先端を行くプラネタリウム - 中国経済産業局

テクノえっせい 317
先端を行くプラネタリウム
広島工業大学名誉教授
中山勝矢
晴れた夜、空に星を仰ぐと崇高な想いに捉われます。
ニューヨーク行きの便が給油でアラスカのフェアバンクスに
降りていたころ、観光に25時間だけ泊ったことがありました。
ほとんど駐機のない夜の飛行場に出ると、遠くの山の端
から反対側の稜線まで妨げるものがなく、空一面に輝く星
や銀河に圧倒されてしまった覚えがあります。(写真1)
人間は誕生して以来、夜空を見上げては「あれは何か」と
問い続けてきました。人は理知的な答えを欲しながらも、詩
的な心境で多くの物語を創ってきたのでした。
(写真1)夜空に輝く恒星と銀河(多摩六都科学館
の資料から作成)
●アミューズメントサイト
20世紀になって、夜空を模擬した半球のドームに星を投
影する機械を、ドイツのツアイス社が開発しました。それは
プロジェクターの一種で、プラネタリウムと呼ばれました。
いまプラネタリウムは国内各地にあります。中国地域を
調べたところ、各県に少なくとも3か所はあります。全国で
はなんと416館、米国に次いで多いのです。(写真2)
1923年に誕生した最初のものは、地球から見た恒星4500
個と惑星5個の運行が再現できました。それでも十分に宇
宙への旅を堪能でき、夢を掻き立ててくれたのもです。
1938年に姉妹機が、東日本の1号機として、東京は有楽
町駅の傍にあった毎日天文館に導入されました。説明者
は野尻抱影先生で、星座と神話の話が記憶に残っていま
す。
(写真2)多摩六都科学館プラネタリウムのドーム
(直径27.5m、東京都西東京市芝久保町)
旬レポ中国地域 2013年3月号
最近は来客も親子連れから若いカップルに広がり、家族
用に二人掛けの派手なペアシートの用意があったりして、
アミューズメントサイトの色合いが濃くなっています。(写真
3)
1
統計では、年間の来訪者が全国で700万人とあります。
各地の「子どもサイエンス教室」でも大いに活用して、楽しみ
ながら宇宙を学ぶ機会にして欲しいものであります。
●ギネスブックの認定
設置台数が米国に次いで2位とあると、わが国の貢献はど
うなのか気になります。調べてみると日本は、技術面で長足
の進歩を見せ、大いに活躍しているのでした。
例えば大平貴之という人が2004年に、日本未来館との共
同開発で投影星数560万個というMEGASTAR(メガスター)
-Ⅱ cosmosを完成させていました。
引き続き2011年にMEGASTAR-ⅡBを成功させました
が、こちらの投影星数は1000万個。それで2回もギネスブッ
クの認定を受け、今や大平さんは世界的著名人なのです。
(写真3)家族用という二人掛けのペアシート
(多摩六都科学館で)
西東京市の多摩六都科学館で現在稼働中の五藤光学研
究所製のプラネタリウムCHIRON(ケイロン)Ⅱでは18等星
まで約1億4千万個の恒星が投影できるのです。(写真4)
肉眼で見えるのはせいぜい6等星程度。それなのに、直径
7cmの恒星原版には18等星まで最大4千万個の星が再現
されていて、ときにはその原版を12枚使うというのです。
このためには世界中の天文台で観測された恒星データは
すべて使い、しかも恒星原版の製作には半導体製造でお馴
染みの光エッチング方式を採用しているのには驚きました。
光源には点に近く、しかも光度が強くて寿命が長いLEDが
採用され、コンパクトになりました。ギネスブックからは「最も
先進的なプラネタリウム」として認定されました。
肉眼では見えない18等星まで原版に刻み込むのは何故
ですかと聞きました。銀河の様子が実際に近くなるというの
がお答え。まさにそのような銀河が出現していました。
(写真4)多摩六都科学館の投影機ケイロンⅡ(製
作は五藤光学研究所、資料は多摩六都科学館の
提供)
2012年5月にオープンした東京のスカイツリーの足元には
コニカミノルタプラネタリウムがありますが、連日満員だと聞
きます。ここはさらに進んでデジタル映像方式なのです。
CG(コンピュータグラフィック)技術により、視野360度に多
種多様な映像を映し出せるだけでなく、月や火星から見た
星空も創り出せるというのですから素晴らしい。
人は夢を描き、その実現に挑むことが大切です。そのとき
にこそ、素晴らしい未来が開けてくるのであって、夢を欠い
たときには未来は委縮してしまうのではないでしょうか。
五藤光学研究所 HP http://www.goto.co.jp
多摩六都科学館 HP http://www.tamarokuto.or.jp
経済産業省 中国経済産業局 広報誌
旬レポ中国地域 2013年3月号
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