日立建機の盗難防止対策 - Cloudfront.net

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日立建機の盗難防止対策…(1)
特 集
建設機械 盗難防止対策
C0307-03
日立建機の盗難防止対策
=Zaxis-Grandの紹介=
日立建機㈱
足立 宏之
Hiroyuki Adachi
1.はじめに
建設機械の盗難は年々増加の一途を辿っており、
工業会は「盗難防止装置に関するガイドライン」を
発行し各建設機械メーカ各社に対して盗難防止に関
油圧ショベルのみの統計ではあるが1990年には約80
する指針を示した。
件の盗難件数が 2000 年には約 1200 件と、この 10 年
間で約 15倍に増加している。
また、保険会社においてはこのような盗難事件増
加の背景から保険料を上げる動きになってきてお
このような背景には海外での建設機械の需要増加
がある。特に汎用性の高い油圧ショベルは高価であ
り、中古車の価格もさほど下がらないのが現状であ
る。
り、盗難防止装置の要求のさらなる一因となってい
る。
当社は数年前よりお客様のニーズに答え盗難防止
装置を継続して開発し、現在では Z a x i s - G u a r d とし
一方建設機械は作業内容、管理方法でいくつかの
て3種類の装置およびシステムを、さらに複数キ
特徴的な運用を行っている。作業現場では作業の内
ー、機構的なロック方式の盗難防止装置を提供して
容によって、複数の人間が同じ機械を動かす場合が
いる。
ある。
機械の定期点検、修理等は作業者以外の専門のサ
2.日立建機の盗難防止対策
当社の取り組み
ービス員が、作業をしていない時に行う場合が多
く、また、機械の回送は機械が大型のため昼間を避
建設機械に対する盗難防止装置の開発要求は一部
け、夜中に機械を回送業者が現場まで運ぶケースが
の地域ではかなり以前よりあり、当社では現在のよ
多い。
このため1台の機械を作業者、回送業者、サービ
うに全国的に要求がある以前から盗難防止装置の開
発を行ってきている。
ス員等の複数の人間が管理運営している建設機械で
1994年には暗証番号方式のテンキーユニットの開
は、自動車のように機械毎に違うキーでは使い勝手
発に着手し1998年に商品化をした。この製品はある
が悪く、数種類のキーで対応しているのが現状であ
お客様の要望からヒントを得、開発した商品であ
る。また、機械の保管場所は作業現場が多く、特に
る。
大型の機械は野外に放置せざるを得ない場合がほと
写真1にテンキーユニットの外観を示す。
んどである。
さらに最近では油圧ショベルの特徴を最大限に利
用した、A T M 強盗事件が頻発した。この事件も建
設機械特有のキーの少なさにも一因があると言われ
ている。
このような背景から 2 0 0 3 年2月に日本建設機械
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建設機械 2003.10.
写真1 テンキーユニット外観
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その後、盗難の件数が増えるに従い特定の個人の
本機能は機械側に搭載したGPSコントローラで常
お客様だけではなく、レンタル会社などの複数の機
時自分の位置を計算で算出し、予め機械の稼動する
械を管理している会社での検討を行った。多くの機
範囲を設定しておき、設定してある作業現場以外で
械を管理している場合、暗証番号の方式では暗証番
はエンジンが始動できないシステムである。
号の伝達が煩わしいとの意見が多く、特別な操作が
不要である電子キーを開発した。
例えば第1図に示すように稼動エリアを東京都に
設定した場合、東京都を囲むエリアでは自由にエン
写真2に電子キーと標準キーを示す。右側が標準
キー、左側が電子キーである。
ジンの始動が可能であり、稼動エリア外ではエンジ
ンの始動ができないシステムである。
GPS
稼動エリア
東京都
電子キー
標準キー
第1図 稼動エリア
写真2 電子キー
さらに当社油圧ショベル Z a x i s シリーズで開発し
稼動エリアの設定は誰でも可能ではなく、日立建
た機械管理システムの e-Service システムを利用し、
機の会員用ホームページから行って頂いている。会
G P S を用いた e - G u a r d システムを開発し、e - S e r v i c e
員用のホームページではIDとパスワードでお客様の
と連携する盗難防止装置を含む総合的な機械管理シ
認証を行っているため、機械の所有者以外は設定を
ステムを構築した。
変更できないシステムとなっている。
お客様の機械の使用状況に合わせて選択できる商
品のラインナップ Z a x i s - G u a r d(テンキー、電子キ
② e-Guard 機能
エリアガード機能のメリットは作業者が作業現場
ー、e-Guard)を完成させた。
内では、何も意識せずに使用できるメリットがある
以下に開発の年表を示す。
が、A T M 強盗のように近くの機械を利用する犯罪
1998年:テンキーユニットを発売(EX-5シリーズ
の油圧ショベルに適用)
