Laurent Delarbre(ローラン・ドラルブル): カフェドラペの舵を取る若く有

Laurent Delarbre(ローラン・ドラルブル):
カフェドラペの舵を取る若く有能なシェフ
2004年度MOF(フランス最高技術者試験合格者)に
輝いた<現代風古典>料理の達人は、
偉大な先人たちに対し戦いを挑んだ
「出来るだけ早く、カフェドラペがパリの高級レストランの仲間入りをしたと
言われるようにしたい。そしてみんなが毎日でも食べに来れるようなレストラ
ンにしたい」明確な志と見事な決意をもって、
35歳の Laurent Delarbre(ローラン・ドラ
ルブル)はオペラ座広場にあるこの老舗の指
揮を執っている。歴史あるレストランを高品
質でありながらも親近感を失わない店にする
という、これまでとは違ったかたちにもって
いくこと、これが今日、この若々しいシェフ
が掲げた挑戦である。
この2 0 0 4年度のM O Fは、首都パリで最も神
秘的といわれるレストラン、ツール・ダルジ
ャンやホテル・リッツ、ルレ・ルイ1 3世、ラ
セールなど場所を変えつつ修行に励んだ。
Manuel Martinez(マニュエル・マルティネ
ス)、 Guy Legay (ギー・ルゲイ)、 M i c h e l
Roth(ミシェル・ロット)という3人の偉大
なシェフの下で経験を積んだのである。そしてその後、ホテル・アストールの
レストランをわずか数ヶ月で再興したというチャレンジャーなのである。
Tour d'Argent(ツール・ダルジャン)でのデビュー
最初に彼を教育したのは Manuel Martinez(マニュエル・マルティネス)だ
った。彼はこのオーヴェルニュ出身の若者をパリのツール・ダルジャンに入隊
させた。
「非常に厳しい時期だった。それはちょうどツール・ダルジャンが3つ星
をもらって最高に勢いのある時期で、昼も夜も満員のお客様だった。間違いは絶
対に許されないというものすごいプレッシャーがあって、多くの料理人が辞め
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ていった。2年間で8 0人近くの移動があったほどだ。しかし他では得られない
訓練だった。自分の実力以上の力を出さなくてはならなかった」と思い出して
語っているが、この経験が必ず自分を鍛えてくれると信じて、彼は頑張りとお
し たの であ る。2 0 0 4 年 度 M O Fフ ァイ ナリ スト のうち の7 人が M a n u e l
Martinez(マニュエル・マルティネス)の下で働いたことのある人間であっ
たし、合格者のなかの3人は同じ時期に彼と一緒に仕事をしていた。「これは決
して偶然の賜物ではない」と Laurent Delarbre(ローラン・ドラルブル)は
力説する。
2年後には、Guy Legay(ギー・ルゲイ)が彼に
チャンスを与えることになった。そこは更に要求
度の高いレストラン、リッツの第一厨房であった。
彼はそこで、各階ごとのサービスから最高級レス
トラン「レスパドン」までの、超高級ホテルにお
ける、まるで小さな工場経営のような仕事を学ん
だ。「リッツではすべて食材のまま仕入れて、自
分たちで加工した。パンでさえ現場で焼いたのだ。
私は製造のすべての部門を経験し、レストラン業
という大きな全体のあらゆる部分に触れた」彼の
言葉だ。このリッツで、彼は、Legay (ルゲイ)
の右腕である Michel Roth (ミシェル・ロット)
に認められるところとなった。これこそ、揺るぎ
なき手本と彼が見なした人間との決定的出会いであった。3年後、彼はリッツ
を辞職し、ルレ・ルイ1 3世の Manuel Martinez (マニュエル・マルティネ
ス)の下で働くことになる。そこは危機的状況を脱して何とかレストランの鴨
居に2つ星が掲げられたところであった。
Michel Roth(ミシェル・ロット)の誠実なる友
1999年 Michel Roth(ミシェル・ロット)は
ラ セ ー ル を 梃 入 れ す る た め に Laurent
Delarbre (ローラン・ドラルブル)を呼び寄せ
た。その後再びリッツの料理長に就任して戻る
が、その6年近くの間、二人のデュエットは続い
た。Roth(ロット)の指揮下、Laurent
Delarbre (ローラン・ドラルブル)は3年半「レ
スパドン」の責任者を務めたのだが、その幸運についてこんな風に語っている。
