なぜ多い英名の牛

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なぜ多い英名の牛
①ヘレフォード
(Hereford)
②ショートホーン
(Shorthorn)
③ケリー
(Kerry)
④フリーシアン
(Friesian)
印南 博之
(切手収集家、農政ジャーナリストの会会員)
牧畜の国エール(アイルランド)の4頭の牛切
手(1984年発行)をご紹介します。
こんなに美しく、パネル絵にしたいような切手
はめったにありません。
この牛たちは、①ヘレフォード(Hereford)、
ホーンに対して短い角という意味で付けられたよ
うで、普通の牛の角の長さと変わりありません。
日本には明治初年にアメリカから移入され、和
牛の日本短角種の改良に役立てられました。
②ショートホーン(Shorthorn)が肉牛で、③ケ
ケリー③は、4頭のうちで一番野生に近い姿を
リー(Kerry)、④フリーシアン(Friesian)が乳
していますね。そうです、アイルランド南西部の
牛です。フリーシアンは、日本ではホルスタイン
ケリー山地が原産の在来種が改良されたもので、
(Holstein)という名前で親しまれています。
また、ヘレフォード、ケリー、フリーシアンと
いう名前がすべて地名に由来するということで、
体格は小型で、3千年ほど経過しているといわれ
ています。
フリーシアン④は、わが国ではホルスタインと
筆者は長年「ガーンジー(Guernsey)やジャー
いう名で呼ばれていますが、アメリカではホルス
ジー(Jersey)」も含めて、何故牛には英語名が
タイン フリーシアン、英国ではフリーシアン ホ
多いのだろうかという疑問を持っていました。そ
ルスタインと呼ばれ、乳牛の代名詞となっていま
れがこの牛たちのことを調べてみて、そのナゾが
す。
解けました。
どうしてこういう名前になったかというと、紀
ヘレフォード①は、イギリスのイングランド西
元前にオランダ北部からドイツの西北部に飼われ
南部のヘレフォード州に古くからいた牛で18世紀
ていた牛がオランダで改良され、品種として成立
半ばから肉用種として改良され、ヨーロッパ各国、
したのがフリースラントであることからフリーシ
アメリカへと普及していきました。日本へは大戦
アンと呼ばれ、アメリカへの最初の輸入がドイツ
後に八ヶ岳農業センターへ、アメリカからやって
のホルシュタイン地方からだったのでホルスタイ
きました。
ンと呼ばれました。日本へは明治の初め頃にアメ
ショートホーン②は、3枚の切手のうちで一番
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ショートホーンと呼ばれたのは、長い角のロング
リカから移入されています。
ダイナミックな絵ですね。それは前足の間に胸の
17∼18世紀に英国は産業と貿易が発展して人口
肉が垂れ下がるように発達しているという特徴に
が増え、牛肉や乳製品の需要も増えました。これ
あるようです。イギリスのイングランド北東部に
に応じて牧場主(地主)たちが牛や羊の品種改良
またがるティース河沿岸が原産で、18世紀後半に
に力を注いだため、多くの新種が飼育されるよう
改良されましたが、肉用種というより、乳肉兼用
になったのです。
種に近かったようで、その後19世紀の中頃にスコ
*参考資料:(社)畜産技術協会 世界家畜品種
ットランドで肉用種として改良されたようです。
事典(2005年)