2000年:電子キーを発売(Zaxisシリーズ発売。
e-Serviceの 運用開始)
2001年: e-Guardを発売
2002年: e-Guard Ⅱを発売
や、いたずら防止できない弱点があった。
e - G u a r d 機能はエリアガード機能の弱点を補うも
のであり、エリアの設定ではなく、ガードの O N /
O F F を行うことで機械の稼動制限を行うものであ
る。
e - G u a r d を O N することでエンジンの始動を制限
2003年:複数キーを発売
し、e - G u a r d を O F F することでエンジンの始動を可
2003年: メカロックキーを発売
能にする単純な操作方法としている。
e-Guard Ⅱの紹介
e-GuardシステムはGPS(Global Positioning System)
を利用したものであり、以下の機能がある。
第2図は携帯電話からON / OFFを行う手順であ
る。携帯電話から日立建機の会員専用のページにア
クセスをし、IDおよびパスワードを入力する。次に
① エリアガード機能
所有している機械の一覧が表示されるので制限を加
建設機械の走行速度はホイール系の建設機械を除
える機械を選択する。最後に ON/ OFF をし送信す
くと数km/hであり、また公道を走行することはでき
ない。従って、稼動範囲はおのずと限られた範囲と
なる。
ることで設定が完了するものである。
携帯電話からできるため、作業者が作業終了後に
設定することが可能であり利便性を高めている。
建設機械 2003.10.41
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⑤ 機械状態取得機能
機械の所有者と使用者が違う場合に、アワーメー
タ、機械の位置、故障情報を取得することが可能で
あり、長期レンタルしている場合の、定期的なメン
テナンスに利用できる。
Zaxis-Guard 導入の効果
第1表に Z a x i s - G u a r d のメリット、デメリットを
まとめる。
第1表 Zaxis-Guardの効果
第2図 携帯電話の操作方法
③ メール配信機能
機械管理システムのe-Serviceでは機械の警報発生
項 目
メリット
テンキー 番号を任意に設定できる。
電子キー 特別な操作が不要
複数の機械を遠隔で一括
e-Guard
管理できる。
デメリット
暗証番号をエンジン始動時
毎に入力する必要がある。
紛失時には全交換となる。
ランニングコストがかかる。
をe-Mailにてお客様に配信するシステムを構築して
いるが、このシステムを利用して、e - G u a r d システ
各々メリットはあるが、使い方によっては必ずし
ムでは設定領域から機械が出た場合には同様に e Mailの配信を行っている。
もデメリットにならない場合がある。
テンキーでは毎回暗証番号を入力することで、盗
お客様は機械が移動されたことが分かるので、常
時機械の位置を把握しておく必要はない。
難防止装置を解除していることを作業者が認識する
ことができる。
電子キーではキーの管理が十分できていればデメ
④ 追跡機能
万が一機械が盗難に遭遇した場合、エンジン停止
リットではないと言える。
後ある一定期間、位置を監視し、ある一定距離移動
また、G P S を利用した e - G u a r d では G P S アンテナ
した場合、e-Mail にて位置を送信するため、盗難の
が見えるところに設置されているため、盗難の抑止
ルートがわかる。
効果もある。
第3図はトレーラに油圧ショベルを載せ陸送した
時の追跡例である。
その他の盗難防止装置
① 複数キー
種類の少ないことが1つの利便性であった建設機
械のキーであるが、盗難の原因の一因であるため複
数キーを準備している。
② メカロックキー
Z a x i s - G u a r d シリーズは電気的盗難防止装置であ
る。高価で複雑な装置が不要な場合には機構的なロ
ック方式の装置も提供している。
3.将来展望
盗難防止装置はセキュリティ性を高めると、使い
勝手、サービス性でお客様に不便な場合が発生する
が、我々はお客様の機械の管理形態にあわせて、利
用するお客様が一番使いやすい装置を選択できるよ
う、5種類以上の盗難防止装置を準備している。
現在までは、キー共通の使い勝手の良さから建設
第3図 追跡例
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機械の分野では装置の電子化が先行してきたが、今
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後はキーの複数化、機構的な装置が多く開発される
る。今後も更なる改良を目指して開発を続ける予定
と予想される。
である。
電子化されてきた盗難防止装置は、さらに総合的
な機械管理システムへと発展するものと考えられ
る。
最後に建設機械を製造している側としては盗難防
止装置の開発は無駄な開発であって欲しいものであ
るが、機械の需要がある限り、地域性、流行はある
が盗難防止装置の需要もなくならないと考えられ
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