10 地中熱対応高効率水冷式ヒートポンプの開発

10 地中熱対応高効率水冷式ヒートポンプの開発
○空
空正
1.
柴 芳郎(ゼネラルHP)
関根 賢太郎(大成建設)
空正
大岡 龍三(東京大学)
谷藤 浩二(ゼネラルHP)
寒 冷 地 の 場 合 、冬 期 に 空 冷 ヒ ー ト ポ ン プ を 用 い る
はじめに
と フ ロ ス ト ・ デ フ ロ ス ト を 起 こ し 、 能 力 と CO P
地球の気候変動の原因となる温室効果ガスの
が低下する。
排 出 削 減 の 努 力 が 全 世 界 で な さ れ て い る な か 、未
さ ら に 、地 中 熱 ヒ ー ト ポ ン プ の 三 つ 目 の メ リ ッ
利用エネルギーの一つと言われている地中熱と、
高 効 率 な 冷 熱・ 温 熱 供 給 が 可 能 な ヒ ー ト ポ ン プ を
ト と し て は 夏 期 に 室 外 に 排 熱 を 出 さ ず 、地 中 に 熱
組み合わせることによる省エネルギーシステム
を放熱するため都心部のヒートアイランド現象
が 一 つ の ソ リ ュ ー シ ョ ン と な る 。こ こ で は 、地 中
の改善になる。
そ の 他 、地 中 熱 交 換 器 は 表 に 出 ず 、 ヒ ー ト ポ ン
熱システムの概要と地中熱に対応した水冷式ヒ
ートポンプの高効率化について紹介する。
プも室内設置が可能なため空冷ヒートポンプと
2.
違い建築物の美観を損ねることがないことも重
2.1
地中熱源ヒートポンプシステム
要な利点の一つである。
地中熱のメリット
地 中 熱 は 、地 中 温 度 の 熱 容 量 が 大 き く 安 定 し て
膨張弁
一次側
(熱源)
い る た め 、地 中 温 度 が 外 気 温 度 に 比 べ て 夏 は 低 く 、
冬は高いのでヒートポンプの熱源としては空冷
ポンプ
二次側
(負荷側)
膨張弁
冷水
入口
温水
入口
逆止弁
逆止弁
ポンプ
熱交換器
(蒸発器)
よ り も 有 利 で あ る と 言 え る ( 図 1 )。
加熱負荷
温度
熱交換器
(凝縮器)
メリット
熱源水回路
冷水
出口
外気温
温水
出口
冷媒回路
温水回路
四方弁
圧縮機
メリット
地中温度
7~8月(夏)
地中
1~2月(冬)
ヒートポンプ
月
地中熱交換器
図 1
地中温度と外気温
地中熱源ヒートポンプは地中を熱源とするが、
図 2
地 中 か ら / 地 中 へ の 熱 搬 送 は 水 ま た は 不 凍 液( ブ
ラ イ ン )を 媒 体 と す る こ と が 多 い 。し た が っ て そ
地中熱源ヒートポンプチラー(加熱)
一次側
(熱吸収源)
の場合ヒートポンプとして水冷式ヒートポンプ
を用いることになる。
膨張弁
膨張弁
温水
入口
二次側
(負荷側)
冷水
入口
逆止弁
ポンプ
ポンプ
逆止弁
熱交換器
(凝縮器)
地中熱対応水冷式ヒートポンプチラーで加熱
冷却負荷
を 行 う 場 合 は 加 熱 負 荷 側 が 凝 縮 器 、地 中 熱 交 換 器
熱交換器
(蒸発器)
側 が 蒸 発 器 と な る ( 図 2 )。 一 方 、 地 中 熱 対 応 水
温水
冷却水回路 出口
冷式ヒートポンプチラーで冷却を行う場合は冷
却 負 荷 側 が 蒸 発 器 、地 中 熱 交 換 器 側 が 凝 縮 器 と な
冷水
出口
冷媒回路
圧縮機
冷水回路
四方弁
る ( 図 3 )。 こ こ で 加 熱 ・ 冷 却 の 切 り 替 え は ヒ ー
トポンプ内の四方弁で行われる。
