堤未果氏講演要旨 貧困、医療、経済、そして平和∼変わるアメリカ、混迷する日本∼ 10 月 12 日、富山国際会議場２階会議室で、核兵器廃絶をめざす富山医師・医学者の会と 富山県保険医協会の共催で講演会が開かれ、講師の堤未果さんが、標記の演題で、会場い っぱいの聴衆に、熱意をこめて語りかけました。 （写真：講演する堤さん＜主催者提供＞） アメリカで同時多発テロに遭遇 りたいとやってきたのだ。中東 高校卒業後、アメリカに留学した。その頃は一 では日本に平和憲法があるか 億総中流の意識が強く「自己実現」がしきりに言 ら日本人を尊敬している。彼ら われ、留学する人が多かった。アメリカには自由 に会って、イラクの放射能のことを知りショック と民主主義がありキラキラ輝いていた。今のアメ を受け、アメリカに戻りたいと思うようになった。 リカは、かつてのキラキラはなく人種や性による 兵士たちを取材して 格差に代わって経済的格差が大きくなっている。 アメリカに戻って兵士たちを取材した。ワシン 8 年前、９・１１同時多発テロが起こったとき トンでは反戦集会や市民運動にも参加した。その 隣のビルにある野村證券に勤めていた。社員はパ 中で、アメリカがテロ直後に教育法を「改正」し ニックに陥った。メディアはすべて同じような報 たことを知った。 「落ちこぼれゼロ法」というべ 道をし、テレビの画面にテロリストの顔と名前が きものだ。競争を導入し学力をつけるといって、 映し出され、ブッシュが、これが犯人だ、やられ 国が教育を管理する。目的は別のところにある。 る前に叩き潰せと叫び、国民は怖くなってテロと 「すべての個人情報を軍に提供する」という一項 の戦いのために団結しようと思った。メディアが 目があり、受け入れなかったら助成金をカットす 映像を通して、強いリーダーについていこうとい る。公立の貧しい学校は受け入れた。将来のない う意識をすりこんだ。アメリカ人の会話はテロの ワーキングプアに狙いを定め、個人情報をもとに ことだけになり、テロリストに備え銃を買う人が 軍が、直接、子どもたちにケータイなどを使って 増えた。軍事予算が増え、ブッシュを支持し、戦 働きかけ、“君の将来の夢をかなえる”と甘言を弄 争一直線となった。 して入隊の勧誘を行う。本来、教育・医療・暮ら アメリカの恐ろしい情報操作 しは国が責任を負うべき分野だ。ここに市場原理 アメリカ人はほとんど新聞を読まない。情報源 を導入した結果が今日の貧困大国アメリカだ。そ はテレビだ。活字は疑問があればそこでとまって れを利用した新兵の募集は「経済徴兵制のしく 自分の頭で組みたてさせるが、テレビは皮膚感覚 み」と言える。兵士の中には後輩たちに「人を一 で分かった気にさせる。そして、センセーショナ 人殺したらそこで自分の人生は終わる」と訴え、 ルなニュースを流す。湾岸戦争では劣化ウランで 入隊を止めさせる者が現れた。 50 万の兵士が被爆し症状を訴えたが、米政府はス 戦争をするには愛国心を吹き込む必要はない。 トレスだとする記者会見をおこなった。同じ日に 民営化によって戦争というマーケットを作って 幼女が変質者に殺されたニュースが流れ、被爆兵 戦争を続ける。そのために議員に献金しメディア 士のことが吹きとんだ。ブッシュは愛国法を通し に圧力をかけターゲットを作る。イランが次の標 政府がファックスや電話を盗聴できるようにし 的にされている。 た。昨年夏、更新され対象が全世界になった。友 理想を現実にするのは市民の力 人との会話は全部盗聴されている。このことがミ ブッシュのあとにオバマが登場した。彼は「核 シシッピィ川にかかる橋が落ちたというニュー 兵器のない世界」を提唱し、ノーベル平和賞を受 スでかき消され米国内で話題にならなった。 賞した。アメリカ市民の間では「オバマを動かせ」 日本に戻り、再びアメリカへ がスローガンになっている。変化を起こし、リー テロとの戦い一色になり、社会保障費が削減さ ダーを育てるのは自分たちだということだ。 「核 れ軍事費が増額され、個人情報が一元化された。 廃絶」は幻想ではない、理想を現実にするのは市 あわせて、自己責任･自助努力の名の下、民営化 民の力である。市民が声をあげることによって実 が教育、軍、災害関係にまで及んだ。このアメリ 現が可能になる。アメリカの帰還兵は平和憲法を カに嫌気がさし、日本に戻り、たまたま、イラク もつ日本とつながることを望んでいる。いまアメ 医師団の通訳をした。イラクは被爆国で劣化ウラ リカで人気のある教材は『ハダシのゲン』の英訳 ン弾の被害をうけている。医師たちは被爆国日本 である。弟を戦場で失った 22 歳の若い兵士は日 で被爆者が声をあげ続け、医師のお蔭で被爆医療 本人と手をつないで、ヒロシマ・ナガサキをアメ が進んでいることを知っている。被爆医療を教わ リカ人に伝えたいと語った。 （文責：柴田健次郎）
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