テキスト

各種コンデンサ材料の誘電分散の観測
静岡大学 工学部 電子物質科学科 符徳勝 2015 年6月作成
1. 目的
携帯電話やコンピューター等の電子デバイスには数百~数千個のコンデンサが用いられ、電
気回路動作の本質的な役割を果たす。多くのセラミックスコンデンサは誘電体材料 BaTiO3 のセ
ラミックスから作られている。本実験で、誘電体材料の基本性質である誘電率の測定原理を習
得し、BaTiO3 の積層セラミックスコンデンサ等を対
象とし、そのコンデンサの電気容量と誘電損失の周
波数依存性を測定する。これらの実験過程を通して,
誘電体の基礎及び誘電材料基本特性の正確な評価
方法を身につけることが目的である。
2. 誘電体の基礎
2.1 真空コンデンサの容量と真空誘電率
図1に示す様に、真空中に平行な二枚の金属板(面
積S、間隔d)から構成している電極に電圧Vを印
加すると、電極の表面に電荷Qが蓄積する。その真
空コンデンサに蓄積する電荷量Qが印加電圧Vに
比例する。比例係数C0を真空コンデンサの電気容量
と呼ぶ。
Q  C0V
(1)。
またC0と電極面積S、電極間の距離dの間に次式が
成立する。
C0 
 0 r S
d
図1.真空コンデンサ
図2.誘電体のコンデンサ
,  0  8.854  10 12 F/m,  r  1, (2)
その中にε0は真空の誘電率絶対値で、普遍定数であ
る。εrは真空の比誘電率で、一般的には真空誘電率
とも呼ぶ。式(2)より、コンデンサの電気容量は
誘電率及び電極面積に比例し、電極面積の間隔dに
逆比例することが分かる。
2.2 誘電体、電気双極子と電気分極
図2に示す様に真空コンデンサの電極間に電気
を通さない絶縁体を挿入すると、絶縁体中に正電荷
を荷電するイオンと負電荷を荷電するイオンは電
場の作用で逆方向に変位する。図3に示す様に、正
負電荷の変位より電気双極子が生じる。正負電荷の
位置が僅かにずれる現象を電気分極また単に分極
と呼ぶ。電場印加より電気分極が生じる或いは自然
的に電気分極が存在する物質を誘電体と呼ぶ。絶縁
体は誘電体になる。
図2に誘電体に電場より電気分極が生じるため、
図 3 電気双極子
表1.典型的な材料の誘電率
物質
r
真空
1(定義)
Teflon
2.1
Paper
3.5
Quartz
4.5-4.6
Mica
5-9
polyester
2.8-9
BaTiO3
3000-5000
誘電体から作製されたコンデンサの電気容量は同サイズの真空コンデンサの電気容量より大き
くなる。誘電体の電気容量にも式(2)が適用すする。但し、誘電体の比誘電率(一般的に誘
電率とも呼ぶ)は必ず1より大きい、
 r  1, (3)。
表1は典型的な材料の誘電率を示す。
2.3 複素数誘電率と誘電損失
理想的な誘電体
には抵抗が無限大
になるが、現実な
誘電体は必ず有限
の抵抗値を持つ。
その場合、誘電体
は図 4(b)の様な
等価回路を記述す
ることが出来る。
誘電体に交流電圧
を印加すると、損
失電流が発生する。
この様なエネルギ
ーの損失を誘電損
失と呼ぶ。交流電
場での誘電損失を
記述するため、複
素数誘電率を導入
図 4.複素数誘電率、誘電損失と並列等価回路。
することで数学的
な処理が便利になる。複素数ε*は次の様に定義する、
 *   0 r*   0 ( r'  j r" ),  r*   r'  j r" , (4)
ここ、 r は比複素数誘電率で、 r は比複素数誘電率の実部(一般的に誘電率の実数部とも呼ぶ)
*
'
で、  r"' は比複素数誘電率の虚数部である(一般的に誘電率の虚数部とも呼ぶ)。図 4C より誘電
損角 tanδは
I l  r" C "
tan    '  '
Ic  r C
(5)
になる。一般的に誘電損失は
tanδで評価することが多い。
式(5)から誘電率の虚数部
が大きい場合は誘電損失が
大きいことが分かる。
2.4 誘電分散と電気分極機構
図 5 に示す様に物質の電
気分極は電子分極、イオン分
極、電気双極子の配向分極、
界面の存在する電荷による
界面分極等に由来する。交流
電場の中に、電子分極の応答
が一番早く、紫外線の周波数
図 5. 分極機構と誘電分散
で起きる。次に赤外線領域でイオン分極が追随する。マクロ波の領域には配向分極が応答する。そ
れにより低い周波数領域では界面分極が現れる。この様に分極機構によって、応答周波数領域が異
なることが分かる。その結果、物質の誘電率は測定の周波数に依存する。誘電率の周波数依存性を
誘電分散と呼ぶ。
2.5 アドミタンス Y, インピーダンス Z, コンダクタンス G,サセプタンス B,レジスタンス R、等価
回路と Cole-Cole Plot.