地中
ヒートポンプ
実際のメリットとしては地中熱ヒートポンプ
の地中熱側水熱交換器冷媒温度と空冷ヒートポ
地中熱交換器
ンプの空気熱交換器側冷媒温度の差がメリット
な る ( 図 4 )。 外 気 と 地 中 温 度 の 差 は 大 き な も の
図 3
で あ る が 、地 中 熱 交 換 器 の 熱 交 換 率 が 悪 い 場 合 は 、
地中熱と空冷のメリットが逆転する場合もある
2.2
ので地中熱交換器の選定には注意が必要である。
地中熱源ヒートポンプチラー(冷却)
地中熱交換器の種類
地中熱交換器の主流である垂直型地中熱交換
ま た 、地 中 熱 ヒ ー ト ポ ン プ の 二 つ 目 の メ リ ッ ト
器には大きく分けてボアホール方式と杭方式が
としては、暖房や給湯等の加熱運転時にフロス
あ る 。ボ ア ホ ー ル 方 式 と は ポ リ エ チ レ ン 管 2 本 の
ト・デフロストが起こらないということである。
先端を U 字加工した U チューブと呼ばれるもの
- 41 -
を 井 戸( ボ ア ホ ー ル )に 挿 入 す る 方 式 で あ り 、杭
ま た 、地 中 熱 ヒ ー ト ポ ン プ で も エ コ キ ュ ー ト と
方式とは建築物の基礎を熱交換器として兼用す
同 様 に 給 湯 用 ヒ ー ト ポ ン プ と し て 利 用 さ れ 、フ ロ
る方式である。各方式の概要を表1に示す。
ス ト・ デ フ ロ ス ト が な い た め 寒 冷 地 で も 利 用 が 可
能 で あ る ( 図 7 )。
1 本 当 た り の 地 中 熱 交 換 器 の 長 さ は 普 通 20~
100m 程 度 で あ り 、 大 容 量 と す る た め に は 同 種 の
同様にプール加温や浴槽加温でも地中熱ヒー
ト ポ ン プ が 利 用 さ れ て い る ( 図 8 )。
地 中 熱 交 換 器 を 複 数 配 置 し 、ヘ ッ ダ ー 管 に 接 続 す
最 近 は 、地 中 熱 ヒ ー ト ポ ン プ に よ る 融 雪 も 採 用
る形をとる。
温度
さ れ て お り 、散 水 方 式 が 利 用 で き な い 極 寒 冷 地 で
空冷HP空気側冷媒温度
外気温
地中熱HP地中側冷媒温度
熱源/冷却水温度
地中温度
有利
の 採 用 が 増 え て い る ( 図 9 )。
有利
季節
7∼8月(夏)
図 4
表 1
名称
シングル
Uチューブ
方式
1∼2月(冬)
熱源温度
地中熱交換器の種類
ダブル
Uチューブ
二重管
杭二重管
ボアホール方式
杭+
Uチューブ
現場施工杭
(場所打ち杭)
杭方式
図 5
断面図
一次側
(熱源)
空調利用(暖房時)
二次側
(負荷側)
膨張弁
冷水
入口
ポンプ
10℃
熱交換器
(蒸発器)
立面図
35℃
熱交換器
(凝縮器)
熱源水回路
ポリエチレン、銅、ステンレス
材質
流体
封入
外管:スチール、
コンクリート
内管:ポリエチ
レン、塩ビ、ス
チール
杭:スチール、
コンクリート
内管:ポリエ
チレン、ス
チール
水、不凍液、冷媒
水、不凍液
管外:土、グラウト材※
なし
杭:スチール、
コンクリート
内管:ポリエチ
レン、銅、ス
チール、ステン
レス
杭:鉄筋コン
クリート
Uチューブ:ポ
リエチレン
冷水
出口
30℃
5℃
冷媒回路
圧縮機
地中
ヒートポンプ
水、不凍液、冷媒
グラウト材※、
水
コンクリート
地中熱交換器
※グラウト 材:コンクリート 、ベント ナイト 、珪砂、 豆砂利等
3.
