合も少なくなく, この治療
により圧迫骨折が原因でない疼痛は改善しないことも
十分に理解してもらう。すなわち骨折前に根性坐骨神
経痛を有する患者では, 骨折後にはこの疼痛を感じない
ことが多いが, 椎体形成術により圧迫骨折による疼痛の
改善により, 根性坐骨神経痛が顕著となる場合のあるこ
とも十分に理解してもらうことが重要である。
術前検査
術前は末血, 生化学的検査, 胸部 X 線写真, 心電図,
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酸素飽和度などの一般的な検査を行う。画像診断では,
脊椎単純 X 線写真, 脊椎 MRI に加え, 脊椎 CT が必須で
ある。CT は, 横断像のみでなく, 矢状断像, 冠状断像な
ども作成する。手術は腹臥位での施行であり, 術前の背
臥位での MRI, CT とは異なるが, 穿刺経路の参考とす
る。椎弓の太さ, 骨の後方への突出の程度, 椎体後壁の
破壊・骨折線・ cleft の有無などを把握する。
術中管理
高齢者が多いため, 術中の管理は重要である。心電
図, 血圧, 呼吸, 酸素飽和度などをモニターしながら行
う。術中酸素 3r/x の吸入, 術中の鎮静にヒドロキシジ
ン 12.5 m の静注, 骨セメント注入直前にペンタゾシン
7.5 m の静注などを行う。また体内異物が感染を起こし
た場合には, 抜去が原則であるが, 骨セメントが感染を
起こすと除去困難であるので, 感染を起こさないように
清潔操作には十分留意する。
施行方法
6)
方法については簡単に述べる 。使用機器は, IVR-CT
あるいは CT に外科用イメージを組み合わせて使用し,
針の刺入は CT ガイド下, 骨セメントの注入は X 線透視
下で行っている。腹臥位, 局所麻酔下での施行であるた
表 2 セメント注入針 Ossiris(八光社製)の特徴
・三重針より構成される
・ハンドル部分が小さく, 複数の隣接椎体でも同側
より刺入が可能
・先端のネジ溝により回転にて刺入が可能
・内針抜去により穿刺しながら深部の麻酔が可能
・外針にメジャーが添付
・穿刺ガイドスタイレットの使用により細い針での
穿刺が可能
・針を抜くことなく生検が可能
・外針スタイレットで骨セメントを押し出せ, 正確な
骨セメント量の注入が可能
・注入針内のセメントが経路内に残存することがない
め, 術中の体位が重要である。体位固定補助クッション
を使用し, 術中, 肩, 頸部, 腕などに疼痛が出現しない
ような体位を工夫する。局所麻酔は, エピネフリン入り
キシロカインを使用する。皮膚を数ミリ切開し, モスキ
ートで皮下を十分に剥離する。CT ガイド下での注入針
の刺入では, 針が骨に達するまで固定できないため, X
線撮影用の分度器を用いて, 角度をモニターしながら刺
入すると容易である。骨セメント注入針は, 八光社製
Ossiris(12, 13, 14G)を使用している(図 1)。この針は
八光社と共同制作したものであるが, 三重針より構成さ
れ, ハンドル部分が小さいため, 複数の隣接椎体でも同
側より刺入が可能, 先端のネジ溝により回転にて刺入が
可能, 内針抜去により穿刺しながら深部の麻酔が可能,
外針にメジャーが添付, 針を抜くことなく生検が可能,
外針スタイレットで骨セメントを押し出すことができ,
正確な骨セメント量の注入が可能, 注入針内のセメント
が経路内に残存することがない, などの種々の特徴を有
する。
穿刺経路は, CT ガイド下では経椎弓, 後外側, 肋横突
など, あらゆる経路の選択が可能である。また左右両側
穿刺を行ったこともあるが, 現在は片側穿刺で十分と考
えている。穿刺の目標部位は, MRI で信号変化のある
部, すなわち椎体の頭側に信号変化のある場合には頭側
よりの椎体前縁 1/3, 椎体全体に信号変化のある場合に
は椎体中央, 前縁 1/3 を目標とする。また, cleft を有す
る症例では cleft 内を目標とする。ヨード造影剤による
椎体造影は 1 p の造影剤を用い, X線側面透視/DSA に
て施行している。造影剤は骨セメントと全く粘性が異
なるが, 静脈内への骨セメントの流入を避けるため重要
と考えている。骨セメントは, Zimmer 社製オステオボ
ンドコポリマーを使用している。骨セメントの組成の
変化および感染の機会の増加のため, バリウムは混和し
ていない。ハイドロキシアパタイト製剤(バイオペック
ス)は血液に混和し, 最高強度が低く, 最高圧縮強度ま
で 3 日間を要す, などの問題があるため使用していな
い。次いで骨セメントを溶解するが, 室温が高いと重合
が進むので, 室温を 23 ℃程度に設定する。次いで, 氷水
a
b
図 1 骨セメント注入針 Ossiris(八光社製)