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「彼には天賦の才があり、彼にかかるとどんな仕事もひとりでに完全な姿に仕
上がっていくようだった。私はまた、彼の傍で技術面や創作面のみならず、精
神の持ち方についても学んだ。彼はいたずらにプレッシャーをかけたりはせず、
部下が自分の考えで前向きに事を運べるよう仕向けてくれた」この時期、彼は
MOFリストに名を連ねる3人の高名な指導者と一緒に仕事ができるという幸運
にも恵まれた。「個人的には大きな満足があった。しかしそれ自体が目的でも
もちろん終着点でもなかったし、一度このような栄誉を受けたからには、その
栄誉に値するよう毎日を頑張らねばならなかった」と彼は語っている。
Hôtel Astor Saint Honoré (アストール)の味わい
この若いシェフの自立の用意はすっかり整った。2 0 0 5年5月、リッツとラセー
ル時代の少数の仲間とともに、彼はホテル・アストール・サントノレのレスト
ラン再興という仕事に飛び込んでいった。アストール・サントノレは E r i c
Lecerf (エリック・ルセール)と Joël Robuchon(ジョエル・ロブション)
の二人が去ってからというもの1 9 9 9年には
ミシュランの2つ星にランクされるまでにな
っていた。
まず彼は簡単ながら品質の良い見事な料理
を、季節替りの限定メニューとして出した。
そして値段はできるだけおさえたものにした。
彼の目論見は当り、事態は好転し始めた。遠
ざかっていた食通の客たちが少しずつアスト
ールに戻ってきたのだ。批評家たちも美味し
く優雅な彼の古典的料理に敬意を表したの
で、店は昼夜を問わず満員の札をかけるまで
になった。
今日、Laurent Delarbre(ローラン・ドラ
ルブル)は彼の育てた精鋭たちの先頭に立っ
て、カフェドラペの新しいレシピを創り出すべく意欲を燃やしているのである。
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輝かしい経歴・・・
Hôtel Astor Saint Honoré (ホテル・アス
トール・サントノレ)
−パリ8区
コック長 - 2005年3月∼2006年2月 2004年1月、フランス最高技術者(MOF)
に選出される
"Hôtel Ritz" (ホテル・リッツ) - パリ1区
副コック長 - 2001年9月∼2005年2月
"Lasserre" (ラセール)-パリ8区
副コック長 - 1999年7月∼2001年8月
" Relais Louis XIII" (ルレ・ルイ13世)
パリ6区
副コック長 - 1996年8月∼1999年6月
"Hôtel Ritz" (ホテル・リッツ) - パリ1区
筆頭従業員 - 1994年10月∼1996年7月
"La Tour d'Argent" (ラ・ツール・ダ
ルジャン) - パリ5区
筆頭従業員 - 1993年2月∼1994年9月
"Hôtel du Roc de Caldès" (ホテル・デ
ュ・ロック・ド・カルデス) −アンドール公国
従業員 - 1991年12月∼1992年8月
"La Belle Meunière" (ラ・ベル・
ムニエール) - ロアイア(63100)
料理見習い - 1989年9月∼1991年9月
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彼の料理哲学:インタビュー
<料理は基本的には、
直感、感動、欲求の
一瞬の産物である>
何はさておき食材の質、それから非の
打ち所のない腕前、そして手の届く値
段。これこそ Laurent Delarbre
(ローラン・ドラルブル)がカフェド
ラペで提案する「現代風古典」の3本
柱である。料理法の本質そのものに回
帰するために、いらない技巧を排除す
るのである。
質問:カフェドラペにおけるあなたの目標は何ですか?
Laurent Delarbre (ローラン・ドラルブル):出来るかぎり早くカフェドラ
ペがパリの最高級レストランの一つといわれるようにしたいですね。それには
レストラン全体で、昼と夜のメニューの質を保持することに挑戦しなくては。
お客様が舌平目のムニエルを注文なさろうと、もっと高級な料理を注文なさろ
うと、すべてのメニューに同じ心配りがなされていると感じていただけるよう
にしなくてはいけません。そしてすべての料理の値段が手の届く幅の中に収ま
るようでなくてはなりません。
質問:料理の値段をあまり上げずに、質を上げることは可能ですか?