図 6
用途
床暖房利用
地 中 熱 ヒ ー ト ポ ン プ シ ス テ ム の 用 途 は 、空 冷 ヒ
ー ト ポ ン プ と 同 様 に 空 調 、床 暖 房 、給 湯 、プ ー ル ・
浴槽昇温、融雪等がある。
空調の場合は四方弁により冷暖房を切り換え
る こ と が 可 能 で あ り 、ヒ ー ト ポ ン プ で 生 成 さ れ る
冷 温 水 温 度 は 冷 房 で 5~ 10℃ 、 暖 房 で 40~ 50℃
程 度 で あ る ( 図 5 )。 効 率 面 と 考 慮 す る と 快 適 性
を 失 わ な い 程 度 に 冷 房 時 冷 水 温 度 を 高 く し 、暖 房
時 温 水 温 度 を 低 く す る と 良 い 。ま た 、 水 蓄 熱 や 氷
蓄熱にも対応可能である。
欧米では地中熱ヒートポンプシステムが普及
図 7
し て い る が 、こ れ は 住 宅 が 高 気 密 ・ 高 断 熱 で あ り
床暖房を採用しているので床暖房用の温水供給
温 度 を 35℃ 程 度 と 暖 房 に 比 べ て 低 い 温 度 に す る
こ と が で き 、ヒ ー ト ポ ン プ の 効 率 が 向 上 す る こ と
が 一 因 と な っ て い る ( 図 6 )。
- 42 -
給湯利用
床暖房
途 に 対 し て 二 次 側( 負 荷 側 )と 一 次 側( 熱 源 )の
両 方 、つ ま り 冷 却・加 熱 の そ れ ぞ れ の 能 力 と CO P
を 示 し て い る 。こ の よ う に 例 え ば 地 中 熱 利 用 の 冷
却 条 件 で CO P6 . 1 を と 高 い 性 能 を 実 現 し て い る 。
ま た 、開 発 機 の 能 力 線 図 を 図 1 3 か ら 図 1 7 に 示
す 。 能 力 線 図 は 冷 水 ( 不 凍 液 ) 出 口 温 度 が - 10 ℃
までの性能を示している。
図 8
一次側
(熱源)
プール・浴槽昇温利用
二次側
(負荷側)
膨張弁
冷水
入口
ポンプ
25℃
0℃
熱交換器
(蒸発器)
図 10
15℃
地中熱対応高効率水冷式ヒートポンプ
熱交換器
(凝縮器)
熱源水回路
チラー(15HP相当)
冷水
出口
-5℃
10℃
冷媒回路
融雪
圧縮機
地中
ヒートポンプ
地中熱交換器
図 9
4.
図 11
熱 交 換 器 ( 左:銅 多 重 管 式 , 右:プ レ ー ト 式 )
図 12
ス ク ロ ー ル 圧 縮 機 (左 : 旧 型 、 右 : 新 型 )
融雪利用
地中熱対応高効率水冷式ヒートポンプ
の開発
こ の よ う に 、地 中 熱 ヒ ー ト ポ ン プ シ ス テ ム を 構
築 す る こ と に よ り 、空 冷 ヒ ー ト ポ ン プ よ り も 高 い
ポ テ ン シ ャ ル が あ る と 言 え る が 、対 応 す る ヒ ー ト
ポンプ自体の効率が低いとそのメリットも相殺
されてしまう。
そこで地中熱対応で高効率な水冷式ヒートポ
ン プ チ ラ ー を 開 発 し た ( 図 1 0 )。
表 2
開 発 機 性 能 表 ( 5 0 H z)
開 発 機 の 特 徴 は 、冷 媒 は 新 冷 媒 R4 0 7 C を 用 い 、
冷
冷
温
温
冷
加
消
冷
加
1 モ ジ ュ ー ル 15H P 相 当 で 最 大 10 モ ジ ュ ー ル ま
水
水
水
水
却
熱
費
却
熱
で 連 結 可 能 で あ る 。ま た 、従 来 機 に 比 べ て 容 積 率
入
出
入
出
能
能
電
C
C
39% を 実 現 し た 。
口
口
口
口
力
力
力
O
O
従来の水冷式ヒートポンプチラーの熱交換器
℃
℃
℃
℃
kW
kW
kW
P
P
は 銅 多 重 管 式 の も の を 用 い て い た が 、開 発 機 で は
冷却
12
7
25
30
41
48
6.8
6.1
7.0
プレート式熱交換器を採用してコンパクト化す
氷蓄熱
-2
-5
25
30
27
34
6.7
4.0
5.0
るとともに伝熱面積を大幅に増大させることに
加熱
10
5
40
45
31
41
9.8
3.2
4.1
よ り 効 率 向 上 を 図 っ た ( 図 11 )。
床暖房
10
5
30
35
37
45
7.9
4.7
5.7
ま た 、熱 交 換 器 容 量 増 大 に よ る 能 力 向 上 の 分 だ
融雪
0
-5
10
25
30
35
6.0
5.0
6.0
け 圧 縮 機 の 容 量 を 1 ラ ン ク 落 と し 、断 熱 効 率 の 高
加温
10
5
45
50
32
43
11
2.9
3.9
い新型のスクロール圧縮機とすることによりさ
給湯※
10
5
17
65
31
45
14
2.3
3.3
ら に 効 率 が 向 上 し た ( 図 1 2 )。
※高温型タイプの場合
そ の 他 冷 媒 回 路 の 見 直 し 等 を 行 い 、従 来 機 に 対
し て 50% 以 上 の 効 率 向 上 を 実 現 し た 。 用 途 に 応
じ た 性 能 を 表 2 で 示 す 。こ こ で は 、そ れ ぞ れ の 用
- 43 -
Hot Water Outlet
Temperature[℃]
12
10
10
50
45
40
35
30
25
8
6
4
Cooling COP
Electric Power[kW]
14
2
-10
-5
0
5
10
15
Cool Water Outlet Temperature[℃]
Heating Capacity[kW]
図 13
35
6
40
45
50
4
2
20
-10
-5
0
5
10
15
Cool Water Outlet Temperature[℃]
図 17
消費電力線図
Hot Water Outlet
Temperature[℃]
80
70
60
50
40
30
20
10
0
30
40
50
5.