a : 組織とセメントを押し出すためのスタイレットと, 空気の流入を防止するためのキャップが付属する。
b : 三重針の構成
64(182)
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を入れたケッテルに骨セメント溶解用ボールを入れ, こ
の中にパウダーを入れ, 次いでリキッドをかけ, 付属の
ヘラで混和する。セメントが柔らかくなり, 少し固まり
始めたら, 2.5 p ロック付き注射器数本に, 1 ∼ 1.5 p の
セメントを吸引する。尚, セメントは冷所保存である
が, 使用までに室温に戻しておく必要がある。低温にて
使用すると, なかなか柔らかくならない。特に cleft の
ない症例では, セメント注入時に疼痛を訴えることがあ
るため, 注入前にペンタゾシンを静注する。骨セメント
の注入は, X線側面透視下に, 骨セメントを 1.0 ∼ 1.5 p
程度注入針より圧入し, その後素早く注入針に付属のス
タイレットで押し込む。予定量を注入するまで同様の
操作を繰り返す。セメントは X 線透視で見えるので, 凝
視する。Cleft のない場合, 前方のみに注入される場合
は, 少し引いて注入する。椎体より後方あるいは静脈に
骨セメントが流出したら, 注入は必ず中止する。椎間板
に骨セメントが流出したら, 少し針を引き注入する。セ
メント注入量の決定は重要である。Cleft のある部分以
外には, 注入後の状況は予測困難で, 経験に基づくとこ
ろが多い。セメント注入量と治療効果とは比例せず, 合
併症の出現は量に比例するとされるため, 注入量は少量
にとどめるべきである。
術後の安静
骨セメント注入 5 分後に注入針を抜去し, CT を撮影
する。骨セメント注入 20 分後まで腹臥位にて安静後,
仰臥位にて帰室する。3 時間後に食事可能, 6 時間後よ
り側臥位可能, 12 時間後までベッド上安静とし, 12 時間
後に安静を解除する。高齢者が多く, 鎮静剤・鎮痛剤の
影響を考慮して, 安静はやや長めとする。鎮痛剤を使用
していた場合には, 術後投与を中止する。疼痛が残存す
る場合には, 鎮痛剤を症状に応じて改めて投与する。翌
日に退院可能であるが, 皮膚の切開部の治癒も考慮し 3
日後に退院としている。
折後に長期臥床していた場合, 骨折前の状態まで改善す
るのには, 臥床の期間以上を要することも理解させる。
圧迫骨折の再発を恐れて, 日常生活を極端に制限する症
例もあるが, 出来るだけ骨折前の生活に戻るように指導
する。ただ転倒に注意し, 重たいものを持たないことを
心掛けるように指導する。不運にも圧迫骨折が再発し
たら, また椎体形成術が施行可能であることも伝え, 高
度の腰背部痛が出現したら, 受診するようにさせる。
さらに定期的に外来にて, 経過観察することも重要で
ある。筆者らは, 3 ヵ月毎に外来を受診していただき,
脊椎単純 X 線写真にて椎体形成術施行椎体, 隣接椎体な
どの変化の有無のチェックを行っている。
経皮的椎体形成術による新たな圧迫骨折の出現が問
7)
題となることもある 。前述のごとく, 従来骨粗鬆症例
無治療群において, 一度圧迫骨折を起こすと再度圧迫骨
折を来す頻度が有意に高いことが知られており, 経皮的
椎体形成術が新たな圧迫骨折を引き起こしたとは断定
できない。しかし, 新たな圧迫骨折の可能性は否定しえ
ないため, これを恐れて椎体形成術を施行せず, 安静・
臥床をさせるのは, 寝たきり老人を作る原因となる。寝
たきり老人を作らないために, 圧迫骨折が起きたら椎体
形成術を施行し, 早期に除痛し早期に社会生活に復帰さ
せる。さらに圧迫骨折が再発したら, 再度椎体形成術を
行い, 除痛後早期に社会生活に復帰させることが重要と
考えている。
術後療法
術後は, 骨粗鬆症に対する治療, すなわち薬物療法,
運動療法, 栄養療法などを行う。
薬物療法に関して, 2002 年改訂版ガイドラインが発
表されている。骨粗鬆症治療薬には種々のものがあり,
カルシウム, エストロゲン, カルシトニン, 活性型ビタミ
ン D3, ビタミン K 2, ビスホスフォネート, 選択的エスト
ロゲン受容体モジュレーター(塩酸ラロキシフェン)な
術後の生活指導
寝たきり老人をつくらないためには, 術後の生活指導
が重要である。術後, 安静解除後は, 個々の症例に応じ
た生活指導を行う。術前歩行に支障がなかった症例で
は, 術前通りの歩行を許可する。術前ある程度歩行が制
限され, 軽度の筋力が低下し, 転倒の恐れのある場合に
は, 歩行器を使用し歩行を開始する。術前, 急性圧迫骨
折による疼痛のため安静・臥床を余儀なくされていた
場合には, 下肢の筋力が低下していることが多い。この
ような症例においては, まず座位をとることからはじ
め, 車椅子での生活を開始し, 立位での保持が可能とな
