暗黒の深海の生態系を垣間見る

徳田先
先生の部屋
第1回
第1回
「
「暗黒の
の深海の
の生態系
系を垣間
間見る」
徳田 廣
プロフィール
略歴:
大学農学部教
教授を定年退官
官後、1990 年
年から 1994 年まで
年
JANUS
S に顧問とし て在籍
東京大
専門:
海洋の
の油汚染、海
海洋生態学、藻
藻類学
著書:
・ 海藻資源養殖学
学(緑書房)
・ 海藻検索図鑑(北隆館)
・ 図鑑海藻の生態
態と藻礁(緑
緑書房)
通常の地上の
通
の生態系では
は、葉緑素を
を持った植物
物が太
獲したマッコウクジラの胃
胃から全長 19m程度の
のダイ
陽光
光を利用して
て光合成を行
行って有機物
物を生産し、 動物
オウイカが発見
見されている
る。1972 年にポルトガ
年
ガルで
達はその有機物
物を食べて生
生育している
る。このよう に緑
捕獲したマッコウクジラの
の胃からは、全長 16m
mのダ
植物が基礎 となって生態系を支えているわけ であ
色植
発見されてい
いる。
イオウイカが発
る。
。このため、、緑色植物に
には基礎生産
産者という呼
呼称も
ある。
陽光が届かな
ない暗黒の深
深海底では、どの
しかし、太陽
が存在するの
のだろうか。
ような生態系が
マッコウクジラは水深
深 1,000mまで潜水可能
能とい
過去原子力潜
潜水艦と衝突
突したり、海
海底ケ
われており、過
するなどの事
事故を起している
ーブルに絡まって死亡す
ッコウクジラ
ラの皮膚にイ
イカの吸盤に
に吸い
動物だが、マッ
昨 2006 年 12 月国立科
科学博物館の
のスタッフが 、小
思われる傷が
が見られるこ
ことがあり、深海
付かれた跡と思
原諸島の弟 島近海の水深
深約 650mより全長7 mと
笠原
広げら
でマッコウクジラとダイ オウイカの間で繰り広
推定される深 海棲巨大イカであるダイオウイ カ
いを彷彿とさ
させられる。
れる凄惨な戦い
A
s )を釣り上げ
げたと報じら
られた。この ニュ
(Architeuthis
ースによって深
深海棲生物に関心を持った人も多
多いの
ではないだろうか。
1977 年に米
米国潜水調査
査船アルビン
ン号が太平洋
洋東部
島の水深 2,6600mの海底
底で、煙突状
状に盛
ガラパゴス諸島
造物(チムニ
ニー)の頂上
上から 380℃
℃の熱
り上がった構造
カが採れるこ
ことは滅多に
に無いので、その
ダイオウイカ
いるのを発見
見した。その
の後も幾つか
かのチ
水が噴出してい
態の詳細は未
未だ不明な点
点が多い。だ
だが、ダイオ
オウイ
生態
かっている。
。これらのチ
チムニーには
は二つ
ムニーが見付か
カはマッコウク
クジラ(Physseter macro
ocephalus ))の胃
って、噴出す
する熱水が黒
黒っぽく見え
えるの
のタイプがあっ
発見されてい
いるので、マッコウクジ
マ
ジラの
からしばしば発
モーカーで、
、白っぽく見
見えるのがホ
ホワイ
がブラックスモ
物のようだ。
。
好物
である。
トスモーカーで
古くは 1950
0 年頃、イン
ンド洋でロシ
シアの捕鯨船
船が捕
1
前者のチムニ
ニーの主成分
分は磁硫鉄鉱
鉱、黄鉄鉱、閃亜
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徳田先生の部屋
鉛鉱で、後者の主成分は非結晶シリカ黄鉄鉱である。
チムニーの生態系の基礎を形成しているのは、化学
合成硫黄酸化細菌とされている。これが、熱水に含ま
れる硫化水素を酸化し、その際に発生するエネルギー
を利用して酸素・硫化水素・二酸化炭素から有機物生
産を行っている。
第1回
主な参考資料
・国立科学博物館ホームページ http://www.kahaku.go.jp
・独立行政法人 海洋研究開発機構ホームページ
http://www.jamstec.go.jp
・独立行政法人 水産総合研究センター 中央水産研究所ホー
ムページ http://www.nrifs.affrc.go.jp
・大石正道(1999)生態系と地球環境のしくみ (日本実業出版
社)
・新江ノ島水族館ホームページ http://www.enosui.com
ガラパゴス断層では、形状の変化に富んだ非活動性
チムニーが、幅 200m、高さ 1,000mに及ぶ重金属海
嶺を形成している。
このように高温の熱水を出すチムニーの噴出口周
辺には、1mもある巨大な管に棲む管棲ゴカイ(マリ
アナイトエラゴカイ Paralvinella )や殻長 30cm も
ある二枚貝(シロウリガイ Calyptogena 等)が生息
していることが知られている。
昨 2006 年 2 月、独立行政法人
海洋研究開発機構
の極限環境生物圏研究センターは、インド洋中央部の
水深 2,422m で発見されたチムニーから鉄の鱗で脚
部表面を防御したいわば脚部に鉄の鎧を履いたよう
な姿の殻の直径が3~5㎝の巻貝(ウロコフネタマガ
イ、
通称スケーリーフット Crysomallon squamiferum )
を採取し、船上の水槽で飼育するのに成功している。
熱水生態系は、広い海洋ではほとんど点として把握
されているに過ぎないような狭小地域で展開されて
いるものなので、チムニーから今後どのような変わっ
た生物が発見されるか興味はつきない。
2007 年 02 月
2
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