課題曲誌上レッスン(続) 第29回ピアノ ・オーディション予選課題曲 【J I・J II・A 部門より】 玉 置 善 己(桐朋学園大教授) 課題曲記号と曲目 J12(P.16) C.P.E. バッハ:マーチ ニ長調 BWV Anh.122 ブルクミュラー: 「25 の練習曲」Op.100 より 3. 牧歌 J14(P.17)J.S. バッハ:ポロネーズ ト短調 BWV Anh.119 浦田健次郎: 「マザー・グースによる25 のうた」より 1. なぞなぞなあに 誌上レッスン J21(P.18) ダカン:かっこう J23(P.18) バルトーク: 「10 のやさしい小品」より 5. トランシルヴァニアの夕べ A1(P.20) J.S. バッハ: 「2 声のインヴェンション」 シューベルト:スケルツォ 変ロ長調 D.593-1 A 3(P.20) ショパン:ワルツ ホ短調 遺作 こま ~細かいレッスンの前に ・・・ ~ 上記以外の課題曲(J Ⅰ・J Ⅱ・A 部門)は前号をご参照ください。 1 曲ずつの細かいレッスンの前に、日頃気になっていることを一言書いておきたいと思います。 私は、いろいろなコンクールで小さいお子さんの演奏を聴かせていただくことが多いのですが、そ の時に、右手と左手のバランスが悪い演奏、せっかく右手がきれいに弾いていても、左手の伴奏が 大きすぎて右手の主旋律の邪魔をしている演奏をしばしば耳にします。左手が難しくてそちらの方 に注意が向いてしまい、肝心の右手がおろそかになってしまった演奏もあります。 多くの場合右手がメロディを弾き、左手が伴奏を受け持っているのです。伴奏がいろいろな場面 の変化を担当したり、ハーモニーの変化で色合いを変えたりするにしても、主役である右手を超え てしまうことはないと思います。どのような曲、どのような場面であれ、常に左手は右手よりは控 えたほうがいいと思います。左右のバランスをどう感じてどのようにするかということは、その演 奏者にまかされているのですが…… 演奏者が自分の耳で自分の音を聴きながらコントロールをして作っていけるようになるといいの ですが、小さい子供たちの場合はなかなかそうはいかないでしょう。今から少しずつそのような感 覚を持って、この先進んでいってもらいたいと思っています。先生が、左右のバランスを様々に変 えた演奏を聴かせてあげ、良い例と悪い例を聴いて感じてもらうのが一番いいのではないでしょうか。 そして、良い例のようにするにはどのようにしたらいいかを探して、導いていってほしいと思います。 低音部の方が、高音部より音が大きく感じられることも忘れないようにしてください。 (特に大きいピアノで弾くと良く響きますから…) 間近にせまったオーディションを目指して頑張っていることでしょう。この記事が、いくらかで も参考になり、さらに仕上がっていく助けになってくれればと願っています。 15 J 12 C.P.E. バッハ :マーチ ニ長調 BWV Anh.122 元気よく。右手のシンコペーションの弾き方が、この曲の性格を決めます。8小節目と 21 小節目左 手は、同音反復で指を変えながら弾くことになりますが、そのために、リズムや音の粒が不揃いにな らないように注意してください。 に重みをかけて、シンコペーションのリズムを元気よく表して 左手の は短く切りすぎないで、一定の足どりで 5 □ トランペットのように華やかに。 3 2 1 3 終止を決めるバスの動きです 堂々とはっきり 5 21小節も同じ指使いで J 12 ブルクミュラー:「25 の練習曲」 Op.100 より 3. 牧歌 柔らかな穏やかな曲です。8 分の 6 拍子の揺れと流れに乗って弾けるようにしましょう。左手の和音 をやさしく柔らかく弾くことを練習してください。 左手の和音が右手のメロディの邪魔をしないように響きのバランスに注意しましょう。8 分音符 3 つ は切った感じにならないように、そしてそれを受け止める付点 4 分音符の和音にはアクセントがつか ないように注意してください。中間部の左手レの音も同じ扱いです。 やさしく、やわらかに入れて 切らないで アクセントがつかないように、 やさしく弾いて(中間部も同様) 17 □ ほんの少しゆっくりして、 次のメロディの準備をしても よいでしょう 16 〈特集〉課題曲誌上レッスン 最後の右手ソシレソシレと上っていくスタッカートは切る感じではなく、引きずって消えていく感 じになるように、弾き方に注意しましょう。 スタッカートを短く弾きすぎないで、 遠くへ消えていくように J 14 J.S. バッハ :ポロネーズ ト短調 BWV Anh.119 J12 のマーチよりは、暗くいくらかおとなしい感じの方がいいでしょう。 は長すぎず、短すぎず、ノンレガートで ※随所に出てくる は、 , , など、色々な弾き方が考えられます。 J 14 浦田健次郎:「マザー・グースによる 25 のうた」より 1. なぞなぞなあに 始まりの右手に、ラの音が 3 つつながっています。 (5・19 小節目も)この弾き方に注意してくださ い。声を出して歌ってみると、切っては歌いません。(前述のブルクミュラーの左手和音の弾き方と注 意することは同じです) ピアノという楽器は同じ鍵盤を弾くときにどうしても音が切れてしまいます。手首を柔らかくバウ ンドさせるようにして弾くといいと思います。切れた感じにならないよう、柔らかくやさしく弾いて ください。 