れば, 徐々に歩行器にて歩行を開始する。また患者本人
の自覚を促すことも重要である。QOL, ADL が向上す
るか, あるいは逆に寝たきりになるか否かは本人次第で
あることを理解させる。高齢者では一度筋力が低下す
ると, すぐにはなかなか回復しないことが多く, 圧迫骨
表 3 椎体形成術後寝たきりを老人を作らないための
術後療法
薬物療法
活性型ビタミン D3
ビスホスフォネート
ラロキシフェン
運動療法
ストレッチング
ウォーキング
バランス運動
運動遊び
栄養療法
牛乳・乳製品
大豆・豆製品
小魚・海草
野菜
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8)
どがある 。カルシウム製剤によるカルシウム補充は,
骨量を増加させ椎体骨折を抑制する効果を示したが, 有
意ではなく, 他の骨粗鬆症治療薬との併用や明らかなカ
ルシウム不足の症例が適応となる。エストロゲンは椎
体骨折および他の骨折を有意に減少させるが, 心血管系
障害の増加, 子宮内膜癌・乳癌の増加などの可能性もあ
るとされる。カルシトニンは, 有意な骨折防止効果は指
摘されていない。活性型ビタミン D3 は, 骨折抑制効果
に加え, 筋力増加, および認知機能の改善により, 転倒
頻度が減少し, 骨粗鬆症治療薬として推奨されている。
ビタミン K 2 は骨密度の改善する可能性はあるが, 現在
骨折抑制効果を証明するにはいたっていない。ビスホ
スフォネートは骨吸収抑制効果により, 広範な部位での
骨折防止効果が証明されている。選択的エストロゲン
受容体モジュレーター(塩酸ラロキシフェン)は骨量を
軽度増加させ, 骨折防止効果があるとされている。また
乳癌, 子宮内膜癌の発生率を減少させたとされている。
適応は閉経後の症例であり, 深部静脈血栓症の発症率が
高くなることが報告されており, 深部静脈血栓症の既往
のある症例, あるいは, 手術や長期臥床が予想される症
例では使用すべきではない。筆者らは, 椎体骨折の予防
あるいは骨吸収抑制に効果のあるとされる活性型ビタ
ミン D3 とビスホスフォネートの併用, あるいは塩酸ラ
ロキシフェンなどを適宜投与している。
運動療法は, 骨塩量の増加, 筋力増強に重要である。
症例に応じた運動療法が必要であり, 過度の運動, 過度
のリハビリは禁物で, 再骨折を誘発することがある。日
照下での散歩も症例によっては重要である。運動療法
は, 高齢者においては脱落者も多いため, 最も簡単な
歩行をするように指導している。自分にあった速度で,
最初は短時間より開始し, 次第に歩行の速度と時間を増
加する 9)。
栄養療法では, カルシウムとビタミン D の摂取が重要
10)
で, 成人女性のカルシウム所要量は1日 600m である 。
カルシウム, ビタミン D を多く含む, 牛乳・乳製品, 大豆,
魚介類, 野菜などの食品を多くとるように指導する。
まとめ
圧迫骨折に対する経皮的椎体形成術は, 骨折による疼
痛除去に極めて有用であり, 患者の QOL, ADL を向上
させ, さらに寝たきり老人を作らないことに貢献するも
66(184)
のと考えられ, 広く普及することが望まれる。そのため
には副作用, 合併症を引き起こさないことが重要であ
り, 副作用を起こさないためには, 過度の量の骨セメン
トを注入しないことがポイントである。
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2005 日本 IVR 学会「技術教育セミナー」:下山恵司, 他
連載 3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2005 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
椎体形成術 Ⅰ
京都ルネス病院 放射線科
下山恵司, 小林清和, 志柿康弘
はじめに
経皮的椎体形成術
(percutaneous vertebroplasty : PVP)
は, 即効性の除痛効果と優れた奏功率から, 今後, 椎体
圧迫骨折の治療として多くの医療機関で普及していく
ことが予想される。これは患者側にとっても社会経済
的においても喜ばしいことではあるが, 一方では, 技術
的な合併症の増加も危惧される。そのため PVP を上手
に安全に施行できるための技術的なコツを熟知し, 合併
症を最小限に抑制する努力が必要である。
当院では 2000 年 11 月より 2005 年 12 月までに 567 症例
694 椎体に対して CT と外科用 X 線透視装置を併用して
PVP を行ってきた 1)。その臨床経験を基に PVP を上手に
安全に施行できるための技術的なコツについて解説する。
適応と禁忌
1. 適応
当院での PVP の適応を以下に示す。