20
冷 却 CO P 線 図
最後に
地中熱利用ヒートポンプシステムは環境負荷
低 減 に 大 い に 役 立 つ が 、普 及 阻 害 要 因 は ヒ ー ト ポ
ン プ 性 能 と 地 中 熱 交 換 器 の コ ス ト で あ っ た 。そ れ
に 取 り 組 ん だ の が 、 2003 年 10 月 か ら 2006 年 3
月 ま で の 独 立 行 政 法 人 新 エ ネ ル ギ ー・産 業 技 術 総
合 開 発 機 構 ( N ED O )『 エ ネ ル ギ ー 使 用 合 理 化 技
術戦略的開発
化開発
-10
-5
0
5
10
15
Cool Water Outlet Temperature[℃]
図 14
20
30
40
50
50
大都市における基礎杭を利用した地中
熱 空 調 シ ス テ ム の 普 及 ・ 実 用 化 に 関 す る 研 究 (東
で あ り 、ヒ ー ト ポ ン プ に つ い て の 成 果 の 一 部 を こ
Hot Water Outlet
Temperature[℃]
60
エネルギー使用合理化技術実用
京 大 学 、 大 成 建 設 、 ゼ ネ ラ ル ヒ ー ト ポ ン プ 工 業 )』
加熱能力線図
70
Cooling Capacity[kW]
8
0
0
こで示した。
6.
参考文献
1) 地 中 熱 源 対 応 水 冷 式 ヒ ー ト ポ ン プ チ ラ ー の 開
発 ,柴
芳 郎 ・大 岡 龍 三 ・関 根 健 太 郎 , 平 成 1 6 年 度
40
空 気 調 和 ・ 衛 生 工 学 会 学 術 講 演 会 (名 古 屋 )講 演 論
30
文 集 ,2004 年 9 月
20
2 ) D E V ELO PM E N T O F H IG H PE R FO RM AN C E
10
WAT E R- TO - WATE R
G RO U N D - S O U RC E
0
-10
-5
0
5
10
15
Cool Water Outlet Temperature[℃]
図 15
20
6
PU M P
A P PL I CAT IO N ,
FO R
Yo s h i r o
S hi b a , Ryu zo O o k a , K e n t a r o S e k i ne , 8 TH I E A
2005
Hot Water Outlet
Temperature[℃]
8
H EAT
H EAT PU M P CO N F ER EN C E 2 0 0 5 ( La s Ve ga s ) ,
冷却能力線図
10
Heating COP
Hot Water Outlet
Temperature[℃]
3) 場 所 打 ち 杭 を 用 い た 地 中 熱 利 用 空 調 シ ス テ ム
の 普 及 ・ 実 用 化 に 関 す る 研 究 ( そ の 11 ) 年 間 実
35
験結果ならびに施工実績をもとにしたフィージ
40
45
50
ブルスタディ, 関根賢太郎・大岡龍三・横井睦
4
己 ・ 柴 芳 郎 ・ 黄 錫 鎬 , 平 成 17 年 度 空 気 調 和 ・ 衛
生 工 学 会 大 会 ( 札 幌 ) 講 演 論 文 集 , 2005 年 8 月
4) 場 所 打 ち 杭 を 用 い た 地 中 熱 利 用 空 調 シ ス テ ム
2
の 普 及 ・ 実 用 化 に 関 す る 研 究 ( そ の 12) 水 冷 式
0
ヒートポンプ高効率化のための性能計算プログ
-10
-5
0
5
10
15
Cool Water Outlet Temperature[℃]
図 16
加 熱 CO P 線 図
20
ラムの開発, 柴 芳郎、大岡 龍三、関根 賢太郎,
平 成 17 年 度 空 気 調 和 ・ 衛 生 工 学 会 大 会 ( 札 幌 )
講 演 論 文 集 ,2005 年 8 月
5) 地 中 熱 利 用 ヒ ー ト ポ ン プ の 構 造 と 特 徴 , 柴
芳
郎 , 日 本 地 熱 学 会 誌 第 27 巻 第 4 号 , 2005 年 10 月
- 44 -