3・6 小節目左手に鍵盤を押さえたまま指を置き換えるよう指示があります。ちょうどいい練習にな りますので、やってみましょう。 歌ってみると切りません (5・19小節も同じ) 指もそのつもりで弾いてください 3 □ 5 □ 6 □ 17 J 21 ダカン:かっこう Vif(生き生きと)ということで、テンポの設定が早すぎないように注意してください。かっこうが早 口で鳴いてしまうことになります。右手の 16 分音符は旋律的にとらえて演奏してみましょう。 装飾音をきれいに大切に弾くことも、この曲の魅力につながりますので、指を押さえつけすぎないで、 軽いタッチで弾いてみましょう。 同じ音型が続きますが、調性が変わっていきますので、それを味わい感じながら演奏してください。 きついかたいアクセントにならないように。 という記号のつもりで 21 □ この はノンレガートでもよい(この部分全て同じ) J 23 バルトーク:「10 のやさしい小品」より 5. トランシルヴァニアの夕べ ゆる Lento の部分と Vivo の部分=緩やかでレガートの部分と速くて軽やかな部分が交互にあらわれ、少し かたちを変えています。Lento の部分では拍子も変わるので注意が必要です。 はじめの Vivo の部分左手の 2 拍目と 4 拍目の和音は、強い音にならないよう、そして軽さを失わない ように。 2・4・6 小節 4 拍目、22・24・26 小節 3 拍目、9・26 小節目にペダルを使ってもいいでしょう。 2 □ 少しはなして、シの音を別に弾き、ひびかせて 4 □ ( ) ペダルを使ってもよい 6 □ ( ) 9 □ この差を感じて 左手、大きく重くならないように ( ) 11 □ 18 生き生きした stacc. で 押す音 ( ) □ 9 □ この差を感じて 左手、大きく重くならないように 〈特集〉課題曲誌上レッスン ( ) 11 □ ( ) 生き生きした stacc. で 押す音 31・33 小節目1拍目の三連符は、リズムを強調して、かたいアクセントをつけ、3個の音を一気に 弾くつもりで弾いてみましょう。 33 □ 31 □ 42 小節目~、ユニゾンらしく、太くたっぷりした音で弾きましょう。メロディが f → mf → p と弱く なり消えていきます(44・50・53 小節内声の和音は、メロディに対して mf → p → pp となります) 。 42 □ 44 □ ユニゾンらしく、太くたっぷりとした音で f のメロディの邪魔を しないように 50 □ 46 □ 51 □ 53 メロディが f → mf → p と □ 弱くなり消えていきます さらに 遠くへ (ソフトペダルを使ってもよい) 19 A1 J.S. バッハ:「2 声のインヴェンション」 2 声のインヴェンションについては、いろいろなところで書かれていますので今回この欄であえて お話しすることもないのではないかと思っています。 冒頭に書いた右手と左手の関係は、このような曲では例外です。二つの声が対等に動いて曲を作っ ていくわけですから、当然左手が優位に立つこともあります。いずれの場合も、美しさを損なわない ためには、響きのバランスは大切です。 A1 シューベルト:スケルツォ 変ロ長調 D.593-1 1小節をいくらか緩やかに一つに感じて 3 拍子を弾いてください。そうすればちょうどよい流れに なるはずです。初めの部分の左手伴奏は気をつけないと2拍目の和音が大きい音になってしまいます。 1拍目バスの音は一つ、和音は三つの音を同時に鳴らすのでそれだけでも大きな音になりがちです。 しかも低音から手を移動させて弾くわけですから注意が必要です。 左手だけで3拍子に乗って練習してください。注意深く自分の出している音を聴いて確認してくだ さい。この曲では、ペダルを工夫して使ってもいいでしょう。 A3 ショパン:ワルツ ホ短調 遺作 勢いのあるワルツです。途中では雰囲気が変わる部分がありますから、その変化を感じ表現してく ださい。いくらかのテンポの変化がおきても当然です。 最初の8小節は一気に弾ききって華やかに曲を始めましょう。 20 〈特集〉課題曲誌上レッスン 8 小節を一気に弾いて〈e-moll の曲が始まりましたよ!〉 9 □ 1 拍目に時間的な強調を 13 □ 3 個ある前打音の 1 回目は少し強調してテヌート気味に 25 小節から 8 小節間は左手の伴奏は柔らかくそれまでのようにはずんで弾かないで。バスが3拍目 から1拍目にかけて半音階で下がっていきます。味わってください。 33 小節からは、急にきっぱりと。華やかな大きな動きを楽しみましょう。 25 □ バスがやわらかく、半音階でおりていきます。味わってください。 33 □ 急に きっぱりと。大きな動きを楽しむ感じで。 57 □ 旋律を長く感じて 21 77 □ チェロのように、たっぷりと 89 □ 左手弱く。肘と手首をやわらかく回転させて。 109 □ かために 強調のアクセントで バスもひびかせて、のぼっていってください。 最後の部分 119 小節から終わりまでも少し加速するくらいに弾き、勢いよく曲を終わらせたい感じです。 119 □ 両手で同じことを 4 回反復します。少し加速させて、 e-moll のアルペジオに突入してください。 22
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