1)骨粗鬆症に伴う良性の椎体圧迫骨折
骨粗鬆性圧迫骨折では, 疼痛を伴う急性または亜急性
期の圧迫骨折が対象となる。無痛性の陳旧性骨折は適
応外としている。
2)骨壊死や偽関節による不安定性の椎体圧迫骨折
陳旧性の圧迫骨折の中には, 骨壊死や偽関節を合併し
て体動時に疼痛を伴う場合がある。このような不安定
性の圧迫骨折は PVP が奏功する点からよい適応となる。
3)転移性脊椎腫瘍, 椎体骨嚢腫, 椎体血管腫, 多発性骨
髄腫などによる椎体圧迫骨折
ただし, 脊髄症状や根症状がないことが望ましい。
2.相対的適応
技術的に困難あるいは治療効果が期待できないとの
理由から, 以下の場合は相対的適応としている。患者が
希望する場合は, 患者やその家族に十分な説明を行って
から PVP を施行している。
1)20 %以上の脊柱管狭窄を伴う場合
2)椎体の 90 %以上の圧迫骨折
3)1 年以上経過したもの(例外:不安定性圧迫骨折)
4)神経根症状を伴う場合
1)出血傾向がある場合
2)感染症を伴う場合(discitis/osteomyelitis, sepsis,
epidural abscess)
3)薬物治療が奏功している圧迫骨折
4)症状のない安定した圧迫骨折
5)骨粗鬆症のない急性外傷性骨折
治療椎体の決定
椎体圧迫骨折は, 脊椎 X 線写真で圧潰の明らかな圧迫
骨折が存在し, そのレベルに一致して体動時に増強する
局所の疼痛と棘突起上の叩打痛があれば診断は可能で
ある。しかし, 臨床の現場では典型的な臨床症状を示さ
ない場合が少なくはなく, 特に骨折時期が不明な場合や
陳旧性骨折が混在する多発骨折の場合などでは, 脊椎 X
線写真だけでは治療椎体の決定は困難である。また, 疼
痛の原因が脊柱管狭窄症, 椎間板ヘルニア, 高度の変形
性脊椎症の場合や椎体・椎体周囲の感染症の場合は
PVP の適応外となるため, これらを除外する必要があ
る。このような観点から当院では, PVP の適応と治療椎
体の決定のために, 全症例に対して MRI を施行している。
MRI による術前評価
MRI では, 急性期または亜急性期の圧迫骨折と骨壊
死や偽関節を伴う陳旧性圧迫骨折を明瞭に描出するこ
とができ, 治療椎体の決定に有用である。また, 脊柱管
狭窄や椎間板ヘルニアの程度, 及び椎間板炎や骨髄炎の
除外についても同時に評価できる。
1)急性期または亜急性期の圧迫骨折
炎症や浮腫を反映して T 1 強調像で低信号, T2 強調脂
肪抑制像で高信号を示す(図 1)。
2)骨壊死や偽関節を伴う陳旧性圧迫骨折
骨壊死を反映して T1 強彫像と T 2 強調像で共に低信
号を示し, その周囲に炎症や浮腫を反映して T 1 強調像
で低信号, T2 強調脂肪抑制像で高信号を伴う
(図 2)。偽
関節の空洞に気体(air cleft)や液体(fluid cleft)が観察
されることもある。
3)脊柱管狭窄や椎間板ヘルニアの程度
4)椎間板炎や骨髄炎の除外
前準備
1. 使用機器
3. 禁忌
当院での PVP の禁忌を以下に示す。
当院では, CT 装置と外科用透視装置(single plane)
を併用している。
(185)67
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2. 薬剤・使用機材(図 3)
・骨セメント: Surgical Simplex P[Stryker Howmedica]
or Osteobond[Zimmer]
・骨セメント攪拌用具:攪拌用の容器とヘラ
・骨セメント冷却用:大小の容器
(大容器:氷, 小容器:冷却した生理食塩水)
・骨セメント充填用:ディスポシリンジ20 p[テルモ]
・骨セメント注入用:メダリオンシリンジ1p[シーマン]
・骨生検針: OSTEO-SITE Bone Biopsy Needle. M1 or
M2. 11 or 13G. 10 or 15b
・局所麻酔用:ディスポシリンジ10 p[テルモ], カテ
ラン針 23 G[テルモ]
・椎体造影用:ディスポシリンジ5 p[テルモ], 針 18G
[テルモ], エクステンションチューブ 60b[トップ]
・皮膚小切開用:ディスポメス
・清潔シーツ:穴あきディスポシーツ
・CT 穿刺用:マーカー(不要になった 7F カテーテル),
角度計[X-Ray Angular; MELCO]
3 骨セメントの種類とその特性(図 4)
骨セメントは, 粉末のポリマーと溶液のモノマーを注
入直前に混合させて作成する。骨セメントの種類とそ
の特性をよく理解しておく必要がある。
骨セメントの使用説明書には冷蔵保存が必要と記載
されているが, 使用前にあらかじめ冷蔵庫から出してお
く。混合する前に粉末と液体が冷えすぎていると均一
な骨セメントが作成できないので注意が必要である。
攪拌容器や注入シリンジはあらかじめ冷やしておく。
