2.4. 二位価格入札(せり上げ、プロキシ)をナッシュ均衡分析する

2015 年 9 月 25, 29 日
2.4. 二位価格入札(せり上げ、プロキシ)をナッシュ均衡分析する:
カルテル(談合、Bidding Ring)
メロン問題で二位価格入札(せり上げ、プロキシ)再考
正直戦略 si  wi が唯一の優位戦略である
正直戦略プロファイル s  ( wi )iN はナッシュ均衡でもある(Why?)
しかし、実は、
「唯一の」ナッシュ均衡ではない!
優位戦略では、相手の指値がわからないため、万が一を危惧して、正直戦略に固執した(定
理 2-2)
ナッシュ均衡では、相手の財評価がわかっている、相手の指値を正しく予想している、こと
が仮定される
∴ 定理2-2のような危惧は必要ない
そのため、ナッシュ均衡はたくさんあるかもしれない!
1
例:入札者二人。 w1  100 、 w2  70 としよう。
二人が正直戦略をプレイするならば、入札者1が落札して、売り手に 70 円はらう
入札者1が正直戦略( s1  w1  100 )、入札者2がゼロ( s2  0 )
を指値するケースはどうか?
入札者1がメロンをタダで落札できてしまう
実は、これもナッシュ均衡になっている
WHY?
入札者1は正直戦略によって、ただでメロンが手に入るのだから、当然ベスト!
入札者2は、メロンを手に入れるためには、100 以上を指値しないといけない。
しかし、これは自身の財評価 70 より高いから損
∴
ナッシュ均衡の条件をみたしている!
2
このゼロ収入のナッシュ均衡は
入札者間で「カルテル」を結ぶ可能性を暗示している
カルテル形成のシミュレーション:
入札者1と2がコミュニケーションして
「入札者1の財評価100、入札者2の財評価70」という情報を共有する
次に
入札者1「私が落札します。あなたはゼロを指値して、私が安く購入することに協力してく
ださい」
入札者2「はいわかりました」
(この時、入札者1は入札者2のポケットにそっと小さなみかんを偲ばせるのだった)
この約束は口約束ではない。
なぜならナッシュ均衡になっているから!(みかんもきいてるかも)
3
一位価格入札の場合はどうだったか?
入札者1は、自身の指値を低くしないと安く手に入れられない。
よって、入札者2に自分よりもっと安く指値することを約束してもらわないといけない。
たとえば「私は 1 円、あなたは 0 円を指値しましょう」
この約束は実行されないだろう。
なぜならナッシュ均衡でないからだ(定理2-4を見よ)
入札者2は、実際のオークションの場では
2 円を指値してメロンをせしめるだろう。
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二位価格入札にはたくさんナッシュ均衡がある
定理2-5:以下の条件をみたす戦略プロファイル s はすべてナッシュ均衡である。
タイプ1( s1  s2 :入札者1が落札): s1  w2 、 s2  w1
タイプ2( s1  s2 :入札者2が落札): s1  w2 、 s2  w1
証明:各自検討せよ!
タイプ1タイプ 2 共通に:
非落札者は、落札者の財評価よりも低く指値
落札者は、非落札者の財評価よりも高く指値
⇒ナッシュ均衡成立!
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タイプ2:低い財評価の入札者が落札するナッシュ均衡が存在する
「この間お前が落札したから今度は俺の番だ」
例えば s1  0 、 s2  100
入札者2は自身の財評価 70 を大きく超えた指値(100)をしている
*意地悪な(spiteful)均衡もある
非落札者は相手の財評価ぎりぎりの値を指値:
タイプ1( s1  w1 、 s2  w1 )
タイプ2( s2  w1 、 s1  w2 )
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以上より
二位価格入札にはたくさんの(内容の異なる)ナッシュ均衡がある
なかには、売り手収入を非常に低くする均衡もある
一位価格入札にはそのようなナッシュ均衡はない
∴
一位価格入札(せりさげ)の方が二位価格入札(せりあげ、プロキシ)より
カルテル(談合、Bidding Ring)が起こりにくい
ならば、一位価格入札にしておけばカルテル対策は万全か?
そうともいえない..
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現実のカルテルの多くは…
同じ業者がひんぱんに入札に同席している: 長期的な相互依存関係にある
「今回カルテルの約束を破ったら、次回からは敵対関係に逆戻りだぞ!」
ゲーム理論では、「繰り返しゲーム」によって分析される:
上の脅しがから脅しでないことがわかる
(神取ミクロ7.5節)
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本講義第 7?章にて「カルテル」を詳しく解説する予定!
次回は第 3 章に突入!
「不完備情報のゲーム理論とメカニズムデザイン」
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