マイナンバー制度の実施と企業 がやるべきこと

ビジネス人事・労務Q&A
マイナンバー制度の実施と企業
がやるべきこと(労務管理編)
江原&パートナーズ社労士事務所
特定社会保険労務士
江原 充志
前号(ビジネス税務 Q & A 森田純弘先生)でもご紹介されているように、平成 28 年 1 月より
「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下「番号法」といい
ます)
、いわゆるマイナンバー制度が実施されます。
最近は新聞やテレビなどで「マイナちゃん」の愛称で呼ばれるキャラクターとともによく報道され
ており知名度もあがっているようです。当事務所が 5 月 20 日に主催したマイナンバーセミナーでは
定員を大幅に上回る参加があるなど企業の関心も高いようです。
今回は、マイナンバー制度開始までの間に企業がやらなければならない労務管理実務についてお話
しします。
1.マイナンバーの通知(おさらい)
マイナンバー制度のあらましについては、前号をご参照いただくとして、ここでは通知のスケ
ジュールのみおさらいしたいと思います。
番号法の施行は平成 28 年1月ですが、平成 27 年 10 月以降、住民票を有する国民一人一人に 12 桁
のマイナンバー(個人番号)が通知されます。通知は、市区町村から、原則として住民票上の住所に
マイナンバーが記載された「通知カード」を郵送することによって行われます。
なお、法人には、1 法人 1 つの法人番号(13 桁)が指定されることになっています。
ちなみに、「個人番号」と「マイナンバー」というのは同じ意味で、「個人番号」は法律上の呼称です。
2.マイナンバー制度実施のインパクト
マイナンバー制度開始によって企業の多数の部署で実務が大きく変わる可能性があります。とりわ
け、人事・総務関連業務においては、とくに多くのマイナンバー対応が必要になります。
⑴ 雇用手続きの変更
まず、採用にあたって従業員本人から個人番号の申告を受けなければなりません。これは、雇用
形態(正社員、パート、契約社員等の別)にかかわらず、すべての従業員について申告をしてもら
う必要があります。また、単に申告を受けるだけでなく、「本人確認」を行わなければなりません。
本人確認は、「番号カード」(写真入りのカード)で行いますが、番号カードがないときは、
「通
知カード」
(写真がなく番号のみ記載されているカード)と運転免許証等の身分証明書を添付して
もらうことによって行います。
したがって、番号カードや通知カードを紛失した等の理由で所持していない場合は、著しく事務
が滞ることになります。そこで、採用手続きにおいては、内定の時点で本人に通知カード等を準備
しておくようアナウンスする必要もでてくるでしょう。
⑵ 在籍従業員のマイナンバー収集
在籍する従業員に対してもマイナンバーを申告して
もらう必要があります。
制度は平成 28 年 1 月から開始されるので、その時
点から入退社等に伴う雇用保険の手続きや源泉徴収票
の作成については、都度マイナンバーが必要になりま
す。しかし、少なくとも平成 28 年分の年末調整事務が
始まるまでには、全従業員のマイナンバーを申告して
もらわなければなりません。とくに従業員の多い大企
業は、これだけでも相当な事務量になりますので、準
備に早すぎることはありません。平成 27 年 10 月に通
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経済情報 2015. 6
資料)
内閣官房
知カードによって番号が付与された後は、すぐに収集ができるよう体制を整えておきましょう。
3.今年 10 月までにやっておくべきこと
通知カードが送付される今年 10 月までに、企業がやっておくべきことはたくさんありますが、紙
面の都合上、今回は特に重要なことを 4 つあげておきます。
⑴
⑵
⑶
⑷
従業員への周知
個人番号が必要となる事務の洗い出し
番号管理方法の定め
本人確認手続きの定め
⑴ 従業員への周知
マイナンバーは、住民票上の住所に送付されることになっているので、通知に際して注意すべき
は、現在居住している場所(居所)と住民票上の住所が異なる場合です。
マイナンバーは、必ず提供してもらわないといけないので、制度が実施されてから番号がわから
ないなどということがないように、あらかじめ居所と住民票上の住所に違いがないか確認し、通知
カードを確実に受け取り保管しておかなければなりません。
したがって、企業がまず行うべきこととは、従業員に対して、「本年 10 月以降、順次通知カー
ドが自宅に届く」ということと、
「通知カードをなくさないようにする」ということを確実にアナ
ウンスすることです。提供を求めたときに、「マイナンバーがわからない」とか「通知カードが届
かない」などという事態は十分想定されるからです。
とくに従業員数の多い企業の総務担当者は、早めにマイナンバーについての研修と通知カードの
保管を呼びかけるようにしましょう(もっとも、通知カードの保管については、あまり早すぎても
忘れてしまうおそれがありますが、、、)。
⑵ 個人番号が必要となる事務の洗い出し
マイナンバーを使う社会・労働保険事務や税務のうち、自社が取り扱う事務には何があるのかを
まず洗い出す必要があります(年末調整、法定調書作成、雇用保険資格取得事務など、関係事務を
列挙する)
。これを洗い出した上で処理の流れを決めておくことになります。
制度が施行されてからあわてないように、マイナンバーをどのように収集して、どこに記載し、
どのように保管するのかを定めると同時に、事前に関係部署と協議する必要があります。
⑶ 番号管理方法の定め
個人番号を必要な範囲でどのような形(データ、文書、クラウド上、外部委託など)で保管する
かは、企業それぞれかと思います。その保管方法に応じて、漏えい等の事故が起こらないように安
全管理措置を整える必要があります(事業者向けのガイドラインでは、組織的、人的、物理的、技
術的安全化管理措置が必要とされています)。
⑷ 本人確認手続きの定め
平成 28 年 1 月から入退職に伴う雇用保険事務等にはマイナンバーを提供してもらわなければな
りません。その際に前述の本人確認などの不備で事務が滞らないように留意したいものです。
通知カード所持の場合の添付書類は何にするのか、通知カードを紛失した人にはどう対応するの
か、遠隔地の場合の本人確認はどうするのかなどです。
これらをあらかじめ決めておき、できるだけ混乱なく制度を開始にもっていくことが人事・総務
の腕の見せどころです。
以上のほか、社内規程の作成・整備や、事務取扱担当者の選任、外部委託する場合の委託契約の定
め、システム導入に向けてのベンダーとの打ち合わせなど、とくに人事・総務ではやることが盛りだ
くさんです。
対応については決して早すぎることはありませんので、明日からでもできることはぜひ実践してい
きたいものです。
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