また, 作成された骨セメントも冷やすことが重要であ
る。これによりセメントの硬化時間を延長させ, 注入時
間に余裕を持たせることができる。1;下げることで硬
化時間を約 1 分間延長させることができる。
4. 骨生検針の種類(図 5)
骨生検針にはいくつか種類があるが, 我々は切れ味の
良さから Cook 社製の osteo-site bone biopsy needle(M1
タイプ, 13G, 15 b)を用いている。
手技・コツ
1. 術前
術前に放射線科医自ら患者の診察と手技の説明を行い,
同時に VAS を用いて疼痛の評価を行う。PVP を担当する
a
a b c
図1
多発圧迫骨折(Th12, L2, L3, L4)のMRIである。T2強調像
では新旧の判別は困難であるが(b), 急性期または亜急
性期の圧迫骨折は T1 強調像で低信号(a), T2 脂肪抑制像
で高信号(c)を示すため, 治療椎体の決定に有用である。
b
図2
L2 に圧迫骨折を認める(矢印)。偽関節による
慢性的刺激により cleft 周囲に T1 強調像で低
信号(a), T2 脂肪抑制像で高信号(b)を示す。
角度計: X-Ray Angular
b
図 3 薬剤・使用機材
a
68(186)
骨セメント冷却用:大小の容器(大:氷、小:冷却した生理食塩水)
c
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図 4 骨セメントの種類と特性
ド
ゥ セメントが手に
時 つかなくなる状態
間
均
一
な
液
体
混合段階
冷使
蔵用
保直
存前
ま
で
(約 15 ℃)
硬
化
時
間
4 分後
粘性段階
シセ
リメ
ンン
ジト
に注
充入
填用
骨セメントの種類
Surgical Simplex P
[Stryker Howmedica]
Osteobond
[Zimmer]
Codman
Cranioplastic
[Johnson and
Johnson]
8 分後
ドゥ段階
硬化段階
シ
リ
ン
ジ
の
冷
却
ドゥ時間
(分)
硬化時間
(分)
3∼5
7 ∼ 12
5 ∼ 12
14 ∼ 20
(室温 21 度前後)
要 因
硬化時間の延長
温度(室温・セメント・攪拌容器)
低い
(約 1 分/℃延長)
分量(液体モノマー)
多い
攪拌速度
遅い
Osteo-site bone biopsy needle [Cook]
・外径: 11G, 13G
・長さ: 10cm, 15cm
Diamond point
M1 タイプ
Single bevel
M2 タイプ
図 5 骨生検針の種類
看護師と技師と一緒に, MRI と脊椎 X 線写真を用いて治
療椎体の決定と穿刺計経路を検討し, 手技の流れや注意
点を確認する。IVR 全般に通じることだが, 術前の検討
は, 手際よく安全に PVP を施行する上で重要である。
2. 椎体穿刺前の準備
1)前処置
病棟において, 手技 30 分前にボルタレン座薬(25 m)
の挿肛, 静脈ルートの確保, 及び膀胱カテーテルの留置
を行い, CT 検査室に患者を移動する。
2)患者の固定
患者を CT 台に腹臥位で寝かせる。その際, 胸部が直
接圧迫されないように左右の肩と腰に枕を利用して固
定する(図 6a)。治療が終了するまでの約 1 時間の間,
腹臥位で固定しなければならないため, 患者には十分に
話しかけ, 不具合なところを聞き入れ苦痛のないように
時間をかけて固定することが重要である。
次に, 血圧計, 心電図, パルスオキシメーターを患者
図 4 骨セメントの種類と特性
骨セメントは粉末のポリマーと液体の
モノマーに分かれており, これらを混
合して使用する。Surgical Simplex P
の場合, 室温 20 度で攪拌していくと約
1 分で均一な液状になり, 徐々に粘度
が増し約 4 分後には手に付かない状態
になる(この時間をドゥ時間という)。
混合開始から約 8 分後には硬化するが,
冷却することで硬化時間を遅らせるこ
とができる。セメント注入に適した開
始時間は, ドゥ時間より少し前の約 3
分ごろであり,“練り歯磨き”程度の
粘度が注入に適している。日本で使用
可能な骨セメントは 3 種類で, 室温,
混ぜる液体モノマーの量, 攪拌速度な
どの要因でドゥ時間や硬化時間が変化
するため, 実際に使用する前にあらか
じめ確かめておくことが大切である。
に装着し, 穿刺位置を計測するためのマーカーを皮膚に
貼る(図 6b)
。
3)穿刺経路の決定(図 7)
CT を用いた穿刺経路の決定について説明する。アプ
ローチの方法には, 両側性と片側性とがあるが, 我々は
手技時間の短縮と穿刺針の節約から, 片側アプローチで
行っている 2)。その際のポイントは, 骨生検針の針先を
椎体正中線から少し越えた所に進めるようにすること
である。