ア ド ミ タ ン ス
(admittance)は、交流
回路における電流と電圧
の比である。単位はジー
メンス(表記は[S])であ
る。
I  YV
Y  1 / Z  G  jB
(6)
G  1/ R
B  C  1 / L
式 (6)に示す各量は イ
ンピーダンスアナライザ
或いはLCRメータをも
ちいて測定出来る。基本
原理は図6の等価回路を
仮定し、試料に交流電圧
Vを印加し、電流Iを測
定することで、 インピー
ダンス Z或いはアドミタ
ンスYを測定する。
勿論、
LCRメータで測定した
電気容量より、式(2)
を使えば、測定した材料
の誘電率の実部を求める
ことが出来る。また、図
6 示す様に測定試料の誘
電損失 tanδも測定出来
る。誘電率の実部と誘電
損失 tanδ が判れば、式
(5)より誘電率の虚数
部が求められる。
図 7 は抵抗と容量等価
回路のインピーダンスの
虚数部と実数部のプロッ
ト を 示 す 。 こ れ は
Cole-Cole plot の一つの
形である。同様にε”-ε’,
B-G 等の Cole-Cole plot
も描ける。Cole-Cole plot
図6.インピータンスの測定原理
図 7. Cole-Cole plot
図 8.容量と抵抗の並列・直列回路における各測定パラメータの変化
は誘電緩和等の解析には非常に有効である。図 8 はコンデンサと抵抗の並列と直列に繋がる時にL
CRメータで測定各パラメータの変化を示す。表1は並列と直列等価回路における各パラメータの
変換関係を示す。
表1、並列と直列等価回路における各パラメータの変換
3. 実験
3.1 注意事項
① 実験用の精密機器の使用方法をよく理解し、丁寧に扱う。
② 実験する前に必ず使用するZM2410LCRメータの使用マニュアル(付録ファイル)を熟
読し、使用方法を理解して下さい。
③ 測定用の試料を丁寧に扱ってください。
④ 測定用の試料を無くさないでください。
⑤ 装置の測定分解能をよく考えてテータ(大きさと単位)を記録して下さい。
3.2 実験装置、試料
① 測定用試料:図9は測定用の試料を示す。
(ア)
高分子材料:①ポリエステルコンデンサ
(イ)
抵抗:② a:1Mohmの金属抵抗, b:10kohm
(ウ)
単結晶:③水晶共振器
(エ)
多結晶:④積層セラミックスコンデンサa
(オ)
多結晶:⑤積層セラミックスコンデンサb
(カ)
電解質:⑥電解コンデンサ
(キ)
多結晶:⑦雲母(マイカ、mica)コンデンサ
図 9.①ポリエステル、②a:1Mohm, b:10kohm 抵抗、③石英結晶(SiO2)、④積層セラミックス
a⑤積層セラミックス b、⑥電解、⑦雲母(MICA)等のコンデンサ。
② ZM2410 LCRメータ :図9は測定用のLCRメータを示す。
図9(a). ZM2410 LCRメータのパネルと試料への配線
図9(c). 測定画面図、
9(b). 設定ボタン
a.測定等価回路の設定:三角の青い選択ボタンで次の設定を行う。SetEqu. Cct Parallel
(並列)or series (直列)
b.測定量1(上、例:Cp)の設定: Fun1をC,Z。Fun1キーを押し、C,Z等の測定量を選択する。
c.測定量2(下、例:Dp)の設定: Fun2D(=tanδ),A(位相角)。Fun2キーを押し、D,A等の測
定量を選択する。
d,測定開始のボタン: TRIG(一回のみの測定)、SNGL/RPT(繰り返しの測定)
e.周波数の設定: Freqキーを押し、周波数の数字を入力し、周波数の単位を選択する。
3.2 実験内容:⑥番の内容まで必ず行ってください。
① 試料①ポリエステルコンデンサ(1Mohm抵抗と直列に繋がっているコンデンサを利用して下
さい)の電気容量と誘電損失tanδ(D)の周波数依存性を測定する(周波数f=100Hz-100kHz)
(LCRメータの測定等価回路に並列回路(parallel)を選択し、測定すること)
,
300
f(Hz)
100
125
150
200
250
400
500
600
800
Cp
tanδ
f(kHZ)
1
1.25
1.5
2
2.5
3
4
5
6
8
Cp
tanδ(D)
f(kHZ)
10
12.5
16
20
25
3
40
50
63
80
100
Cp
tanδ
② 試料①ポリエステルコンデンサと②aの 1Mohm抵抗を直列に繋がり、其の直列回路試料の電