Laurent Delarbre (ローラン・ドラルブル):「レベルの高さ」は必ずしも
「価格の高さ」に比例しません。私たちはサプライヤーや生産者と直接ネゴす
るようにして、不必要な中間業者を最大限はずすよう努力しております。生産
者から直接仕入れれば、時間とお金の節約になりますね。そうすることで料理
の適正な質の確保ができます。例えば私は南フランスで、カフェドラペだけの
ための食材生産を始めようとしているところです。
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質問:食材の質、これがあなたにとって良いメニューの基盤ということでしょ
うか?
Laurent Delarbre (ローラン・ドラルブル):食材、これこそが料理の中心
なのです。それが料理のすべてを左右します。良い食材なら、味付けがまずか
ったり煮すぎたりしても何とかなりますが、「逆は真ならず」です。ところで、
料理をするには、その食材を徹底的に
知ることがとても大事なのです。私は
夏の間は南フランスに行って、野菜や
トリュフの生産者と過ごします。彼ら
と大いに話しあい、その仕事振りを見
てくるのです。アスパラガスを彼らが
どのように育てているかを見ればアス
パラガスについての知識も増え、その
料理の仕方がわかります。それぞれの
食材には固有の性質があり、それぞれ固有の処理の仕方があります。どんなや
り方でもやれるんだなどと思って、食材固有の性質に逆らうようなことをして
はだめなんです。
本質に立ち戻る必要がある:食材
質問:それであなたは本物、すなわちある種の素朴さに価値を置くのですか?
Laurent Delarbre (ローラ
ン・ドラルブル):この職業で
は考えすぎたり、凝りすぎたり
はよくないのです。料理は基本
的には、直感、感動、欲求の一
瞬の産物なのです。複雑すぎた
り凝りすぎたりするやり方には
賛成できません。一つの料理の
なかに10種類もの風味や素材が
あったとしても、それを感じ取
ったり味わったりすることは、
ほとんどの人にとって無理でしょう。料理とはもっともっと単純なものです。
美味しいか美味しくないかです。良いレストランとは、毎日通ってもうんざり
したり疲れたりしない場所でなくてはなりません。
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質問:あなたのやり方は客の度肝を抜くことではないのですね。だからあなた
の料理を「現代風古典」と呼ぶのですね?
Laurent Delarbre (ローラン・ドラルブル):古典は料理の基本です。現代
の料理について、我々は何一つ先祖の考えた以上のものを創り出していないと
もいえます。私は伝統料理を基盤にし、そこに日常の味を少しだけ加えて、簡
素に調理をしてゆくのです。もし私が羊肉のシチューを作るとして、私はこっ
てりしたピュレより肉汁を使うでしょうね。食材、調味料、ブイヨンについて
はどうしても基本に立ち返らなければならないと、私は強調したいのです!
柔軟性に富んだメニュー
質問:現在の傾向に逆行して泳ぐ覚悟ですか?
Laurent Delarbre (ローラン・ドラルブル):料理の中身より周りの装飾に
重点を置くような今日の傾向には反対です。私は四角や長方形の皿には我慢で
きません。料理の中身を修得することに成功したいものです。それが仕事なの
です。パセリの葉や茎を飾ることは何といっても補助的な仕事です。たいして
難しいことではありません!
質問:あなたはカフェドラペに
季節ごとの限定メニューを置い
ていますね・・・
Laurent Delarbre (ローラ
ン・ドラルブル):冷凍庫から
取り出した野菜や果物で作っ
た、決まりきった電話帳みたい
なメニューより、私は、季節の
食材を使った限定メニューをお
出ししたいのです。選択の幅が
あることと品質の良いことは同義語ではないでしょう。季節のリズムを大事に
して食材を考えてゆかなくてはなりません。それで1ヶ月半或は2ヶ月ごとに
メニューを変えてお出ししなくてはならなくなるのです。1年を通して同じ料
理をお出しすることはできませんが、そこはお客様に我慢していただきたいの
です。また、同じマッシュルームが二つとないことや、同じ子羊の肉が二つは
ないことからも、日によって料理に微妙な差異が出ることも納得していただか
なくてはなりません。私は人の真似が下手です。標準的な味を作る達人でもあ
りません。調理場では食材とシェフの気分がダンスをリードするのですね。
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