①治療椎体の終板に平行にスキャンし, 椎弓根が最も
太く描出されている画像を選択する。
*)
②距離計測のモード にして, 椎体前縁から 1/3 の椎
体正中線上の点を通り, 椎弓根を経由して皮膚まで
線を引く。この時, 表示される距離と鉛直方向から
の角度を記録する。腰椎や下部胸椎の場合は, 穿刺
経路として経椎弓根的経路を選択できるが, 上部胸
椎では椎弓根が細く, しかも立ってくるため, 経椎
弓根的経路を選択できないことがある。その場合
は, 後外側経路を選択する。
*)
距離と同時に角度が表示されるように設定して
おく必要がある。CT の機種によって初期設定が異
なるので, 角度を表示できない場合はメーカーに問
い合わせてください。
③穿刺経路と皮膚との交点から皮膚に置かれたマー
カーまでの距離を計測し記録する。計測に用いた
画像のスキャン位置にテーブルを移動し, 皮膚に穿
刺点の印をつける。
3. 椎体穿刺
1)角度計の設定
角度計のアンテナを, 頭尾方向では CTのガントリー角
度に, 左右方向では穿刺経路の角度に, それぞれ合せる。
(187)69
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2)局所麻酔
1 %キシロカインで皮膚と穿刺経路に十分に局所麻酔
をする。穿刺経路が正しいかどうかを判断するために,
*)
角度計の誘導に従って局所麻酔針を進め , 骨に当った
ところで針だけを留置したまま CT を撮像する。
*)
看護師または放射線技師によって角度計のアンテナ
に針を一致させるように目視してもらいながら, 彼らの
誘導に従って針を進めていく。原始的な方法ではある
が, 施行医と彼らの息があえば, 意外にうまくいく。
3)穿刺経路の確認(図 8)
局所麻酔針を留置した状態で撮像された CT 像におい
て, 穿刺経路が正しいかどうかを確認する。穿刺点や穿
刺角度がずれている場合は, 穿刺経路を補正する。
4)骨生検針の穿刺
①皮膚の小切開
最終決定された皮膚の穿刺点にメスで小切開を
加える。
②骨生検針の穿刺(図 9a)
設定された角度計の誘導に従って, 骨生検針を穿
刺していく。まず, 最初に針先が骨に当たる感触が
あり, それから手元のハンドルを回転させながら押
し進めていく。骨皮質を貫通するときに抵抗がな
くなり, ズボッと針が進む(多くの初心者は, 一瞬
びっくりする)。この時点で穿刺を止め, 手を離し
ても針が自力で立つことを確認してから CT を撮影
する。手を離しても自力で立たない場合は, 椎弓根
からずれて横突起などに刺さった時に経験する。
コツ 1 針先が骨表面で滑りなかなか思うように骨皮
質を貫通できない場合がある。まずは, 左手でしっ
かり針を固定することが重要である。その際, 余分
な力(腕で患者の背中を無意識に押してしまうよう
な力)は穿刺経路からずれる原因となる。どうして
も滑る場合に試みる方法として, 故意に針を少し倒
して穿刺角度をつけて骨を穿刺し, 椎弓根に入って
から角度を補正する場合がある。
③CT で骨生検針が椎弓根に穿刺されているかどうか
を確認する。正しい場合は, そのまま椎弓根を超え
るまで穿刺針を進める。ずれている場合は, 再度穿
刺角度を補正して穿刺し直す(図 9b)
。
④確実に椎弓根に穿刺されていることを CT で確認し
た後, 外科用 X 線透視を用いて, 針先を椎体のほぼ
中央で椎体前縁より 1/3 ∼ 1/4 の位置まで進める。
頭尾方向の調節は, 穿刺針を椎弓根内で進めずに回
転させながら少しずつ針先を目的方向に向けてい
けば, 比較的容易に行うことができる(図 9c)。
コツ 2 穿刺経路からずれる場合は, 針を支えている
a
b
図 6 患者の固定
下部胸椎・腰椎
上部胸椎
椎体前縁より 1/3 の点
後外側経路
図 8 穿刺経路の確認
経椎弓根的経路
図 7 穿刺経路の決定
皮膚に印をつける
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手の使い方に問題がある場合が多い。針を支えて
いる手は左手の場合が多いが, 穿刺の際, 左手に力
が入りすぎて患者の背部を無意識に押しすぎてし
まうことで左右方向の角度がずれてしまう場合, 皮
膚に可動性があることを忘れて左手で穿刺方向を
合わせようとして穿刺点がずれてしまう場合など
が考えられる。したがって, 針を支える手は文字通
り支えることに専念させ, 余分な力を抜き, 穿刺方
向はハンドルを持つ手(右手)でコントロールする
ことが穿刺経路からずれないためのコツである。
4. 椎体静脈造影
骨セメントの注入前に骨生検針から造影を行ってい
る。静脈造影を行わなくとも合併症や治療成績に差は
(M1 type, 13G, 15cm
回転させながら穿刺
3)
なかったという報告 があるが, 経験の少ない術者は注