気容量と誘電損失tanδの周波数存性を正しく測定するために、以下の測定を行い、測定等
価回路の正しい選択方法を理解する。
a.並列等価測定回路の測定結果
f(Hz)
100
125
150
200
Cp
tanδ
f(kHZ) 1
1.25
1.5
2
Cp
tanδ
f(kHZ) 10
12.5
15
20
Cp
tanδ
b.直列等価測定回路の測定結果
f(Hz)
Cs
tanδ
f(kHZ)
Cs
tanδ
f(kHZ)
Cs
tanδ
,
250
300
400
500
600
,
800
2.5
3
4
5
6
8
25
30
40
50
60
80
300
400
500
600
800
100
125
150
200
,
250
1
1.25
1.5
2
2.5
3
4
5
6
8
10
12.5
15
20
25
30
40
50
60
80
100
100
③ 試料①ポリエステルコンデンサと②bの10kohm抵抗を並列に繋がり、並列等価測定回路でイ
ンピーダンス Zと位相角Aの周波数依存性を測定する(周波数f=100Hz-100kHz)
,
f(Hz)
Z
A
f(Hz)
Z
A
f(kHZ)
Z
A
f(kHZ)
Z
A
f(kHZ)
Z
A
20
25
30
40
50
60
80
100
125
150
200
250
300
400
500
600
800
1
1.25
1.5
2
2.5
3
4
5
6
8
10
12.5
15
20
25
30
40
50
60
80
100
125
150
200
250
300
400
500
600
80
1000
④ 試料③石英結晶(SiO2) コンデンサの電気容量と誘電損失tanδの周波数依存性を測定す
る(周波数f=100Hz-100kHz)(並列等価測定回路で測定すること)
f(Hz)
100
125
150
200
250
300
400
500
600
800
Cp
tanδ
f(kHZ) 1
1.25
1.5
2
2.5
30
4
5
6
8
Cp
tanδ
f(kHZ) 10
12.5
15
20
25
30
40
50
60
80
100
Cp
tanδ
⑤ 試料④積層セラミックスaコンデンサの電気容量と誘電損失tanδの周波数依存性を測定
する(周波数f=100Hz-100kHz)(並列等価測定回路で測定すること)
f(Hz)
Cp
tanδ
f(kHZ)
Cp
tanδ
f(kHZ)
Cp
tanδ
100
125
150
200
250
300
400
500
600
800
1
1.25
1.5
2
2.5
30
4
5
6
8
10
12.5
15
20
25
30
40
50
60
80
100
⑥ 試料⑤積層セラミックスbコンデンサの電気容量と誘電損失tanδの周波数依存性を測定
する(周波数f=100Hz-100kHz)(並列等価測定回路で測定すること)
f(Hz)
Cp
tanδ
f(kHZ)
Cp
tanδ
f(kHZ)
Cp
tanδ
100
125
150
200
250
300
400
500
600
800
1
1.25
1.5
2
2.5
30
4
5
6
8
10
12.5
15
20
25
30
40
50
60
80
100
⑦ .試料⑥電解コンデンサのコンダクタンスGとサセプタンス Bの周波数依存性を測定する(周
波数f=100Hz-100kHz)(並列等価測定回路で測定すること)
f(Hz)
100
125
150
200
250
300
400
500
600
800
G
B
f(kHZ) 1
1.25
1.5
2
2.5
30
4
5
6
8
G
B
f(kHZ) 10
12.5
15
20
25
30
40
50
60
80
100
G
B
⑧ 試料⑥電解コンデンサの電気容量と誘電損失tanδの周波数依存性を測定する(周波数
f=100Hz-100kHz)
a,並列等価測定回路で測定した結果
f(Hz)
Cp
tanδ
f(kHZ)
Cp
tanδ
f(kHZ)
Cp
tanδ
100
125
150
200
250
300
400
500
600
800
1
1.25
1.5
2
2.5
30
4
5
6
8
10
12.5
15
20
25
30
40
50
60
80
100
b,直列等価測定回路で測定した結果
f(Hz)
G
B
f(kHZ)
G
B
f(kHZ)
G
B
100
125
150
200
250
300
400
500
600