入前の造影は省略すべきではないと考える。静脈が豊
富に描出される場合は(図 10), 針の位置を少しずらし
たり, 骨セメントの注入開始時間や注入速度を加減する
ことで, 骨セメントの椎体外流出を最小限に留めること
ができると考えている。
5. セメント注入
1)準備
あらかじめ冷水で冷やしておいた容器(図 3c)に粉末
のポリマーを入れ, 液体のモノマーを加えた後に攪拌す
る(図 11a)。最初はぱさついた状態であるが, しばら
くすると液状になり, 徐々に粘度が増してくる(図 4)。
頭尾方向:ガントリー角度 5 度
二
方
向
か
ら
穿
刺
角
度
を
監
視
左右方向:角度計 36 度
b
a
図9
a : 骨生検針の穿刺
b : 途中で穿刺経路を CT で確認する。
c : X 線透視下に骨生検針を椎体まで進める。
c
a
図 10 椎体静脈造影
骨生検針の針先が椎体中心部にあるときに
造影した場合(a), 椎体静脈は豊富に描出
される(b)。針先をずらしたり, 注入の開始
b
時間や速度を工夫することが重要である。
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技術教育セミナー / 椎体形成術-Ⅰ
とろみのある状態で 20'のシリンジに移し, 1 'のロッ
ク付シリンジ 3 本に取り分け, 速やかに冷水に浸してお
く。同様に, 20 'のシリンジに残った骨セメントも, 補
充用として冷水に浸しておく
(図 11b)。前述したよう
に, 骨セメントの凝固時間を延長させるために冷水に浸
しておくことは極めて重要である。
我々は, 当初, 20n の Surgical simplex P(Stryker 社)
を使用していたが, 1 椎体の治療には多すぎる量である
ことから, 最近では 10n の Osteobond(Zimmer 社)を
使用している。
骨セメントはX線透視で見えにくいため, 視認性を高
めるため硫酸バリウムを混入している施設がある。慣
れれば X 線透視でも認識できるだけでなく, 椎体静脈造
影時に椎体に残留した造影剤に対して陰性造影剤的に
作用する利点もあることから, 当院では硫酸バリウムの
混入は行っていない。
2)注入
骨セメントの注入に適した粘度は,“練り歯磨き”ぐ
らいの状態と覚えておく(図 4)。この状態になるまで
の時間は, 混合開始から約 3 分ぐらいであるが, 骨セメ
ントの種類や攪拌容器の温度, 室温などで異なるので,
術者は注入前に確かめておくことが肝要である。
骨セメントは, 1 ' のロック付シリンジでゆっくり注
入する(20 ∼ 50 秒/p)。ただし, 注入開始から約 5 分間
図 11 骨セメントの準備
a b
で骨セメントは硬化してくるため, 手際よく注入する必
要がある。注入時には, 血圧や酸素飽和度を監視し, 患
者の状態を十分に観察にする。また, X 線透視モニター
を凝視して, 骨セメントの分布や椎体外漏出のチェック
に集中することが重要である(図 12a)
。
1 椎体当たり注入量の目安は, 胸椎で 2 p 胸腰椎で
3 p, 腰椎で 4 p 程度である。
コツ 3 当院で行っている骨セメント注入のコツにつ
いて解説する(図 12b)
。注入前半は, 針先が椎体前
縁より 1/4 ∼ 1/3 の位置で, 注入速度 20 ∼ 40 秒/p で
注入する。注入後半では, 針先を椎体前縁より 1/2
まで少しずつ引きながら, 注入速度 30 ∼ 50 秒/p
で注入する。注入の中止は, 骨セメントが椎体後縁
より 1/4 に達した時点である。このポイントは椎体
外漏出を予防する上で, 極めて重要である。
注入終了後, 内套針で外套針内のセメントを押し出
し, 10 ∼ 20 秒間, 穿刺針を十分に回転させた後, 針を抜
去する。これは, 穿刺経路に骨セメントを残さないため
に重要である。
3)セメント分布の確認と椎体外漏出の確認
手技の終了前に CT を撮影し, 骨セメント分布の確認
と椎体外漏出の確認を行う(図 13a)。骨セメントが片
側性に分布している場合は, 対側より追加注入すること
があるが, 穿刺ポイントが正しければ, 追加注入は稀で
ある(図 13b,c)
。
6. 術後
術後 2 時間は, 背臥位でベット上での安静としてい
る。その後は, 食事や寝返りを許可している。可能なら
歩行も許可している。
3 p 目 : 30 ∼ 50w
4 p 目 : 30 ∼ 50w
1p 目 : 20∼30w
2p 目 : 30∼40w
注入を中止
【注入前半】
・前縁 1/3 ∼ 1/4 で注入
・注入速度 20 ∼ 40 秒/p
【注入後半】
・椎体前縁 1/2 まで少し
ずつ針を引きながら注
入
・注入速度
30 ∼ 50 秒/p
【注入の中止】
セメントが椎体後縁より
1/4 に達した時点で中止