800
1
1.25
1.5
2
2.5
30
4
5
6
8
10
12.5
15
20
25
30
40
50
60
80
100
⑨ 試料⑦雲母(MICA) コンデンサの電気容量と誘電損失tanδの依存性を測定する(周波数
f=100Hz-100kHz)(並列等価測定回路で測定すること)
f(Hz)
100
125
150
200
250
300
400
500
600
800
Cp
tanδ
f(kHZ) 1
1.25
1.5
2
2.5
30
4
5
6
8
Cp
tanδ
f(kHZ) 10
12.5
15
20
25
30
40
50
60
80
100
Cp
tanδ
4.結果に対する考察・議論
4.1 注意
* 考察・議論について、下の項目別に分けて記述すること。
* グラフ・表を書く場合には必ず題名をつける。グラフの題名はグラフの下,表の題名は表の上
に書く。グラフ中のプロットの説明(凡例)を図中に必ず書き入れる。
* レポート作成時に引用した本,文献は,引用した文章の直後に記す。この時,本・文献の名前・
出版社・出版年・引用した文が載っているページ番号を書く。本・文献の丸写しは禁止する。
* Webから得た情報をそのまま写してはならない。必ず,教科書などでその内容が正しいこ
とを確認してから引用する。
* レポートは,他人に理解してもらうための文書であるので,理解してもらえる文章を書かな
くてはならない。その意識を強く持つこと。
*
4.2 考察・議論内容:
注意:*下記の順番で⑨番まで必ず行ってください。
*グラフを見やすいために、よく考えて綺麗に作成をして下さい。
① ポリエステルコンデンサコンデンサの電気容量Cと誘電損失 tanδ(D)の周波数依存性(対
数周波数軸を使用すること,下図に参照)を求める。
6
60
4
Cs
tan
3
30
2
tan(%)
Cs (nF)
5
1
0
1
10
2
10
3
10
f (Hz)
4
10
5
0
10
② ①ポリエステルコンデンサと②抵抗を直列に繋がった場合、並列等価回路と直列回路で測定し
た結果を求め、両者を比較し、等価測定回路の正しい選択方法について考察する。
③ ①ポリエステルコンデンサと②抵抗を直列に繋がった場合、直列等価測定回路で測定した結果
より、C’とC”を求めて、C’-f とC”-f のグラフ及びC” -C’の Cole-Cole plot を求
める。
④ ①ポリエステルコンデンサと②抵抗を並列に繋がった場合、測定したインピーダンス Z と位
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
相角 A より、インピーダンスの実数部Z’と虚数部Z”を求めて(求め方は図6に参照)、Z’
-f とZ”-f のグラフ及びZ” –Z’の Cole-Cole plot を求める。
石英結晶(SiO2) コンデンサの電気容量と誘電損失 tanδの周波数依存性(対数周波数軸を使用
すること)を求める。
積層セラミックス a コンデンサの電気容量と誘電損失 tanδの依存性(対数周波数軸を使用する
こと)を求める。
積層セラミックスbコンデンサの電気容量と誘電損失 tanδの依存性(対数周波数軸を使用する
こと)を求める。
単結晶と積層セラミックスの誘電分散相違を説明し、その理由について考察する。
積層セラミックスコンデンサ a とbの誘電分散の相違を説明し、その理由について考察する。
その用途について考察する。
電解コンデンサの B-G の Cole-Cole plot を描く。
電解コンデンサの電気容量と誘電損失 tanδの依存性(対数周波数軸を使用すること)を求める。
並列と直列測定等価回路で測定した結果の相違を説明する。
雲母(MICA) コンデンサの電気容量と誘電損失 tanδの依存性(対数周波数軸を使用すること)を
求める。
5. 総括
① 実験全体について,理解したことなどを科学的に述べる。
② 実験についての問題点・気づいた点を科学的視点から述べる。
6. 課題・問題
*テキストを熟読すること。
*ZM2410 LCR メータの使用マニュアル(付録ファイル)を熟読すること。
① RCの測定結果に基づいて,誘電材料に損失が存在し、等価回路が適用した場は実験結果と絡
めながら誘電材料の Cole-Cole について説明する。
② 誘電分散及び分極機構について説明する。
③ 測定表に用いた測定周波数の設定理由について考えよ。