(内套針で押し出す外套針
内のセメント分を考慮し
ておく)
セメントの粘性度や椎体静脈造影 CT を考慮して注入時間を調節する。
a
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図 12
a : 骨セメントの注入
b : 骨セメント注入のコツ
b
2005 日本 IVR 学会「技術教育セミナー」:下山恵司, 他
技術教育セミナー / 椎体形成術-Ⅰ
a b c
図 13 骨セメントの分布と椎体外漏出の確認
表 1 合併症と予防
画像的合併症
(頻度は高いが, 無症状の場合が多い)
・自験例: 75.6 %(1, 2, 3, 4)
臨床的合併症
(低頻度)
自験例 ・一過性嘔気: 2 例
0.93 % ・傍椎体血腫: 1 例
・脊髄障害: 1 例(HCC)
重篤な合併症
(極めて稀)
術後の新規圧迫骨折
(頻度 10 ∼ 20 %)・自験例 13.8 %
セメントの椎体外漏出[予防:モニタリング下の注入]
1. 脊柱管内(硬膜外腔)
2. 椎体周囲静脈
3. 椎体周囲間質
4. 椎間板
5. 椎間孔
6. 穿刺経路[予防:注入終了後に内套針を差し込む]
注入局所の疼痛悪化
末梢神経障害(椎間孔へのセメント漏出)
脊髄圧迫による脊髄障害(脊柱管へのセメント漏出)
肋骨骨折[予防:枕や固定具を工夫]
肺塞栓症(セメントや骨髄脂肪)
アクリル性骨セメント製剤による心停止
骨粗鬆症の自然経過?セメントによる椎体コンプライアンスの低下?
術後の背部痛の再発時には新たな圧迫骨折の出現を念頭におく
翌日に, 脊椎 X 線写真を撮影して骨セメントの分布を
確認し, VAS を用いて疼痛評価を行っている。
合併症と予防
PVP の合併症には, 画像的合併症, 臨床的合併症, 重
篤な合併症の 3 つに大きく分けられる(表 1)。画像的合
併症は, 画像的に捉えられることができる骨セメントの
椎体外漏出である。この頻度は高いが無症状の場合が
多い。ただし, 椎間孔や脊柱管への骨セメント漏出は,
末梢神経や背髄の障害を起こすことがあるので注意が
必要である。骨セメントの椎体外漏出の防止には, 透視
モニターを凝視して注入の中止ポイントをしっかり押
えることである。
重篤な合併症としては, 肺塞栓症や骨セメントによる
心毒性が報告されている。過剰な骨セメント注入を避
け, できるだけセメントの注入量を減らすようにするこ
とが大切である。当院では, 複数椎体の PVP において
も 1 回で使用する骨セメントの総量を 10 p 以下になる
ようにしている。
術後に認められる隣接椎体の新規圧迫骨折は, 10 ∼
20 %の頻度で起こる。骨粗鬆症の自然経過なのか, 骨
セメントによる椎体コンプライアンスの低下なのか, そ
の原因には議論がある。臨床的に大切なことは, 術後に
再発した背部痛には新規圧迫骨折の可能性があること
を常に念頭に置き MRI で精査することである。
おわりに
高齢化社会を迎え, 椎体圧迫骨折は今後益々増加し,
これによる“寝たきり”の高齢者も増加することが予
想される。このような不幸な高齢者が少しでも減少す
るためにも, PVP がより多くの施設に普及し安全に施行
されることを切望する。
【文献】
1)Kobayashi K, Shimoyama K, Nakamura K, et al :
Percutaneous vertebroplasty immediately relieves
pain of osteoporotic vertebral compression fractures
and prevents prolonged immobilization of patients.
Eur Radiol 15 : 360 - 367, 2005.
2)Tohmeh AG, Mathis JM, Fenton DC, et al : Biomechanical efficacy of unipedicular versus bipedicular
vertebroplasty for the management of osteoporotic
compression fractures. Spine 24 : 1772 - 1776, 1999.
3)Vasconcelos C, Gailloud P, Beauchamp NJ, et al : Is
percutaneous vertebroplasty without pretreatment
venography safe? Evaluation of 205 consecutives procedures. AJNR Am J Neuroradiol 23 : 913 - 917, 2002.
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